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第六十伍話 カレンの帰還

それから5日ほど過ぎた頃、アルガの町に30人ほどの避難民が保護を求めてやって来ました。


アルガの町の北東にある、ブランシェという村から逃げて来た人たちです。


やせた土地で暮らすこの村の人たちは、とても生活が貧しく、冬を越すのがやっとという苦しい生活を送っていました。


それなら豊かな土地へ移れば良いと思うのですが、この村の民が先祖代々護って来た『太陽神』を祭る神殿があるため、この地を離れる訳にはいかなかったのです。


そんなある日、デプロス王国の兵士が村にやって来て、戦争に必要だからと村の食料や物資を差し出すように言ってきました。

しかし食料を奪われてしまえば、村人は冬を越す事が出来ません。

長老たちは慌てて食料を隠したのですが、それが兵士に見つかり、捕らわれて強制収容所へ送られてしまったのです。


そのとき長老の計らいで、何とか捕まらずにすんだ村びとたちが、必死にここまで逃げのびて来たというのです。


その村人の代表が、町長に連れられてフレディアの元を訪れました。


「フレディア様、ブランシェの村人が大事な話があるので、聞いて欲しいそうですぞ」


「えっ、わたしに?」


「はい、何でも天の守護神アトラー様の事でお話があるとか・・・」


「「「え~~~っ!!」」」


町長の話を聞いたオリビアとカーナも、驚いてやって来ました。




フレディアの元を訪ねて来たのは、避難してきたブランシェ村の代表で、長老の息子のラグナートという40代の男と、7歳になる息子のルシアンでした。

ラグナートは、フレディアを見ると小さなメダルを差し出して言いました。


「これは、私の父が大切にしている物で、遥かむかし太陽神を祭る我が一族の長が、天の守護神アトラー様から授かった物だそうです」


見ると直径5センチほどのコイン状の金のメダルに、美しい太陽の絵柄が彫刻され、周りには米粒ほどの大きさの宝石が散りばめられています。

とても貧しい村人にはそぐわない、大変価値のある高価なメダルでした。


「どうして、これをわたしに?」


「はい、実は・・・」


「太陽の神殿を祭っていた我が一族の前にアトラー様が現れ、このメダルとヘリオスの涙(太陽の核)を渡しました」


「そして、こう告げたのです」


「この地に厄災が起きた時、救いの天使が現れるであろう」

「その天使にアトラーの証であるメダルを見せ、ヘリオスの涙を渡すように・・・と」


「我らはアトラー様の言い伝えを、代々受け継いでまいりました」

「そして、今がその厄災の時だと確信したのです」


「そうやなぁ!うちも今がその時やと思うわ!」

「たしかに・・・」


横で聞いていたオリビアとカーナも頷いています。


「ところが、ヘリオスの涙を持っている私の父が、反逆の罪でオッサムの兵士に捕まり、『バルモスの監獄』に収容されてしまったのです!」


「「「えっ!?」」」


「お願いです天使様!どうか父をお救い下さい!」

「そして先祖代々受け継いだ勤めを、まっとうさせてくださいませ!」


ラグナート親子は、何度も何度も頭を下げてフレディアにお願いし、保護されている施設へと帰ってゆきました。



そして、それから5日が過ぎた時・・・。



カーン!カーン!カーン!カーン!


町に異常を知らせる警報の鐘が鳴り響きました。

ギリガンたちロックルーラーの戦士たちも、急いで町の広場へ集まっています。

もちろんフレディア達も急いで駆けつけました。


広場に集まった人々は、全員空を見上げて大声で騒いでいます。

それもそのはず、上空に大きな漆黒のドラゴンが、グルグルと旋回しているのですから・・・。


「えっ?あのドラゴンって、イレーネなの?」


「あらぁ~、ずいぶんと大きくなったわねぇ~」


フレディアとルナは驚いて見ていますが、カーナはすぐにイレーネの元へ飛び立っていきました。



カーナはイレーネを先導し、フレディア達の待つ広い場所に降ろしました。

集まった町の人々も、フレディアの仲間だと知って安心したようで、遠くから様子をうかがっています。


「すごい!マラード様にそっくりじゃの!」

「まだ、ちょっと小さいけど・・・」


ポンポンが懐かしそうに、目を細めてイレーネを見つめています。


その漆黒のドラゴンの背から、同じ色の漆黒の胸当てを装着し、腰には真紅の幅広のベルトに、スラリと長いプラチナの輝きを放つ長剣と、長年愛用したムチを携えた美しい女騎士が降りてきました。


「え~~っ!カレン、なんだか雰囲気が変わったね!」


「本当ねぇ~、何だか妖艶(ようえん)な女性のお色気が増しましたわ~!羨ましいですわ~!」


少し見ない間に大人の魅力が増したカレンの姿に、フレディアとルナが驚いていますが、カレン自身は以前と変わらず、フレディアの姿を見るなり、いつものように駆け寄ってギュッと抱きしめました。


