第四十伍話 パステルの町の戦い(三)
隊形を取り戻した西の門の兵士達ですが、依然大暴れするマッドサーペントには、手も足も出せず、ただ遠巻きに見守っているだけでした。
「ルナよ、手助けは無用じゃ!シルヴィーもじゃぞ!」
「はい、はい!がんばってね、ポンポン!」
「ポンポン、しっかりね!」
「うむ、任せておくのじゃ!」
見守る兵士たちの先頭に立ったポンポンは、ルナとシルヴィーに手を出さないように言うと、サモンの杖を振りかざし、詠唱を始めました。
頭上に黒い霧が発生し、グルグルと渦を巻き出しました。そしてプラズマの発生と共に、渦の中心から何かが飛び出てきました。
ポン!
出て来たのは、身長30センチほどの小さな妖精です。
長い金色の髪に白い花が飾られ、深い緑の瞳に、背中には透き通った二対の羽が生えています。
薄いピンクのワンピースが良く似合う、とても美しい女性の妖精でした。
「まぁ!なんてかわいらしいの?!素敵ですわ~!」
「いやん!かわいい!!」
ルナもシルヴィーも、ポンポンが呼び出した妖精にメロメロになっていますが、それ以外の兵士たちは、どんなすごいモノが出てくるのかと期待していただけに、拍子抜けしたようで、中にはクスクスと笑う者もいました。
「リーファよ!遠慮はいらぬぞ!」
「やっつけてもいいの?」
「もちろんじゃ!」
「あの汚らわしい魔物に、わしらの力を見せてやるのじゃ!」
「わかった!」
返事と共に、リーファの身体の輝きが増しました。
「ルート!」
銀の鈴のような澄んだ声で一声叫ぶと、地上から無数の木の根が飛び出して、マッドサーペントの体に絡みつきました。
そして、絞り取るように、すごい力で体を締め付けて行きます。
「グゴ~~~!!!」
ギリギリと体を締め付けられたマッドサーペントは、苦しそうにうめき声を上げますが、身動きが取れません。
そしてリーファは、また別の言葉を叫びました。
「スパイン!」
体を縛った根から一斉に鋭いトゲが飛び出て、マッドサーペントを串刺しにしてしまいました。
「グギャ~~~!!!」
全身から鮮血を吹き出し、悲痛な叫び声をあげながら、魔物はその場で絶命しました。
「「「「「うわっ!!」」」」
「え、えぐい・・・」
リーファの見た目のかわいらしさからは想像もできない、むごたらしい残酷な攻撃を見た兵士たちは、あまりのギャップに全員凍り付いてしまいました。
しかも、攻撃はこれで終わりではありません。
「こっちへおいで!」
リーファが近くにある大きな木に向かって呼び掛けると、沢山の木の葉が一斉にリーファの元へ集まって来ました。
そして集まった木の葉は、グルグルとリーファの周りを円を描いて回ると、すぐに鋭い刃に変わって行きます。
「やっつけちゃえ!」
リーファの合図で一斉に、魔物共の元へ飛んで行きました。
「「「ギヤ~~~~ッ!!!」」」
無数の木の葉の刃に切り刻まれ、次々と魔物の群れが倒れて行きます。
その様子を見たルナが、ポンポンとシルヴィーに言いました、
「わたくしを川の前まで連れて行ってくださる?」
「うむ、心得た!」
「了解ですルナ様!」
それまで黙って見ていたシルヴィーが、返事と同時にルナの前に立ち、レイピアに風の魔法をまとわせ攻撃を始めました。
「スラッシュアタック!」
彼女のレイピアから放たれた風の斬撃が、次々に立ち塞がる魔物を斬り倒してゆきます。
ポンポンとシルヴィーの攻撃で、もうルナの歩みを止めるモノはありません。
ルナは川岸に立つと、川に向かって祈りを捧げ、そして高々と両手を上げました。
すると川の水がどんどんせり上がり、川岸に沿って幅1キロメートル、高さ10メートルを超える巨大な津波を作り出しました。
そして今度は、両手を前に押し出すように振り下ろします。
ゴオ~~~~~・・・・・・・
巨大な津波が一気に船団を襲います。
デプロス王国の船団は津波に飲み込まれて沈没するか、あるいは遠くの沖まで押し戻されて行きました。
さらにルナは、沖に押し戻された船団の近くに巨大な渦巻きを作り出し、次々に船を沈めて行きました。
(す、すごいわ!これがSランク冒険者に匹敵するルナ様の実力・・・)
シルヴィーはあまりのすごさに、茫然と立ち尽くしています。
一方ポンポンは、相変わらず機嫌の悪そうな顔で、腕を組んで見ています。
ムス~!
