第六十七話 ヴァリオン族
まだ幼いイレーネですが、さすがに聖獣と言われるダークドラゴンです、ものすごい勢いで空を駆け抜け、4日後に目的地のクロッサムの町へ到着しました。
ところが、まだ小さかった頃のイレーネしか知らない町の人達は、突然巨大な漆黒のドラゴンが現れたため、大騒ぎになっていました。
「おい!ありゃヤバいぞ!!」
「この町にはまだ、対空魔獣用の弓矢や、カタパルトは無かっただろ?!」
ギルドマスターのダグラスが、町の防衛について革命軍の者に尋ねています。
「はい!まだありません!どうすれば良いのでしょうか?」
「とりあえず、弓隊を作って対処するしかないだろ!」
「急げ!」
ドタ、バタ、ドタ、バタ・・・・。
「あっ!まずいな・・・」
「町が大騒ぎになってしまっているわ!」
カレンが下界を見て、困った顔で言いました。
「ほんまやなぁ~!まるで蜂の巣をつついたみたいな騒ぎになってるで~」
「しゃあない!矢が飛んで来んうちに、うちが行って話してくるわ!」
オリビアはそう言うと、天使の姿に顕現して地上へ降りて行きました。
すると今度は、空から天使が舞い降りて来たと言うので、またしても大騒ぎになってしまいました。
「えっ!あ、あなた様が、フレディアのお知り合いの天使様なのですか?」
カーナやフレディアといった、幼い顔立ちの天使しか見た事がないダグラスは、大人びた美しい天使を見たとたん、緊張して柄にもなく敬語でしゃべっています。
そしてその横にいたズッコケ三人組は、もうオリビアの美しい姿にすっかり見とれてしまい、デレデレになってしまいました。
「はぁ~~っ・・・。なんて美しい・・・」
「あぁ、女神様だ~」
「女神様が降臨した~」
「おい!しっかりしろよ!お前ら鼻の下が伸びきっているぞ!」
リーダーのリオンがみっともないと小声で諫めますが、三人の耳には入っていません。
口々にオリビアを褒めたたえる三人組に、オリビア自身も少し引き気味になっています。
(いや、いや、うちはまだ女神様とちがうでぇ~)
グイグイ押して来る三人組におじけづきながらも、取りあえずオリビアは空を指さし、カレンが帰って来た事をダグラスに伝えました。
「えっ?じゃぁ、あのドラゴンはイレーネなのですか?!」
「「「「「え~~~っ!」」」」
町の人も驚いて、一斉に空を見上げています。
「お~~い!もう、降りて来てもええで~!」
オリビアが手を振って合図を送ると、上空で旋回していたイレーネが、ゆっくりと地上へ降りてきました。
ズズズ~~~~ン!
「よっと!」
「わりいな、みんな!驚かせてしまって!」
そう言いながらイレーネの背から降りて来たカレンを見たズッコケ三人組は、さらに美しさに磨きのかかった妖艶な姿を見て、完全に頭の中が沸騰してしまいました。
「え~~~っ!うそ!?これが、あのカレン様なのか!?」
「やばい!ヤバすぎる!!」
「あぁ・・・オレ、もうダメだ・・・」
そして理性がぶっ飛んだカチュアは、フラフラとカレンの前まで進むと、懲りずにまたプロポーズをしてしまいました。
「カ、カレン様!オレと結婚してください!」
「「あっ!バ、バカ!!」」
カチュアのプロポーズを見て、正気に戻ったクラットとボトルは、慌てて止めようとしましたが、すでに手遅れでした。
カプッ!
イレーネに頭からカブリつかれてしまったのです。
「「「うわ~~っ!ドラゴンに食われた~!!」」」
「あっ、こらイレーネ!食べちゃダメじゃないか!」
パカッ!
カレンに叱られたイレーネは、すぐに口を開くとカチュアに向かって言いました。
「わたくしのカレンに求婚するなど、命知らずもいいとこね!」
「まぁ、でも、気持ちは分かるので、今回は許してあげるわ!」
ビシッ!
