第八十伍話 樹海の魔女(五)
静まり返った会場を見たカレンが、意を決して言いました。
「じゃぁ、オレがやるしかないな!」
「「「「えっ?」」」」
町の人たちは、カレンの言っている意味が分からず、ポカンと口を開けています。
そんな町の人を無視して、カレンは自分たちの仲間に向かって言いました。
「オレが1000匹の魔物を受け持つから、残りの2000匹は全員でヤッてくれ!」
「「「「オ~~~ッ!!」」」」
「「「「お任せを~~!!」」」」
革命軍が一斉に声をあげてカレンの言葉に答えました。
「「「「え~~~~っ?!」」」」
それに慌てたのは、町の防衛隊です。
「ちょっと、待ってくれ!」
「あんたが一人で、魔物1000匹を倒すだって?」
「無茶だ!そんな事できっこないだろう?!」
「ハッタリもほどほどにしてくれ!」
「そうだ!真面目にやれ~!!」
会場内から怒号が飛び交うなか、カレンはスッと右手を顔の前まで持ってくると、指先に小さなプラズマを発生させました。
ヴ~~~~ン・・・
バチ、バチ、バチ・・・・
「「「「えっ?な、なんだ?!」」」」
「指先が光っているぞ?!」
「何をやっているのだ?!」
指先から青白い光が激しく輝くのを見た町の人たちは、騒ぐのをやめてカレンの行動に注目しました。
「よく見ていろよ!」
そう言うとカレンは指先に発生させたプラズマを、教会の外にある大きな木に向かって弾き飛ばしました。
ピン!!
ガガ~~~~~ン!!!
激しい爆音と共に、大木は一瞬で砕け散り、大きな音を立てて地面に倒れました。
ドド~~~~ン!!!
「「「「ひぃ~~~~っ!!」」」」
それを見た町の者達は、一人を除き、全員が驚きの悲鳴を上げました。
「ほほぅ・・・」
「まさかインドラの魔法の使い手とは、これは驚きじゃな!」
モルティナは、カレンの使った魔法を一目で言い当てました。
「あんた、オレの使った魔法が分かるのかい?」
「もちろんだとも!あたしは長いこと、魔法の研究を続けているからね!」
「インドラの魔法は、光の神と闇の神の戦いの時に編み出された、雷魔法の中でも最強と言われる代物だからねぇ!」
「まさか、この目で見る事が出来るとは、思ってもみなかったさ!」
そう言うとモルティナは、驚いている町の者達に向けて明言しました。
「つまり、魔物を1000匹狩るというのは、ハッタリではないという事さね」
「分かったか、お前たち!」
「「「「はい~~~~っ!!」」」」
モルティナは、町の者達にカレンの強さを証明しました。
「ありがとう、理解してもらえて嬉しいよ!」
カレンはニッコリ笑って、モルティナに片目をつむってウインクをしました。
ドキッ!!
(はぁ~~~っ!な、なんと可愛い仕草なのじゃ~~!!)
モルティナは、思わずヨロケそうになり、ジャックが慌てて背中を支えました。
(おい?この婆さん一体どうなったんだ?)
(あの娘を見た時から、どうも変だぞ?)
「聞いたかお前たち!大魔女の言う通り、オレが使う魔法はインドラの雷撃だ!」
「今のは、ほんの少しの力しか使っていない!」
「戦いでは本気で使う事になるが、そうなれば確率は低いが火災が発生するだろう!」
「だが、それぐらいの火災はお前たちで消せるだろ?」
「・・・と言うか、お前たちで消せよな!!」
「オレ達はお前たちのために、命を懸けて戦うのだからな!!」
「もし、それすら出来ないと言うのなら、オレ達は戦いを放棄して町を去る!!」
「文句のある奴はいるか?!」
カレンは凄みのある声で言い放ちました。
これは町の人へのカレンからの強制的な命令ですが、さすがにインドラの魔法を目にした町の者は、誰一人文句を言う者はいませんでした。
「いひ、ひ、ひ、ひ、ひ・・・・」
「決まったようじゃな!」
「いいねぇ、じゃあ、あたしが残りの1000匹を引き受けようじゃないか!」
モルティナが、笑いながらカレンに告げました。
「本当かい?」
「悪いな!じゃぁ、ぜひ頼むよ!」
カレンは満面の笑みで、モルティナの手を握りました。
キュン!!
カレンに握手されて、またもヨロケそうになったモルティナを、慌ててジャックが支えます。
(おかしい!絶対におかしいぞ!)
(確かにこの娘は美しいし、すごい魔法を使うけど・・・)
(一国を滅ぼそうとした恐ろしい大魔女が、こうもメロメロになるなんて?!)
(この婆さん、オイラにも話したことの無い秘密があるな?!)
好奇心の強いジャックは、気になって仕方がありません。
その後の会議では、火災発生時の対応について話し合われたのですが、革命軍の1人が自分の町で使っている、『加圧式給水ポンプ』を作る事を提案しました。
加圧式給水ポンプとは、荷車の上に備え付けた大きな水桶に放水用のホースを付け、人力で圧縮した水を放出する移動式の消火装置です。
この意見が町の人たちに大喜びで受け入れられ、急いで製作する事になりました。
目標台数を30台とし、そしてこの消火装置の完成を待って、総攻撃を行う事が決定したのです。
長い会議もようやく終わり、モルティナとジャックが屋敷に戻ろうとした時、後ろから声を掛ける者がいました。
「やぁ、大魔女さん!ちょっと待ってよ!」
ドキッ!
(そ、その声はカレン嬢!?)
一瞬でカチンコチンに固まったモルティナが、からくり人形のようなぎこちない動きで振り向くと、そこには笑みを浮かべたカレンの姿がありました。
「今日はありがとうな!」
「あんたのお陰で、話がうまくまとまったよ!」
「い、いや、あたしは町のために、しただけさね!」
「一応、報酬をもらって雇われているからね」
「でさ、今夜オレのチームだけで宴会をするんだけど、よかったら来ないかい?」
「チームだけで?」
「うん、オレを含めて9人!」
「本当は12人いるんだけど、3人は別件でここにはいないんだよ」
「そうか9人で・・・」
「!!!」
「それじゃぁ、あたしの所に来るといいさね!」
「どうせあんた達、野営しているんだろ?」
「あっ、本当の家では無くて、今は領主の家を借りているのさ!」
「おいしいワインがたくさんあるよ!」
「メイドさんにもお願いして、おいしい料理をいっぱい用意するさね!」
「えっ、いいの?!」
「もちろんさね!」
「やった~!」
「じゃぁ、仲間と一緒に押し掛けるからな!」
そう言うとカレンは、仲間の元へ走り去って行きました。
その後ろ姿を、モルティナはうっとりとした表情で見つめています。
(あぁ、なんて愛しい娘なのだろう・・・)
(本当にあの子は・・・)
「ハッ!!」
「こうしてはいられないよ!急いで準備をしないとね!」
モルティナは嬉しそうに言うと、ホウキに乗って飛び去りました。
「よ~し!今夜は婆さんをおもいっきり酔わせて、秘密を聞き出すぞ~!」
ジャックはニヤッと笑うと、急いでモルティナの後を追いかけました。




