第五十伍話 アンデッドの王モルグデウス
カーナの報告で、天界は大騒ぎになりました。
「その漆黒の騎士が、もうすぐモルグデウスが復活すると申したのだな?!」
「あい!」
「分かった!至急地上を偵察している天使を、ここへ呼んでまいれ!」
ダレス様は事の真意を確かめるべく、地上の調査隊を呼び出しました。
その間にカーナは、みんなが騒いでいるモルグデウスの事を尋ねました。
「ダレス様、そのモルグデウスとは何者なのですか?」
「うむ、その者はアンデッドの王と言われる、恐ろしい魔物でな・・・」
「遥か昔に、我々が苦労して海の底に封印したのだよ」
「場所はたしか・・・」
「デプロス王国の西の海ですわ!」
「湾になった海底の奥深くに、連環の結界を張って沈めております」
ルミナテス様が答えました。
「おぉ、そうであったな!」
「ザキュエルのヤツめ、それを解放しようとしておるのか!」
「あの、大バカ者めが!」
「あっ!こ、これって?!!」
ダレス様が怒りを込めてザキュエルを罵った時、ルミナテス様が何かに気付いて、大きな声を出しました。
「アトラーの予言、第二節の事では?」
そう言うと、ルミナテス様はアトラーの予言、第二節を読み上げました。
「邪悪な影がデプロスの地に落ち、再び光と闇を取り戻しとき、封印されし魔城の扉は開かれ、破滅の時が動き出すであろう」
「そうですわ!これは予言書にある封印された城『マドロ』の事だったのですわ!」
「そうか!これは不味い事になったぞ!!」
ダレス様がそう唸った時、地上を偵察している天使数名が急いでやって来ました。
「ダレス様、お呼びでしょうか!?」
「うむ、お前たちに聞くが!」
「デプロス王国の西の海に沈む、海底の城マドロの事は把握していなかったのか?!」
怒気を含んだ声に、聞かれた天使は怯えながら答えました。
「そ、それが・・・」
「あの辺りは魔物どもの警戒が厳しいうえ、周囲には重力による壁が張られているため、容易に近づく事が出来なかったのです」
「馬鹿者!何故それを怪しいと思い、報告しなかったのだ?!」
「ひ~~っ!」
ダレス様は大声で怒鳴り、天使はすっかり怯えてしまいました。
「ダレス様、ザキュエルが自ら警護しているとなると、もはやマドロの封印が解かれることを前提に、対策を練らなければ・・・」
ルミナテス様が、ダレス様に落ち着くように促しました。
「うむ、すまぬ!つい熱くなってしまったわ!」
そう言うとダレス様は、報告に来た天使を下がらせました。
その様子を見ていたカーナが、ダレス様に質問をしました。
「あの、ダレス様・・・」
「その海底の城マドロって、一度封印しているのですよね?」
「うむ、そうだ!苦労して封印したのだぞ!」
「だったら、封印が解かれても、また同じように封印すれば良いのでは?」
「カーナよ、それが出来ぬから困っておるのだ」
「そうなのですか?」
「もう同じ手では封印が出来ないと?」
「うむ、なにしろマドロを封印したのは、光の・・・」
「ダレス様!!」
封印の事を話しかけたダレス様を、ルミナテス様が慌てて止めました。
「あっ!」
「カ、カーナよ、とにかく封印をした神が、いまは不在でなぁ!」
「そ、それで困っておるのだよ!」
「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」
「ふ~ん、そうなのですね・・・」
歯切れの悪い答えにカーナは少し引っかかりましたが、相手は大神ダレス様なので、それ以上の事を聞くのを諦めました。
すると今度はオリビアが、別の質問をしました。
「そのモルグデウスっていうのは、そんなに厄介な魔物なんですか?」
オリビアの質問には、ルミナテス様が答えてくれました。
「それはもう!これ以上にないぐらい厄介な魔物ですわ!」
「モルグデウスは、アンデッドの王なのです」
「つまり、あの者は人でも魔物でも、死んだ者を操る力を持っているのです」
「えっ!それって、墓場から腐った死体が出てくるやつ?」
「そうですよ、骨だけでも出てくるわよ~」
「しかも既に死んでいるので、普通に倒してもすぐに復活するのですよ」
「うわっ、それめちゃくちゃ気持ち悪いやつやん!」
ゾ、ゾ、ゾ~ッ・・・
「ほら、これ見てみ?!」
オリビアは話を聞いて思わず鳥肌が立ったようで、カーナに自分の腕を見せています。
「それだけではありませんよ、呪いの力で生者をも操る事ができるのですよ」
「しかも厄介な事に、モルグデウスは不死身なのです」
「いや、それは絶対に出てきたらアカンやつやわ!」
「そうなのです!」
「絶対に出てきたらアカンやつが出て来ようとしているのです!」
ここまで言うと、ルミナテス様は困り果てて、頭を抱え込んでしまいました。
その様子を見たダレス様は、ここで一度会議を中段する事にしました。
「よし!ここで少し休憩をするとしよう」
「2時間後に会議を始めるので、各自考えを整理しておくように」
そう言うと一旦会議を終え、ダレス様はルミナテス様を含む数人の神様と一緒に、別室へ移動しました。
別室に集まったのは、ダレス様とルミナテス様、そして技術と創作の神様、恋を取り持つ神様の4人です。
そして、ここでダレス様が重大な発言をしました。
