第七十話 覇者を決める競技大会
カレンから、ヴァリオン族に伝わる、お互いの力を競い合う競技の話を尋ねられたアニスは、しばらく考えてから答えました。
「伝統的な競技があるにはあるのですが、あまりにも危険な競技なため、現在は行われておりません」
「それって、どんな競技なの?」
カレンはあまり『危険』と言う言葉の意味を理解していないので、目を輝かせながら尋ねています。
「ノワール・デュエル(黒翼決闘)と呼ばれる競技で、お互いの力を三つの種目で争う競技なのです」
「うわっ!なんかカッコいい響きだなぁ!」
「それで、それで!どんな内容なの?」
「はい!一種目目は、地上戦です」
「お互いが打撃の武器を使って戦う種目で、意識を失うか、負けを認めると勝敗が決まります」
「この競技で死者が出る事が多いので、禁止になりました」
「ふ~ん、そうなのぉ?」
「で、次は?」
「はい、二つ目の種目は、俊敏性を競うウイングウッド・ラリーです」
「これはトゲだらけの樹海を抜けて、どちらが早く目的地に到着するのかを競う種目です」
「う~ん、これは有翼人独特の競技だな・・・」
「翼のないオレには不利っぽいな・・・」
「じゃぁ、最後の種目は?」
「はい、三種目は、空中戦です」
「言葉通り、空中で行う一騎打ちです」
「地上に落下するか、負けを認めると勝負が決まります」
「これは別に翼が無くても、空中で戦えればいいんだよね?」
「た、たぶん、問題ないかと・・・」
「でも、これもとても危険な種目なので、禁止となりました」
「そっか~!」
アニスから説明を聞いたカレンは、腕を組んで考え込んでいます。
「あの、カレン様?」
「さっき、ちょっと気になる事をおっしゃっていましたよね?」
「オレには不利っぽいとか・・・」
気になったアニスがカレンに尋ねました。
「あぁ!それな!」
「いや、オレがその競技に出場して優勝すれば、アニスの願いをかなえられるだろ?」
「えっ!」
「オレが出場して不利なのは、自分では飛べない二番目の競技だけじゃん!」
「後の二つで勝利すれば、優勝できるだろ?」
「あっ!なるほど~!」
「それって、ありやわ!」
オリビアもカレンの意見に賛成しました。
「でも、命を失う危険な競技だから、いまは禁止になっているんでしょ?」
マウロの意見に、オリビアはニヤッと笑って答えました。
「それやったら、うちに考えがあるで~!」
「えっ、競技が安全に行えると?」
「そやで!みんなは、まだうちの能力を知らんやろ?」
「うちはなぁ、受けた攻撃をすべて跳ね返す事が出来るねん!」
「えっ!それって、攻撃したら自爆してしまうってことなの?」
カレンが驚いて尋ねました。
「そやで!カレンさんがうちに攻撃したら、その威力を最大3倍にして返す事ができるねんで!」
「うっわ~!それって、反則技じゃん!」
「えっへへへ~!驚いた?」
「でね、一時的なら、この技を貸し与える事もできるねん」
「つまり、カレンさんの身代わりの人形を作って、受けた攻撃を人形に反射させる事ができるわけ!」
「あっ!つまり、身代わりの人形を作れば、本人は攻撃を受けずに済むってことなの?」
「そっ!その人形が致命傷を受けて壊れたら、勝負が決まるってことなのよ」
「これなら、安全に競技をする事が出来るやろ?」
「すご~い!」
「オリビア最高!」
カレンは大喜びで、オリビアに抱き付きました。
そしてこの競技の話を進めるために、オリビアはカレンを伴って、再びダハリウス王の所へ戻りました。
「ダハリウス王!大天使様が姫様を連れてお戻りになられました!」
「それと、もうお一人、美しい人間の女性を連れております」
「うん?人間の女性だと?」
「まぁ、よい!すぐにお通ししろ!」
「父上様、ただいま戻りました」
「う、うむ!」
「ご紹介いたします!」
「大天使様の隣におられるお方は、人族の中では最強と言われている、カレン様です」
ドキッ!
(な、なんと美しい女性なのじゃ!それに、ほれぼれするような体格をしておる!)
(あぁ、もったいないなぁ~!)
