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十一話目  衛兵隊長ルイス

11.


 意識を取り戻す。

 目を開け、辺りを見渡そうとすると……


「ちょっと良いですかな?」


 後ろからいきなり話し掛けられてビックリした。

 振り返るとそこにはちょび髭を生やした、それなりに身なりは良さそうだけど胡散臭さを隠せていない太ったオジサンが大きいリュックを背負って立っていた。


「な、なんですか?」

「貴方は訪問者ですかな?」

「え、そうですけど……」

「おお、やっぱりそうでしたか。道の真ん中が急に光った時には驚きましたが、あれが訪問時の光なのですな」


 いや、訪問時の光とか知らないんですけどね……

 オジサンはシエラさん、この浮遊大陸で街から街へ行商人をしているそうだ。

 訪問者が浮遊大陸に訪れた瞬間を初めて見て、少し興奮しているらしい。

 どうせ街まで行くのだからと同行する事になった。

 正直、人と話すの億劫なんだけど、変わろうかなって思ってるからね。

 最初のチャンスだ。

 

 シエラさんと一緒に歩きながら道の先を見る。

 曲がりくねった坂道を下った先に大きな川がある。

 その川の向こうも俺が今いるような丘になっていて煉瓦造りなのか同じ様な色合いの家が段々になって集合している街が見える。

 富裕層の住む地帯なのか丘の上の方には大きな家が多い。

 大きな家々と小さな家々とを区切る様にある壁は高いけど外壁の方は低い。

 高い外壁で囲まれていないのは川があるからかもしれない。

 橋を渡らないと街に入れないみたいだからね。

 まあ、丘の反対側って言えば良いのか、こっちから見えてない方はどうなっているのか分からない。

 しかし俺が居る方の丘から見る景色はなかなか良い景色だと思う。

 誰が転移場所をここに決めたのか知らないけど、これが見せたくてここに転移させてるのかもね。

 街まで微妙に距離があるのが少し嫌だけど、この景色を見れるなら良いかな。

 まあ最初の転移の時は街の近くだっただけに、多少不便は感じるけど。

 とりあえず、最初に行った街と違う事は明らかだ。

 辺りを見てもピラミッドに似た建築物も無いし、違う浮遊大陸なんだろうな。

 そう思うと安心できる。さて、安心したところで情報収集しないと……俺はシエラさんに街の話を聞いた。

 

 なんやかんやとこれから訪れる街の話とかをしながら歩いていると、川を渡り街へ入る為の大きな橋の前に到着した。

 石造りの立派な橋の幅は結構広くて軽自動車がすれ違えるくらいあるんじゃないかな? 川は割と下の方にあるから橋の位置は高くて、バンジージャンプをしたらなかなかスリルがありそうだ。いや、しないけども……

 橋の前には皮鎧を着た槍を持つ兵士らしき人がいる。

 少し貧相な気もするけど門番的な感じなのかな?

 どうしようかと悩んでいるとシエラさんは何でもないように近付いて行った。

 俺も一緒になって付いて行く。


「通行料は銀貨二枚だ」


 兵士がそう言った。シエラさんは何も言わずに払っている。

 じゃあ俺も払うか……ポケットに手を突っ込み何枚か硬貨を取り出す。

 硬貨の価値は知らないけど、きっと金貨、銀貨、銅貨の順番に価値があるんだろうね。

 ポケットの中にはそれぞれ数枚入っている。

 でも金貨は一種類だけど銀貨と銅貨はそれぞれ大小二種類ある。

 どっちを渡せば良いんだろ? 大銀貨と普通の銀貨パターン? それとも銀貨と小銀貨なのかな?


「さっさと寄越せ」


 俺が二種類の銀貨を手に取り眺めていると、貧相な兵士が俺の手から銀貨を引っ手繰った。


「あ……」


 最初に訪れた街の衛兵と違って随分と横柄な態度だ。

 シエラさんに助けを求めようかと思ったら、さっさと橋を渡って先に先にと行ってしまっている。おいおい。

 これが俺に向いている土地柄かと思うと嫌な気分になり、兵士を少し見る。


「なんだその眼は? 文句でもあるのか!?」


 生意気な態度と思ったのか槍を構えて威嚇してきた。

 いつもの俺なら完全に言いなりで、反論も反抗も出来ないだろう。

 だけど俺は変わるって決めたんだ。


「ぎ、銀貨二枚って言ったけど、その二枚は大きさが違いますよね?」


 実際、不思議だったというのもあるけど、なけなしの勇気でカマをかけてみた。


「煩いんだよ! 訪問者の癖に俺に逆らうんじゃねえよ」


 ん? なんで俺が訪問者だって分かるんだ? 疑問に思っていると、兵士が槍の刃のついてない方で俺の鳩尾を突いた。

 突かれた鳩尾に痛みは無いけど、プレッシャーからか胃液が逆流してきた。

 怖い。マジ怖い。

 ちょっと文句を言っただけでこれなの? 完全にビビって、震えている俺のエルフ耳に橋の先からドタドタと足音が聞こえる。

 もしかして天の助け? と思ってそっちを見るとシエラさんだった。

 後ろから青い籠手を両手にはめた人達が走って来てる。

 逃げたと思っていたけれど、戻って来てくれた。

 もしかしたら、街の衛兵に知らせてくれたのかもしれない。

 勘違いしてたよ、シエラさんごめんね。


「プッチ逃げろっ!」


 シエラさんはそう叫んだ後に、結構な高さがあるだろう橋から川に向かって飛び込んだ。バンジーじゃないよ。紐無しだよ。

 大丈夫かな? 青い籠手の人達のうち何人かがシエラさんの様子を見てる。

 それとは他の数人が、俺とプッチと呼ばれただろう兵士を交互に見る。

 プッチは橋の方をチラッと見ると「来るな来るな」と叫びながら、俺の方に槍を投げてきた。

 ヤバい。そう思ったのに、恐怖からなのか身体が固まってしまったかの様に動かす事が出来ない。

 このまま槍が当たってしまう……そう思った瞬間だった。

 ガシッ!

