第七十一話 ノワール・デュエル 予選(一)
神託が下ってから5日後に、ワシ族にある闘技場でノワール・デュエル(黒翼決闘)が開催されました。
当初はワシ族の王、タカ族の王、そしてカレンの三名で覇権を争うつもりで予定していたのですが、伝統の競技が復活したというので、この競技に参加を希望する者が大勢集まり、しかも有翼人ではないカレンの出場に不平をもらす者が多かったため、急遽大会ルールを改め、予選の出場枠を追加する事になりました。
本選には当然として、タカ族の王ザハールと、ワシ族の王ダハリウスがおり、そして予選を勝ち抜いた者だけが、本選に進める事となりました。
つまりカレンが本選に参加するためには、予選で勝ち抜かなければならないと言う事です。
予選の競技方法は、各部族から代表者一名を選び、第一種目の地上戦と第三種目の空中戦を合わせた複合競技、つまりフリーの格闘競技で戦う事に決まりました。
翼を持たないカレンにとっては不利な競技となりましたが、それにより有翼人たちの不平不満を解消する事が出来たのです。
それでもプライドの高い有翼人の中には、よそ者(人間)であるカレンの参加に不満をもらす者もいましたが、そこはオリビアがカレンに『大天使の守護者』という称号を与えたため、誰も文句を言う事が出来なくなりました。
出場が決定した各部族の代表選手ですが・・・。
タカ族から選ばれたのは、彼らが得意とする奇襲攻撃の先鋒を担う、攻撃隊隊長のアイギルスという男です。
燃えるような赤い髪を持つ小柄な戦士ですが、その引き締まった身体から繰り出される強靭な翼撃で、部隊随一の速度を誇っています。
そしてワシ族から選ばれた戦士は、ワシ族随一の猛者で、重戦士団の破壊屋と言われているワルキエルという男です。
身長が2メートルを軽く超える黒髪の大男で、ワシ族特有の強靭な肉体を持ち、彼の放つ一撃は、どんな頑丈な盾をも砕くと言われています。
そして人族からの出場は、もちろんカレンです。
そのカレンの陣営では、アリスとポニーがオリビアに文句を言っていました。
「オリビア様、この競技は不公平です!」
「そうですよ!翼を持たないカレン様に不利なルールで競うなんて、ズルいのです!」
「いや~、そやけど、こうでもせえへんと、ヴァリオン族の連中が納得せえへんのよ」
「カレンさんには申し訳ないけど、ここは我慢してえな~」
二人に対するオリビアの釈明を聞いたカレンは、それを笑い飛ばしました。
「あっ、はっ、はっ、はっ!」
「二人とも、心配しなくてもいいよ!」
「お前たちは、演劇でも観に来たつもりで、楽しんでいればいいのさ!」
このイベントには、イレーネファイターズの仲間たちと、革命軍からはリーダーのライズと参謀のセルジオス、それとシルヴィーと一緒にロファへ来た、セドリック、ローラン、カイル、セレスタが代表で来ていました。
ピ~~~ッ!
「選手の方々は、闘技場の方へ移動をお願いしま~す!」
競技進行のアナウンスがされるとカレンは立ち上がり、愛用のノクターナルソードを手に取りました。
ヒュン!!
「さぁて!楽しんで来るか!」
剣を一振りすると、カレンは闘技場へと向かいました。
広い闘技場には、埋め尽くすほどの観客が、今か今かと競技の開始を待っています。
数日前までの、タカ族とワシ族の戦いの火ぶたが切られようとした、ピリピリとした空気は一転し、今はお祭りめいた熱狂へと変っています。
選手たちが入場すると、観客席から割れんばかりの歓声が上がりました。
もちろん自分たちの種族を応援する声援であり、応援する選手の勝利を確信しての歓声です。
闘技場の舞台に上がった選手たちは、それぞれ自信に満ちた表情で、手を振って声援に答えています。
そんな中、ポツンと一人だけ、場になじめていない選手がいました。
それは唯一背中に翼を持たないカレンです。
いや、カレンを応援するチームの仲間たちも、大声で声援を送っているのですが、圧倒的な数の観客の声援に飲まれ、彼女の元には届かないのです。
そんな彼女は、頭の後ろでゆったりと手を組み、気の抜けた笑みを浮かべながら、観客席の方を眺めています。
(すげえ熱気だな・・・)
(こいつら、他に娯楽はないのか?)
