第七十三話 ノワール・デュエル 予選(三)
両者が舞台の上で対峙すると、再び観客席から熱い歓声が沸き上がりました。
ワルキエルの勝利を確信しているワシ族と、カレンの敗北を願うヴァリオン族のエールが、一斉に沸き上がります。
ワシ族の誇る重戦士のワルキエルは、その巨体に重厚な鉄の胸当てと、両肩にはそれぞれ一本の角が生えた鉄のショルダーパットを付け、頭には二本の鋭い角を生やした鉄の兜をかぶるという、まさに鉄壁の守りで戦いに挑みます。
ジャ~~~ン!!!
「うお~~~っ!!」
「剣もろとも、貴様の身体をへし折ってくれるわ!」
開始のドラの音と共に突進したワルキエルは、猛獣のように吠えながらカレンに向けてハルバートを振り下ろします。
ブォン!ブォン!ブォン!
シャリ、シャリ、シャリーン!
ヒュン!
カレンはそれを軽やかに受け流しながら、蝶のように舞います。
そして目にも止まらぬ速さで繰り出した一撃は、ワルキエルの左肩のショルダーパットの角を斬り落としました。
「ふふっ!」
「な、なに~!!」
斬り落とされたショルダーパットを見て、ワルキエルは怒りでますます顔を赤くして、荒い鼻息をつきながら、カレンに突進します。
「おのれ~!」
ワルキエルは、ハルバートを激しく振り回して果敢に攻めますが、カレンは軽快なステップを踏みながら、まるで踊る様にすべての攻撃を受け流します。
そして次の一撃で、今度は右のショルダーパットの角を斬り落としました。
(うふふ・・・。これで首はがら空きね!)
「ぐぬぬっ・・・」
「お、おのれ、ちょこまかと動きおって!」
ワルキエルは、ハァ、ハァと肩で息をしながら、カレンに文句を言っていますが、彼女は涼しい顔をして笑っています。
「うふふ・・・」
「だいじょうぶ?息が荒いよ?」
「だ、だまれ!」
「よいか、そ、そこでジッとしておれ!」
「このハルバートで叩きつぶしてくれるわ!」
そう言うと、ワルキエルはとうとう盾を投げ捨てて、両手でハルバートを握り締めると、渾身の力を込めて襲い掛かって来ました。
カレンはその強烈な一撃を、今度は受け流さずに正面から受け止めます。
ガキ~~~ン!!
そして力で押し返すと、態勢がぐらついたワルキエルの首筋に、強烈な後ろまわし蹴りを叩き込みました。
「セヤッ!」
ドカ~~ッ!!
「ぐわ~~っ!」
後ろに吹っ飛んだワルキエルは、そのまま尻もちをついて倒れ込みました。
「「「「ええ~~~っ!?」」」」
巨漢で力自慢のワルキエルが、スマートな女性のカレンに力負けしたのです。
試合を見ていた観客は、全員が驚きの声をあげました。
「ば、ばかな!?」
「このオレ様が吹っ飛ばされただと?」
ワルキエルは慌てて自分の身代わりの人形を見ました。
すると首の辺りに亀裂が入っていますが、試合は続行されるようです。
「さて、もう飽きて来たし・・・」
「そろそろ首を斬り落としちゃおうかな?」
カレンは人差し指を頬に当て、わざとかわいい素振りでワルキエルを挑発します。
「ぐぬぬ・・・・」
(くっ!こうなったら、捨て身の戦法で倒すしかないな!)
ゆっくりと起き上がったワルキエルは、息を整えると猛烈な勢いで突進して来ました。
そして、持っていたハルバートをカレンめがけて投げつけると、それを避けた瞬間にカレンの身体を羽交い絞めにし、怪力で背骨を折る捨て身の戦法・・・だったのですが、目の前のカレンの姿が消えたと思った瞬間に首をはねられ、勝負はあっけなく終わってしまいました。
「勝負あり!カレン選手の勝ち!」
「「「「シ~~~~~ン・・・・」」」」
アイギルスの時とは打って変わって、会場内は静まり返っています。
あまりの力の差を見せつけられた観客は、どう反応すればよいのか分からなくなってしまったようです。
「それでは、これにてノワール・デュエルの予選を終了します」
「明日は、本日優勝したカレン様と、ザハール様、ダハリウス様の三名で、本選を行います」
ジャ~~~ン!!!
