第八十二話 樹海の魔女(二)
プカ~~~ッ・・・・
モルティナは大きく香草の煙を吐くと、ニヤリと笑ってハインズ氏に言いました。
「で、あたしへの報酬は?」
「ほ、報酬ですか?」
「当り前だろう?この大魔女モルティナ様の力を借りるんだ!」
「それ相応の対価をもらわないとね~」
「で、では報奨金1000万ゴールドでいかがでしょうか?」
「それなら、わたくしの財産で何とか用意できますが・・・」
「安い!」
「そんな、はした金では足りないよ!」
(いや、いや、いや!それってすごい金額だよな?)
(冒険者が使う宿屋が一泊3ゴールドで、3食付きの豪華な宿屋でも10ゴールドだぞ?)
(この婆さん、どれだけ強欲なんだよ?!)
ジャックはジト目でモルティナを見ています。
「で、では1500万ゴールド出しましょう!」
「これ以上となると、戦後の領地の復興に、資金が回らなくなってしまいます」
プカ~~~ッ・・・・
「そうさね~、町が無くなると、あたしも困るからねぇ・・・」
「お金はいいよ!」
「「へっ?」」
ハインズ氏とジャックは、同時に間抜けな声を出しました。
プカ~~~ッ・・・・
「その代わり、イケメンの男を用意しな!」
「「えっ?」」
「お、男ですと!?」
「そ、それは生贄という事ですかな?!」
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ・・・」
「バ、バカ!人聞きの悪い事を言うもんじゃないよ!」
「別に取って食おうって話じゃないんだよ!」
「そ、その・・・」
「ちょっと、一緒にデートを楽しむだけで・・・」
「その後は、まぁ、その・・・なんだ・・・」
「事の成り行き次第でだなぁ~~~」
「いひ、いひ、いひ・・・・」
「はっ!!」
「バカ!レディに恥ずかしい事を言わせるんじゃないよ!!」
(うわっ!お金より、そっちの方の欲が優先するのかよ?!)
(しかも魂胆がスケスケで、聞いているオイラの方が恥ずかしいわ!)
ジャックは、呆れた顔でモルティナを見ています。
「は、はぁ、そうなのですか?」
「ま、まぁ、町の人に危害が及ばないのであれば、一度町までお越しいただいて・・・」
(よしっ!久しぶりに男と・・・・)
(いひ、いひ、いひ・・・・)
「と言う訳で、大魔女モルティナは、町まで同行してくれたのですが・・・」
「どうも気に入った男が見つからないようで、本気で戦ってくれないのですよ」
「なんとまぁ~!」
話を聞いたメアリーも、魔女の事がよく分からないようで、どう接してよいのか悩んでしまいました。
「う~~~ん・・・・」
「とりあえず、私は一度戻って、これまでの事をリーダーに報告しますね!」
「とにかく、わたし達は町を守るために来たので、受け入れの準備を進めて下さい」
そう言って、メアリーは姿を消しました。
「カレン様、ただいま戻りました!」
作戦本部の天幕では、ちょうど会議が終わった後で、お茶を楽しんでいるところでした。
「やぁメアリー、ご苦労さん!」
「意外と早かったね?」
カレンはメアリーにもお茶を勧め、まずは一息入れるように促しました。
「で、どんな感じだった?」
「うわさの魔女って、我々にとって味方なのかい?」
「それとも、やっかいな存在なのかい?」
カレンは一番気になる事を、真っ先に尋ねました。
「う~~~ん・・・・」
「そうですね~、実は、よく分からないのですよ・・・」
「えっ?分からないの?」
鋭い観察眼を持つメアリーの返答に、カレンは少し驚いたようです。
「はい!」
「私もこの目で確かめようと、住んでいる屋敷に忍び込んだのですが・・・」
「目を合わせた瞬間に、姿を見破られてしまって・・・」
「それで杖を振って魔法を放ちそうになったので、慌てて逃げました」
「へぇ~~っ・・・」
「メアリーの隠密を見破るなんて!これは驚いたね~」
カレンは口では驚いたと言っていますが、なぜか口元はにやけていました。
(あっ!カレン様の、この表情!)
(きっとなにか、ヤバい事を考えている顔だわ~!)
「すいませんカレン様、お役に立てなくて・・・」
「いや、十分だよメアリー!」
「これで魔女に会う楽しみが増えたよ!」
「うふふふ・・・・」
(あっ、これはだめだわ!魔女と張り合う気満々じゃん!)
(あぁ、町をぶっ壊さなければいいけど・・・)
メアリーは、カレンから頼まれていた魔女の調査に失敗した事で、少し落ち込んでしまいました。
その頃モルティナは、屋敷のメイドに魔法のアイテムの入った小袋を渡していました。
「あのモルティナ様、この袋は何ですか?」
「あぁ、それは『ハエ取り草』のタネだよ」
「ハエ取り草?」
「あぁ、そうさ!」
「ハエを捕獲して喰っちまう草だよ」
「実はお昼ごろに、この部屋に一匹のハエが飛び込んで来てね」
「杖で叩き落そうとしたけど、逃げられてしまったのさ!」
「まぁ、お屋敷の中にハエが?!」
「あぁ、だけど安心しな!」
「その種には魔法をかけてあるから、窓辺の花壇に植えれば明日には咲いて、ハエの侵入を防いでくれるよ」
「はい、わかりました!」
「では、早速植えてきますね!」
「よろしく頼むよ、あたしゃハエが大嫌いなんだよ」
袋を持ったメイドさんは、パタパタと部屋から出て行きました。
「オイラがいたら、凍らせてやったのに!」
その場にいなかったジャックは、残念そうに言いましたが、モルティナは慌てて注意しました。
「いや、お前がやったら、この部屋全部を凍らせてしまうから、部屋の中では魔法を使うんじゃないよ!」
「ちぇっ、つまんねえな~」
そして次の日。
「よし!じゃあ、町に入るか!」
「さっさとここを片付けて、フレディアの所に行かなきゃな!」
カレンが立ち上がって号令を掛けようとしましたが、あまりにも簡単に言うので、初陣のアルノルトが心配してカレンに尋ねました。
「さっさと片付けるって・・・」
「相手は3000、こっちはたったの259名なのですよ、カレン様?」
「ん?問題ないだろう?」
「お前たちヴァリオン族が、100人もいるんだから!」
「一人が20匹倒せば、残りたった1000匹じゃん?」
(えっ!ひ、ひとりが20匹?)
カレンの言葉に驚いているアルノルトの後ろから、大声で叫ぶ者がいました。
「うお~~っ!その通りですぞ!!カレン様!!」
歓喜の雄叫びを上げたのは、ワシ族の重戦士団隊長のワルキエルでした。
空の覇者であるカレンから、自分たちの力を高く評価してもらえた事が、よほど嬉しかったのでしょう。
そしてもう一人・・・。
「お任せ下さい、カレン様!アルノルト様!」
「我らヴァリオン族の名に恥じない戦いを、お見せしましょうぞ!!」
タカ族の攻撃隊隊長アイギルスも、気合を入れて吠えています。
「よし!いい返事だ!!」
「この戦い、さっさと終わらせるぞ!!」
「「「「うお~~~~~~~っ!!!」」」」
カレンの号令で、259名の軍団が、町へ向かって進軍を始めました。




