第八十話 ベルナックの町へ出発(二)
フレディア達がベルナックの町へ到着した頃、ようやくイレーネがアルガの町へ戻って来ました。
町の人からその事を知らされたカーナとシラは、急いで広場へ向かいます。
「おかえり!」
「ずいぶんと遅かったけど、何かあったの?」
イレーネから降りてきたオリビアに、カーナが尋ねました。
「ごめん、ごめん!」
「ちょっとな、色々とあってん!」
「そっ!色々とね、おもしろい事があったのよ~」
オリビアの後から降りて来たスージーが、笑いながら答えました。
「えっ、おもしろい事?」
カーナが不思議そうな顔で聞き直している後ろから、カレンのいない事に気付いたシラが、スージーに尋ねました。
「あれっ!カレンさんは?」
「うん、それなんだけどね・・・」
「話すと、ちょっと長くなるのよね~」
「じゃぁ、ここで立ち話も何だから、カミラさんの家へ行こうか?」
シラの提案に飛びついたのは、カミラさんが大好きなオリビアです。
「さんせ~い!」
「うち、お腹がすいたから、久しぶりにカミラさんのおいしい料理が食べたいわ~」
「イレーネちゃん、ここまでありがとうな!」
「イレーネちゃん、帰ってカレンさんによろしくね!」
「ギャ~~~ス!」
オリビアとスージーからお礼を言われたイレーネは、一声吠えるとカレンの元へ帰って行きました。
「カミラさん、ただいま~!」
「あらっ!その声は?!」
オリビアの声を聞いたカミラさんは、いそいそと厨房から出てきました。
そしてオリビアと、その横にいるスージーの姿を見るなり、急に挙動が怪しくなりました。
「まぁ、オリビア様!」
「あらっ?あららら?!」
「まぁ、まぁ、まぁ!!」
カミラさんはオリビアの元へ駆け寄ると、小声でスージーの事を尋ねました。
「ちょっと、ちょっと、オリビア様!」
「ご一緒の美しい女性はどなたですか?」
「あっ、カミラさんは初めて会うんやったっけ?」
「紹介するわ!彼女は魔法使いのスージー!」
「土の女神の加護を持つ、Aランクの冒険者やで!」
オリビアに紹介されたスージーは、丁寧にお辞儀をすると、笑顔で挨拶をしました。
「カミラさん、はじめまして!」
「フレディアに呼ばれて来ました、スージーです」
「お世話になりますね!」
スージーの笑顔を見たカミラさんは、ますますテンションが爆上りです。
「まぁ、まぁ、まぁ~!」
「フレディア様のお友達って、本当にきれいな女性ばかりなのね!」
「もうロックったら!こんな大事な時にここにいないなんて!」
ブン!ブン!ブン!
カミラさんは、ぎゅっと握った拳をぶんぶんと振り下ろし、すごく残念そうにしています。
その様子を見たオリビアは、グッと歯を食いしばり、身体をプルプルと振るわせながら、必死に笑うのを堪えていました。
(ムグググ・・・)
(カ、カミラさんって、ほんまに最高やわ!)
小刻みに震えながら、完全に変顔になっているオリビアを見たカーナは、なにかヤバいものでも見るような目つきで、ドン引きしています。
その後オリビアとスージーは、カミラさんの作ってくれた食事を食べながら、カレンがヴァリオン族を統べる『空の覇者』になった経緯を、カーナとシラに話してくれました。
「すごいね、カレン!」
「それで、いまカレンはどうしているの?」
話を聞いたカーナは、オリビアにカレンの現状を尋ねました。
「うん、それでな!」
「革命軍とイレーネファイターズは、グリーンホロウの町へ向かう事になったんやけど、その時カレンさんがな・・・」
「イレーネファイターズのリーダーが、二人ともいないのはさすがにマズいかなって・・・」
「勝手にチームを抜けたのがハンクにバレたら、きっと怒られるって言っていたし・・・」
「何より、新参のヴァリオン族を束ねる者がいないと、統制が取れないから困るってライズに頼まれ、結局カレンさんは残る事になってん」
「あっ!そうでした!」
「あたしとカレンがチームのリーダーだったの、すっかり忘れてた!」
急に思い出したカーナが、今頃になって慌てています。
「そうよ!カーナとカレンさんが同時にいなくなって、アリスとマウロがすごく困っていたんだから!」
スージーがカーナに、その時の二人の様子を語ってくれました。
「ごめん・・・」
しょんぼりとするカーナに代わって、シラが話の続きを尋ねました。
「じゃぁ、カレンさんは今、グリーンホロウの町にいるのかしら?」
