第六話 岩の支配者(一)
森の中をしばらく歩くと、焼け焦げたくさい臭いが漂ってきました。
「あっ、そうだ!昨日の火事!!」
さらに進んで行くと、周りの景色がおかしいことに気付きました。
森の木々が巨大な何者かに踏みつぶされたように、なぎ倒されているのです。
「ゲッ、なにこれ?」
「化けクジラのような巨大な魔物が暴れたの?」
フレディアが周りの景色を見渡しながらさらに進んで行くと、少し開けた場所に出ました。
そして、そこで目にしたあまりの惨状に、フレディアは驚きの声を上げました。
「なにこれ?!ひど~い!!」
目の前には押しつぶされて、真っ黒に焼け焦げた集落の跡が広がっていました。
「どうして、こんな事に・・・」
フレディアが注意深く辺りを見回すと、潰された石造りの家屋の前に、誰か人が立っているのを見つけました。
(あれ?人間の女の子かな?)
後姿を見ると、背が高くてほっそりとした体に、艶のある黒髪が腰の近くまでありました。
相手を驚かさないように静かに近づくと、フレディアは恐る恐る声をかけてみました。
「あの~~」
「ひえ~~~~~~っ!!!」
フレディアに声をかけられた人は大声で悲鳴を上げると、その場に腰を抜かして倒れ込んでしまいました。
そして拝むように手を合わせ、フレディアに必死に命乞いを始めたのです。
「ひえ~~~っ!たすけてください~~~!!」
「どうか殺さないで~~~!!」
「いや、ちょっと・・・」
「違うから、わたしは敵じゃないから!」
フレディアが慌てて説明しようとしますが、相手は聞く耳を持ちません。
必死にフレディアから離れようと、ズリズリと後退りをはじめました。
(あっ、だめだこりゃ・・・)
フレディアが誤解を解くために何かを言おうとした時でした、後ろから野太い男の声が聞こえてきました。
「この大馬鹿者が!!!」
「この人は敵ではないわ!!」
フレディアが驚いて後ろを振り返ると、身の丈2メートルを超える、まるで岩のようながっしりとした大男が、大きな岩の斧を片手に立っていました。
「あわわわ・・・」
「な、なに?この人、人間?!」
驚くフレディアをよそに、大男は倒れている人の前に行くと、文句を言い始めました。
「まったく、男のくせに情けない!」
(えっ!男の子なんだ?すごい美人なのに・・・)
フレディアはその男の子を見て、逆にびっくりしています。
「お前はそれでも偉大なるロックルーラーか!」
大男は腰を抜かしている男の子を、まるでネコでも連れてくるように、ヒョイっと片手でつまみ上げると、フレディアの前に座らせました。
「旅人よすまぬ、みっともない姿をお見せした」
「えっ!」
「いえ、いえ、みっともないなんて、そんな・・・」
「わたしこそ、驚かせてしまって、ごめんなさい!」
フレディアがペコっと頭を下げて謝ると、ようやくまともにその姿を目にした男の子は、すっくと立ち上がって口を開きました。
「オ、オレは別にビビッてなんかいないぞ!」
「ちょっとした、アレだ・・・」
(アレって、なに?)
「そう、ちょっとした、アレなんだ!」
(だから、アレってなんなの?)
何が言いたいのか分からず、フレディアがヤキモキしていると、大男のゲンコツが男の子の頭の上に落ちてきました。
ゴチン!!
「いって~!」
男の子は大男に頭を殴られて、再びしゃがみ込んでしまいます。
「ところで旅人よ、あんた人間じゃないな?」
「えっ!どうしてわかるの?」
「わたし、いま人の姿になっているわよね?」
「え~~~~っ!?人間じゃない?!!」
「じゃぁ、やっぱり昨夜の魔物の仲間じゃないか!!」
二人の会話を聞いた男の子は、再び大声を上げて立ち上がりました。
それを見た大男は、再びゲンコツを振り落としました。
ゴチン!!
