第九十六話 バルモス攻略の糸口(一)
翌朝モルティナは、カレンとアリスを伴って、森の奥にある自分の家に向かいました。
「大魔女さん、壁に隠れたバルモスを見つける方法って、どうやるのですか?」
深い森の道を進みながら、アリスがモルティナに尋ねました。
「アリス嬢は、『ジバクアリ』を知っているかい?」
「えっ、ジバクアリ?」
「それって、蟻んこの事ですか?」
「そうさ、別名『バクダンオオアリ』とも言うね~」
「変わった名前だな?」
「そう思うだろ?カレン嬢」
「でも、その名の通りなんだよ」
「そのアリは自分よりも強い敵に襲われると、自爆して仲間を助けるのさ」
「えっ、自爆って・・・」
「爆発して毒液を相手へ浴びせかけ、死の道連れにするのさね!」
「うわっ!すごいアリなんだね?!」
「実は10年ほど前の話になるけど、その頃住んでいた町の領主に、魔物の退治を頼まれた事があってね・・・」
「町の近くに出没して畑を荒らしたり、家畜を襲う大アリクイの魔物だったのさ」
「1匹や2匹なら簡単に退治が出来たんだけど、とにかく数も多いし生息する範囲も広かったため、あたしはそのバクダンオオアリを使う事を思い付いたのさ」
「だけど小さなアリのままでは使えないので、そいつを大きくする研究をしてね、50センチにまで育てる事に成功したのよ」
「へ~~っ!すごいね、魔女ママは!」
「で、さっそく魔物の棲む森に放してやったのさ」
「じゃぁ、それで魔物を一掃出来たんだね!」
カレンとアリスは、尊敬のまなざしでモルティナを見ています。
「いや、それがね・・・」
「アリって土の中に潜っちゃうでしょ?!」
「小さなアリならともかく、大きくしたものだから、土の中に潜る速度も深さもすごくて、結局アリクイの魔物もアリに手が出せなくて、失敗に終わってしまったのさ」
「「あれま!」」
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「だけどダンジョンの中なら、話は別さね!」
「大事な住処を穴だらけにされたら、黙ってはおれないだろ?」
「あっ、そっか!」
「バルモスの奴、きっとバクダンオオアリを駆除しに来るね!」
カレンは目を輝かせて、拳を握り締めました。
そして次の言葉を二人が同時に言いました。
「「そしたら、ドカ~~~ン!って・・・」」
「「バルモスを倒せる!!」」
カレンとアリスは声を合わせて答えましたが、モルティナはニッコリ笑って否定しました。
「いや、さすがにそんな簡単には行かないさね!」
「えっ、違ったの?」
カレンとアリスは顔を見合わせて、ガッカリしています。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「まぁ、心配しなくてもいいよ!」
「あたしに考えがあるからね!」
そうこうしていると、ようやくモルティナの家に到着しました。
そしてモルティナは研究室に入ると、何かを探し始めます。
「なんか、すごく沢山の草花や、動物の標本があるね」
カレンが周りを見渡して、驚いています。
「こっちには、きれいな石がいっぱいあるよ!」
アリスが宝石のように輝く石を手に取って、不思議そうに眺めています。
「あんた達、勝手に触っちゃダメだよ!」
「中には劇薬に相当する物があるからね!」
「ひえっ!」
モルティナに言われて、アリスは慌てて石を元に戻しました。
「あった、あった!これ、これ!」
モルティナは、琥珀色の液体の入った瓶を手に取ると、ニタッと笑います。
「魔女ママ、その液体はなに?」
カレンが興味津々で尋ねました。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「これは、バクダンオオアリ・・・」
「いや、巨大バクダンオオアリの、女王アリが分泌するフェロモン液さね!」
「「えっ?!」」
「オスを引き付けるってヤツ?」
「アリスを女王様にするのと同じ物かな?」
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「そうだよ!カレン嬢も欲しいかい?」
「い、いや、オレはまだいいや!」
「そうかい?欲しくなったら、いつでも言うといいさね」
「さあ、カレン嬢!こいつを使って、巨大バクダンオオアリを捕まえに行くよ!」
一度町に戻った三人は、準備を整えるとイレーネに乗って、グリーンホロウの町から300キロ西に離れた、『古苔の森』へ向かいました。
古苔の森へ到着した頃には、すでに辺りは真っ暗になっていましたので、その日は野営をして一夜を明かす事になりました。
翌朝、モルティナの記憶を頼りに、昔住んでいた家を探して、森の中の探索を始めます。
上空からは、イレーネが辺りを探索しています。
森の中をさまようこと3時間。
ようやく古びた小屋を発見しました。
「これはもう、人の住める状態ではないね~!」
森と一体化したボロボロの小屋を見て、モルティナは笑っていいました。
「そうだよね、完全に自然に取り込まれているよね!」
「で、まさか、この中に入ったりしないよね?」
(なんか、虫がいっぱいいそうだし・・・)
カレンは雑草と苔に覆われた小屋を見て、および腰になっています。
「さて!これからが本番さね!」
「この近くに、巨大バクダンオオアリの巣があるはずだからね!」
「みんな、気合を入れて探すよ!」
「「おぉ~~~っ!」」
3人はアリの巣穴を探して、辺りを隈なく探し始めました。
そして1時間ほどすると、倒れた古木の近くに、直径50センチほどの巣穴を見つけました。
「すごいね、大魔女さん!」
「私ここ調べたけど、草に隠れて全く気が付かなかったわ!」
「カレン様も、ここ調べていましたよね?」
アリスが感心して言いましたが、カレンはそれどころではなかったようです。
「い、いや・・・実は・・・」
「オレは、本当はこんな所はダメなのよ!」
「だって、ここには虫がいっぱいいるだろ?」
カレンは怯えた顔で辺りをキョロキョロ見ながら、アリスに訴えます。
「あっ、そっか!」
「いや、だってアリも虫ですからね!」
「カレン様、巨大バクダンオオアリを見つけても、プラズマバーストを使っちゃダメですからね!」
「う、うん!」
アリスはカレンに念を押しました。
「あれま?カレン嬢は、虫が苦手なのかい?」
「かわいいね~!」
「いや大魔女さん、そんなかわいいレベルじゃないですからね!」
「この人、ゴキブリでも出てきたら、躊躇せずにプラズマバーストをぶっ放しますから!」
「ゲッ!」
「そ、それはマズいね!」
「さっさと捕獲を始めるさね!」
モルティナは芳香剤を入れるビンに、女王アリのフェロモン液を入れると、それをパックリと口を広げた魔法のアイテムボックスの中に入れました。
「これでよし!」
「ここは、このままにして、次へ行くよ!」
「えっ、今度はどこへ行くの?」
カレンがソワソワしながら尋ねました・
「グリムホルンを捕まえに行くのさ!」
「えっ、なにそれ?」
「夜の賢者と言われる、大きなフクロウさね!」
「開けた場所まで出たら、イレーネちゃんを呼んでおくれ!」
「うん、分かった!早くいこ!」
カレンは先頭に立って、早足で進みます。
モルティナとアリスは慌てて目印の旗を立てると、カレンの後を追いかけました。




