第八十四話 樹海の魔女(四)
現状の守りについては、町の防衛を担っている義勇兵の防衛隊の代表が、説明をしました。
それによると、町には城壁並みの鉄壁の守りがあるため、未だに突入はされておらず、敵の攻撃は投石と弓矢による物理攻撃が主だそうです。
さらに大きな火の玉を投石器で投げ込んで来るのですが、家屋に燃え広がる前に町の者が総出で消化を行い、時にはジャックが氷の魔法で消し止めたりしているそうです。
「町を制圧に来て、その町を燃やして消し去ろうとするとは、バカの極みだろ!」
この攻撃には、町の守護者たちもカンカンになって怒っています。
そしてワイバーンなどによる空からの襲撃には、防壁に備えられた対空魔獣用の弓矢と、狩猟隊による弓矢、そしてドリアード達によるシードバレットの魔法で撃退しています。
「とまぁ、こんな状況です」
防衛隊の説明が終わると、すぐにカレンが質問をしました。
「防衛の方法は分かったけど、攻撃の方はどうなってんの?」
「攻撃は、しておりませんな~」
「はぁ?」
防衛隊の返事に、カレンがポカ~ンと口を開けたまま、固まってしまいました。
そして呆れた顔をしているカレンを見て、ハインズ氏が慌てて補足しました。
「いや、していないというか、出来ないのですよ!」
「奴らは防壁の上から射る弓矢の届かない位置から、攻撃を仕掛けて来ますので・・・」
「はぁ?」
「それじゃあ、防戦一方だっていうの?」
「一度も攻撃を試みた事がないの?」
「まぁ、相手は数も多いですし、戦っても勝ち目がありませんので・・・」
「ちっ!本気で町を守る気があるのかよ!!」
怒気を含んだカレンの舌打ちで、ディナータイムで作った雰囲気が、いっぺんに消し飛んでしまいました。そしてさらに、険悪な事態へと進みます。
ガタン!!
カレンの態度に腹を立てた身体の大きな男が、椅子を蹴って立ち上がりました。
「おい!お前!」
「じゃぁ、俺たちにどうしろと言うのだ?!」
「俺たち防衛隊は100人程で、相手は3000匹の魔物なのだぞ!俺たちに玉砕しろと言うのかよ!」
「何も知らないくせに、でかい口を叩きやがって!」
気の短い防衛隊の猛者が、語気を荒げてカレンに噛みつきました。
そしてカレンが口を開こうとした瞬間、ライズが急いでその問いに答えます。
もし、ここでカレンがブチ切れてしまえば、町の防衛どころではありません。
その証拠に、危険を察知したメアリーが、青い顔をしてカレンの腕を掴んでいます。
「そんな事は言っていませんよ、ただ守るだけではいずれ制圧されてしまうと言っているのです」
「ですから、攻撃は我々が行います」
「そのためにやって来たのですから!」
ライズは、これ以上相手を刺激しないように、落ち着いた口調で話しましたが、興奮した相手は、さらにケンカ腰で話してきます。
「おぉ、そうかい!」
「分かった!それで、どのような方法で戦うのか言ってみろよ?」
「相手は3000匹の魔物なのだぞ!」
「お前たちの部隊も、たかが・・・」
「あぐ・・・・ぐ、ぐわっ!!」
そこまでまくし立てたところで、防衛隊の男は苦しそうに口から泡を吹いてもがき始めました。
「ひぃ~~~っ・・・い、息が・・・」
見るとモルティナが立ち上がり、男に向けて杖を突きつけていました。
「若造が!生意気な口をきくんじゃないよ!」
「この町を破滅させたいのかい?!」
モルティナは、男に向かって一喝しました。
そしてゆっくりと杖を下げると、男はようやく息が出来るようになり、ゼーゼー言いながら、その場に倒れ込んでしまいました。
(ふん!相手の力量も見定められない青二才が!もう少しでその首が飛ぶところだったのだぞ!)
モルティナは冷たい目で男を睨みつけると、今度はカレンに向き直りました。
「すまないね!口の利き方も知らない尻の青い若造だ、勘弁しておくれ」
モルティナはカレンにそう言うと、ペコリと頭を下げました。
「「「「えっ!!?」」」」
その様子を見た町の人たちは、みんな一様に驚きました。
(なに!あの魔女が頭を下げただと?)
(いったいあの娘は何者なのだ?!)