そんな余裕すら感じるカレンの姿を見たヴァリオン族の観客の中には、罵声を浴びせる者すらいます。
さて闘技場の舞台には、大天使の姿に顕現したオリビアと、スージーの姿がありました。
「じゃぁスージー、頼むわ!」
「了解ですオリビア様!」
スージーはそう言うと、舞台から少し離れた場所に、土で出来た三体の泥人形を出現させました。
そしてここからが、土の女神テラシア様から頂いた加護の力の見せ場です。
スージーは出場する三名の選手を見ながら、その泥人形を選手にそっくりな人形へと変化させて行きます。
そして出来上がったそっくりの人形に強度を加えながら、岩で出来た見事な人形へと作り変えてしまったのです。
まるでロックの作るゴーレムを連想させますが、さすがに岩の人形に命を吹き込む事まではできません。
その様子を見ていた観客も、あまりにも見事な出来栄えに盛大な拍手を送っています。
「どう、カレンさん!美人に出来たでしょう?」
スージーはカレンに片目をつむってウインクすると、観覧席の方へ戻って行きました。
ピ~~~ッ!
進行係の笛が鳴り響き、競技の開始を告げると、騒がしかった観客席もあっと言う間に静まり返りました。
そして舞台上では、ヴァリオン族の美しい女性が、競技の説明を始めました。
「みなさん、もうご存じだと思いますが、ここでルールの説明をいたします」
「この予選では、三名の選手による総当たり戦を行います」
「そして勝利した者が、本選へ出場する事が出来ます」
「本戦は伝統のノワール・デュエルで行われ、タカ族の王ザハール様と、ワシ族の王ダハリウス様と覇権を争う権利が与られます」
「そして、その勝者が今回の『空の覇者』と認められる事になります」
「勝者はヴァリオン族を統べる者となり、一族の繁栄のための治世を行う事が許されますが、それは種族にとって有益な事であることが条件となります」
「そしてその効力は4年間と定めます!」
「以上が、神と取り交わされた約束となります!」
「では、先ほど行った抽選で選ばれた、カレン選手とアイギルス選手は舞台の上へ!」
「それではオリビア様、よろしくお願いいたします」
「はいよ!」
カレンとアイギルスが舞台に上がると、オリビアは自分の能力を一時的に貸し与え、選手と身代わりになる人形をリンクさせました。
「オッケー!これで受けた攻撃はすべて身代わりの人形が引き受けるから、本気で戦ってもええよ!」
そう言うと、オリビアは観覧席へ戻りました。
「それでは、ノワール・デュエルの予選を開催いたします!」
「「「「うお~~~~~~~っ!!!」」」」
観客席から一斉に歓声が上がりました。
ジャ~~~ン!!!
開始のドラが鳴り響くと同時に、槍を持ったアイギルスが、疾風の如き速さで攻撃を仕掛けて来ました。
ザシュッ!
一瞬のうちに間合いを詰めたアイギルスは、カレンの顔より少し高い位置から驚く速さで槍を繰り出します。
これはアイギルスの得意技で、正面からの攻撃だと、目の良い相手なら素早くかわす事が出来ますが、目線よりも少し高い角度からの攻撃は、簡単には避ける事が出来ないのです。
見ている観客も、アイギルスのスピードに目が付いて行かず、カレンが攻撃をまともに受けたように映った事でしょう。
アイギルス自身も、翼も持たない人間の女が、この渾身の攻撃をかわせるはずはないと、甘く見ていました。
しかし・・・。
「えっ?!」
猛スピードでカレンを横切ったアイギルスは、全く手応えを感じなかった事に驚いて、すぐさま振り返ります。
「バ、バカな!」
「確かにオレの槍が、あいつの身体を貫いたはずなのに?!」
アイギルスは身代わりの人形を確認しましたが、人形にはキズ一つ付いていませんでした。
見るとカレンは、最初にいた場所から微動だにせず、腕を組んだままニタッと笑っています。
相手の動きを見切った余裕の笑みなのか、それとも相手を挑発するための笑顔なのか?
または、成す術がなかった照れ隠しの笑みなのか?
いずれにせよ、カレンの態度にアイギルスの怒りは頂点に達した模様です。




