十話目 魔力操作
10.
他に決める事は無いので、早速アルムの身体に移る事にした。
アルムの身体に移る事を強く念じながら目を瞑る。
少し経って目を開けるとアルムの身体になっている自分がいる。
顔の配置や大きさが少し違うとはいえ違和感は無かった。
ただ、違和感とは別の物なのかもしれないけど、自分の中で蠢く力みたいなのを感じる。これって、もしかして魔力? 正確には違うって言ってたっけ? バリーに聞いてみると、蠢いている力は魔素と魔力の両方だと言われた。
魔素とは誕生世界や今居る個人空間にもある空気みたいなものらしい。
魔素を吸い込み、身体の中にある器官で変換する事で魔力になるらしい。
バリーに促され、魔素の動きを集中して追ってみる。
呼吸する事によって魔素が身体に入ってくるのが、なんとなくだけど分かる。
魔素は身体の隅々まで動いた後に、お腹のあたりでスーッと消えた。
すると、今度は魔素が消えた辺りから魔素とは違う何かが俺の身体の隅々まで動き身体の外に放出され消えて行った。どうやら、これが魔力なのかな?
「うむ、誕生世界での肉体を二つ持つ事になった汝に新しい部屋の説明をするのである」
お、唐突だね。バリーは俺が魔素と魔力に関してなんとなく理解したと見たようで、違う話を切り出した。
個人空間にある地球世界の俺の部屋にそっくりな部屋の、地球では廊下に出るドアに当たる部分を開けると……
そこにあったのも廊下だったけど、地球にある俺の家とは完全に別物だった。
何の材質で造られているか分からないけど、真っ白い壁、床、天井の、やたらと長い廊下、それと左右に一つずつ真っ黒いドアがある。
バリーは右側の真っ黒いドアを開けた。
部屋の中を見ると、同じように真っ白な壁に床に天井と石棺が複数あった。
バリーが何か呪文の様な言葉を呟くと、放置してあったタンミノの身体がフワフワと浮いて石棺の中に入っていった。
今後、誕生世界から個人空間に戻って来た時は、この部屋の石棺に戻って来る事を説明される。
また、地球世界からここに来た時に、この部屋まで来てどの肉体で誕生世界に行くか選択するように言われた。
右側の部屋の説明が終わると、次は左側のドアを開けて一緒に部屋に入るように促してきた。
部屋に入り、入口のドアを閉めると、なんか空気が変わった気がした。
左側のドアの部屋は誕生世界と時の流れが同じらしい。
こちらの方が都合がいい場合もあるだろうと言われた。
確かに十時間掛けて習得可能な技術でも、この部屋でなら一時間で習得できる。
ネットで調べ物をするにしても、この部屋でなら十倍の速さで出来る。
と思ったけど、携帯電話はこの部屋では使えないと注意された。残念だ。
部屋の中には何もなくて、廊下と同じように何の材質で造られているか分からない真っ白い壁と天井、床だ。照明がある訳じゃ無いのに明るい。
「ここで魔力操作を覚えてから誕生世界に行く事ってできる?」
「勿論可能なのである」
「バリーに魔力操作を教えて貰うのもあり?」
「勿論である。名付け親として責任を持って教えるのである」
「はは、それは嬉しいね。じゃあ宜しくお願いします。バリー師匠」
俺はぺこりと頭を下げる。
バリーはカラカラと顎骨を動かして、笑っているようだ。
たぶん数時間が経ったのかな? この部屋から出て自分の部屋に戻れば時間が確認出来る。
だけど、魔力操作に関して、ある程度の目処が立ってきた頃、疲れからか眠気が急に襲ってきたから動きたくない。
誕生世界の肉体であっても、当たり前だけど睡眠は必要なようだ。
ん? 地球世界の肉体にも睡眠は必要だよね? どうすればいいだろう? 困った時にはバリー頼みだね。
と言う事で聞いてみると、地球世界の俺の身体は寝袋に入っている間は睡眠とかは自動的にとるから心配いらないとの事だった。
