第九十四話 バルモスの監獄の秘密(一)
大魔女モルティナから、バルモスの監獄を襲撃すれば、カレンでも生きて帰れないと言われ、その場にいた全員が驚きの声を上げました。
「いや、ちょっと待って?」
「大魔女さんは、カレン様の強さを知っていますよね?」
アリスが慌ててモルティナに尋ねました。
「それなのに、生きては帰れないって・・・」
「娘さん、あたしはカレン嬢の強さは、十分に理解しているさね!」
「そのうえで、この襲撃には反対しているのさ!」
「それは、何故ですか?」
「その理由を教えてください!」
「そうさねぇ・・・」
「理由を話せば、襲撃をあきらめてくれるかい?」
モルティナは、カレンの顔を見て尋ねました。
「魔女ママ、それは無理だよ!」
「これは絶対にやらなければダメなんだから!」
「はぁ・・・そう言うと思ったよ」
「それに魔女ママ、オレは一人で乗り込むんじゃないよ!」
「オレよりもずっと強い仲間と一緒にやるんだから、心配しなくても大丈夫だよ!」
「はぁ?カレン嬢よりも強い仲間だって?!」
「え~っ!そんなすごいヤツが他にもまだいるのかよ?!」
モルティナとジャックは、カレンの言葉に目を丸くしています。
「そうだよ!オレの師匠のフレディアだっているし!」
「可愛い妹のルナやカーナ、それに大天使のオリビアだって一緒だからね!」
「ちょっと、なに?」
「アンタに師匠がいるって言うのかい?」
「いるよ、二人!」
「一人は理由があって明かせないけど、もう一人の天使のフレディアは、オレにインドラの魔法を授けてくれた師匠なんだよ!」
「えっ!フレディアだって?!」
「ん、ん?」
「フレディア・・・」
「ん~~?その名前、どこかで聞いた覚えが・・・・」
「えっ?魔女ママ、フレディアの事を知っているの?」
カレンは驚いて尋ねますが・・・。
「ん~~~~・・・・」
「ん~~~~・・・・」
「わからん!」
ガクッ!
「ちょっと思い出せないわ」
「だけど、あたしの可愛い娘が行くと言うのなら、あたしも一緒に行くさね!」
「え~~~っ!!」
「おい、マジかよ?!」
「あんた、さっき生きて帰れないって言っていたじゃん!」
「!!!」
「こらジャック!あたしにため口をきくんじゃないよ!」
「あっ、しまった!声に出てた!!」
ジャックは慌てて口を押えました。
「魔女ママ、あのさぁ~」
「実はオレがいなくなった後の仲間の事を、魔女ママに頼もうと思っていたんだけど・・・」
「そうなのかい?」
「じゃあ、安心しな!」
「カレン嬢の仲間に、あたしがいいモノをあげるさね!」
「えっ?いいモノって?」
「まず、新しくリーダーになる剣士さんにはこれさね!」
モルティナは、懐から魔導書『青い精霊の光』を取り出しました。
「あっ!これって前に俺に話した・・・」
マウロが目を輝かせて、その魔導書を見ています。
「雷の魔法を覚えることの出来る、魔導書さね!」
「おぉ~!やったぜ!!」
マウロは思わずガッツポーズをとって叫びました。
「では、魔法を授けるから、こっちにおいで!」
大喜びのマウロをモルティナはギュッと抱きしめると、何か呪文のような言葉を唱え始めました。
ブツ、ブツ、ブツ・・・・
(あぁ、やっぱり若い男はいいね!)
(しかも、あたし好みのいい男だし!)
(あぁ、やくとく、やくとく~!)
ギュ~~~ッ・・・・
ブツ、ブツ、ブツ・・・・
「魔女ママ、ちょっと長くない?」
「オレがフレディアから魔法を授かった時、そんな事はしなかったような気が・・・」
「いや、オレの魔力を調べるためにやったかな?」
(あっ!まずい!バレる!!)
「よ、よし!」
「これで、もう魔法は授かったよ!」
「あとは、剣に魔力を集中する訓練を積めば、『サンダースラッシュ』を放てるようになるさね!」
「えっ!それってまさか!」
「カレンさんのライトニング・クレストカットのような技ですか?」
「そうだよ!」
「それに雷の防御、ライトニングウオールも使えるようになるさね!」
「おわ~~っ!ありがとう大魔女さん!」
マウロは嬉しさのあまり、思わずモルティナにハグをしました。
「あひゃ~っ!」
「あ、あたしのダンナになってくれるのかい?」
「えっ!」
マウロは慌てて飛びのきました。
「い、いやだね~!」
「じょ、冗談さね!」
モルティナは、慌てて手をパタパタと仰いで見せました。
(いや!いまのは本音がダダ洩れだろ?!)
ジャックが胡散臭い目で、モルティナを睨んでいます。
「それとだね~」
「もう一人のリーダーになったお嬢さんには、これをあげるさね!」
モルティナは懐から、ガラスの小瓶を取り出しました。
中にはピンク色に輝く液体が入っています。
「きれいな小瓶ですね~」
「中身はなんですか?香水かな・・・」
モルティナの取り出した小瓶を、アリスはマジマジと見ています。
「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「あんたは美しいから、特別にこれをあげるのさ!」
「ただ、これをあんたの物にするには、ちょっとだけ細工が必要でね・・・」
そう言うとモルティナは、アリスの指先に針を刺し、一滴の血を小瓶の中に入れました。
「さぁ、これであんたは女王様さね!」
「はぁ?私が女王様なのですか?」
アリスは不思議そうな顔で尋ねました。
「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「これは『まどろみ草』から抽出して作った媚薬さね」
「えっ?媚薬?」
「そうさ、強力なフェロモンを発する薬でね・・・」
「複数の敵が現れた時にそいつを使うと、発情した敵はあんたを奪い合って殺し合うのさ!」
「あんたは、最後に生き残った敵を倒すだけ・・・」
「簡単でいいだろ?」
「うわっ!それってエグイな!」
「自分の子孫を残そうとする、生物の生殖本能を利用するなんて・・・」
ジャックがヤバイものを見る目で、小瓶を見ています。
「使い方はこうさね・・・」
モルティナは小瓶の蓋を開けて、指先にちょこんと液を付けるふりをしました。
「あとは、相手に向かって投げキッスをするだけさね!」
「チュッ!」
「うわっ!オイラに向かってするんじゃねえ!」
ジャックが慌てて逃げ出しました。
「バカ!真似をしただけだよ!」
「真似でも嫌なの!」
「ぐぬぬ・・・」
「こいつ、ハエにしてやろうかね!」
モルティナが杖を振り回して文句を言っていると、マイオスが恐る恐る声を掛けてきました。
「あの、大魔女殿・・・」
「はい?」
「ひとつ尋ねるが・・・」
「それって魔物だけじゃなく、人間にも効果があるのだろうか?」
「ギクッ!!」
「その、つまり・・・実際に試した事はあるのかな・・・って」
「い、い、い、いやだねぇ~~!!」
「いくら研究のためとはいえ、あたしがそんな事、する訳ないさね~!」
「あはっ、あはっ、あはっ・・・・」
「で、ですよね?失礼しました!」
(いや!確信犯だろ!)
(だって、肌身離さず、いつも持ち歩いているじゃん!)
ジャックはジ~ッとモルティナを疑いの目で見つめると、モルティナの額からは、大粒の汗が流れ落ちました。




