第五十一話 アルサンドラの奪還(二)
魔物がアジトにしている大きな宿屋の前まで来ると、カーナはカレンと腕を組み、風の魔法で二階の高さまで舞い上がりました。
窓には鉄格子が取り付けられていました、それをカレンはムチの一振りで破壊しました。
ガシャーン!!
部屋に閉じこめられていた町の人達は、大きな音で破壊された窓を見て驚きましたが、そこからカレンとカーナの姿が現れると、安心して駆け寄ってきました。
「みんな大丈夫かい?」
「今からオレ達が町を取り返してやるから、安心してこの部屋にいてくれ」
「カーナ、この人たちを頼んでいいかい?」
「うん、でもカレン一人で大丈夫?」
「はははっ、もちろんだとも!」
カレンは一笑に付すと、鍵のかかった扉の前まで行きました。
その頃一階の大広間では、砂漠に生息するトカゲの魔物『サンドリザード』や『ハイオーク』などが酒を食らって騒いでいましたが、二階から大きな物音がしたので、サンドリザードの隊長格が、手下に様子を見に行くように命じました。
「おい!二階が騒がしいぞ!」
「行って静かにさせて来い!」
「一匹ぐらいなら殺しても構わんぞ!替えの奴らは沢山いるからな!」
「ギャハハ・・・」
見張り役の魔物三匹が、剣を取って二階へ駆け上がって行きました。
ガチャ、ガチャ・・・
ギィ~ッ・・・
「おい、クソ共が何を騒いでいやがる!」
扉を開けて中を覗いた魔物に、容赦ないカレンのムチの一撃が炸裂します。
ピシ~~~ッ!!
「ギャッ!」
袈裟懸けに打たれた先頭のサンドリザードの肉がはじけ飛び、その場に倒れました。
「ゲゲッ!て、てめえは・・・」
ピシ~~~ッ!
最期までしゃべる間もなく、二匹目の魔物の首がどこかへぶっ飛んで行きます。
「ヒ~~~ッ・・・」
ピシ~~~ッ!
三匹目の魔物も、頭を砕かれて即死しました。
カレンは、死体の横に転がっている剣を拾うと、手に取ってまじまじと見つめました。
そして漆黒の騎士の言葉を思い出します。
『ムチではダメだ!』
『強くなりたければ、ムチを捨てて剣を取れ!』
「ちくしょう!なんでだよ?!」
カレンは手に持った剣に、自身のインドラの雷撃をまとわせてみました。
ヴ~~~ン・・・・
剣は青白い輝きを放っています。
それはムチにまとわせた時より、明らかに明るく輝いていました。
カレンはその状態で、剣を水平に振ってみました。
ヒュン!!
すると青白い斬撃が剣から飛び出し、前方の柱をスパッと切り裂きました。
「おっ!何か飛び出たな?」
不思議に思ったカレンは、もう一度剣を見てみると・・・。
「なんだ、こりゃ?」
手にした剣の刃が溶けて、ボロボロになっていました。
ポイッ!
カレンは手にした剣を投げ捨てると、ゆっくりと階段を下りて一階へと進みます。
一階では呑気に酒を飲んでいたサンドリザードの隊長格が、階段を下りてくる気配に気づき、大声で怒鳴りました。
「奴らは何を騒いでいたのだ?!」
「一匹ぐらい、ぶっ殺したのかよ?」
「いや、殺したのは3匹だ!」
「で、次はお前らの番だよ!」
「はぁ?てめえ何を・・・・」
ピシ~~~ッ!
ピシ、ピシ、ピシ~~~~ッ!!
階段を降り切ったカレンは、手前のテーブルで酒を飲んでいたハイオーク4匹を、あっという間に血祭りに上げました。
「ゲゲッ!てめえは一体どこから・・・」
バリ、バリ、バリ~~ッ!!
サンドリザードの隊長格の頭に雷が落ち、一瞬で真っ黒こげになって倒れます。
「「「うお~~~っ!なんだコイツは~~?!!」」」
魔物の憩いの場であった宿屋の一階は、阿鼻叫喚の地獄絵図と変って行きました。
カレンの容赦ない鉄槌が、そこにいるすべての魔物に下されたのです。
宿屋の二階では、一階から聞こえてくる魔物の叫び声や、断末魔に怯えた町の人たちが、身を寄せ合ってガタガタと震えていました。
「大丈夫だよ、怖がらなくても」
「もし魔物がここへ来たら、あたしがやっつけるから!」
「でも、たぶんそれは無いかな・・・」
カーナは風の防壁を作って、町の人に安心するように言い聞かせていました。
カレン達と別行動のメアリーは、計画通りに真っ先に見張り台の魔物6匹を、毒のダガー『風斬り丸』で、次々と抹殺して行きました。
暗闇の中から影のように姿を現し、喉元を切り裂かれた魔物は、たとえその存在を確認出来ても、一言も声を発せず倒されて行きます。
シーフーのメアリーの、最も得意とするのが暗殺なのでした。
見張り台の魔物を始末したメアリーは、小さな火炎玉を空に向かって打ち上げました。
ポン!
小さな火の玉が上がったのを確認したメアリーは、風斬り丸の血をぬぐいながら四方にある門を見回しました。
「さて、他の仲間はうまくやるかな?」
「そうだ、西の門へはスージー一人だけだったね!」
「じゃぁ、私はそっちの応援に行くとするか・・・」
そう呟くと、スージーは暗闇の中に溶け込んで消えました。
マウロとマルティーは、巡回している魔物の警備兵を警戒しながら、東の門へ向かいます。
東の門には松明が赤々と燃やされ、40匹ほどの魔物が警備をしていました。
「この程度の人数なら、合図があれば俺は一気に斬り込んでいくよ」
「オッケー!あたしは弓で援護するからね!」
そう言って合図の火炎玉を待ちました。
ポン!
「よし!行くぜ!」
合図を見た瞬間、マウロは自慢のムーンリットソード『月明かりに照らされた剣』をスラリと抜き、門を守る魔物に攻め込みました。
パシュッ!パシュッ!パシュッ!・・・
そしてマウロが敵に斬りかかる間に、マルティーはものすごい早業で、既に敵兵5匹を矢で射殺しています。
「ふふ~ん!どうよ!!」
マルティーはニヤッと笑うと、次々と矢を放って行きます。
町の中からの襲撃に驚いた魔物どもは、慌てて戦闘態勢に入りますが、もはや二人の敵ではありません。
応戦らしき事をする暇もなく、次々と倒されて行きました。




