第四十四話 パステルの町の戦い(二)
ヘーベル歴250年7月25日
開戦の火ぶたが切って落とされました。
デプロス王国の船団200隻が、パステルの町の港に押し寄せました。
対するロファ王国の戦力は、パステルのギルドの冒険者が50名と、町の駐在兵と義勇兵を合わせて約120名です。
まだ他のギルドと国王軍の応援はなく、圧倒的な数の差がありましたが、パステルのギルドの戦闘力は高く、開戦から4時間経ちますが、未だ敵船の上陸は許してはいません。
急ごしらえで作った防壁の上から、弓隊による火炎弾の攻撃で、岸に近づく船を次々に爆破していきます。
ただ厄介な事に、船に乗っている多くの敵が泳ぎを得意とする水棲の魔物のため、船は壊せても、敵の数は思うように減らす事が出来ていません。
そのうちまとまった数の魔物共が、泳いでこちらへ向かって来たため、副ギルドマスターのサントスが、新たな指示を出しました。
「このまま大群で防壁をよじ登られては、弓隊がひとたまりもない」
「弓隊を守るため、防壁の門を開けて中に引き入れるぞ!」
「剣士と戦士は、迎撃の準備を!」
あらかじめ肉弾戦になる事を想定し、一度に大人数が通れないよう幅は狭く、通路を長くした門が、三カ所に設けられています。
「うお~~りゃあ~~!!」
その内の一つ、中央の門の入り口ではモヒカン刈りのレプロが、大ハンマーを振り回して、入って来た魔物を片っ端からぶっ飛ばしています。
頭はあまり良くはありませんが、さすがにパステルのCランク冒険者ともなると、そこら辺の魔物では相手になりません。
サントスに言われた通り、思う存分暴れまわっています。
残り二つの門、東の門はギルドの冒険者たちが頑張って守っています。日頃から実戦で鍛えた猛者ばかりなので、そう易々と町の中には入れさせません。
西の門では、駐在兵と町の義勇兵が果敢に戦っています。
こちらは数に物を言わせ、必死に防いでいました。
陸上戦が始まって2時間あまり経ちました。
全員の頑張りで、何とか突破されずにいましたが、それでもさすがに数に押され始め、そろそろ限界が近づいて来ています。
そんな所へ、巨体なカニの化け物モロークラブが現れ、大きなハサミで門を防壁ごと破戒し始めました。これ以上門を広げられては、一気に敵がなだれ込んで来ます。
「くそっ!もはやこれまでか!」
サントスも、そろそろ限界に来ている事を悟りました。
そんな時です、夜を徹して助けに駆け付けたフレディア達が、ようやく到着しました。
「あっ!大変!もう始まっているわ!」
バスケットの中からフレディアが叫びました。
「これ、すぐに助けへんと、ちょっとヤバイんとちゃう?」
オリビアも、これは不味い状況だと判断しました。
見ると港に設けられた防壁も、崩れ落ちる寸前にまで破壊されて、上にいた弓隊も撤退を始めています。
川岸には船団の船が次々に到着し、続々と魔物が上陸を初めていたのでした。
「わたしとオリビアは、天使の姿に顕現して先に地上に降りるね!」
「フロイド、他のみんなを町の中に降ろしてくれる?」
「わかりました!気を付けて行くのですよ」
「じゃっ!よろしくね!」
そう言うと、フレディアとオリビアは天使の姿に顕現し、地上へと降りて行きました。
地上ではモロークラブが巨大なハサミを振り回して、中央の門を壊しまくっていました。
その化けガニの前に、頭に来たレプロが立ちふさがります。
「このクソガニがぁ~!」
「いい加減にしやがれ!!」
レプロは大ハンマーを振りかぶり、果敢にもモロークラブに突進して行きましたが、大きな爪の一振りで吹き飛ばされてしまいました。
ドッカ~~~ン!!
