第八十六話 樹海の魔女(六)
モルティナは教会に戻ると、ハインズ氏を連れて急いで屋敷に戻りました。
「今夜あのカレン嬢が、仲間を連れてここへ来るんだよ!」
「だから、あんたの力を貸して欲しいのさ!」
モルティナはハインズ氏に、最高のおもてなしをするように頼みました。
「えぇ、それは勿論協力はいたしますが・・・」
「それにしてもモルティナ様は、あの御方にえらくご執心のようですが?」
「何か理由でも?」
(おっ!ナイスな質問だぞ、じいさん!)
ジャックがハインズ氏に向けて、親指を立てました。
「理由かい?」
「あるよ!あの娘はあたしにとって、特別なのさ!」
「前に金の代わりにイケメンを紹介しろと言ったけど、あれは取り消すよ」
「今夜のおもてなしが、その代わりさね!」
「分かりました、それでは最高のおもてなしをいたしましょう!」
ハインズ氏はそう言うと、屋敷のメイドたちに命じて準備を始めました。
(え~~~っ!何が特別なのか、最後までちゃんと聞けよな!)
ジャックは中途半端な質問をしたハインズ氏に、立てた親指を下向きに変えて抗議しています。
「あたしも、こうしてはおられないよ!」
モルティナは急いで部屋に戻ると、パタパタと化粧を始めました。
11月中旬の午後7時ともなると、辺りはもう真っ暗になります。
秋の乾いた空気は星々の明かりを際立たせ、昇って来た青白い月の光が、暗い夜道を静かに照らし始めました。
「あのでっかくて立派な建物が領主の屋敷だな?」
カレンがメアリーに尋ねました。
「はい、そうです」
「こんなカッコで入ってもいいのかな?」
戦闘服姿のマルティーが、気にしてカレンに尋ねました。
「いいに決まっているじゃん!今は戦闘中なんだから!」
「そう、そう!」
「それに、オシャレな服なんて、わたし持って来ていないし~」
「ちゃんと毎日洗濯しているから、問題ないっしょ!」
武闘着姿のティアとポニーが、お互い服が汚れていないか気にしています。
アリスはカレンの真似をして、新調したピカピカの黒い胸当てを着けてご機嫌です。
後ろの方では、マウロ、コローニ、マイオスの男連中が、ホタルンをかざして汚れている所がないか、お互い確認し合っていました。
ガン!ガン!ガン!
ドアノッカーを鳴らすと、中からモルティナのハスキーな声が聞こえてきました。
「ど、どうぞ、中に入っておくれ!」
屋敷の中では、数えきれないほどのランプが眩い光を放ち、大きなテーブルには豪華な料理がところ狭しと並べられています。
「さぁ、みなさん!どうぞこちらへ!」
ハインズ氏がテーブルに着くように促します。
「すごいごちそうだな!」
カレンがテーブルに並んだ料理を見て、驚いています。
「まだまだ次がありますので、遠慮せずに召し上がってください」
ハインズ氏の案内で席についたカレンは、お礼の言葉を述べた後、簡単にチームの紹介をしました。
「今日招いてもらった9人は、実は革命軍ではなくて、イレーネファイターズというチームなんだよ」
「えっ、みなさんは革命軍ではないのですか?」
ハインズ氏が驚いて、もう一度聞き直しました。
「うん、オレたちはデプロス王国の人間じゃないんだ!」
ガタッ!!
「ま、まさか、アストラディア王国なのかい?!」
椅子を倒して立ち上がったモルティナが、血相を変えてカレンに尋ねました。
「えっ?」
「ア、アストラディア王国?」
カレンはそんな国の名前を聞いたことが無かったので、一瞬戸惑いましたが、モルティナの必死な形相に驚いた周りの仲間たちも、口々にざわめきました。
「それって、どこの国?」
「いや、そんな国あったっけ?」
「わかんね~!」
「いや、オレ達はロファ王国の冒険者で、革命軍を助けるために国から派遣されたチームなんだよ」
「あ、あぁ・・・そうだよね・・・」
「あの国はもう、とっくの昔に滅んでしまっていたさね・・・」
モルティナは力なくそう言うと、ヘナヘナと椅子に腰かけました。
「大きな声を出して悪かったね」
「だけど、これで分かったよ」
「あたしの鑑定魔法で、この9人だけがずば抜けて強かった訳だ・・・」
モルティナは納得して、ウンウンと頷いています。
「大魔女さんは、魔法で相手の強さが分かるのかい?」
「あぁ、分かるよ!」
「だからアンタが魔物を1000匹倒すと言った時も、まったく驚かなかったさ」
「へえ~っ!すごいね!」
「なぁ、オレに魔法の事を、色々教えてくれないか?」
カレンはモルティナの事が気になったようで、もっと彼女の事を知りたいと思ったのでした。
「いいともさ!」
「じ、じつはあたしも、アンタの事を教えて・・・」
「えっ?」
「オレの・・・なに?」
「い、いや、とにかく食事が先さね!」
「せっかくの料理がさめてしまうよ!」
「そうだな!」
「じゃぁ、戦いの勝利を祈って・・・」
「「「「かんぱ~~~い!!!」」」」
カレンの音頭で一気にグラスの酒を飲み干した面々は、一斉にごちそうに群がりました。
「「「「うお~~~っ!久しぶりのごちそうだわ!」」」」
行軍中は、干し肉と固いパンしか食べる物が無かった9人は、それはもうすごい勢いでご馳走を平らげて行きます。
「うへっ!すごい喰いっぷりだな!?」
ジャックが目を点にして見ています。
「いや、さすがは猛者の集まり!こちらも頑張って用意した甲斐がありましたぞ!」
ハインズ氏も嬉しい悲鳴を上げながら、メイドに命じて次々と料理を運ばせています。
モルティナもそんな様子を、とても嬉しそうに眺めていました。
飲んで食べて、みんなが自慢の歌や踊りを披露し、楽しい宴が夜遅くまで続きました。
主催者のモルティナも、カレンにお酒を注いでもらって、すっかり酔っぱらってしまっています。
(珍しいな!モルティナ様がこんなにお酒を飲むなんて・・・)
(あの娘にお酒を注いでもらうのが、よほど嬉しいみたいだなぁ・・・)
(ちぇっ!せっかくオイラがお酒を飲ませて、モルティナ様の秘密を聞き出そうと思っていたのに・・・)
(あれっ?これって、もしかしてチャンス到来じゃねえの?)
そう思ったジャックは、モルティナのそばへ飛んで行くと、小さな声で尋ねました。
「ねぇ、モルティナ様~!」
「モルティナ様は初めてカレン嬢を見た時、オフィリアって呼んでいなかったっけ?」
「それって・・・」
ギョッ!!?
ジャックがオフィリアの名前を出した途端、モルティナの目から大粒の涙があふれ出しました。
「うっ、うっ・・・オフィリア・・・」
「うわ~~~ん!オフィリア~!」
モルティナはカレンに抱き付くと、大声で泣き出しました。
「うわ~~~ん・・・」
「許しておくれ、オフィリア~!うわ~~~ん・・・」
どえらい事になったと、オロオロと狼狽えているジャックに向かって、カレンが寝室に案内するように言いました。
「おい、そこのトンボみたいなヤツ!」
「えっ?オ、オイラのことか?」
「他にトンボはいないだろう!」
「お、おい!オイラをトンボ扱いするとは・・・」
「大魔女の寝室まで案内しろ!」
「は、はい~!」
カレンは自分に抱きついて号泣するモルティナを、そっと抱き上げると、そのまま寝室まで運んで行きました。