「リーファよ、わしらも、もっと強くなねばのぉ!」
「次こそは主役を取って見せるのじゃ!」
「ふぁ~~ぁ・・・」
リーファは眠そうに、あくびをしました。
これでこの度の戦いの勝利が、決定的なものとなりました。
この様子を空中から見ていたフレディアは、攻撃を止めて地上に降りました。
後はみんなに任せても大丈夫と判断したようです。
そこへ大声で叫びながら、副ギルドマスターのサントスが怒涛の勢いで駆けてきました。
「フレディア様~~~~!!!」
「ありがとうございます~~~!!!」
フレディアの両手を取ると、サントスは涙を浮かべながら、これ以上にないほどの笑みで、握り締めたフレディアの両手をブンブンと振っています。
「キャハハ!」
「少し遅れてしまって、ごめんね!」
「とんでもございません!」
「このサントス、このご恩は一生忘れませんぞ!」
「あっ、そうだ!」
「実はねぇ、わたし達ここへギルドの入会試験を受けに来るつもりでいたのよ」
「そしたらオリビアがこの事を知らせてくれて、急いで来たってわけ!」
「あぁ!この前事前審査を受けられた方々ですね?」
「そっ!」
「でね、この状況じゃ実技試験は無理だと思うのよ」
「確かに、そうですな」
「でもね、ちょうどいま敵と戦っているでしょ?」
「えぇ、皆さん信じられないほどお強いです!」
「だから、これを実技試験の代わりにして欲しいのよ!」
「なるほど!承知いたしました!」
サントスは大きくうなずくと、改めて戦場の状況を確認しました。
最初に見たのは、東の門で大暴れしているロックです。
ロックは2メートルの巨体のゴーレム2体を操って、敵の魔物をボコボコにしています。
「な、なんちゅうゴーレムマスターじゃ!」
「あんな精巧な形のゴーレム、しかも2体を同時に操るなど、見た事がありませんぞ!」
「キャハハ!ロックのゴーレムって、カッコいいよね!」
「でも、ロックは事前審査を受けてないのよね~」
「いや、そんなのはどうでもよろしいですわ・・・」
「明らかにCランク超えの実力がありますので・・・」
次に目にしたのは、西の門で暴れているポンポンとシルヴィーです。
「あ、あの小さいお嬢さんは召喚士なので?」
「そだよ!」
「それでお嬢さんが召喚しているのは・・・」
「ポンポンが契約している、聖光樹の妖精リーファだよ」
「ゲッ!よ、妖精と契約を結んでおるのですか?!」
「しかも、名前のある妖精ですと?!」
「そだよ!聖光樹って、ゆくゆくは世界樹になるかも知れないって言われている樹なんだって!」
「だからリーファは、もっと、もっと強くなるよ!」
「さ、さようですか・・・」
(ダメだ、わしの知識の範囲を完全に超えておるわ・・・)
「もう一人のお嬢さんは、魔法剣士ですかな?」
「うん、風の魔法を使うよ」
「いや、とても優秀な戦い方をされておりますな!」
「まるでお手本のような、無駄のない素晴らしい動きをされておりますぞ!」
「キャハハ!シルヴィーはまじめだから!」
「で、試験の結果は?」
「け、結果ですか?」
(こんなの試験の範疇を完全に超えとるがな・・・)
「フ、フレディア様、皆さんCランクを超える強さなのですが・・・」
「ギルドの規定で、初めはEランクからスタートと決まっておりますので・・・」
「あの、それでもよろしいでしょうか?」
「キャハハ!」
「じゃぁ、みんな合格なのね?」
「もちろんでございます!」
「それと、依頼を達成して100ポイント貯めれば、次の昇格試験が受けられるのですが、今回の戦いは100ポイントどころではありません」
「ですから、また次の機会にいつでも昇格試験を受ける事ができますので!」
「うん、分かった!」
「じゃ、怪我をした人の治療をしてくるから、また後でね!」
そう言うとフレディアは、怪我をした人を捜しに空へ舞い上がりました。