 当たる寸前で槍は止まった。目の前には青い籠手をはめた人が槍を掴んでいる。


「大丈夫か?」

「は、はい」

「そうか、それは良かった」


 そう言うと、その人は槍をサイドスローで投げる。

 槍は横回転しながら飛んで行き、走り去ろうとしたプッチの足に絡み転ばせた。

 青い籠手をはめた人達が、獲物を狩る肉食獣のような俊敏さでプッチの所に行くと瞬く間に捕縛した。

 青い籠手をはめた俺を助けてくれた人は、プッチに近付き彼を無理矢理立ち上がらせると蹴飛ばしながら俺の方へ来る。


「君は訪問者か?」

「はい、そうです。アルムと言います」

「そうか、俺はこの街の衛兵隊長のルイスだ。こいつは詐欺組織の一員でな、捕まえられて良かったよ。金は騙し取られてないか?」

「銀貨を二枚、大きいのと小さいのを取られました」

「大銀貨まで騙し取ろうとしたのか? おい、尋問が楽しみだな」


 そう言うとルイスさんは、プッチをまた蹴った後に彼の懐に手を入れて二種類の銀貨を取り出し俺に渡してくれた。


「ありがとうございます」

「仕事だからな。当然の事をしたまでだ。ところで、こいつが君から金を取った事を証言して貰いたいんだが良いか?」

「はい。わかりました」

「助かる。ほらさっさと歩け」


 ルイスさんが、またプッチを蹴飛ばす。

 この人、犯罪者相手とは言え扱い方が酷い。

 でも、そうする事によって犯罪者の恨みを力弱き他の誰かでは無く自分が買うようにしてたりするのかな?


「隊長、逮捕者は我々が連行します」

「おお、そうか、宜しくな」


 他の青い籠手の人達がプッチを連れて行く。

 他の人達は蹴飛ばしたりしてないな……まあ、俺の気にする事じゃないか。


「ところでアルムって言ったっけ?」

「はい」

「君は何をしに此処に?」


 そう言われて改めて自問する。

 確かに俺は何をしに此処に来たんだろう? 此処に来れたから此処に来たって言うのが、ある意味では正解ではある。選択権も無かった。

 でも、じゃあ此処で何をしたいんだろうって考えると……強いてしたい事を上げるとすれば魔法ぐらいしかない。

 ただ、あんまり考えないようにしてたけど、オンラインゲームの世界で仲間達と楽しく過ごしてた時みたいに、ここでも過ごしたいのかな……

 俺は人付き合いがしたいのかな? 寂しいのかな? 何がしたいんだろう?


「えっと……」


 俺は口籠ってしまった。ルイスさんは黙って待っている。


「まあ、言いたくなかったらいい。何をするか分からないんだったら、俺なら冒険者になる事をオススメするよ。訪問者はみんなそうだしな」


 ルイスさんが空気を読んだのか折れてくれた。意外に優しい。

 ルイスさんは容姿は違うけど、なんとなくジョーさんと雰囲気が似ている。

 まあジョーさんは暴力的じゃないけどね。

 容姿に関して言うと、ルイスさんはラテン系の顔かな。

 髪も眉も黒くて濃いし顔も濃い。

 身長は俺より少し高い位だから百七十後半ってとこかな。

 横に大きくないからマッチョ感は低いけど引き締まった印象を受ける。


「隊長、もう一人は川に飲まれたのか、浮かんできません」


 青い籠手の人、衛兵の一人がルイスさんに報告してきた。

 そうか……シエラさん、いや、シエラはもしかしたら死んじゃったのか。

 ざまあみろ、とは思えない。

 詐欺の片棒を担いでいたとは言え、それだけで死んで当然だ、自業自得だ、とは思えない。

 甘いのかな? まあでも、悲しいとも思えないけどね。

 でも川に飛び込んだのって自分からだし、もしかしたら逃げていたりしてね。

 ルイスさんは引き続き周辺の探索を支持すると、俺を促して一緒に歩いて行く。

 橋を渡って直ぐの所、外壁の外側に簡素な石造りの建物があり、そこで簡単に証言に関する手続きをする。

 最初に行った街で中に入る時の仮の身分証みたいなのに名前を書いて証言に間違いないと宣誓し、係の人が何か呪文を詠唱すると身分証の時と同じように光って証言は終わった。

 身分証と言えば、この街の出入りに関しては身分証は不要で特別な事が無い限り出入り制限される事もないらしい。最初に行った街と違ってなんかヌルい。


「おい、アルム。ちょっと待ってくれ」


 証言が終わり、行く宛も特に無く、どうしようかと思っているとルイスさんが声を掛けてきた。


「はい。なんですか?」

「この街に知り合いは居るのか?」

「いえ、いません」

「じゃあ、少し案内してやる。書類の類が面倒なんでな。訪問者保護は衛兵の役目でもあるし、逃げ口上に使わせてもらうよ。迷惑か?」


 しかし、押しが強い。

 まあ、願ったり叶ったりな状況と言えなくもないからね。


「いえ、宜しくお願いします」

「よし、じゃあ行こうか」


 ルイスさんに、街の案内をして貰う事になった。


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