驚くのも無理はありません。
何しろ恐ろしい魔法を使うプライドの高い大魔女が、若い娘に頭を下げたのですから。
しかもたった今、目の前で屈強な男がもがき苦しんでいる様を見せつけられ、彼女の恐ろしさを再認識させられたのですから、その驚きはなおさらです。
ですが、これで場の雰囲気は一変しました。
「いや、オレもついカッとなってしまった、すまない!」
「じゃぁ、作戦の説明を続けてくれ!」
カレンはライズに目配せをすると、メアリーの肩を叩いてやさしく言いました。
「メアリー、腕が痛いんだけど・・・」
「あっ!す、すいません!」
メアリーは慌ててカレンの腕を放しました。
「いや、謝るのはオレの方だ」
「町を救いに来たはずが、ぶっ壊してしまったら、洒落にならないからな!」
「あっ・・・あはははは・・・・・・」
「ですよね~!」
(うわっ!やべ~~!)
(カレン様、やっぱり頭に血がのぼっていたんだわ!)
メアリーは顔を引きつらせながら、自分の席に戻って行きました。
そして席に着いた途端、アリスがメアリーの手を握って言いました。
「よくやったメアリー!私はカレン様の顔色が変わった瞬間、恐怖で足がすくんでしまって・・・」
「いやもう、本当に勘弁して欲しいっす・・・」
メアリーはそう言うと一気に緊張が解けて、椅子に崩れ落ちました。
イレーネファイターズの他のメンバーも、生きた心地がしなかったようで、全員が虚脱感で椅子に沈み込んでいます。
会場はモルティナのお陰で、革命軍の作戦を聞く準備が整いました。
気を取り直したライズが、この度の作戦の説明を始めます。
「先ほどの防衛隊の方が言ったように、相手は3000匹!」
「この途方もない数では、我々に勝ち目が薄いので、まず敵の数を減らす事が必須です」
「そこで我々の考えた作戦は、ヴァリオン族100名に空から爆薬を投下させて、地上の魔物を焼き払うという戦法です」
ライズがそこまで話した途端、防衛隊から即座に反対意見が飛び出しました。
「ちょっと、待った!」
声を上げたのは、森の管理者のノームとドリアード達です。
「そんな事をしたら、森が大火事になってしまうではないか!」
ノームが血相を変えて怒鳴りました。
「ここ数日は雨が降っていないので、一度森に火が付くと、一気に燃え広がりますわよ!」
「そうなると魔物どころか、この町も炎に焼かれてしまうわよ!」
ドリアード達も、声を揃えて反対しました。
町の防衛隊からも、それは絶対にダメだと激しいブーイングが起こりましたので、ライズは言葉を失って困ってしまいました。
その様子を見かねたカレンが、ライズに代わって立ち上がると、それまで騒いでいた町の者達も一斉に静まり、カレンに注目しました。
「まぁ、確かに敵の数は大幅に減らせるが、こちら側のリスクも大きいな・・・」
「でも、ここは森に囲まれた町だよな?」
「当然、森林火災に対する備えもあるのだろ?」
カレンが町の者に、当たり前のように尋ねましたが、それを聞かれた防衛隊からは、返事は返って来ませんでした。
「えっ?じゃぁ、火災が起こった時はどうしていたんだよ?」
カレンの質問には、領主のハインズ氏が答えました。
「実は、火災が起きないように、森の守護者たちが常日頃から守ってくれていたのです」
「そしてもし火災が発生した時は、全員で消化活動を行いますし、魔女様の使い魔である、ジャック殿に助けてもらう事もありました」
「あっ、そっか!まずは火災を発生させない事が前提だったのね?!」
カレンはすんなりと、町の防火対策を受け入れました。
「それと一つ聞くけど、この町には水の魔法を使える者はいないの?」
「はい、残念ですが・・・」
「そっか・・・」
「それじゃ、この作戦はダメだな・・・」
(チェッ!ここにルナがいてくれたらなぁ・・・)
カレンがライズに向かって、首を横に振りました。
「そうですね、大火災になれば大事ですからね」
ライズも納得したようです。
爆薬作戦が消えた事で、町の人たちはホッと一安心しましたが、結局このまま打つ手がなければ、やがて魔物たちに蹂躙されてしまうのは分かっているので、町の人たちは意気消沈して、会場はシュンと静まり返ってしまいました。