そう言うと、シッポでカチュアのお尻を軽く叩いて、元の位置まで弾き飛ばしました。
「あぁ、ビックリした~!」
「じ、冗談かよ・・・」
「・・・って、なにぃ~~!ドラゴンがしゃべっただと!?」
あんぐりと口を開けて突っ立っているダグラスを見て、カレンが駆け寄りました。
「おやっさん、ごめん!」
「オレ、おやっさんからもらった大事な剣を、ぶっ壊してしまってさぁ・・・」
「はぁ?ぶっ壊したって、あのバスターソードをか?」
「うん、漆黒の騎士との訓練で、粉々に砕けてしまって・・・」
「おい、おい・・・。いったい、どんな訓練をやったんだよ?!」
ダグラスは驚いていましたが、カレンならやりかねんと、納得してくれました。
「それで、うちのチームの姿が見えないんだけど・・・」
カレンは周りを見回して、イレーネファイターズの姿を捜していますが、誰の姿も見当たりません。
「あぁ、ここには居ないよ!」
「みんなは北西のグリーンホロウの町を目指して出発してしまったよ」
「ここに残っているのは、補給部隊と町の防衛部隊だけだ」
「なんだ、そうなのか・・・」
カレンとオリビアは、クロッサムの町で休養を取ると、翌日の朝早くに革命軍を捜しに飛び立っていきました。
そしてその日の夕方に、翼渡峠の手前の草原でキャンプを張っていた仲間に追いつきました。
そしてここでも、イレーネの姿を見た一行が大騒ぎになりましたが、オリビアのお陰で無事にみんなと再開する事が出来たのでした。
この日の夜は、久しぶりに再会した仲間たちと焚火を囲み、和気あいあいと団らんのひとときを過ごしました。
そして翌朝、カレンは気になっていた事を打ち明けました。
「ところでさぁ、昨日おやっさんから、この部隊は7日前にクロッサムの町を出発したって聞いたんだけど、どうしてまだこの場所なんだ?」
クロッサムの町から、4日もあれば着く場所に滞在しているのを、カレンは不思議に思ったのでした。
「それなんですが・・・」
カレンの疑問には、革命軍のリーダーであるライズが答えてくれました。
クロッサムの町を本拠地にした革命軍は、北西のグリーンホロウの町を目指して進軍を進めていますが、その町へ行くには有翼人のヴァリオン族の支配する翼渡峠を通らなければなりません。
有翼人は理由もなく人を襲ったりする野蛮な種族ではありませんが、自分たちの縄張りを武装した一団が無許可で通る事を、黙って見過ごすような温厚な種族でもないのです。
どちらかと言えばプライドが高く、翼を持たない人間たちを見下すきらいがあります。
有翼人のヴァリオン族は、主に二つの種族が別れて自分たちの国を作っています。
翼渡峠を挟んで東のヴァルク山に城を持つ『タカ族』と、西のオルデ山の山頂に要塞を持つ『ワシ族』がその代表なのですが、昔からこの二つの種族は、お互いに空の覇権をめぐって争い続けている敵国同士なのでした。
タカ族の王は銀色の髪に金色の瞳の精悍な顔つきの男で、『黎明の空を統べる黒翼の王』と呼ばれるザハールです。
タカ族は俊敏で奇襲攻撃を得意とし、小規模な軍団や補給部隊を襲う事に長けています。
ワシ族の王は金色の髪に茶色の瞳の大柄な男で、『白嶺を守護する翼冑の魔王』と呼ばれているダハリウスです。
ワシ族は体格が大きく、重装備による力の戦いを得意とし、険しい山頂の要塞を拠点に『空の守護者』を自任しています。
両者は昔から『どちらが空の覇者か』をめぐって、聖地や空路の領域を争っているのですが、ここ10年ほどは冷戦状態が続いていました。
ところが最近になって、再び両者の仲が険悪なムードになり、下手をすると一触即発の状態となっているのです。
「そんな訳で、わたし達が峠を通る話に、まったく応じる気がないのですよ」
「ふ~ん、そうなのか・・・」
「じゃぁ、勝手に通ってしまえばいいじゃん!」
カレンのいつもの強引な話に、慌ててストップをかけたのはマウロです。
「いや、それはマズいですよカレンさん!」
「武装した軍団が通れば、それこそヴァリオン族の戦争の引き金になってしまいます!」
「そうじゃのぉ!」
「いま下手に刺激したら、タカ族とワシ族の両方から攻撃されてしまうかもしれんぞ?」
思慮深いマイオスからも言われて、さすがにカレンも無謀だと悟りました。
「そ、そっか・・・」
「それで、その仲が悪くなった原因って、なにか分かっているの?」
カレンの質問には、メアリーが答えてくれました。
「実はねぇ・・・」
「タカ族の王子様と、ワシ族の王女様の恋愛が発覚したのが原因みたいなのよ~」
「はぁ~?なんじゃ、そりゃ~?」
恋愛話には疎いカレンは、呆れて声をあげましたが、こと『恋話』となると、黙ってはいられない者がいました。
「ちょっと、待った!」
「その話、ちゃんと説明してえな!」
声をあげたのは、愛のキューピットのオリビアでした。
「うちはこう見えて、愛のキューピットで160人の恋愛を成就させたベテランの天使なんやで!」
「「「「おぉ~~~っ!」」」」
パチ、パチ、パチ・・・・
話を聞いていた人たちから、拍手が起こりました。
「ちなみに弟子のフレディアは、まだ7人やねんけどな・・・」
「「「「あぁ~~~・・・」」」」
話を聞いていた人たちから、残念な声が洩れました。
「いえ、それが・・・」
「実は私も、ステルスモードで潜入した所で噂話を聞いただけなので、詳しい事は分からないのですよ・・・」
申し訳なさそうにメアリーが答えると、オリビアは俄然やる気が出たようで、すっくと立ち上がって言いました。
「よっしゃ!この件はうちに任せとき!」
オリビアは大天使の姿に顕現すると、すぐに飛び立とうとしました。
「ちょっと、オリビア!一人で大丈夫なの?」
「カーナに聞いたけど、変身するのには時間の制限とかがあるんでしょ?」
カレンが心配して声をかけましたが、オリビアはニッコリと笑って答えます。
「あぁ、それは大丈夫!」
「うちはあの子らと違って、大天使の権限を持っているから、自由に変身できるんよ!」
「人がおる所では天使の姿になって行動するから、心配せんでええよ!」
「ほんじゃ、ちょっと行って本人をここへ連れてくるわ!」
「じゃぁね~!」
そう言い残して、颯爽と空へ飛び立ちました。
「「「「ええ~~~っ!」」」」
本人を連れてくると言ったオリビアの言葉に、この場にいた全員が驚きの声をあげています。
そしてカレンは、オリビアの姿を目で追いながら、ポツリと呟きました。
「オリビアって、実はすごい天使だったのね・・・」




