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第六十話 セレノス様の加護

ヘーベル歴251年9月下旬。

パステルの町を出たフレディア達は、4日後にミントの町に到着しました。


「キャハハ!」

「久しぶりに来ちゃった!」

「でも、いつもの町のままだね!よかった!」


フレディアが最後にここを訪れたのは、バズエルの放った魔物との戦い以来なので、実に3年と2カ月ぶりとなります。

壊れた防壁や民家も、すっかり元通りになっているので、フレディアは安心しました。


「なぁ、フレディア!」

「たぶんセレノス様はモモちゃんのお店に来るはずやから、そこでご飯を食べながら待てへん?」


「あれっ?オリビアはモモちゃんのお店を知ってるの?」


「知ってるで~!」

「ちょうど1年前に、ダレス様の手紙をセレノス様に届けるために、この町にきてるねん!」


「あっ!そうなんだ!?」

「キャハハ!モモちゃん、オリビアを見たらビックリするよ!」


「せやな!うちも初めて見た時は驚いたわ!」

「セレノス様は頭がこんがらがって、ズッコケよったけどな!」


「キャハハ!」


「あらぁ~、なんだか知らないけど、ずいぶん楽しそうなお話ね?」


笑いながら話す二人の会話を聞いたルナが、興味津々で入ってきました。


「あれ?ルナはこの町には来た事がないの?」


「ええ、フレディアが会いに来てくれるまでは、わたくしはロファのお城にずっといましたから・・・」

「今はもう、毎日がとても楽しくて仕方がありませんのよ!」


ルナはこれから何が起きるのか、ワクワクしています。


「オッケー!」

「じゃぁ!行こうか!」


フレディア達はワイワイ騒ぎながら、目的のモモちゃんのお店に向かいました。


「お邪魔しま~す!」


「は~~い!いらっしゃ・・・」


お店に入ったフレディア達を迎えてくれたのは、モモちゃんでした。


「え~~っ!フレディアちゃん?」


「キャハハ!モモちゃんひさしぶり~!」


「も~っ!今までどうしてたのよ!」

「ちょっと、ハンナ!フレディアちゃんが来てるわよ!」


「えっ!うそ?!」


モモちゃんに呼ばれて、カウンターの中にいたハンナが、慌てて出てきました。

ハンナは、フレディアが作ったライトブリーズの、最初のメンバーだったベゼルのお姉さんです。


「まぁフレディアちゃん、全然顔を見せてくれないから、心配していたのよ!」


「それで今日は、たくさんお友達を・・・」


ギョッ!


ハンナはオリビアと目が合った瞬間に、固まってしまいました。


「あ、あれ?」

「ちょっと、モモちゃん!」

「あなたに妹っていたのかしら?」


「はぁ、なに言ってんの?」

「わたしは一人っ子なのよね~」


ギョッ!


