第九十一話 防衛戦(二)
「はぁ、はぁ・・・。この壁を登るのはきついさね!」
「モルティナ様、なんでホウキを使わねえんだよ?」
ふうふう言いながら登って来たモルティナに、ジャックが尋ねました。
「いや、二日酔いで真っすぐ飛べなくて・・・」
「もう少しで、壁に激突するところだったさね!」
「あっははは・・・」
「無理して来なくても良かったのに!」
カレンがモルティナを気遣って、フラフラの身体を支えてあげました。
「カレン嬢、そうはいかないのさ!」
「報酬をいただいた以上、仕事はきっちりやらないとね!」
「プ~~~ッ!」
モルティナの言葉を聞いたジャックは、おもわず吹き出しました。
「嘘つけ!今までズボラしていたくせに~!」
「あっ、分かったぞ!」
「カレン嬢の前だから、カッコ付けたいんだな?」
本音をバラされたモルティナは、ジャックを睨みつけて命令しました。
「うるさいよジャック!」
「ほら、火炎玉が飛んできたよ!しっかり仕事をしな!」
「はいよ!」
ジャックは返事をすると、こちらに飛んできた火炎玉に向かって、キラキラと輝く息を吹きかけました。
「雪だるまになっちゃえ!フロスト・キス!」
パキ~~~ン!!
すると燃え盛る火炎玉は一瞬で凍り付き、粉々に砕け散ってしまいました。
「おぉ!やるね~ジャック!」
パチ、パチ、パチ、パチ・・・・
見ていたカレンからお褒めの言葉と、イレーネファイターズからは、大きな拍手が沸き起こりました。
「えっ!?」
「ええ~~っ!?」
思わぬ周りの反応に、ジャックは照れくさそうに、顔を真っ赤にしてクルクル回っています。
「だけど、あの投石器は鬱陶しいな!」
「ここらで処分しておくか・・・」
「はい、それがよろしいかと思います!」
カレンの言葉に、アリスが賛成しました。
「おっ!では、お手並み拝見じゃな?」
「いひ、ひ、ひ、ひ、ひ・・・」
「なんだ、なんだ?何が始まるんだモルティナ様?」
クルクル回って目を回したジャックが、モルティナに尋ねました。
「まぁ、黙って見てな!カレン嬢の本気を!」
カレンは防壁の先端まで進むと、両手を胸の前で合わせて魔法を唱えました。
すると辺りが急に暗くなり、見る見るうちに、真っ黒な雲が魔物たちの頭上に現れます。
「いくぜ!」
バリ!バリ!バリ~!!
ガガガガ~~~ン!!
雷鳴とともに、巨大な投石器と、それを操作していた2匹のトロールの頭上に特大の雷が落ち、一瞬で吹き飛ばしてしまいました。
「ええ~~っ!!」
「な、何だよこれ~!」
ジャックと防壁の上で戦っていた防衛軍の者達は、驚いてカレンを見ていますが、当の本人はケロッとした顔で、モルティナに魔法の感想を聞いていました。
「さすがは、インドラの魔法だねぇ~!」
「でもカレン嬢、少しもったいない使い方をしているよ」
「あっ、やっぱり?」
「実はオレも、もう少し何とかなるんじゃないかと、思っていたんだよ」
「魔女ママ、どうすればいいか教えてよ!」
「もちろんさね!可愛い娘の頼みだからね!」
「いいかい、余裕のある時は、きちんと詠唱を唱えてやるのさ!」
「そして印を結び、魔力を一点に集中して放つ!」
「そうすれば、カレン嬢の思いに答えてくれるからね!」
「まず詠唱の唱え方は・・・」
カレンとモルティナは、仲良く二人で話をしながら防壁を下りて行きました。
「何なんだよ!」
「あれだけすごい魔法をぶっ放しておいて、何が不満なんだよ?!」
ジャックは横にいたマウロに食ってかかりました。
「いや、俺に聞くなよ!」
「お前だって、すごい魔法を使っているじゃないか!」
「魔法を使えない俺に、何の文句があるんだよ!」
「あっ、ご、ごめんなさい・・・」
