第九十二話 グリーンホロウの戦い(一)
モルティナは、複雑な形の印を結ぶと、大きな声で叫びました。
「我に仇なす者よ!次元の狭間へ飛んで行くがよい!」
「虚空よ、開け!アストラルゲート!!」
ヴオ~~~~~~ン・・・・・・
眼下に群れ集まっていた魔物の集団に、まるで陽炎のような揺らめきが発生したかと思うと、次の瞬間、まるでアメを伸ばすような激しい空間のゆがみと共に、200匹以上の魔物の群れが忽然と姿を消しました。
「「「「おぉ~~~っ!!!」」」」
「「「「すげ~~~っ!!!」」」」
「一瞬で消えてしまったわ!」
「どこに行ったのだ?」
ここにいた全員が、驚きの声を上げています。
「すごいな、魔女ママ!」
「これは何ていう魔法なの?」
カレンも驚いて、モルティナに尋ねました。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「アストラルゲートと言って、次元の狭間へ敵を飛ばす魔法さね」
「一度飛ばされたヤツは、二度とこの世界には戻ってこれないのさ!」
「へぇ~っ!すげえな~!」
カレンに褒められたモルティナは、俄然やる気を出しました。
「さぁ、まだまだ続けるよ!」
その後モルティナは、3回も続けてアストラルゲートを唱え、約800匹の魔物を消し去りました。
「ぜぇ、ぜぇ・・・」
「あと一回で、約束の1000匹に・・・」
「魔女ママ、もういいよ!」
「あとはオレが始末するから、もう休憩しときなよ!」
「いや、いや、カレン嬢」
「約束は守らなきゃいけないからね!」
「大丈夫かよ?フラフラしているじゃん!」
「おだまりジャック!」
「あたしを年寄り扱いするんじゃないよ!」
そう言うと、力を振り絞って200匹の魔物を消し去りました。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「どうだいジャック!あたしの魔法も・・・」
モルティナが、ジャックに自慢しようとしたその時でした・・・。
「「「「きゃ~~~~っ!!!」」」」
いきなり町の中から悲鳴が上がりました。
「「「「魔物が現れたぞ!!!」」」」
「「「「えっ?」」」」
見るとモルティナが飛ばしたはずの魔物どもが、町の中に出現していました。
「あわわわ・・・」
「失敗しちゃったかも~!」
モルティナが顔を青くして言うと、カレンがすぐさま指示を出しました。
「魔女ママ、大丈夫だよ!」
「アルノルト!魔物の始末を頼めるかい?」
「はい!勿論ですカレン様!」
「アイギルス、ワルキエル!行くぞ!」
「「「「おぉ~~~~っ!!!」」」」
アルノルトがヴァリオン族を引き連れて、魔物の討伐に向かいました。
「これで、大丈夫だよ!」
「あわわわ・・・・」
「えっ?今度はどうしたの、魔女ママ?」
カレンの問いに、モルティナは怯えた顔で空を指さしました。
「ド、ドラゴンが来たさね!」
「うわ~っ!さすがにあれは、マズいよ!!」
ジャックも慌てて、クルクルと飛び回っています。
「カレン嬢、ここは危ないから、ひとまず町の中へ隠れるさね!」
モルティナはカレンの手を取って、防壁を降りるように促しますが、もちろんカレンは動きません。
それどころか、ドラゴンに向かって手を振っています。
「やっと帰って来たね、イレーネ!」
「「へっ?」」
「「イレーネ?」」
モルティナとジャックは、思わず声を揃えて言いました。
「おっ!いまハモったね!」
カレンはクスッと笑うと、二人に紹介します。
「魔女ママ!あれがオレの娘のイレーネさ!」
「「えぇ~~~っ?!」」
「モルティナ様、この娘はなんでもアリなのか?」
ジャックは、目を回しながらモルティナに尋ねました。
「そ、そりゃ、なんたって、あたしの娘だからね!」
「あは、あは、あは・・・・」
危うく腰を抜かしそうになったモルティナが、踏ん張ってジャックの問いに答えました。
「じゃぁ、今度はオレの番だね!」
イレーネに飛び乗ったカレンは、魔物の群れの中へ飛んで行きました。
「イレーネ、森が燃えると大変だから、ブレスは慎重に使うんだよ!」
「はい、ママ!」
「よし、じゃぁやるか!」
カレンはそう言うと、モルティナに教わった魔法の詠唱を唱え始めました。
「蒼き紫電よ!この一撃に集い・・・」
「集い・・・えっと、次はなんだっけ?」
「まぁ、いいや!以下省略!!」
「駆けろ!雷光!プラズマバースト!!」
「あ~~~っ!」
「モルティナ様!あの娘、いま詠唱を省略したぞ!いいのか?!」
ジャックがカレンの手抜きを見て、モルティナに告げ口しました。
「いいんだよ!あの子は特別なんだから!」
「好きにやらせてあげな!」
「マジかよ・・・」
(いいのかよ!そんな過保護に育てて!)
ジャックは、少し不満そうにしています。
イレーネから飛び降りたカレンの身体の周りに、青白い超高電圧のプラズマが発生し、全身を覆うエネルギーの球体が作り出されました。
バチ、バチ、バチ・・・・・
プラズマは光の速度で、地を這ってゆきます。
地上にいた魔物共は、激しい電撃に打たれて一瞬で焼け死んで行きました。
空を飛んでいた魔物も、放電されたプラズマに捕らえられ、一瞬で焼け落ちて行きます。
カレンの周囲40メートルの範囲にいた魔物は、全て焼き尽くされてしまいました。
すると今度は、剣にインドラの雷撃をまとわせ、それを鋭い刃に変えて飛ばし、敵を次々と切り裂いて行きます。
「あわわわ・・・・・・」
「あの娘、ヤバすぎるよ~~!!」
鬼人の如き強さで、アッという間に敵を殲滅して行くカレンの姿を見たジャックは、すっかりビビってしまい、モルティナの肩の上で震えています。




