第九十八話 カラス王コルヴァス
森の中を歩くこと1時間。
一本の巨大な老木の前まで来ると、ジャックが大きな声で呼びました。
「お~~い!コルヴァス!」
「来たぞ~~!!」
「・・・・・」
「あれ?留守かな?」
もう一度ジャックが呼ぼうとした時でした。
「やっと来たか、うすのろジャック!」
木のてっぺんがガサガサと揺れ、しわがれた大きな声が聞こえてきました。
そしてバサバサと羽音を立てて舞い降りて来たのは、翼を広げると3メートル近くもある巨大なカラスでした。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「待たせたかい、カラス王コルヴァス!」
「ふん、久しぶりだな、樹海の魔女さんよ!」
「で、オレ様にいったい何の用だ?」
コルヴァスが流暢に人間の言葉をしゃべっているのを見たカレンは、ちょっと驚いたようで、興奮気味にアリスに話しかけました。
「見てみろよアリス!カラスがしゃべっているぞ!」
「本当ですね!カラスって、言葉を話せましたっけ?」
「100歳まで生きたカラスは化けガラスになるって、聞いたことがあるよ」
「えっ!それってネコじゃなかったですか?」
「そうなの?」
「でも体もデカいし、ありゃ、間違いなく化けガラスだよ!」
(あわわ・・・あの子たち・・・)
モルティナは口に指を当てて、二人にしゃべらないように促しますが、そんな事はまったくお構いなしに、二人は大声で話しています。
コルヴァスは、自分の存在にビビらない二人を見て腹を立てたようで、カレンとアリスを睨みつけると、モルティナを怒鳴りつけました。
「おい、樹海の魔女!」
「何なのだ!あの頭の悪そうな人間どもは?!」
「い、いや、二人ともあたしの手伝いをしてくれている娘だよ」
「だから気にしないで、話を進めようじゃないか」
そう言うと、モルティナは袋から用意したお宝を取り出しました。
「報酬はこの純銀のお皿とスプーンでどうだい?」
「ケッ!たったそれだけなら、オレ様はもう帰るぜ!」
「分かった、じゃあこれでどうだい?」
モルティナは、今度は銀のティーポットを取り出して見せました。
「むっ!ん~~~~・・・」
「そ、そんな物、オレ様の巣に沢山あるからな!」
「じゃぁ、これもおまけに付けるさね!」
モルティナは、袋から銀のフォークとナイフを取り出して見せました。
「むむっ!」
「ん~~~~~・・・」
「い、いや、この程度なら、まだダメだな!」
(ちっ!今回はやけに足元を見るね・・・)
モルティナが渋々袋に手を入れた時でした。
「お前、キラキラ光るものが好きなのか?」
「だったら、これをあげるよ!」
「えっ?!」
「あっ!ちょっとカレン嬢!」
モルティナが止める間もなく、カレンはコルヴァスの前まで進み出ると、銀色に輝く小さな物を差し出しました。
「ん?何じゃこれは?」
カレンが差し出したものは、銀紙に包まれたアメ玉でした。
「アメ玉だよ!」
「何だと!ふざけるな!!」
「お前はバカか!!」
「このオレ様にアメ玉だと~!?」
コルヴァスが激怒して、大声でカレンを罵倒した時でした。
大木の裏から、何者かの凄みのある声が響きました。
「だまれ!!」
「カラスふぜいが、誰に向かって口をきいているのだ!!」
「何だと!!」
コルヴァスが振り返ると、そこには巨大な二つの目が、怒りに満ちて赤く光っていました。
「ヒィ~~~~~~ッ!!」
「ド、ド、ド、ドラゴン~~~!!」
イレーネはコルヴァスの身体をわしづかみにすると、鋭い爪を喉元に突き立てました。
「わたしの最愛の母を愚弄するとは・・・」
「八つ裂きにしても足らぬわ!」
「ヒィ~~~~~~ッ!!」
グルルルル・・・・。
イレーネの口元から、赤い炎が漏れ出ています。
「さて、どうしてくれようか・・・」
「ヒィ~~~~ッ!お許しを~~~!!」
さすがのカラス王コルヴァスも、ドラゴンが相手では命乞いするのが精いっぱいのようです。
「この森に住む、お前の仲間もろとも、消し炭にしてやろうか・・・」
「ヒエ~~~ッ!どうか、どうかお許しください~!!」
これ以上脅すと、ショックで死んでしまいそうなので、カレンはイレーネに言いました。
「イレーネ、もういいよ!」
「カラスを放しておあげよ!」
「え~っ!だってママ!」
「こいつママの事をバカって言ったのよ!」
「殺されて当然でしょ?」
「ヒ~~ッ!すいません、すいません!バカはボクです!」
「何でも言う事を聞きますから、どうか命だけは~!」
「あっ!いま何でも言う事を聞くっていったよね?」
カレンはニタッと笑うと、もう一度言質を取りました。
「は、はい!もちろんです!」
「あなた様の言う事なら、なんでも聞きますので~」
「だって、魔女ママ!」
「イレーネ、もういいよ!放しておあげ!」
開放されたコルヴァスは、その場にヘナヘナと倒れ込みました。
「じゃあ、はいこれ!」
「へっ?」
カレンはアメ玉をコルヴァスに渡しました。
「これは、ちゃんと渡さないとね!」
そう言うと、今度はモルティナに向かって笑顔で言いました。
「魔女ママ、これが言っていたアメとムチだよね?」
「ムチの代わりにイレーネを使っちゃったけど!」
「「「ええ~~っ!」」」
(いや、それ言葉通りだよね?)
ジャックは口をあんぐりと開けて、放心状態になっています。
「あはっ、あはっ、あはっ・・・」
「そ、そうさね!」
「ちっちゃいアメと、特大のムチだね~」
(いや!そこはちゃんと言葉の意味を教えろよな!)
(あんた、その娘の母親役をやっているのだろ?!)
ジャックは心の中でぼやきながら、アリスの方を見ると、彼女は聞かなかったふりを決め込んで、そっぽを向いていました。
(お前らなぁ~!そんな事だから、こんなメチャクチャな娘に育つのだぞ!)
しかしジャックの思いとは裏腹に、実はアリスは内心ホッとしていたのです。
(良かった!本当にカレン様がムチを使ったら、あのカラス死んでいるところだわ!)
それぞれ思う所はあるようですが、結果オーライとなり、コルヴァスはモルティナの依頼を聞く事になりました。
補足ですが、『飴と鞭』とは、しつけをするときに、甘い面と厳しい面を使い分けて、相手の心を支配する事です。実際に飴と鞭を使う事ではありませんので、どうか真似をなさらないようにお願いします。