試合終了のドラが鳴ると、観客たちはゾロゾロと退出を始めましたが、誰もが思っていた結果と違ったようで、口数も少なく、重い足取りで帰って行きました。
「き、后よ!どうして皆さん方が、ここにおるのじゃ?!」
「し、しかも、あの女剣士殿まで・・・」
ワシ族の要塞の来賓室で、オリビア、スージー、それにカレンがお茶とお菓子をいただきながら、ゆったりとくつろいでいます。
それを見たダハリウス王は、慌ててお后様に尋ねました。
「だって、あなた・・・」
「大天使様とは懇意にしておかないと、ご機嫌を損ねたら大変な事になりますわよ?」
「いや、それは、そうなのじゃが・・・」
「我が重戦士団のワルキエルをコテンパンにしたあの者まで・・・」
「しかも明日は、わしはあの女剣士と戦うのだぞ?」
「この事がタカ族に知れたら、いらぬ誤解を招くのではないか?」
「大丈夫ですよ!大天使様たちをお招きする事は、ザハール王もご存じですわ」
「えっ、そうなのか?」
「ええ、よろしくお願いしますと、おっしゃっていましたわ!」
「まぁ、今日の競技でアイギルスが失態をさらしたからのぉ・・・」
「では后よ、あの女剣士は一体何者なのか、少し探ってみてはくれぬか?」
「わしも明日の戦いでは、ぶざまな姿はみせられぬからのぉ~」
「分かったわ!同じ女性として、わたくしも気になっておりましたから!」
そう言うとお后様は、たくさんのお菓子やワインをメイドに用意させると、ちゃっかりと女子会に参加しました。
そしてワインを勧められたカレンが、赤い顔をして、気持ちよさそうにソファーで居眠りを始めると、お后様は今日の競技に話題を向けました。
「わたくし、今日の競技を見て、カレン様のファンになりましたわ!」
「あの方は女性なのに、どうしてあんなにお強いのかしら?」
尋ねられたスージーは、あごに手を当てて考えました。
「う~ん、カレンさんはロファ王国最強のギルドマスターだからね~」
「ムチを使ってSランクの冒険者まで昇りつめたのに、今度は剣の技術まで極めてしまったから・・・」
「もう、手のつけようが無いほど強いのよ!」
うまく説明できないので、答えにはなっていませんが、とにかく最強だと言う事をアピールしました。
「まぁ!スージー様の魔法もとてもお強いのに、それでもカレン様が最強なのですか?」
「それでしたら、もう怖いものなどありませんわね!」
「いや、怖いものとなったら、話は別やで~」
「あらオリビア様、あんなにお強いカレン様でも、怖いものがあるのですか?」
(あなた!うまくいったわよ!彼女の弱点を聞き出せるわよ!)
離れて座っているダハリウス王に向けて、お后様は親指を立てて合図を送りました。
(そ、そうか!何だか知らんが、上手くいったのだな?!)
ダハリウス王はお后様に向けて、両手を頭の上に掲げて、大きな丸を作りました。
「カレンさんは、とにかく虫が苦手やねん!」
「まぁ!虫って、あのどこにでもいる虫の事なのですか?」
「そう!そう!何でもギルドの執務室にゴキブリが出た時、恐怖のあまりインドラの雷撃をぶっ放して、執務室を全壊させたって聞いたわよ!」
スージーが愉快そうに、笑いながら答えました。
「えっ?インドラの雷撃って?」
「あぁ、カレンさんの使う雷の魔法だよ」
「まぁ、カレン様は魔法も使えるのですか?」
「すごい魔法だよ!」
「しかも嫌いな虫がきっかけで、プラズマバーストっていう超強力な魔法も編み出したんだから!」
「まぁ!そ、それは、すごいですわね~」
「あは、あは、は、は・・・」
お后様は、笑いながらダハリウス王に向け、胸の前で大きなバツを作りました。
(な、なんじゃと~!)
その合図を見たダハリウス王は、ガッカリとうなだれてしまいました。




