第五十八話 古き森の洞窟(一)
翌朝アルガの町を発ったフレディア達は、4日後の早朝にパステルの町に到着しました。
町の中は相変わらず活気にあふれ、先の戦での傷跡などは微塵も感じさせません。
ギルドに向かう道すがら、ルナがシルヴィーに声をかけました。
「やっぱり、この町は賑やかでいいですわね~」
「そ、そうですね!私もこの町は大好きです」
「あらっ?シルヴィーったら、緊張しているの?」
「は、はい!少しだけ・・・」
「うふふっ!わたくしギルドの昇格試験って、まだ一度も見た事がありませんの!」
「ですから、すごく楽しみですわ!」
ウキウキしているルナを見て、ポンポンが言いました。
「ルナは気楽でよいの!」
「なんなら、ルナも試験を受けてみてはどうじゃ?」
「それがダメなのよ~」
「わたくし、お洋服をとても大切にしていますから~」
「意味が分からんわ!」
道中そんな話をしていると、すぐに目的のギルドに到着しました。
そしていつものように、フレディアが勢いよく扉を開きます。
バ~ン!!
「キャハハ!来たよ~!!」
ギルドの中には、すでに沢山の冒険者たちが集まっていました。
そしてその中心でサントスが、何やらみんなに説明をしているような様子です。
「おぉ!これはフレディア様!ルナ様!」
「あっ、それに皆様お揃いで!」
「ひょっとして、今日はギルドの昇格試験に来られたのですかな?」
ギルドのフロアにいたサントスが、驚いて声をかけてきましたが、その周りに集まっている沢山のギルド員を見て、フレディアも少し不審に思ったのでしょう。
「ありゃ?今日はマズかったのかな?」
「はい、実はちょっとした問題が発生しましてな・・・」
「それって、どういうこと?」
「いえ、ここでのギルドの昇格試験なのですが・・・」
「うちにはミントの町のように召喚士がおりませんので、昇格試験は町の北にある『古き森の洞窟』を使って、実技試験をしておるのです」
「ところが、そこに奇妙な魔物が住みつきましてな・・・」
「元々ⅮランクからCランクのレベルのダンジョンだったのが、いまやBランク以上の難易度に上がってしまったのですよ」
「それで、ギルドから討伐依頼を出したのですが、みんな怖がって受け手がおらんのです」
「そんな訳で、討伐チームを作って乗り込もうかと相談しておったのですが・・・」
「サントスよ、その奇妙な魔物とは、どういう魔物なのじゃ?」
気になったポンポンがサントスに尋ねました。
「はぁ、それが、何でも爆弾を投げつけてくる恐ろしい魔物のようでして・・・」
「とにかく、危なくて近づけないそうなのですわ」
「ふ~~ん・・・それは厄介ねぇ・・・」
フレディアは腕を組んで、少し考えていましたが・・・。
「じゃぁ、わたし達がその魔物を退治したら、昇格試験に合格って言うのはどう?」
「もちろん、わたしとルナは、極力手を貸さないって条件付きで・・・」
フレディアがサントスに提案しました。
「おぉ!本当にそれでよろしいのですか?」
「もし退治してくださるのなら、Cランクへの昇格を保証いたしますが!」
元よりサントスは、このメンバーは既にBランク以上の実力があるのを知っていますので、フレディアからのこの申し入れは、願ったり叶ったりなのでした。
周りにいたギルド員達も、危険な任務から解放されるとあって、みんなフレディアの返事を期待して待っています。
ところが、ここで難色を示す者が出てきました。
「いや!それってヤバくね?!」
「オレのゴーレムは岩で出来ているんだぜ」
爆弾と聞き、ロックが過剰に反応しました。
岩で出来たゴーレムにとって、鉱山で使うような爆破を目的とした爆弾は天敵のようです。
「岩なら大丈夫じゃ!」
「強烈な爆弾で洞窟の岩まで崩してしまったら、自分も住めなくなるじゃろ?」
「え~~っ、そんな単純な考え方でいいのかよ?」
「何ごとも、経験ですわ!」
「キャハハ!ルナに賛成!」
「危なくなったら、私の『おくびょう風』をすぐに発動しますわ!」
みんなのやる気満々の返事に、ロックもあきらめるしかありません。
「ふぁ~い・・・」
ロックの気の無い返事で、翌日に古き森の洞窟へ行く事が決定しました。
古き森の洞窟は、パステルの町から北に12キロメートルほど先の、その名の通り古い森にある山の斜面にポッカリと空いた洞窟です。
推奨レベルはギルドのCランク程度ですが、今は爆弾を投げつけてくる魔物のせいで、Bランク相当まで上がっています。
入り口の看板には『危険!地下4階以降は立ち入り禁止!』と書かれていました。
そして、このダンジョンはギルドの管理下にあるため、入り口には関所が設けられ、入場するには許可が必要になっています。
Ⅾランクなら4人以上のパーティーである事や、Cランクが一人いて、後がⅮランク以下なら3人以上のパーティーである事など、けっこう厳しい規定が設けられています。
