第九十話 防衛戦(一)
「うわ~~~~~~ん!」
「辛かったね、大魔女~~!」
カレンはモルティナをギュッと抱きしめて、大泣きしています。
(ムギュッ!ぐ、ぐるぢい・・・)
(い、息が・・・・)
(あぁ、でもこのままこの娘に抱かれて死ねれば、本望かも・・・)
「ええっ!?」
ジャックは苦しそうにもがいているモルティナを見て、慌てて二人を引き離しました。
「ぷは~~~っ!死ぬかと思ったわ!死ねないけど・・・」
「大魔女さん、こんなオレだけど、良かったら娘と思ってくれてもいいよ!」
「えっ!ほ、本当かい?!」
「もちろんだよ!オレも大魔女の事を・・・」
「そうだ!これからは魔女ママって呼ばせてもらうよ!」
「そう呼んで、甘えてもいいだろ?」
「あぁ!なんて優しい子なんだい!」
「もちろん、いいに決まっているさね!」
モルティナはカレンの手を握りしめて、感激の涙を流しています。
(な、なんか、いい話だなぁ~!)
二人の様子を見て、ジャックも感動してウルウルしています。
「だからね、魔女ママ!」
「これからは、オレのわがままを全部かなえてくれよな!」
「魔女ママの魔法の力で!」
「うん、うん、いいとも、いいともさ!」
(ゲッ!この娘、どさくさに紛れて、とんでもない事を言ってないか?)
「じゃぁ、これからはオフィリアと呼んでも・・・」
「あっ、それはダメ!」
「オレのことはカレンって呼んで!」
「そ、そうだよね!」
「アハハハ・・・・」
(おい!この娘、本当にいい子なのか?!)
(モルティナ様、騙されていないか?)
ジャックは心配でたまりませんが、楽しそうに話す二人を見ていると、もうどうでも良くなってしまったようです。
「オイラはもう寝るからな!」
そう言うと、部屋から出て行きました。
カ~~~ン!カ~~~ン!カ~~~ン!
翌朝、激しい警報が鳴り響き、ジャックが慌てて二人を起こしに来ました。
「モルティナ様、警報が鳴ったぞ!早く起きろ!!」
「おい!あんたもさっさと起きろ!」
ジャックがカレンを叩き起こそうと近づいた時、自分の喉元に突き立てられた短剣に気付き、慌てて飛び退きました。
「あわわわ・・・・」
「ふわぁ?」
「あっ!寝ているオレに、不用意に近づくと危ないぞ!」
「無意識に身を護る癖がついているから!」
カレンは自分が短剣を握っている事に気付き、慌ててジャックに注意しました。
「おせえよ!」
「そんな事はもっと早く言ってくれよ!」
ジャックのぼやく声で、モルティナもようやく目を覚ましました。
「うるさいね、ジャック!」
「何を騒いでいるんだい!」
「「ギョッ!!」」
跳ね起きたモルティナを見たカレンとジャックは、驚いて飛びのきました。
「うん?どうしたんだい、二人とも?」
不思議そうな顔で、モルティナは二人に尋ねました。
「魔女ママ!顔!顔!」
カレンが急いで手鏡を渡しました。
「ギョッ!!」
鏡に映ったモルティナの顔は、昨夜大泣きしたために、化粧がグチャグチャに流れて、とんでもない顔になっていたのです。
「あわわわ!」
「カレン嬢、今の顔は見なかった事にしておくれ!」
そう言うと慌てて化粧を落としに、洗面台へ走って行きました。
「あっ!モルティナ様、今はそれどころじゃないんですよ!」
「警報が・・・」
「止めても無駄だよ!」
「お前、女性に対してもっと気を遣えよな!」
「まっ、オレは今まで化粧なんて、やった事ないけどよ!」
引き留めようとするジャックに、カレンが言いました。
(おい!それって、自分は化粧をしなくても美しいって、自慢しているのか?)
(モルティナ様が聞いたら、悲しむぞ!)
(あんたこそ、女性に対して気を遣えよな!)
ジャックはカレンが怖いので、心の底で思いっきりぼやきました。
「ところでトンボ!さっきの警報は何なんだ?」
「むっ!」
「オイラはトンボじゃねえぞ!」
「オイラの名前は・・・」
「あっ、すまん!ジャックだったな!」
「あの警報はなに?」
「むぐぐぐ・・・・・」
(なんか、勘にさわるな!この娘!!)
「あれは、魔物どもが攻撃してきた警報なんだよ!」
「だから、早く防ぎに行かなきゃダメなの!」
「何だ、そっか!」
「じゃぁ、行くぞジャック!早くしろ!」
ビユ~~~ン!
カレンは疾風のように駆けて行きます。
「も~~っ!何なんだよ!この娘は~!」
「待ってくれよ~!」
ジャックも慌てて後を追いかけて行きました。
ド~~~ン!
ドカ~~~ン!
防壁の上では、すでに戦いが始まっていました。
デプロス軍が投石器を使って、大きな岩を防壁にぶつけています。
そして空からは、怪鳥のゾンビの獄門鳥や、ワイバーンが攻撃を仕掛けて来ます。
それらに対して防衛軍側は、対空魔獣用の弓矢と狩猟隊による弓矢で応戦し、接近してきた敵に対しては、ドリアード達がシードバレットの魔法で撃退していました。
「おっ!派手にやっているな!」
防壁に到着したカレンは、手をかざして眼下に広がる魔物の集団を観察しました。
(ちぇっ!ヴァリオン族を使って爆薬を空から投下すれば、楽勝なのになぁ・・・)
カレンは攻撃を仕掛けてくる魔物を見て、残念そうにしています。
「あっ、カレンさん、おはようっす!」
先に到着していたマウロが、カレンの姿を見つけてやって来ました。
他のイレーネファイターズの面々も、すでにここへ来て様子を見ていましたが、カレンの姿を見つけると、急いでこちらへ集まって来ました。
「どんな感じなの?」
カレンはアリスに状況を尋ねました。
「はい、空からの攻撃は、弓とシードバレットで何とか防げているようです」
「ですが投石器の攻撃は、やばいですね!」
「今のところすべてはじき返していますが、同じ場所に当たった所は、壁が一部剥がれ落ちて弱くなっています」
「崩壊するのには、まだまだ時間はかかりそうですが、ちょっと心配ですね」
「そっか、それは厄介だね!」
「それで、オレ達が手を貸す必要はあるの?」
「そうですね~!今のところは、アーチャーのマルティーが手伝っているぐらいですかね!」
アリスの報告に、マウロが自慢げに追加しました。
「マルティーの放つ弓矢は、他の誰よりも飛距離が出るので、結構活躍していますよ」
「ふふっ、そうだな!」
「じゃぁ、ここはマルティーに任せておけば大丈夫だね!」
カレンがそう言った時、ようやくモルティナがここへ到着しました。