「もう、お前は黙っとれ!」
男の子は頭を抱えて、またしゃがみ込んでしまいました。
これ以上殴られると男の子がかわいそうなので、フレディアは急いで自己紹介をしました。
「わたしはフレディア!」
「技術と創作の神様にお仕えする天使なの!」
「おぉ!やはり天使様でしたか!」
大男は嬉しそうに頷いていますが、フレディアは不思議でなりません。
「どうしてわかったの?」
理由を知りたいフレディアが大男に尋ねました。
「ワシは岩の支配者と言われるロックルーラーでな!」
「神々とは親交があるのだよ」
「あんたから漏れ出ているオーラは、神のそれに似ているからな」
「えっ?神様とお友達なの?」
「いや友達ではない、神から信頼されて、ある大切な物を預かっておる種族なのだ」
「ふ~~ん・・・」
「岩の支配者・・・」
そう聞かされてもピント来ないようで、フレディアが不思議そうな顔をしているので、大男は実演して見せてくれました。
「フレディア殿、よく見ておくがいい」
そう言うと大男が近くにあった大きな岩を睨むと、グラグラと動き出しました。
そしてその他の岩も一斉に大岩に向かって動き始めます。
大きな岩にそれより小さな岩が上に乗っかり、頭の形が形成されました。
そして他の岩は手や足の形に組み立てられ、どんどんと人の形を形成していきます。
「えっ!なにこれ?!」
「大きな岩の人形?ゴーレム?!」
「グオ~~~!!!」
完成したゴーレムは一声吠えると、倒れていた大木を担ぎ、どこかへ運んで行きます。
「え~~~っ!これ、おじさんが作ってやらせているの?」
「わっ、はっ、はっ!」
「どうだ、驚いただろ!」
「ワシらは岩などの鉱物に、命を吹き込むことが出来るのだよ」
「命を吹き込むと言っても一時的なもので、命を与えるのとは違うがな」
「役目が済めば、また元の岩くれに戻ってしまうのだよ」
「すご~い!」
パチ、パチ、パチ・・・・
「その力を買われて、神から大切な物を預かっておったのだが、不覚にも昨夜何者かに奪われてしまったのだ!」
そう言うと大男は怒りで顔を真っ赤にし、握りしめた拳を震わせました。
「おじさん達、すごい能力を持っているのに、奪い返せなかったの?」
「うむ、確かにワシらは強いぞ!物理的な攻撃など全く効かぬからな!」
「そこらの魔物ならいくら攻撃されても跳ね返せるし、一撃で仕留めるぐらいは朝飯前なのだが・・・」
そう言うと大男は持っていた岩の斧で、座っていた男の子を思いっきり殴って見せました。
ドカ~~~ン!!!
ピュ~~~ッ
ガ~~~ン!!!
男の子は数メートル飛ばされて、岩に激突しました。
「え~~~~~っ!!!」
フレディアはビックリして大声で叫びました。
それはそうでしょう、普通の人間なら死んでしまっています。
ところが・・・・。
「いって~!何すんだよクソ親父!!」
そう言うとピョコンと立ち上がり、何事も無かったようにこちらへ歩いて来ます。
「なっ!」
「い、いや、なっ!て言われても・・・」
「あれっ?あの子いま親父っていった?」
「そうだ、あいつはオレの息子のロックという」
「ロック!?」
「なんか岩というか、そのままの名前なのね?」
「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」
「分かりやすくていいだろ?」
「ま、まあね・・・」
「申し遅れたが、ワシの名前はギリガンじゃ!」
「この里の長をしておる!」
ギリガンは、もじゃもじゃの黒い髪に、金色のするどい眼光を放つ瞳を持ち、身の丈2メートルを優に超える大男で、顔にはもじゃもじゃの髭を生やしています。
息子のロックは、ストレートの艶のある黒髪に、茶色の瞳をしたまるで女の子のような端整な顔をしています。背は185センチと高いのですが、体格もきゃしやで、とても父親とは似ていませんでした。年齢は17歳だそうです。
「ギリガンのおじさんは、なんだかドワーフ族に感じが似ているね?」
「息子のロックは全然似てないけど」
「そう、ロックルーラーはドワーフに似ているとよく言われるが、全く別の種族だよ」
「一説にはドワーフから派生した変異種とも言われておるがな」
「詳しい事は分からん!」
「ふ~ん、そうなんだ・・・」
「という事は、ロックも大きくなったらギリガンのおじさんみたいになるの?」
「う~む、ならんだろうな・・・」
「あいつは妻に似ておるからな!」
「ワシの妻は人間なのじゃよ」
「ロックがワシに似なかったのは少し残念だがな・・・」
(あっ、そこは残念なんだ・・・)
フレディアは何度も二人を見比べて、何て返事をしていいのか分からないようです。