Ⅾランク未満の場合は原則入場不可ですが、パーティーにBランク以上の者が一人でもいれば許可がおります。
フレディア達のチーム、ライトブリーズの場合は・・・。
フレディアは文句なしのSランクなので、このダンジョンは入場可能です。
ルナの場合はちょっと複雑で、ギルド員ではありませんが、一応Aランクの名誉会員という証明書を持っています。
この件に関しては、ギルドの本部からルナは特権でAランクの会員を認められているのですが、ギルドの会員になると、胸に証明するバッチを付ける事が義務付けられています。
ところがルナはこれが気に入らないようで・・・。
「まぁ!これを付けなければダメですの?」
「わたくし、お洋服に穴を開けるのはイヤですわ!」
「せっかくですけど、この話はお断りいたしますわ!」
という理由で、ギルド員ではなく名誉会員という事になりました。
そしてロック、ポンポン、シルヴィーの三名はEランクと言う事で、何ともややこしいチームの構成になっています。
関所を管理しているのは、甲冑を身にまとった白髪頭の老人で、ギルドを引退したベテラン冒険者のようです。
関所の前には、すでに大勢の冒険者が集まり、受付のための列を作っていました。
フレディア達も、その列の最後尾に並びます。
見たところ、おおよそ40人ほどの冒険者が、同じチームの者と雑談しながら順番を待っています。
「おい、見ろよ!すげえ美人のチームが来たぞ!」
「本当だ!すごくかわいい女の子二人と、あとの三人はメチャクチャ美人じゃんよ!」
「おい、一緒に探索しようって、誘ってみようぜ!」
周りにいた冒険者たちは、フレディア達のチームを見て色めき立っていました。
こそこそと話す声がフレディア達にも聞こえてきますが、その中でひとり不機嫌になっている者がいます。
(オレは男だ!勘違いするんじゃねえ!!)
ロックはブスッとした表情で腕を組みますが、好感度はますます上がっています。
「あの黒髪の背の高いお姉ちゃん!すげえ色っぽいよな!」
「あぁ!ぜひ、お友達になりたいぜ!」
(くそっ!早くダンジョンに入りたいぜ!)
ロックは心の中で叫んでいますが、自分たちの順番が来るまで、もう少し時間が掛かりそうです。
待つこと30分。
今のところ断られる者も無く、みんな順調に次々とダンジョンの中へ入って行きます。
ところがフレディア達の番になると、案の定、管理人から変な顔をされてしまいました。
「なんじゃ?あんたのそのバッチは?」
「オモチャのバッチでごまかそうとしても無駄じゃぞ?!」
「しかも、そんな見た事も無い玉虫色のバッチではなく、どうせなら金色のバッチを作れば良かったものを!」
このバッチを付けている者がカレンやハンクなら、疑わずに通してくれたでしょうが、なにしろ相手がフレディアですから、ある意味仕方がありません。
「うん?あんたはバッチすら付けとらんではないか?!」
「しかも後の三人はEランクじゃと?!」
「話にならん!さっさと帰れ!」
「なんじゃ、このじっちゃんは!愛想が悪いの!!」
ポンポンがプリプリと怒っていますが、フレディアはこうなる事を予測していました。
「キャハハ!大丈夫だよ!」
フレディアはそう言うと、あらかじめギルドで作成してもらっていた、『依頼許可書』を管理人に見せました。
「なんじゃ、これは?」
許可書には、フレディアがSランク冒険者である事を証明する内容と、ギルドが魔物の討伐を依頼した内容が書かれていました。
「なんと!あんたがバズエルから国を救ったという!?」
「ささ、どうぞ、そうぞ!」
管理人は、慌ててダンジョンへの立ち入りを許可してくれました。
「じゃぁ、行くよ!」
フレディアの号令で、ロックがゴーレムを作成しました。
「グオ~~~~ッ!!」
「「「「ひえ~~っ!!!」」」」
突然出現した、身長2メートルもある戦士の姿をしたゴーレムが咆哮を上げると、周りにいた冒険者たちは驚きのあまり、腰を抜かしそうになっています。
今回は爆弾を投げる魔物と言う事で、ロックは騎士ではなく、大きな盾を持った戦士タイプのゴーレムにしています。
「あわわ・・・」
「あれを作った冒険者は、Eランクだったよな?!」
管理人のおじさんは驚きすぎて、椅子から転げ落ちていました。
「よし!さっさと中に入ろうぜ!」
急いでダンジョンの中に入ろうとするロックを、ポンポンがからかいます。
「いしし・・・。ロックよ、モテモテじゃったのぉ!」
「あの冒険者たちを待たなくてもよいのか?」
「キャハハ!ロックのお母さんって、美人だもんね!」
「良かったね!ギリガンに似なくて!」
「うふふっ、それにロックって、不機嫌な顔がすごく色っぽいのよね~」
「わたくし、羨ましくて嫉妬しちゃいそうですわ~!」
「あわわ、ルナ様まで・・・」
ゴン!ガン!ボコ!
「ロック、しっかりして!」
ロックの作ったゴーレムが、フラフラとあちこちで頭をぶつけているのを見たシルヴィーが、心配して声をかけました。




