第七十六話 ノワール・デュエル ウイングウッド・ラリー
ノワール・デュエルの第二戦は、俊敏性と飛行能力を競うウイングウッド・ラリーです。
これはトゲだらけの有刺樹木の樹海を抜けて、どちらが早く目的地にあるフラグを奪うのかを競う競技です
選手たちは、会場から南に2キロ離れた『いばらの森』の入り口に集まっていました。
ここから三名の戦士たちは、自分でコースを切り開き、7キロ先の石塔に立てられたフラグを奪わなくてはなりません。
ここでのルールは、樹木よりも高く飛ぶと違反となり、その場で失格となります。
1着で到着した者には2ポイント、2着で到着した者には1ポイントが与えられます。
現在のポイントですが・・・。
カレンが2ポイント。
ダハリウス王が1ポイント。
ザハール王は0ポイント。
このようになっており、ダハリウス王とザハール王は、この勝負でカレンに1着を取られてしまうと、その時点でカレンの優勝が決定してしまうため、絶対に負ける事は出来ません。
ですが、この勝負でカレンを負かせば、最後の試合は空中戦となるので、圧倒的にヴァリオン族が有利となります。
そのため二人の王は、ひとかたならぬ決意を胸に、勝負に挑みます。
ダハリウス王はここで1位を取れば、優勝の可能性が最も高くなります。
「ここでわしが1番に到着すれば、カレン殿を抜いてトップに立つことが出来る!」
「この勝負、ザハール王には絶対に負けるわけにはいかぬわ!」
ダハリウス王は鼻息荒く、周りの者に豪語しています。
まだポイントの無いザハール王は、この勝負で1番にならなければ、ダハリウス王に負ける事になるので必死です。
「たとえこの身が裂かれようとも、タカ族の名誉にかけて、この勝負は絶対に1番にならなければならぬ!」
ザハール王は一族の者達に、決死の覚悟を熱く語っています。
「うっわ~!なんか、みんな必死になっているなぁ~」
二人の王様の様子を見たカレンは、まるで他人事のように言っています。
「そら、この試合でカレンさんに負けたら、もう終わりやからなぁ~」
「必死にもなるで~」
呑気なカレンを横目で見ながら、オリビアは王様たちを見て頷いています。
「あっ!でもこれでカレンさんが1番になったら、この競技も終りですよね?」
「最後の空中戦はやらなくてもいいじゃないですか!」
「カレンさん、頑張って優勝してよ!」
スージーがお気楽に、カレンに1番になるようにはっぱをかけています。
「あんた、簡単にいうけどね、この森を見てみ?」
オリビアがスージーに、森の様子をよく見るように言いました。
目の前には鋭いトゲを生やした樹木が行く手を拒み、少し触れただけでも身体を切り裂いてしまいます。
そしてトゲの蔓に絡め捕られたら、たちどころに身動きが取れなくなってしまうでしょう。
さらに最悪なのは、人が通った事が無いために道がなく、地面には苔の生えた大きな岩や、朽ちて倒れた大木が、至る所に横たわっている事です。
空を飛べないカレンにとって、これはまさに最悪の状況だといえるでしょう。
「あれま!これはひどいですね!」
「カレンさん、もう棄権して帰りましょうよ!」
「次の競技で頑張ればいいじゃないですか!」
「スージー、極端すぎだよ!」
「とはいえ、オレもこの勝負は、はなから捨てていたんだけどね~」
「だけど翼を持っていないからって、軽く見られるのも癪だしね!」
「まぁ、せっかくここまで来たことだし、やるだけやってみるわ!」
「そやな!けど、あんまり無理せんようにな!」
「うちらは空から応援してるわ!」
そう言うとオリビアは、スージーを抱えて空に飛び立ちました。
ピ~~~~ッ!
「定刻となりましたので、これよりウイングウッド・ラリーを行います!」
「各選手は位置についてくださ~い!」
「「「「ウオ~~~~~ッ!!!」」」」
上空から天を突くような歓声が上がりました。
見ると数えきれないほどのヴァリオン族の観客が、空を覆いつくしています。
地上戦では敗北したヴァリオン族ですが、残りの種目は有翼人にとって断然に有利・・・と言うか、有翼人のために作られた競技ですので、ここからがノワール・デュエルの見せどころだと、観客たちは期待に胸を躍らせているのです。
ジャ~~~ン!!!
