第八十三話 樹海の魔女(三)
第八十話で、11月9日にはグリーンホロウの町へ到着していると書きましたが、11月13日の間違いでした。
ヘーベル歴251年11月14日
ヴオ~~~~ッ!
ヴオ~~~~ッ!
グリーンホロウの町に、角笛の音が響き渡りました。
「ありゃ?何の音だ?」
角笛の音に驚いたジャックは、急いで屋敷の外へ出ました。
「あっ!あれは革命軍の連中だな?」
朝早くから、続々とグリーンホロウの町へ入って来る革命軍を見たジャックは、急いで屋敷へ戻りました。
「モルティナ様!大変ですよ!」
「すごい数の軍隊が町に・・・」
ぐが~~~っ・・・・
「お~い!いつまで寝ているんだよ!早く起きろってば!」
ぐが~~~っ・・・・
「起きろ、ババア!!」
ぐが?
ぐるるる・・・・ぴ~~~っ・・・
「起きろ、くそババア!!」
ぐが~~~っ・・・・
「・・・・・・」
「!!!」
「いい男が、いっぱい町に入って来たぞ~!」
「寝てる場合じゃねえぞ~!」
ガバッ!
「にゃにぃ?いい男がいっぱい?」
「そうだよ!革命軍とやらが、町に入って来たぞ!」
「男がいっぱい来たのか?」
「そうだよ!何か強そうなカッコいい人がいっぱいいたぞ!」
「そりゃ、大変さね!」
モルティナは急いで杖をホウキに変えると、屋敷の屋根の上へ飛んで行きました。
そして遠眼鏡を袋から取り出すと、マジマジと革命軍の入場を確認しています。
「ほう、ほう・・・」
「確かに、屈強そうな連中がたくさんいるね~」
「このあたしの眼鏡にかなうような、いい男はいるのかえ?」
そう言うとモルティナは、相手の力量を測る鑑定の魔法を使って、注意深く様子を探り始めました。
「ふむ、ふむ・・・あれは革命軍の旗印かえ?」
「なるほど、なるほど!なかなかの精鋭揃いだねぇ・・・」
「モルティナ様、こいつら強いのか?」
「そうさねぇ、強いのは強いねぇ~」
「けどまぁ、冒険者レベルで言うと、ⅮランクからCランクってとこかね?」
「まぁ、中にはBランクもちらほら混じってはいるが・・・」
「まぁ、あたしにかかれば、木っ端クラスだよ!」
「いひ、ひ、ひ、ひ、ひ・・・・」
「!?」
「おや?革命軍の後から来る連中は?!」
「おぉ?あれはヴァリオン族じゃな?!」
「ヴァリオン族って、翼を持っている連中の事か?」
「そうさ!空を飛べる事で、通常の冒険者ランクよりワンランク上に位置する連中さね」
「そんな連中が100名ほどいるねぇ~」
「これは、なかなかの戦力になる・・・」
ギョッ!!
「オ、オフィリア?!」
「オフィリアなのかい?!」
「なんだ?いい男が見つかったのか?」
(ま、まさか、あの子が・・・)
(いや、でも、もしかして・・・)
「お~い!モルティナ様、聞いてる?」
「あ、あぁ、聞いているよ」
「い、いやね、あたしに匹敵するほどの美女がいたのさ!」
「はぁ?それって、おどろく事なのか?」
「・・・・・・・」
(あれ?どうしたんだろ?モルティナ様の様子が変だぞ!?)
(なんだか、すごく悲しい顔をしているような・・・)
モルティナが一点を見つめ、感慨深げに、遠い記憶をたどる様に目を細めています。
そして、胸の奥の悲しみを噛みしめていた時でした。
「お~い!モルティナ様~!」
「領主様が、至急教会へ来てくれと言っているよ~!」
地上から町の者が、モルティナに声を掛けました。
「!!!」
「こうしてはおれぬ!」
「確かめなくては!」
ドピュ~~~~ン!!!
「おい、ちょっとモルティナ様!」
「どこへ行くんだよ~!」
「領主の所だよ!」
「あんな連中に好き勝手されたら、森が壊滅してしまうわ!」
モルティナは急いで教会へ飛んで行き、ジャックはその後を必死に追いかけます。
バ~~~~ン!
荒々しく教会の扉を開けたモルティナは、ドタバタと領主のハインズ氏の元へ駆け寄りました。
「こ、これはモルティナ様!」
「えらく慌てておるが、なにかあったのですか?」
「あったぞ!大ありじゃ!!」
「いま町の中に、ぞくぞくと革命軍が入って来ておるであろう?」
「は、はい、わたくし達を助けてもらうために、来ていただきました」
「うむ、その中に、とんでもない者がおったぞ!!」
「と、とんでもない者?!」
きょとんとしているハインズ氏に、ジャックが知ったかぶりで言いました。
「すげえ美人の娘がいたんだぜ!」
「だろ?モルティナ様?!」
「あれ?欲しかったのは、いい男じゃなかったっけ?」
自分の言っている事に矛盾を感じたジャックは、首を傾げました。
「「どういうこと?」」
ジャックとハインズ氏は、お互いに顔を見合わせて、ポカーンとしています。
教会に設置された長いテーブルの議長席に、領主のハインズ氏が座り、上座から順番に、右の席ではモルティナが腰かけ、それからジャックと、町の代表やら森を守護するノームやドリアード達が下座へ続きます。
左の席ではカレンが上座に腰かけ、ライズ、アルノルトと、イレーネファイターズと革命軍、ヴァリオン族の主要なメンバーが下座へ続きます。
ハインズ氏の計らいで、まずは両者の親睦を深めようと、テーブルには沢山の料理が並べられ、堅苦しい挨拶は抜きで、ディナータイムが始まりました。
(こいつが樹海の魔女と恐れられている、おばさん?いや、おばあさん?)
(まぁ、どっちでもいいや!)
(本当に噂通りの魔女か、ちょっと試してみるか・・・)
樹海の魔女と対面したカレンは、彼女の実力を見定めようと、覇気を飛ばしてみました。
ところが不思議な事に、魔女からは何も返って来ません。
それどころか、何故か恥ずかしそうにモジモジしています。そして遠慮がちに上目遣いでカレンを見ては、目が合うと慌てて下を向いたりしているのです。
(何だこの魔女!生娘かよ!?)
話に聞いていたのと全く違う印象に、カレンは少し拍子抜けしたようです。
そんなカレンに対してモルティナは、緊張した面持ちで、声を掛けようかどうか迷っている様子です。
そして食事を食べ始めたカレンに、モルティナは意を決して声を掛けました。
「あたしの名は、モルティナと言うのだが・・・」
「む、娘さん、アンタの名前を教えてくれぬか?」
「あっ!挨拶を忘れていたな!すまん!」
「オレの名前はカレンだ!よろしくな、モルティナさん!」
「え?カ、カレン?!」
「名前はカレンというのかい?」
「そだよ!」
「そ、そうかい・・・」
「あ、あの、あたしの名前に聞き覚えはないかい?」
「ん?」
「ん?ん?ん?・・・・」
「ないな!」
「そ、そうかい・・・」
「なら、いいんだ・・・」
モルティナはそう言うと、下を向いたまま、もう話しかけて来なくなりました。
そしてディナータイムも終り、いよいよ本題の魔物との戦いの話へと移ります。




