第五十二話 アルサンドラの奪還(三)
北の門へ向かったポニーとコローニは、どちらも接近戦が得意な武闘家と槍使いで、しかもお互いBランクの冒険者なので、おのずと競争心が生まれるようです。
「ねえ!どちらがたくさん敵を倒すか勝負しない?」
ポニーが自信満々にコローニに言いました。
(おっ!この子、かわいい顔なのに言うねぇ~!)
「いいぜ!何を賭けるんだ?」
コローニも自信満々で答えます。
「う~~~ん、そうねぇ・・・」
「何を賭けようか・・・」
「あなたは、何がいいの?」
「お、俺かぁ・・・」
どちらも何を賭けるのか、すぐには思いつかずに悩んでいると、先に合図が上がってしまいました。
ポン!
「あっ!それは勝負が決まってからね!」
「えっ?!」
合図と同時にポニーは北の門を守る魔物の群れ、およそ50匹の集団に向かって突撃して行きました。
「うわっ!負けたら何を要求されるか分かんねえじゃん!!」
コローニも慌てて魔物の群れに突撃して行きます。
ポニーは以前使っていた鋼の爪から、今はミスリルで作られた爪『ミスリルクロー』で、敵の魔物を切り裂いて行きます。
一方のコローニも、Bランク昇格時に大金を払って買い替えた、ミスリルの槍で大暴れしています。
どちらもお互い譲らず本気で戦ったので、魔物を全滅させるのに、それほど時間はかかりませんでした。
二人の勝負の結果は、また後ほどお話をする事にして、南の門ではキャノンガールズの武闘家のティアと、スターバーストのリーダーでAランク剣士のリオンが、メアリーからの合図を待っていました。
ティアの武器はチャクラムと言う、直径40センチ程度の、外周が刃になっている金属の輪を2つ使って攻撃します。
リオンはその武器を見るのは初めてですが、バズエルとの戦いでティアとチームを組んだスターバーストの他のメンバー達が、彼女の華麗な戦いぶりを褒めていたので、とても興味がありました。
「あの、その武器って、どう使って戦うのかな?」
「あらっ、見た事がないの?」
前に何度か一緒に戦った事があるので、ティアは意外そうな顔をしています。
「あぁ、仲間の連中は君と『炎の塔』で一緒だったから」
「すごくカッコ良かったって、俺に自慢するんだよ」
「俺はその時は『水の塔』で戦っていたので、だから俺も気になって・・・」
「うふっ、分かった!合図があったら見せてあげる!」
「だから、あわてず、ゆっくり見てから戦ってね!」
ポン!
「じゃあ、お先に!」
「あぁ、気を付けて!」
合図とともに飛び出したティアは、魔物の群れに向かって左手のチャクラムを投げました。
投てきされたチャクラムは、ブーメランのように円を描きながら、魔物の首を刎ねてティアの元へ返ってきました。
接近戦になったティアは、両手のチャクラムで、まるで踊るように優雅に舞いながら敵を次々に屠って行きます。
その美しい踊りで敵を屠ることから、彼女についた二つ名は『死の舞姫』と呼ばれているのです。
「すげ~~っ!」
あまりにも優雅に敵を倒す姿に、リオンはすっかり魅了されてしまい、しばし我を忘れて見惚れていました。
「はっ!いかん、いかん!」
「ボ~っとしている場合か!」
我に戻ったリオンは、慌てて攻撃に参加しました。
残る最後の西の門は、ロックファイターズのAランクの魔法使い、スージーの持ち場です。
いくらAランクといえど、かよわい女性の魔法使いですので、メアリーは不安に思っていました。
見張り台から合図を送ったメアリーは、急いで西の門へ向かいました。
そして到着したメアリーは、スージーの姿を見て驚きの声を上げました。
「あっ!こ、これは!?」
「まさか、こんな事になるなんて!?」
「たいへん!たいへん!」
門に到着したメアリーが目にしたのは、うん、うんと唸りながら、必死に門のかんぬきを持ち上げるスージーの姿でした。
メアリーは慌てて手伝いに行きました。
「ふぅ~!」
「このかんぬき、重たくてぜんぜん動かないのよ!」
スージーは、顔を真っ赤にしてぼやきました。
門の周りには50匹ほどの、顔だけ地面から突き出した魔物が、ギャ~ギャ~と喚いています。
「「せぇ~~~の!!」」
ガコン!!