ガラ、ガラ・・・
「イッテ~!!」
「なにしやがる!この化けガニが~!!」
「ぶっ殺すぞ!!」
口では威勢のいいことを言っていますが、モロークラブの一撃で防壁に叩きつけられ、立ち上がれなくなったレプロは、絶体絶命の大ピンチです。
怒った化けガニが、口から泡を吹きながらレプロに近づいて来ました。
「あっ!ヤベ!!俺死んだかも・・・」
モロークラブが、巨大な爪をレプロめがけて振り下ろそうとした瞬間・・・。
「ギャバ~~~!!!」
巨大ガニは、断末魔をあげてその場に倒れました。
「ええ~~~っ?!!」
何が起こったのか分からず、レプロは驚きの声をあげました。
そして体を起こして見てみると、倒れたモロークラブの先には、閃光の弓矢を構えたフレディアがいました。
「フ、フレディアさま~~~!!!」
「ごめん、ごめん!来るのが遅れたね!」
そう言うと、フレディアはリカバーの魔法で、傷だらけのレプロの身体を治してあげました。
「うえっ、うえっ、ありがとうございます!」
「泣いている暇はないよ、モヒカン!」
「いまからガンガン行くよ~!」
そう言うと、フレディアは上空に舞い上がり、閃光の弓矢で敵の殲滅を始めました。
バシュッ!バシュッ!バシュッ!・・・・・・
「す、すげぇ・・・」
「あれがカレン様のお師匠様の実力!」
鬼人の如き働きに、レプロは、ただ、ただ驚くばかりでした。
そして残りの二つの門でも、魔物に押されて崩壊が始まっていました。
東の門ではフェンリザードの集団が暴れまわり、ジリジリと後退を余儀なくされていました。
「ダ、ダメだ、押し切られるぞ!!」
冒険者の一人がそう叫んだ時でした。
「ちょっと、ごめんね~!」
そう言って一人の美しい女性が、冒険者をかき分けて前に進んで来ました。
もちろん、ただの女性であるはずがありません。
全身から淡い光を放ち、背中には美しい純白の翼があります。
天使の姿に顕現したオリビアが、笑顔を振りまきながら歩いて来ました。
「あっ!あなた様は?!」
驚いた冒険者たちが道を開けると、オリビアは堂々と敵の前に立ちふさがりました。
「グギャ、ギャ、ギャ!」
「なんだ、このふざけた女は!」
「オレ様が叩き斬ってやる!!」
怒ったフェンリザードが、大きな牛刀でオリビアに斬りかかりました。
「「「「うわっ!天使様~~~!!」」」」
冒険者たちが悲鳴を上げた直後、牛刀を振り下ろしたフェンリザードの体が、真っ二つに斬り裂かれ、その場に倒れました。
「「「「えっ?!」」」」
敵も味方も、全員驚きの表情で固まっています。
斬られたはずの天使様は、何事も無かったようにその場に突っ立ち、攻撃した魔物が無残な姿で倒れているのです。
その光景を目の当たりにした魔物たちは、顔を怒りの表情に変えて、次々とオリビアに襲い掛かりました。
たちまちオリビアの周りには、累々と屍の山が積まれて行きます。
「グギャ、ギャ、ギャ!」
「その女に剣で攻撃しても無駄だ!」
「どいていろ!この俺様が殺してやる!」
そう言うと、ひときわ体の大きなフェンリザードが、長い槍をオリビアに向かって投げつけました。
ビュン!!
ドカッ!!
オリビアに向かって投げつけた槍は、倍の速度で魔物の元へ返って行きました。
「グハッ!」
槍に腹を射抜かれたフェンリザードは、血反吐をはいて倒れました。
その直後の事です、オリビアの後ろから2メートルもある騎士の姿をした岩のゴーレムが現れ、魔物どもを蹴散らし始めました。
「グオ~~~ッ!!」
「やっと来たわ!」
「じゃあ、後は頼むで~」
オリビアはそう言うと、その場から離れようとしたので、ロックが慌てて呼び止めます。
「ちょ、ちょっと!オリビアさん、どこへ行くのですか?!」
(こんな所で、オレを一人にしないでよ~)
「あぁ、うちは天使やから、怪我をした人の治療をしてくるわ」
「じゃあな~!」
そう言うと、空に舞い上がって怪我をした人を捜しに行きました。
「じゃあな~って!?」
「あわわ!こりゃダメだ!」
置いて行かれて弱気になったロックは、急いでもう一体のゴーレムを作りました。
これも2メートルある戦士型のゴーレムです。手には岩で出来た大ハンマーを持っています。
「よ~し!行けお前たち!」
「しっかり、俺を守るんだぜ!」
「えっ?自分を守るために作ったのかよ?」
「と、とにかく、すごい助っ人が現れたんだ!魔物を押し返すぞ!」
「「「「おぉ~~~!!!」」」
一事は崩れ落ちると思われたこの門も、どうやら息を吹き返したようです。
さて、もう一つの西の門では、巨大な蛇の魔物マッドサーペントが大暴れし、兵士と義勇兵たちは総崩れとなって逃げ出し始めていました。
このままでは、この門は崩壊してしまいます。
「これ!おぬしら、逃げるでない!」
「ここで戦わずして、何とするのじゃ!」
「えっ?な、なに、この子!?」
逃げ出そうとした兵士たちは、戦えと叱咤する少女に止められて驚いています。
「ふふん!」
「わしが来たからには、もう安心じゃぞ!」
胸をそらして、偉そうに言う少女の後ろで、クスクスと口を押えて笑っている美女がいました。
「あ~っ!この御方は、王子妃のルナ様ではないか!!」
「「「おぉ!ルナ様だ!!」」」
「「「ルナ様が助けに来てくださったぞ!!」」
逃げ出そうとしていた兵士たちも、ルナの姿を見ると一気に勇気づけられ、反撃の構えを取り始めました。
士気を取り戻して流れが良くなったのに、何故か浮かない顔をしている子がいます。
ムス~!
ポンポンはルナを横目で見て、ちょっと機嫌を損ねているようですが、ルナは相変わらずポンポンを見てクスクスと笑っています。