ドラの音と共に、一斉にスタートを切りました。
ザハール王とダハリウス王は、ほぼ同時にスタートしました。
そして見事な飛行技術で、いばらの樹木の間をすり抜けて行きます。
その二人の後を、カレンは地面に転がる岩や倒木をかわしながら、追いかけて行きます。
わずかにリードしているザハール王は、後ろから来る二人を見て、さらにスピードを上げました。
「ここから先はますます樹木が密集してくる、今のうちに出来るだけ離さなければ!」
速度でわずかに劣るダハリウス王は、グングンと引き離していくザハール王を見て、少し焦ったようで、距離を縮めるために有刺樹木の枝の少ない、地上スレスレを狙って高度を下げた時、後ろから大きな声が聞こえました。
「おっさん!オレの前にいると、斬撃で怪我するよ!」
「なに~~~っ!」
驚いて後ろを振り向くと、二本の剣を構えて走るカレンが、すぐ後ろに付いていました。
慌てて高度を上げたダハリウス王の身体を、鋭い斬撃がかすめて、前方の樹木の枝をバッサリと斬り落としました。
「うわっ!なんちゅう事を!?」
カレンは二本の剣にインドラの雷撃をまとわせ、それを鋭い刃として飛ばす『ライトニング・クレストカット』という技を使い、邪魔な有刺樹木の枝を斬り飛ばして進んでいたのでした。
「おっさん!早くどいてよ!オレの前にいたらケガをするって!」
「うわわわ・・・」
「痛っ!」
「いててて・・・!!」
斬撃で切り飛ばされたトゲの付いた枝が、次々とダハリウス王に降りかかり、ついに失速したダハリウス王は、カレンに抜かれてしまいました。
「「「「うわ~~~~っ!!」」」」
「「「「なに~~~っ!!?」」」」
上空からこの様子を見ていた観客たちは、非常事態に大騒ぎです。
「有刺樹木の枝が斬り落とされてゆくぞ!!」
「あれは魔法なのか?!」
「あの剣士は魔法も使えるのか?!」
空から試合を見ている観客が、大声で騒いでいるのを知ったザハール王は、ダハリウス王がカレンに抜かれた事に気付きました。
「嘘だろ?!」
「あの女剣士、まさか魔法で空を飛べるか?!」
「とにかく、こうしてはおられない!」
「何がなんでもこの試合で1位にならなくては!!」
スタート地点から5キロの時点で、ザハール王は猛ダッシュを掛けました。
身体中にトゲによる傷を負いながらも、ゴールを目指して必死に飛んで行きます。
先頭を行くのはザハール王。
その400メートル後から、カレンとダハリウス王が追いかけます。
カレンとダハリウス王の差は、わずか200メートルほどの接戦です。
「何という事じゃ!ワシ族が人族の背中を見ながら飛ぶなどと!」
カレンの放つ斬撃で飛び散ったトゲの枝を避けながら飛ぶので、なかなか追い越す事が出来ずにいました。
そんなダハリウス王に、ようやくチャンスが訪れます。
前方にカレンの行く手を阻む、小高い断崖絶壁が出現したのです。
「やったぞ!さすがにこの崖を走って登る事はできまい!」
そう確信したダハリウス王は、ここで一気に勝負に出ました。
トゲの枝をもろともせず、全力でカレンを追い抜きにかかったのです。
「うえっ!マジかよ?!」
小高い断崖絶壁を見たカレンは、さすがに走り抜けるのは不可能と思ったのですが、急な傾斜のせいで、樹木が頂上付近にだけ生えている事に気付き、ある作戦を思いつきました。
「よし!これならいけるぞ!」
カレンは走る速度を落とさず、そのまま崖に向かって突っ走って行きました。
「なに?そのままでは崖に激突するぞ?!」
ダハリウス王が失速しないカレンを見て、驚きの声を上げました。
「せやっ!」
カレンは崖の手前で思いっきりジャンプをすると、手に持ったムチを崖の頂上付近に生えている木に向けて放ちました。
ヒュ~~ン!
パシッ!
カレンのムチは自在に長さを変える事が出来ます。
うまく木に絡める事が出来ると、今度はムチの長さを短くしながら、一気に崖を駆け登りました。
しかし、わずかな時間のロスで、順位はダハリウス王と入れ替わってしまいます。
その差わずか30メートル。
「うお~~~っ!メチャクチャすぎるぞ~!!」
ここで引き離せると思ったダハリウス王は、猛獣のように吠えながら、必死に飛んでいます。
前方にはザハール王がすでに石塔にたどり着き、フラグを手に取って高く掲げているのが見えました。
「うお~~~っ!!」
ダハリウス王は、吠えながら速度を落とさずに石塔へ突っ込んで行きます。
「あっ!おっさん!無茶はするな!」
「オレはもう追わないから!!」
カレンは慌ててダハリウス王に声を掛けましたが、必死のダハリウス王の耳には入りません。
ドッカ~~~ン!!!
「う~~~~ん・・・」
石塔に激突したダハリウス王は、フラグを握り締めてその場で気絶してしまいました。
そしてそのそばで心配そうに見ているザハール王もまた、全身血だらけで今にも倒れそうになっていました。
(いや、あんたもかよ・・・)
「勝負あり!」
「一位ザハール王!」
「二位ダハリウス王!」
「「「「うわ~~~~っ!!!」」」」
「「「「やったぞ~!!!」」」」
「「「「バンザーイ!!」」」」
上空からは、惜しみない拍手と声援が送られました。