二人がかりで、ようやくかんぬきを外して門の扉を開けると、怒涛の勢いで解放軍がなだれ込み、魔物の顔を踏みちゃんこにして町の中へ突撃して行きました。
「スージーお疲れ様!」
「いや~、ここ最近で一番きつい戦いでした~!」
力尽きて座り込んだスージーに、メアリーは肩を揉みながら労いの言葉をかけました。
東西南北、全ての門が開放され、町になだれ込んだ解放軍の働きで、アルサンドラの町にいた魔物はすべて排除されました。
そして町に沢山の物資が運び込まれ、以前の平和な町を取り戻したのでした。
翌日町の集会場に集まった今回の功労者の中に、難しい顔をしたコローニと、ニコニコした顔のポニーが同じテーブルに座っていました。
ちょうど通りかかったマルティーが、珍しい組み合わせが気になったようで、二人に声をかけました。
「ポニー、何かいい事でもあったの?」
「いやぁ~!昨日の戦いでさぁ、魔物を倒した数を彼と勝負したんだけどぉ~」
「僅差で負けちゃったのよ!」
「えっ?勝ったんじゃなくて、負けたの?」
(なんで、ニコニコしているの?)
「そっ!」
「で、彼がいま何を賭けるのか、考え中なのよ~」
「あ~っ!それでコローニが難しい顔で悩んでいるって訳ね・・・」
(いひひっ!これ、おもしろそうじゃん!)
いたずら好きのマルティーは、ノリノリで一枚噛んで来ました。
「ふ~ん・・・。そうねぇ!女の子に変な要求は出来ないものね~」
悩むコローニを見て、マルティーがニヤニヤと笑いながら言いました。
「へ、変な要求って、なんだよ?!」
コローニが口を尖らして、マルティーに文句を言います。
「ひっ、ひっ、ひっ・・・」
「エッチな要求とか?」
「バ、バカ!変なこと言うな!」
コローニは、顔を真っ赤にして怒りますが、マルティーは平気です。
「じゃぁ~!あたしが良い案を考えてあげようか?」
「な、なんだよ!」
「一応聞いてやるよ!」
「ポニーとあたしを、しゃれたお店のディナーに招待するの!」
「もちろん、コローニのおごりでね!」
「あっ!それいいかも!!」
「でしょ?!」
ポニーもマルティーの提案に大賛成ですが、コローニの方は良い訳がありません。
「いや、待て、待て!」
「勝負に勝った俺がおごるのかよ?」
「しかも、なんでマルティーも入っているんだよ!」
「あ~っ!そんなダサいこと言う訳?」
「だからコローニはダメなのよ!彼女いない歴何年かしら?」
「えっ?そ、それは・・・」
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」
「!!!」
「いや、いや、それはいま関係ないだろう!」
「バカね~!こんなカワイイ女の子二人と、食事をするチャンスを無駄にするなんて!」
「これって、あなたの人生で一度でもあったの?」
「い、いや、ねえよ、そんなの・・・」
「あたしたちは、あなたの人生に花を添えてあげるのよ?」
「ねっ、ポニーもそう思うでしょ?」
「いいよ!コローニって、けっこう男前だしね!」
「やったじゃん、コローニ!」
「ポニーもそれでいいって!」
「うわ~~!もう訳分かんねえ!」
「それでいいよ!好きにしてくれ~~!!」
「「やったー!」」
結局コローニは勝負に勝って、賭けに負けてしまったようです。