「あれま!」

「こ、これって、もしかしてドッペル何とかって言うやつ?」


モモちゃんも驚いて固まってしまったので、フレディアが紹介しました。


「彼女はオリビア!」

「わたしの親友なの!」


「あぁ、ビックリしたわ~」

「うちの親に、隠し子がいたのかと思ったわ~」


「本当にそっくりさんね!」

「とにかく、みなさんお席にどうぞ~!」


モモちゃんを見た他のメンバーも、あまりにオリビアとそっくりなので、その場に立ち尽くしていましたが、ハンナに案内されてようやく我に返ったようです。


それぞれが好きな食べ物を注文しましたが、モモちゃんとハンナの大サービスで、食べきれないほどの大盛で運ばれてきました。


「うわっ!こんな大きなオムライスは、見た事がないのじゃ!」

「リーファも食べるのを手伝って欲しいのじゃ!」


みんながワイワイと食事を楽しんでいる所へ、何も知らないセレノス様がフラフラとやって来ました。


「うひゃ、ひゃ!モモちゃんはいるかの~」


店の植木鉢を踏み台にして、セレノス様は窓から中を覗きます。


「おっ、何じゃ今日は客が多いの?」

「それにしても、モモちゃんの姿が見えんぞ?」

「モモちゃんは、どこに行ったんじゃ?」


「ありゃ!モモちゃん、客と一緒に飯を食っとるのか?」


いつものメイド服ではなく、黒のワンピース姿でテーブルに着いているので、セレノス様が不思議そうな顔をして見ています。

その事に気付いたオリビアが、フレディアに小声で言いました。


「きたで、きたで~!」


「あっ、本当だ!」

「なんか、不思議そうな顔で見ているね」


窓から顔を半分だけ出して覗いているセレノス様を見て、みんなクスクスと笑っています。


「いししし・・・」

「リーファよ、あのネコを少し驚かせてやるのじゃ」


「は~い!」



「うひゃ、ひゃ、黒のワンピース姿もかわいいのぉ~」


窓にへばり付いて見ていたセレノス様の足元から、スルスルと木の根が伸びてきました。


「あひゃ?足元がこそばゆいのじゃが?」


ですが足元の変化に気付いた時には、既に複数の根にからめ捕られてしまっていました。


「どひゃ~!なんじゃこれは?」


そして根はグングン伸びてセレノス様の身体を押し上げてゆき、ちょうど窓の中央でピタリと止まりました。


店の中では、その姿を見たみんなが大笑いしています。

ただシルヴィーだけは、何故かキュンキュンしているようですが・・・。



「これ、この変態のぞきネコ!」

「なにをコソコソと覗いておるのじゃ!」


リーファを頭にのせたポンポンが、セレノス様に尋問を始めました。


「いや、わしはちょっと店の中に知っておる娘が・・・」


「ありゃ!お前はフレディアと一緒におる小娘ではないのか?!」

「はよう、ここから降ろすのじゃ!」


「おぬし、また娘にちょっかいを出そうとしておるのではないのか?」


「ば、馬鹿者!わしは神様じゃぞ!」

「そ、そのような事をする訳がなかろう!」


「おぬし、カレンに抱き付かれて、ドラゴンのタマゴをやったじゃろ?」

「シルヴィーにはギュッとされて、風の魔法をあげたではないか」


「い、いや、それはじゃのぉ・・・」


「抱き付くのはダメじゃが」

「わしにも、何かくれぬかの?」



「こら!ポンポン!」

「そうじゃないでしょ?!」


「し、しまった!フレディアに見つかってしもうた!」


ポンポンはセレノス様を地面に降ろすと、慌ててお店の中に逃げて行きました。


「セレノス様、おひさしぶり~!」


「おわっ!何じゃおかしいと思ったら、オリビアちゃんではないか?」


「セ、セレノス様!こんにちは!」


「おっ!シ、シルヴィーちゃんも、来ておったのか?」


ジリ、ジリ・・・


何故か女性好きのセレノス様がシルヴィーを見たとたん、警戒して後退りをしています。


(い、いかん!この子はわしに抱き付くからの!)

(こんなきれいな娘に抱き付かれたら、いっぺんに理性がぶっ飛んでしまうのじゃ!)

(これ以上ヘマをやると、カーナに何を言われるか分かったものではないわ!)


そんなセレノス様の心情も知らず、ネコ大好きのシルヴィーは、抱っこがしたくてウズウズしています。


「ねぇ、フレディア様~!」

「セレノス様を抱っこしてもいい?」


シルヴィーは両手をワシャワシャさせながら、フレディアに尋ねました・


「う~~ん、どうかなぁ~」


フレディアは、腕を組んで考えています。


「あひゃ!そ、それはちょっと・・・」


この時、いつになく逃げ腰のセレノス様の様子に気付いたオリビアが、フレディアにこそっと言いました。


「なんかセレノス様の様子がおかしいで?」


「あ~っ、それね!」

「これまで女性絡みでヘタを打ってきたから、きっと警戒しているんだわ」


「そっか!またシルヴィーに抱き付かれたら、失敗すると思ってるんや!」


「そう!」

「でね!どうしたら最大限の加護を引き出せるのか、いま考えているのよ・・・」


そんな二人のコソコソ話に、ルナも入ってきました。


「うふふっ、フレディアったら、なんか悪い顔になっているわよ~」


「キャハハ!バレた?」


フレディア達は、3人でコソコソと相談を始めました。


その間、少しビビっているセレノス様の前で、どうしても抱き付きたいシルヴィーが、キュンキュンしながら、フレディアの返事を待っていました。



「シルヴィー、やっぱり今回はダメだよ」

「そやなぁ、セレノス様は神様なんやから、普通のネコとちゃうんやで~」


フレディアとオリビアが反対しました。


「そんなぁ~」

「セレノス様は、だっこされるのが嫌なのですか?」


「うっ!そ、それは・・・」


(いやな訳がなかろう!)

(いや、いかん!いかん!このままではわしの神としての威厳が・・・)


セレノス様が、悶々としている様子を見て、3人はニヤッと笑いました。

そして今度はルナが仕掛けます。


「それにこの度セレノス様から、『加護をいただける』事になったそうなんだけどぉ~」

「もしシルヴィーちゃんが、セレノス様に色仕掛けで手に入れたって噂が立てば、セレノス様の威厳に関わりますものねぇ・・・」


「!!!」


(そうじゃ!それを忘れておったわ!)

(いや、しかし!ルナの言い分も一理あるしのぉ~)


セレノス様は、ますます悶々としています。

その時シルヴィーが言いました。


「ルナ様!私は別にセレノス様の加護が欲しくて言っているのではありません」

「純粋にセレノス様を抱っこしたいのです!」


「だから、私はセレノス様の加護はいりません!」

「だれか他の方に差し上げて下さい」


ガ~~~~ン!!


「なんちゅう、よい子なのじゃ!!」

「どうせあげるなら、カーナに何と言われようとも、この子に・・・」


セレノス様は感激のあまり、フルフルしています。


「「「落ちたな!」」」


3人は目くばせしました。


「そこまで言うのなら、抱っこしてもいいよ!」


「本当ですか!?」

「やった~~!」


シルヴィーは、ギュッとセレノス様を抱きしめました。

そしてその瞬間、オリビアが大きな声で言いました。


「あっ!忘れてたわ!」

「うち、カナちゃんから、シルヴィーに加護をもらう許可をもろてたんや!」


「どひゃ~~!!」

「カーナよ、良く言った!」

「もう、とっておきの加護を授けるのじゃ~!」



「ガクッ!」




「ネコの神様、また落ちおったのぉ」


「チョロい神様」


オムライスを食べながら、外の様子を見ていたポンポンとリーファが呟きました。


(いや、神様って、あんなのでいいのかよ?)

(って言うか、神様を手玉に取る女の人って、ヤバくねえか?)

(オレは絶対に関わらねえからな!)


ロックはモクモクと、ハンバーグ定食をほおばります。


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