まさに何でもありの寝袋だね。
なら今の身体、誕生世界でのアルムの身体での睡眠はどうすれば良いのか聞いてみると、誕生世界に居るのなら宿屋などで寝て睡眠をとるのが良いらしい。
だけど、個人空間に居るのなら自分の部屋に似ている部屋で寝た場合は時間が地球の流れと一緒だから、時間の流れが誕生世界と同じこの部屋で寝るのが良いと言われた。
布団は持ってきても良いらしいけど、疲れていたので俺はそのままこの部屋で眠る事にした。
バリーにも睡眠が必要だったかはわからないけど、俺に別れを告げると、どこかに消えて行った。
明るさが寝るのに不便だなと思っただけで部屋は暗くなった。
ちょっと怖かったけど眠気が勝った……
どれくらい時間が経ったのか分からないけど、しばらくして目を覚ました。
少し意識すれば自分の中の魔素や魔力を感じる事が出来る。
寝る前よりも体に馴染んでいるようで、蠢いていると言うより自分が動かしているように感じる。
バリーの話によると魔素が消える辺りに魔力庫、あるいは魔力変換器などと呼ばれる臓器があり、そこで魔素を魔力に変換して身体に溜めておけるのだけど、限界値を超えると身体を巡った後で身体の外に霧散するらしい。
それが魔力の余波なのだけれど、魔力操作が上手ければ限界値を超えた魔力を身体の外に出る前や出た瞬間に色々と工夫して消費する事によって魔力の余波を少なくする事も出来るそうだ。
俺も何か試してみようかな? そう思ったら直ぐやらずにはいられない。
立ち上がり、姿勢を正して集中すると魔力の流れを意識する。
はっきりと理解できるようになった頃、俺は一つの事を試してみた。
魔力が身体から霧散する寸前に魔力に指向性を持たせ前方に放つ。
身体が見えない何かによって、前に一瞬だけ引っ張られる感じを受けた。
横に向けると横に後ろに向けると後ろに引っ張られる感じを受ける。
「面白い」
一人呟く。ただ、面白いけど何かの役に立つのかな? まあ取り敢えず、暫く実践してみよう。ひたすら魔力に志向性を持たせ自在に操れるように努力する。思い通りにいくと楽しくて仕方が無くて、ついつい夢中になる。
『魔力操作のスキルを覚えました』
歩きながら使えば早く歩けるかもしれないと実験していたら、頭に声が響いた。
え? そんな感じで教えてくれるの? まさにゲームですね。
それにしてもスキル自体のレベルを上げていかないといけないとはいえ、スキル習得までの時間が思っていたより早い。
五歳毎に一つのスキルを覚える設定だったから、一つのスキルを覚えるのにどんだけ時間がかかるんだろうと不安に思っていたんだけど呆気ない。
それとも、操作するべき魔力が多かったから習得する為の経験値みたいなものが得られ易かったとかなのかな? まあ、現時点では分からない事を深く考えても仕方がない。
因みに魔力庫は個体によって大きさが異なり、大きいものほど吸い込む量と排出する量が多くなる。
このアルムの身体もバリーの加護のお蔭で魔力庫が、かなり大きいらしいので魔力の排出が多い。
バリーのお蔭で魔力操作をスキルとして短時間で習得したと言えるけど、このスキルが熟練の域に到達するまでは多少の魔力の垂れ流しは続いてしまいそうだ。
さて、魔力操作も覚えた事だし、そろそろ誕生世界に行こうかな。
その前にバリーに挨拶をしておこう。
バリーを呼び出すと挨拶を交わし、魔力操作を覚えた報告とお礼をする。
石棺に入り、さあ誕生世界に行こうってタイミングでバリーが声を掛けてくる。
このタイミングの悪さは絶妙だね。
「次に汝が行くのは、汝と相性が一番良い場所になるそうだ」
「え? え?」
そう言うのはもっと早く言ってくれえ。
石棺の蓋が閉じて真っ暗になり、俺は意識を失った。