逆にマウロに切れられて、ジャックはへこんでしまいました。
それから三日後。
防壁の上で様子を見ていたカレンに、ライズが報告にやって来ました。
「カレン殿、ようやく消火装置の目途が付きましたよ」
「明日には攻撃を仕掛けられそうです」
「そっか!じゃぁ、さっそく明日やっちまおうぜ!」
「はい!では、その旨を全軍に伝えますね!」
そう言うとライズは作戦本部に戻って行きました。
「今日は18日だよな?」
「じゃぁ、明日ぐらいに戻って来るかもしれないな・・・」
そう呟くと、カレンは防壁で防衛に当たっていたマルティーへ声を掛けました。
「マルティーさぁ、そろそろオレの娘が帰ってくるかも知れないのよ」
「だから、間違って攻撃しないように、ここの防衛隊に言っておいてね!」
「あっ!了解しましたカレンさん!」
「うぷぷぷっ・・・」
「でも、あの子の姿を見たら、みんな逃げ出しちゃうと思いますよ~」
マルティーはいたずらっ子のような仕草で、笑いながら答えました。
「カレン嬢、娘って?」
「あんた、まさかその若さで立派な娘がいるのかい?」
「ひょっとして、オフィリアと同じ・・・」
話を聞いていたモルティナが、驚いてカレンに尋ねました。
「いや、いや、魔女ママ!オレはまだ25歳だよ!」
「はぇ?」
「ふ、ふ、ふっ!」
「もうすぐ自慢の娘を紹介するから、楽しみに待っててよ!」
「は、はぁ?」
ニコニコしながら防壁を降りるカレンに、モルティナは首を傾げながら、付いて行きました。
そして翌朝。
防壁上の最先端にカレンとモルティナが立ち、その後ろにはイレーネファイターズと、弓を持った防衛隊、ヴァリオン族の軍隊が整列しています。
そして防壁の門の前には、ライズの率いる革命軍150名が待機しています。
作戦会議で決めたように、カレンが1000匹の魔物を、そして大魔女モルティナも1000匹の魔物を倒し、残った1000匹を総攻撃で倒す手はずとなっています。
眼下の森には、3000匹の魔物がウジャウジャと群がっていました。
魔物共も、本能で今日が決戦の日になると感じているのか、いつもと違って果敢に攻めてきます。
カレンに破壊された投石器に代わって、巨大な丸太の先端に金属で補強した破城槌を、トロールやサイクロプスといった巨人が数匹で抱え、門を壊しにかかっていました。
そして、それを援護するために、オーク共が激しく弓矢を放って来ますが、それらはドリアード達の作った、魔法のシールドで塞がれています。
「さて、そろそろ始めるかな?」
カレンが指をパキパキと鳴らしながら、前へ進み出そうとした時、モルティナがそれに待ったをかけました。
「カレン嬢、あたしが先にやるさね!」
「えっ?」
「だって、アンタが攻撃したら、恐らく火災が発生するだろう?」
「うん!」
「その点、あたしの場合はその心配はないからね!」
「そうなの?」
「分かった!」
「じゃぁ、魔女ママのお手並みを拝見させてもらうわ!」
そう言って、一歩後ろに下がりました。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「あたしも、大魔法を使うのは久しぶりさね・・・」
モルティナはカレンの真似をして、指を鳴らそうとしますが、失敗して痛そうに顔をしかめています。
そんなモルティナを見て、ジャックが心配して声を掛けました。
「モルティナ様、そんな久しぶりの魔法を使って、大丈夫なのか?」
「またカレン嬢の前だからって、カッコつけているんじゃ・・・」
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「まぁ、見ていな!」
そう言うとモルティナは、杖を掲げて詠唱を唱え始めました。