「フレディア!会いたかったよ~!」


ギユ~ッ


「いたたた!」

「つ、つぶれちゃうよ~!」


ところが、カレンのセラディウムという超合金で作られた胸当てに押しつぶされそうになり、フレディアは悲鳴を上げています。


「あっ!ごめん、ごめん!」


カレンは慌ててフレディアから離れました。

そして今度はルナをやさしく抱擁しました。


「ルナ~!オレのかわいい妹よ!元気にしていたかい?」


「うふふっ、なんだか妖しい魅力を感じますわ、カレンお姉さま」


「そうかな?それは少し露出の多くなった服装のせいじゃないか?」

「動きやすさを優先したからな・・・」


「むむっ!大きいとは思っておったが、その胸当てじゃとさらに大きく見えるの!」


ポンポンも、カレンの大きく開いた胸元を見て、羨ましそうにしています。


「あらっ?リーファちゃんから、剣が砕けたって聞いていたんですけど?」


カレンの腰にある美しい剣を見てルナが尋ねました。


「あぁ、おやっさんにもらった剣は粉々に砕けてしまったので、代わりに漆黒の騎士からこの剣をパクってやったのさ!」


そう言うとカレンは、プラチナの輝きを放つ剣を、スラリと抜いて見せました。

すると美しい剣の刀身から、何やら怪しい黒いモヤが、陽炎(かげろう)のように立ち昇っています。


「この剣はノクターナルソード『永遠の夜を呼ぶ剣』と呼ばれているんだ」

「つまり、相手の魂を奪い取る妖剣なんだよ」


「えっ!な、なんだか怖い剣ですわね!?」


「や、やばい剣じゃ!」


話を聞いていたポンポンが、ササッとカレンから離れました。


「あれっ?じゃぁ、この剣があれば、アンデッドも楽に倒せるんじゃ?」


フレディアがカレンに尋ねました。


「いや、アンデッドには元々魂は宿っていないから、この剣じゃ倒せないそうだ」

「この剣の持ち主の、漆黒の騎士がそう言っていたぜ」


「あっ、それとあの野郎、結局最後まで名前と正体を明かさなかったよ」

「悪いなカーナ、役に立てずに」


カーナを見て、カレンは済まなさそうに言いました。


「そっか~、いったい何者なんだろうね?」



考え込んでいるカーナの横で、カレンは最後の訓練の事を思い出していました。


その日は朝から、壮絶な戦いを繰り広げていました。

まだ一度も漆黒の騎士に勝てないカレンは、何としてもここで勝利して、自分の力を見せてやりたかったのです。


どちらも全く互角の激戦が5時間も続きましたが、ようやくカレンは相手の太刀筋を見切り、勝負の一撃を放とうとした時でした。

ダグラスからもらった剣が激闘に耐え切れず、ついに砕け散ってしまったのです。


「くそっ!あともう少しだったのに!」


カレンは悔しそうに、砕けた剣を見て唇を噛みましたが、その姿を見た漆黒の騎士は、カレンに言いました。


「いや、次の一撃が放たれれば、おそらく私は負けていただろう」

「まぁ、剣が砕けてくれたおかげで、私の無敗は守られたのだがな!」


「カレンよ、運も勝負のうちなのだよ!」

「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」


漆黒の騎士は、悔しがるカレンを見て馬鹿笑いをしています。


「あぁ~~~っ!腹立つ~~!!」


砕けた剣を地面に投げつけて、大の字に寝そべったカレンに、漆黒の騎士は自分の剣を差し出して言いました。


「この剣をお前にやろう!」


「はぁ?じゃあお前はどうするんだよ?!」

「別の剣を持っているのか?」


「いや、持っていない」

「つまり、修行はこれで終わりと言う事だ!」


「えっ?」


「合格だ!お前はもう十分に強い!元の世界に戻って仲間と合流しろ!」

「そして必ず、モルグデウスとザキュエルから世界を救うのだ!」


「でないと、とんでもない事が起きるぞ!」


「とんでもない事って、何だよ?」


「それは言えぬが、とにかく私の兄上が激怒すると、大変な事になるのだ・・・」


「そうか、分かった!じゃあ、聞くまい!」

「だけど、せめてあんたの名前ぐらい教えてくれてもいいだろ?」


「オレを強くしてくれた恩人の名前ぐらい知らないと、さすがのオレも・・・」

「その・・・ちょっと、寂しいから・・・」


ガラにもなく、カレンが顔を赤らめている姿を見た漆黒の騎士も、この二年間一緒に修行に明け暮れた彼女に、少し情が移ったのかもしれません。

しばらく考え込んでいましたが、やがて静かに口を開きました。


「・・・・・・・」


「誰にも言わないと約束出来るか?」


「あぁ、もちろんだ!」


「ふ~~~~っ・・・」


「私の名前はザイラ」

「闇の支配者、フレイザーの弟だ!」


「これでいいかカレン?」


「あぁ、もちろんだ、ザイラ師匠!」

「あ!だけどあんたは二番目の師匠だからな!」


「は?お前に他に師匠がいるのか?」


「あぁ、いるさ!」

「へへっ、一番の師匠はオレの大好きな天使のフレディアなんだ!」


「なにっ?!フレディア!!?」


「あれっ?なに、その反応?!」

「ザイラ師匠はフレディアを知っているのか?」


「あっ!!」

「い、いや!知る訳がないだろう!!」

「ちょっと、何だ、知っている御方に名前が似ていたから・・・」


「とにかく、カレンよ!」

「いずれまた会う時が来るだろう!それまで達者でな!」


「さらばだ!」


「あぁ、ありがとうザイラ師匠!」





「ねえカレン、聞いていますの?」


ルナがカレンの顔を覗き込んで、尋ねています。


「えっ!ごめん、ちょっと考え事をしていたわ!」


「ねえ、ここではゆっくりお話も出来ませんわ、場所を変えましょうよ」


「あぁ、そうだな!」


ルナの提案で、イレーネをこの場に残して、ロックの家に行く事になりました。


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