第七十伍話 ノワール・デュエル 地上戦(二)
ダハリウス王とザハール王の激しい死闘が1時間も続いたので、ここで1時間の休憩が設けられました。
「ところで后よ、先ほどの合図はいったい何だったのじゃ?」
席に座って一息ついたダハリウス王は、気になってお后様に尋ねました。
「あぁ、あれですか?」
「実はあなたがザハール王と戦っていた時、昨日の御三方が、どちらが勝つか賭けをなさっていたのですよ」
「な、なんじゃと~!」
「わしらが必死に戦っておった時に、賭けをしていたじゃと!?」
「な、なんという不謹慎な!!」
ザハール王は顔を真っ赤にして激高しましたが、それでも賭けの内容が気になったようで、すぐに冷静さを取り戻し、お后様に尋ねました。
「で、賭けの内容はどうだったのじゃ?」
「はい、御三方ともあなたの勝利に賭けましたので、賭けは成立いたしませんでしたわ!」
「な、なんと!」
「そ、そうか、そうか!」
「后のあの合図は、そういう意味であったか!」
「むふふ・・・」
「困るなぁ、神聖な競技で賭けをするなどと・・・」
「むふふ・・・」
口ではそう言っていますが、ダハリウス王は頬を赤らめ、どうやらご満悦のようです。
「ですが、あなた・・・」
「わたくしが聞き出した情報では、あのカレン様は、とんでもなくお強いようですよ?」
「むっ、そうじゃろうな!」
「さすがは、大天使の守護者の称号を持つだけのことはあるな!」
「ですが、一つだけ苦手があると聞きました!」
「なんと、それは誠か?」
「それは何じゃ?」
「どこかに攻撃されると弱い箇所があるとか、攻撃する時に何か癖があるとか・・・」
「いえ、虫が嫌いなそうです」
「はぁ、むし?」
「えぇ、ですから、わたくし考えましたの!」
「どこかに虫を忍ばせておいて、それを見せて怯んだところを一気に・・・」
(な、なんと卑怯な手を・・・)
(賭けが不謹慎などと、言ってはおれぬな・・・)
「と、考えたのですが・・・」
「ですが、嫌いな虫を見て大魔法を発動したそうなので、その手は無理と悟りましたわ!」
「な、なんと!カレン殿は魔法も使えるのか?!」
「ええ、あのスージー様もビビるほどの大魔法だそうですわ!」
「そ、そうか・・・それは、すごいのぉ!」
(いや、わしをビビらせてどうするのじゃ・・・)
「ですからあなた!」
「結果はともあれ、正々堂々と戦ってくださいね!」
「は、はぁ・・・」
(いや、もとよりそのつもりで戦っておるがな・・・)
(というか、変な期待を持たさんでくれ!心が折れるではないか!)
ジャ~~~ン!!!
「定刻となりましたので、これより地上戦を再開いたします!」
「次の対戦は、カレン様対ダハリウス王です」
「「「「ウオ~~~~~ッ!!!」」」」
「「「ダハリウス王がんばれ~~~!!」」」
会場からはダハリウス王を応援する声が、怒涛の如く沸き上がっています。
「うむ、ヴァリオン族の誇りにかけて、何としても勝つ!」
ダハリウス王は槍の穂先をカレンに向け、腰を落として構えました。
対するカレンは正眼の構えで、剣先を細かく上下に揺らしています。
ジャ~~~ン!!!
開始のドラと共に、ダハリウス王はカレンを間合いに入れないように、激しく槍で突いて来ました。
それをカレンは、見事な剣さばきでかわします。
「うお~~~っ!!」
シュッ!シュッ!シュッ!・・・・
キン!キン!キン!キン!・・・・
ダハリウス王が激しい攻撃を繰り出して、おおよそ10分ほど経ちました。
その間ダハリウス王は一方的に攻め続け、カレンは防戦一方でしたので、観客はダハリウス王の果敢に攻める姿に興奮して、会場は大いに湧き立っています。
(さすがに、すごいパワーだね!)
(でも、そろそろ頃合いかな?)
(これでダハリウス王の面目も立ったよね?)
カレンは心の中でそう呟くと、ダハリウス王の攻撃を、左に円を描くようにかわし始めました。それにより、槍の攻撃のタイミングに、わずかなズレが生じるようになりました。
そしてカレンはその一瞬の隙を逃さず、一気に間合いを詰めると、鋭い一閃を放ちます。
ザシュッ!!!