(翼を持っていないのが、本当に残念じゃ~!)
「コホン!」
「あなた、いつまで見とれているのですか?!」
「あっ!」
お后様にたしなめられたダハリウス王は、慌ててよだれをぬぐいます。
「い、いや、これは失礼しました!」
「わしはこの国を治めておるダハリウスじゃが・・・」
「ところで大天使様、それで娘とはどのようなお話を・・・」
「うん、それでは神託を申しつける!」
「ギョッ!し、神託ですと?!」
「これよりタカ族とワシ族の争いを無くすため、神が名のもと、ヴァリオン族の空の覇者を取り決める!」
「「「えぇっ!」」」
突然の話に、この場にいた全員が驚きの声をあげました。
「覇者を取り決めるとは?」
「神様がお決めになると言う事ですかな?」
「ちがうでぇ!自分たちの力で取り決めるんやで!」
「ノワール・デュエル(黒翼決闘)でな!」
「「「「えぇっ!」」」」
部屋の中にいた人たちが、驚きの声をあげました。
「し、しかし、その競技はあまりに危険なので、今は行われておりませんが?!」
側にいた護衛の兵士が、王様の身を案じて答えました。
「うん、それはアニスから聞いて、ちゃんと対策を考えているで!」
そう言うと、オリビアは周りをキョロキョロと見回し、部屋の装飾用に飾られたフルプレートアーマーの置物に目を付けました。
「いまから、実演して見せるわ!」
「カレンさん、うちを対戦相手やと思って、攻撃してみ?」
「えっ!」
「大丈夫なのか?オレの攻撃は半端じゃないぜ?」
「うちの身体なら、心配せんでもええよ!」
「違うよ!オレに返って来るのを心配しているの!」
「なんや、それやったら大丈夫やで!あのフルプレートアーマーに反射させるから!」
「よし、なら行くよ!」
カレンは、美しいプラチナの輝きを放つノクターナルソードをスラリと抜き、自身の体の前に垂直に立てると、そこからゆっくりと上段に構えました。
そして気合と共に、目にも止まらぬ速さで振り抜きます。
「ハッ!」
一閃の光が、オリビアの身体を切り裂きました。
「「「「うわ~~~っ!」」」」
見ていた人たちは悲鳴を上げましたが、斬られたオリビアは平然とその場に立っています。
ガシャン!
「「「「「えっ?」」」」
音のした方を振り向くと、部屋の隅に飾られたフルプレートアーマーの置物が、袈裟懸けに斬られて崩れ落ちていました。
「なっ、これで分かったやろ?」
オリビアは自分の能力を説明し、安全に競技を行えることを実証したのでした。
競技を行って覇者を決める事は神託でもあり、もしこれを拒むのであれば、それはすなわち『臆病者』を意味します。
勇猛なヴァリオン族なら、断るはずがありませんでした。
次の日オリビアとカレンは、今度はヴァルク山に城を持つタカ族の王、ザハールの所へ行きました。
玉座に腰かけ、くつろいでいた王様の元へ、衛兵が慌ててやってきました。
「た、大変ですザハール王!」
「何ごとだ!ワシ族が攻めて来たのか?!」
「い、いえ、そうでは無くて・・・」
「大天使様が、王様にお話があると、お見えになっております!」
「はぁ?何を寝ぼけておるのだ!」
「神の使いが、どうして私の元を訪れると言うのだ!」
「それは偽者であろう!さっさと追い返せ!」
「えっ!そ、それは・・・」
衛兵が狼狽えていた時、後ろから覇気のある声が聞こえてきました。
「神を愚弄するこの者を、成敗してもよろしいでしょうか?オリビア様!」
ガタッ!
「な、なに?!」
見ると大天使に顕現したオリビアの姿と、その横にはスラリと剣を抜いたカレンの姿がありました。
「だ、大天使様!」
「こ、これは失礼いたしました!」
ザハール王は玉座から飛び起き、慌てて跪きました。
その様子を見た王妃様と息子のアルノルトも、慌てて父王を見習います。
オリビアはカレンに剣をおさめるように言うと、翼をいっぱいに広げて言いました。
「これより神の神託を申しつける!」
「心して聞くがよいぞ!」
「「「「はは~~っ!!」」」」