「そうやな!グリーンホロウの町まで後2日という所で、うちとスージーはイレーネに運んでもらったから・・・」
「いまは11月15日やから、2日前の11月13日にはグリーンホロウの町へ到着していると思うで!」
「カレンさんは問題が解決したら、こっちへ来るって言っていたけど・・・」
「そんな簡単には行かないと思うわ」
スージーが話を付け加えました。
「そっかぁ~」
「じゃぁ、もうしばらく様子を見てから出発しようか・・・」
「そんなにのんびりしていて、間にあうん?」
カーナの提案に、オリビアが尋ねました。
「うん、フレディアから銀のラッパを預かっているから、フロイドが来てくれるよ」
「そっか!それやったら4日ほどで行けるな!」
「うん、だから余裕をもって11月24日に出発しようと思うの」
「「了解!」」
という事で、出発の日までカレンの到着を待つことになりました。
そして、そのカレンはと言うと・・・。
話は少し戻り、ヴァリオン族を仲間に加えたイレーネファイターズと革命軍は、10月下旬には翼渡峠を越えて、グリーンホロウの町へ進軍しました。
革命軍は、リーダーのライズと参謀のセルジオスがまとめる精鋭150名。
イレーネファイターズは、リーダーのカレンが率いる常識外れの強さを持つ9名。
そしてヴァリオン族ですが、ザハール王の息子アルノルトがリーダーとなり、副将にタカ族の攻撃隊隊長アイギルスと、ワシ族の重戦士団隊長のワルキエルがまとめる、100名が新たに加わりました。
中でもタカ族のアイギルスは、スージーに暴言を浴びせてコテンパンにやられた男ですが、この度の汚名を返上したいと、自らザハール王に志願して参加しています。
総勢259名の軍団は、11月13日にグリーンホロウの町が一望できる場所へ到着し、町の様子をうかがっていました。
空からはタカ族のアイギルスと、その部下3名が偵察し、そして町の中へはメアリーが、ステルスモードで潜入しています。
「ただいま偵察に向かっていたアイギルスが戻りました」
作戦本部として設けられた天幕に、ヴァリオン族のリーダーのアルノルトが、アイギルスとワルキエルを従えて報告にやって来ました。
天幕の中では、イレーネファイターズのマウロとアリス、そして革命軍のライズとセルジオスが、地図を広げて熱心に作戦を練っているところでした。
その横では、まぶたを閉じたカレンが、机に頬杖をついてウトウトと居眠りをしています。
「やぁ、ご苦労さん!早速話を聞かせてくれないか?!」
ガタッ!
ライズの声で目が覚めたカレンは、慌てて口元のよだれを手の甲でぬぐい取ると、椅子に座り直しました。
「はい!偵察の話では、町の中はとくに荒らされてはおらず、森に棲むノームやドリアードといった妖精たちが、敵からの攻撃に備えているようです」
「一方の魔物側は、オークやワーウルフ、一つ目のサイクロプス、ケルベロスといった魔物が、町の北側に陣取っています」
「その数は3000を超える大軍勢です」
「ふぅ~ん・・・」
「町を挟んでオレたちの反対側に、3000を超える魔物がいるのか・・・」
「それだけの敵を相手に、よく町は持ちこたえているよね?」
アルノルトの報告に、カレンが感心して呟きました。
「少数ですが、やはり妖精たちの力が強力なのでしょうね」
「それを束ねている魔女も、かなりやっかいな相手のようですよ」
「恐ろしく強力な魔法を使う魔女だそうで、機嫌を損ねると大変な事になるらしいですよ」
カレンの疑問に、ライズが助けを求めて来た町人の情報を元に、答えました。
「そうだよね・・・」
「ザキュエルといい、とにかく魔法を使う奴はやっかいなんだよ!」
「あんまり、そういう奴とは戦いたくないよね!?」
「・・・って言うか、魔法を使えない者からしたら、魔法って理不尽だよな!」
カレンは腕を組みながら一人で納得していますが、周りの人たちはジト目でカレンを見ています。
(((いや、いや、なにを他人事みたいに言ってんの?!)))
(((あんたも、すごい魔法を使っているよね?!)))
周りにいた者たちは、全員カレンの理不尽さにあきれています。
ちなみに、この場にいる者は、カレン以外に魔法を使える者は一人もいません。
「とにかく、町に侵入しているメアリーの報告を待つとするか!」
「彼女なら、魔女の事をしっかり調べてくれるはずさ!」
「そうですね、まだ魔女が敵なのか味方なのかさえも分かりませんから」
カレンの意見に賛同したライズの一声で、作戦会議は一旦終える事になりました。