「勝負あり!勝者カレン様!」
「「「「ええ~~~っ!」」」」
観客席からは、落胆の声が響きます。
見るとダハリウス王の身代わり人形は、胴体が真っ二つに切り離されていました。
「うわっ!人形と分かっていても、嫌なものじゃのう・・・」
ダハリウス王は自分のお腹をさすりながら、ガックリと肩を落としました。
「なぁ進行係さん、オレはこのまま次の試合を受けてもいいんだけどなぁ~」
カレンは進行係に、続けて戦う事を提案しました。
「よろしいのですか?」
「少し休まれた方が・・・」
「いや、身体がほぐれて、かえって調子がいいよ!」
「そ、そうですか?では、そのようにいたしますね」
ピ~~~~ッ!
「それでは次の試合を行います!」
「対戦はタカ族の王ザハール様対カレン様!」
「「「「ウオ~~~~~ッ!!!」」」」
「「「ザハール王がんばれ~~~!!」」」
先ほどのダハリウス王と違い、今度は速さの勝負になると予想した観客は、ザハール王に大きな期待を込めて、声援を送ります。
ザハール王は二本の剣をクロスさせ、状態を屈めて構えています。
それに対してカレンは、先ほどと同じ正眼に構えました。
(おそらく、間合いの短いザハール王は、一気に懐へ飛び込んでくるだろうな・・・)
(まずは、片手で握った一本の剣では防げない事を教えてあげるか・・・)
そう考えたカレンは、先ほどの正眼の構えから、上段へと構え直しました。
ジャ~~~ン!!!
開始のドラとともに、ザハール王は一気に仕掛けて来ました。
そして後もう一歩で間合いに入るという所で、上段に構えたカレンの剣が、一気に振り下ろされます。
ガキ~~~~ン!!
右手の剣でカレンの剣を受け止めたザハール王は、そのあまりにも重い一撃に、慌てて左手に握ったもう一本の剣も防御に使いました。
カレンの一撃を、ザハール王は二本の剣でクロスした形で受け、そしてすぐさま間合いから飛びのきました。
(危なかった!両方の剣で防がなければ、そのまま真っ二つにされているところだった!)
(まさか女性の剣士が、ここまで重い一撃を放つとは・・・)
両手剣のメリットは、片方の剣を防御に使うと同時に、もう片方の剣で相手を攻撃できる事です。しかしこれを可能にするには、片手で剣を受け止めるだけの力が必要となります。
ザハール王はダハリウス王のように体格は大きくありませんが、物心ついた時からこの戦い方を徹底的に訓練して来たので、自信があったようです。
(それでは、早さで勝負に出るしかないな!)
迂闊に間合いに飛び込めなくなったザハール王は、二本の剣を活かした素早い攻撃に切り替えました。
スピードを最も得意とするタカ族の王が、さらに二本の剣で攻撃するのですから、その攻撃速度は半端ではありません。
しかし、カレンはその攻撃を見事に一本の剣で防いでいます。
(なぜだ!これだけの攻撃を、どうやって的確に防ぐ事が出来るのだ?!)
(この剣士は、相手の攻撃を予知する事が出来るのか?)
(そういうスキルを持っているのだとしたら・・・)
ザハール王は繰り出す素早い攻撃を、すべて的確に防がれてしまうため、焦っていました。
そして攻撃を続けているうちに、ある事に気付きました。
(いや!予知ではない!!)
(これは、わざと攻撃する場所へ、私が誘い込まれているのだ!)
戦いに長けた者は、厳しい訓練で常に相手の隙を狙う攻撃を習得します。
ザハール王ほどの強者になると、頭で考えずとも、身体が勝手に相手の隙を狙って攻撃するようになってしまっているのです。
そしてカレンが漆黒の騎士ザイラとの訓練で学んだ技の一つは、隙を作ってわざと攻撃を誘い込むというものでした。
(いかん!彼女はわざと作った隙に、私を・・・)
「あらっ?もう気づいちゃった?」
カレンはそう言うと、自分の有利な態勢になる様に罠を仕掛け、そして一撃で勝負を決めました。
ズバッ!!
「勝負あり!勝者カレン様!」
「「「「ええ~~~っ!」」」」
またしても会場に落胆の声が響き渡りました。
「父上、残念でしたね・・・」
試合に負けたザハール王に息子のアルノトが駆け寄り、労いの声をかけました。
「いや、あの若さで剣を極めるとは、本当に残念だ!」
「はぁ、残念とは?」
「あの剣士に翼があれば、何としてでも、お前の妃になってもらうのだが・・・」
「えっ?!」
「実に残念だ!!」
そう言うと、ザハール王はガックリと肩を落としました。




