第七十二話 ノワール・デュエル 予選(二)
選手席でこの戦いを見ていたワシ族のワルキエルも、実はアイギルスの奇襲攻撃には驚いています。
(初戦で奴と当たっていたら、あの攻撃を避けるのは至難の業よな・・・)
(それにしてもあの女剣士、あの攻撃が見えていたのか?)
(いや、剣も抜いておらぬと言う事は、そんな余裕がなかったという事か・・・)
(つまり、たまたま避ける事が出来たという事だな!)
ワルキエルも、やはりカレンの実力を見下しているようで、カレンの事よりアイギルスとの戦いの事で頭が一杯のようです。
そのアイギルスは、自慢の奇襲攻撃をかわされたうえ、カレンの余裕の笑顔を見てブチ切れていました。
「チッ!」
「貴様!剣も抜かずに、何をしておるのだ!」
「怖くて戦えないのなら、さっさと降参するがよい!」
そう吠えると、次の攻撃の準備に入りました。
(クソが!わざと余裕のある顔をしやがって!)
(次は決める!剣を抜く間もなく仕留めてやるぜ!)
空中にとどまり、両翼に力をためているアイギルスを見たカレンは、ゆっくりと右ひざを立てた状態で重心を少し落としながら、静かに剣の柄に右手を添えました。
(雑魚に用はない!さっさと終わらせよう・・・)
カレンの眼光が鋭く光りました。
「行くぜ小娘!これで終わりだ!」
大声で吠えると、アイギルスは翼にためたエネルギーを爆発させ!弾丸のような速度でカレンに突撃しました。
カレンとアイギルスが交差した瞬間、カレンは気合と共に剣を抜きました。
「ハッ!」
ズバッ!!
「なに?!」
アイギルスの槍が空を突き、そして自分の身体に小さな衝撃を感じたので、驚いてカレンから離れました。
だがその瞬間、審判の声が高々と会場に響きます。
「勝負あり!カレン選手の勝ち!」
「「「「うぉ~~~~~~っ!!!」」」」
怒号とも悲鳴ともつかない声が、会場に響き渡りました。
「なんだと?!そんな、バカな!!」
「このオレが負けただと?!!」
慌てて人形を見ると、アイギルスの身代わりの人形が、真っ二つに斬られて倒れていました。
「なにっ!」
普通の状態なら、それを見て負けを認めざるを得ないのですが、いまは戦闘状態で神経が高ぶっており、しかも本人の身体には傷一つ付いていない事が、かえってアイギルスの理性を失わせてしまいました。
「ふざけるな!」
アイギルスの怒りが、人形を作ったスージーに向けられました。
その結果が、悲惨なものになるとは知らずに・・・。
「おい、人形を作った人間の女!」
「貴様もその女剣士とグルなのだろう!?」
「仲間を勝たせるために、わざと壊れるように仕組んだな!」
アイギルスは、地上から5メートルの位置にとどまりながら、人形を作ったスージーに向かって罵声を浴びせました。
闘技場の観客もアイギルスの言葉に乗せられて、激しいブーイングが起こります。
「「「「うお~~~!そうだ!そうだ!」」」」
「「「「卑怯者~~!!!」」」」
だがその瞬間、アイギルスの真下から轟音と共に、ものすごいスピードで土がせり上がり、一瞬でアイギルスの身体を包み込むと、土は岩へと変化しました。
ズド―――ン!!
「ぐわっ!」
舞台の上に、アイギルスの顔だけ出た岩の塔が完成しました。
騒いでいた周りの人々も、あまりの出来事に言葉を失っています。
スージーはゆっくりと立ち上がり、その岩の塔の前まで進むと、オリビアに声をかけました。
「オリビア様、コイツを始末してもよろしいですよね!?」
「神聖な競技を汚したのですから!」
赤い髪に澄んだ緑色の瞳を持つ美しい女性のスージーは、実はチームの中では一番キレやすい性格なのでした。
オリビアの許可を待ちながらも、岩はギシギシとアイギルスの身体を締め付けて行きます。
「ぐわ~っ!く、苦しい・・・」
「や、やめてくれ~!!」
アイギルスは苦痛のあまり、悲鳴を上げて助けを求めていますが、スージーは無表情のままその様子を眺めています。
スージーに許可を求められたオリビアは、少し考えていましたが、やがて静かに口を開きました。
「そうやな!神聖な競技に泥を塗った報いは、死をもって償ってもらうほか無いかな?」
オリビアの言葉に、会場の観客たちは恐怖で凍り付いてしまいました。
ゲーム感覚で観戦していた人々も、これは神託を受けた神聖な競技であったと、今更ながら思い知らされたのです。
スージーが右手を上げました。
そして広げた手のひらを閉じれば、岩の塔はアイギルスもろとも砕け散って終わりです。
「では、そのように!」
スージーが握りつぶそうとしたその時、慌てて止める者がいました。
「お、お待ちくださいオリビア様!」
声の主は、タカ族の王ザハールでした。
慌ててオリビアの前まで飛んで来ると、その場に跪いて許しを乞いました。
「神聖な競技を汚した罪は、許しがたいものです」
「これもわたくしの不徳の致すところ!」
「どうか、この者の命だけはお助け下さい!」
ザハール王は、必死でした。
オリビアの持つ、まさに神の使いにのみ許された恐ろしい能力。
そしてスージーの神がかった魔法の力を見たザハール王は、本当に一つ間違えば、国を亡ぼしかねない事を悟ったのです。
とにかく今は、二人の怒りを鎮めるしかありません。
「そうやな~、王様自らそのようにおっしゃるのなら、今回だけは許してもええかな~」
「スージーはそれでもええのんか?」
オリビアはスージーを見てニヤッと笑いました。
「いいでしょう!今回だけは許しましょう!」
そしてアイギルスに向かって、強い口調で言い渡しました。
「だが、次は無いと思え!」
そう言うと、岩で出来た塔は土にかえり、アイギルスは土もろとも床に崩れ落ちました。
ドシャッ!
気を失ったアイギルスを、救護班が急いで担架に乗せて運び出しました。
その様子を黙って見ていたカレンが、舞台の前へ進み出て言いました。
「茶番はここまでだ!」
「次は少しだけ本気を出してやろう!」
「さっさと終わらせて、本選に行きたいのでな!」
カレンは次の対戦相手のワルキエルに、剣の切っ先を向けて挑発しました。
「ぐぬぬ・・・」
「おのれ、ワシをナメおって!!」
ワルキエルは、顔を真っ赤にして激怒しています。
それを見たカレンは、オリビアとスージーの方を見て、ペロッと舌を出して笑いました。
「やっぱ、余裕ですねカレンさんは・・・」
「せやな、元々レベルの次元が違うからな・・・」
スージーは舞台の上を、まるで何事も無かったかのように元の状態に戻すと、さっさと観覧席へ戻りました。
オリビアは、次の対戦相手のアイギルスと身代わりの人形をリンクすると、進行係に合図を送って舞台から降りました。
「え~っ、それでは次の試合を行います!」
「予選は総当たり戦でしたが、アイギルス選手が続行困難になりましたので、カレン選手と、アイギルス選手で行います」
「ここでカレン選手が勝てば、本選への出場が決定し、アイギルス選手が勝った場合は、再度二人による決勝戦となります」
「それでは、両者は前へ!」
2メートルを優に超える巨体のアイギルスが、片手にぶ厚い盾と、もう片方の手には一撃で盾を砕きそうな、巨大なハルバートを持って現れました。




