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第八十八話 大魔女モルティナ(二)

家族と別れて1年が過ぎようとした頃・・・。


不老不死の妙薬の研究を続けていたモルティナは、ある日偶然にも、恐ろしい破壊力を持った薬品を生み出してしまいました。


たった1敵垂らすだけで、大きな岩すら破壊する、『火精液ニトロン』という物質を生み出してしまったのです。


そしてさらに実験を続けることで、この液体を固形化させる事にも成功し、名称を『ニトロ』と改めました。


それからしばらくすると、この噂を聞きつけたデーベルと名乗る実業家が、モルティナの元へやって来ました。


「モルティナ様、ぜひわたくしに、あなたの発明したニトロを売ってもらえませんか?」


「わたくしの経営する会社では、国から委託されて銀の発掘をしておるのですが、岩盤が固くて思うように作業が進まないのです」


「ですが、あなたの発明したニトロがあれば、今まで以上に銀を発掘する事が出来ます」

「銀が大量に取れるようになれば国も潤い、民の生活も良くなります」

「どうか、お願いいたします!」


デーベルは、言い値でニトロを買い取るといいましたが、モルティナはその話を断りました。

まだ火薬が無かったこの時代です。もしニトロが悪用されるような事になれば、大変な事になると思ったからです。


「せっかくですが、そのお話はお断りいたします」

「元々そのような目的で開発したのではありませんから・・・」


「ほほぅ・・・。では、一体どのような目的で開発されたのですかな?」


先ほどから何度も断っているのですが、デーベルはなかなか諦めようとしません。


(しつこい人だな・・・)

(まぁ、でも本当の事を言えば、きっと、あきらめてくれるだろうね・・・)


「あたしが研究しているのは、不老不死の薬なのです」

「ニトロはその研究の過程で、偶然できた産物なのですわ」


「ですから、これを誰かにお渡しする事はありません!」

「どうぞ、お引き取りを!」


(どう?これならあきらめるしかないでしょう?)


モルティナはそう思って、タカをくくっていたのですが、デーベルはニヤリと笑うと、驚くような事を口にしました。


「なるほど・・・」

「では、わたくしが、その不老不死の薬をあなたにお渡ししましょう!」

「そうすれば、ニトロを譲っていただけますかな?」


「えっ!不老不死の薬をあたしに?」


「えぇ、これは取引でございます」

「不老不死の薬と引き換えに、あなたの発明したミトロをわたくしに・・・」


(そんなバカな!これはハッタリだわ!)

(あたしが血のにじむ思いで研究している薬を、この男が持っているはずがないわ!)

(そう、ニトロ欲しさに、口から出まかせを言っているのよ!)


「わかりましたわ!」

「あなたが不老不死の薬を持ってきたのなら、ニトロを引き換えに差し上げましょう」


「おぉ!ありがとうございます!」

「では、早速用意すると致しましょう!」


そう言うとデーベルは、さっさと帰って行きました。


「バカな人!不老不死の薬など、用意できるはずがないわ!」

「それにあたしは薬学のプロなのよ!にせ物を持って来ても無駄なんだからね!」


モルティナは鼻で笑うと、再び自分の研究に没頭して行きました。



その様な事があってから半年が経ち、そろそろ約束の2年が訪れようとしていた頃、モルティナの前に再びデーベルは現れました。



「モルティナ様、わたくしとの約束を覚えておられますかな?」


「え、えぇ・・・」

「もちろんですわ!」


「では、お約束の物を・・・」


デーベルはそう言うと、美しい装飾の施された、小さな小瓶を差し出しました。

小瓶の中には、青く光り輝く液体が入っています。



「これは『エルドウィンの秘薬』でございます」



「えっ?!」

「エルドウィンの秘薬ですって?!」


「ま、まさか!?」

「死霊の王が持つと言われる、あの伝説の秘薬?!」



「おぉ!さすがは高名な錬金術者様、ご存じでしたか!」


「えぇ、さようです!」

「にせ物と御疑いですか?」



「・・・・・・・」



「ふ、ふっ!」

「試してもらって結構ですよ、これは間違いなく本物です」

「薬学のプロであるあなた様に、にせ物が通用するなどと思っておりませんからね~」


「ただし本物と実証されれば、ここにあるニトロと、その製造方法の書かれた書類を、こちらに渡していただきますよ」



(そ、そんなバカな!)

(あの伝説の秘薬が本当に存在すると言うの?)



モルティナは目の前にある小瓶を手に取りました。


(でも、もし本当にエルドウィンの秘薬だったら・・・)


モルティナの脳裏に、親子三人で幸せに暮らす姿がよぎりました。

そして気が付いた時には、小瓶の中の薬は無くなっていたのです。



(うっ!体が燃えるように熱い!)

(何かが体中を駆け巡り、すべての細胞を書き換えて行くような・・・)



「ハッ!」



ほんの少しの間、モルティナは意識を失っていたようです。



「どうですか?不老不死の力を得た気分は?」


「あ、あたしは本当に、その力を得たのでしょうか?」


「ご自分で試してみてはいかがですか?」


そう言うと、デーベルはモルティナの前に、鋭利なナイフを差し出しました。





それから4カ月が過ぎ、モルティナが家族と約束した2年が訪れようとしていました。


「あぁ、ようやく荷物の整理がついたわ!」

「思った以上に時間が掛かったわね・・・」


たくさんの荷物を乗せた荷車を牛に引かせて、モルティナは思い出の詰まった小屋を後にしました。


長い森の小道を抜けると、生まれ育ったストーンミルの村が見えて来ました。

モルティナの住んでいたあばら家も、いまは住む人がいないため、荒れ果てています。


(それにしても、何だか村も寂れてしまっているわね・・・)

(まるで、誰も住んでいない村のようだわ・・・)


長い間森の中で、自分の研究だけに没頭してきたモルティナは、世情の事には全くと言っていいほど疎く、この村の変化についても、少し違和感を抱いたものの、それ以上の疑問を持ちませんでした。


そんな事より、愛する夫と娘の待つグルムの町の事で、頭の中はいっぱいです。

寂れた村を横目で見ながら、モルティナは町を目指して進みます。


小屋を発って3日目の午後、ようやく町を一望できる小高い丘の手前までやって来ました。

後は登り切った坂道を下って行けば、夕方までには町に着きます。


グルムの町はモルティナにとって、良くも悪くも想いでのある町でした。

母の病気を診てくれる医者を探して、町中を駆け回った事や、自分の人生を変える医学書と出会った事など・・・。


でも今は愛する夫のフリートと、娘のオフィリアが待つ希望の町・・・のはずでした。


ですが、その希望が打ち砕かれるのに時間はかかりませんでした。


町を一望できる丘へ一歩踏み出したモルティナは、信じられない光景を目の当たりにします。



ゴォ~~~~ッ・・・・・・



「ない!!」


「町がない!!」



「どうして?なぜ町が消えているの?!」


モルティナの目の前には、焦土と化した広い土地が広がるだけでした。



「どうして!!」


「なぜこんな事に!!?」


「オフィリアはどこ?!」


「フリートはどこにいるの?!」




「いや~~~~~~~~っ!!!!」




モルティナの絶叫が、全てを失った焦土の上に響きました。



ですが、モルティナの叫びに答える者は、もう誰もいません。

荒れ果てた焦土から聞こえて来るのは、吹きすさぶ風の音だけでした・・・。




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