「ルミナテスよ、アトラーの予言の第三節の事なのだが・・・」
『だが至らぬ者が手にした時は、救いはわが友にあり、光と闇に守られし隠された友を尋ねよ。さすれば道は開かれん』
「これは、あの御二人の事ではないのか?」
外の者に聞かれぬよう、慎重に小声でルミナテス様に尋ねました。
「ダレス様も気づいておられたのですね?」
「カーナさんの言った、漆黒の鎧の騎士の事を・・・」
「恐らく、闇の支配者の手の者で間違いはないようですな」
技術と創作の神様も、ダレス様の意見に同意しました。
「うむ!やはり、そうか・・・」
ダレス様は、腕を組んで唸りました。
「ですが、いったいなぜ使いの者なのでしょう?」
「御本人が手を貸してくだされば、モルグデウスなど・・・」
「いや、いや、それは出来ぬでしょうな!」
「ダレス様の妻である、レトナ様の事がありますゆえ」
「あっ!」
恋を取り持つ神様の言葉で、ルミナテス様は慌てて口を手でふさぎました。
「すまぬな!本人もそれがあるから、密かに使いの者をよこしたのであろう・・・」
「とにかく、これはあの御方が我々にモルグデウスの復活を知らせてくれたのだ」
「その恩に報いるためにも、早急に手を打たねばならん!」
ダレス様が沈痛な面持ちで答えました。
「その件じゃが・・・」
「やはり頼れるのは、光の魔法を使えるフレディアしかおらぬじゃろうな!」
技術と創作の神様が、難しい顔で答えました。
「不死身のアンデッドを倒すのは、聖なる光りの力で浄化するしか無いのだな?!」
「しかし、まだ幼いフレディアに全てを託す訳にはゆくまい」
「もし、フレディアの身に何かあれば、それこそ大変な事になってしまう!」
ダレス様もフレディアの力を認めていますが、まだ幼いため心配のようです。
「さよう、ですからここは、フレディアの仲間に頑張ってもらうしかありますまい」
「スクラップ様、何か良い案でもおありなのでしょうか?」
ルミナテス様が技術と創作の神様に尋ねました。
「まず、聖なる泉に宿る、涙と水の女神『セレスフィア』の力を借りる事じゃ!」
「あの御方が住まう聖なる泉の水は、亡者を浄化する力があるのでな」
「うむ、聖水でアンデッドを消滅させると言う訳じゃな」
「モルグデウスには効かぬが、奴の操るアンデッドには有効な手段ではあるな!」
ダレス様は大きく頷きました。
「じゃが問題は、その女神セレスフィアの居所なのじゃよ・・・」
技術と創作の神様は、難しい顔をして言いました。
「そう言えば、天界にはおられませんね?」
「わたくしは、むかし一度だけ神殿でお会いしただけですわ!」
「いまはどちらにおられるのかしら?」
ルミナテス様があごに手を当てて考え込んでいます。
「いや、まてよ・・・」
「むかし女神セレスフィア殿から、役目の話を聞いたことがあるぞい」
恋を取り持つ神様が、女神セレスフィアから聞いた役目の事を思い出しました。
聖なる泉に宿る、涙と水の女神・・・。
流された涙の記憶をすべて保存しており、泉に身をひたした者に『忘れてもいい痛み』と『忘れてはいけない記憶』を静かに仕分けて返すといわれています。
その神殿は戦場跡や多くの人が亡くなった場所の近くに建てられ、鎮魂と癒しの守護者として信仰されていると言われています。
「そうじゃ、むかし火山の爆発で多くの人が亡くなった、ロファ王国の最南端の地に神殿が建てられたと聞いておるぞ」
「たしかフォルカノス火山の爆発じゃったかのぉ」
「おぉ、では早速天使たちに場所を探させよう!」
ダレス様は急いで天使を呼び寄せ、大至急捜索するように命じました。
「それと、わたくしも一つ思い出しましたわ!」
「聖職者が使う回復魔法を反転させた、リバース・ヒールという魔法書があると聞きました」
「おぉ、そうであった!」
「通常は回復魔法だが、対象がアンデッドなら回復量分のダメージを与え、広範囲回復を使うと、味方は回復し、敵アンデットは同時に消し飛ぶ魔法であったわ!」
「この魔法書を地上の聖職者に与えるよう、教会へ手配するとしよう!」
ダレス様は、これも急いで教会の司祭へ通達するよう手配しました。
「それとフレディアの仲間に、神の加護を授けてはどうじゃな?」
「魔法の使える者なら、その属性の神の加護があれば、大幅に力が増しますぞ」
技術と創作の神様が、ダレス様に進言しました。
「うむ、それは良い考えであるな!」
「えぇ、神自身は地上への干渉は出来ませんが、それなら大いに助けになりましょう」
ダレス様もルミナテス様も、技術と創作の神様の意見に賛同しました。
「そして、モルグデウスによって支配された、闇の心を解き放つ方法が一つだけありますぞ」
「まぁ、その様な方法があるのですか?」
ルミナテス様が、身を乗り出して尋ねました。
「うむ、水の女神セレイヤ殿の持つ『悲劇のハープ』じゃ!」
「このハープの音色は、心清き者が奏でると、闇に支配された心を浄化すると言われておりますのじゃ」
「ただし!悪しき心を持つ者が奏でると、心を闇で支配すると言われておるので、注意が必要ですがな」
「うむ!セレイヤがフェルゼナの塔で、フロイドに守らせていたハープだな!」
「さっそくセレイヤに申して、悲劇のハープを仮受けよう!」
こうして、今後の対策の方針が決定付けられたのでした。




