第四十三話 パステルの町の戦い(一)
話は今より7カ月前、フレディアが天界からロファ王国に戻った頃にさかのぼります。
ヘーベル歴250年12月
ザキュエルは、マラドガードの戦いを終えてデプロス王国の城に戻ると、自分が世界を征服するためには、もっと強い手下が必要であると考えました。
一番確実な方法は、この世界を創った神が飛ばしたカオスを、アナザームーンから呼び戻す事ですが、今はまだそれが出来ない事をザキュエルは知っています。
そこでデプロス王国の西の海に沈む、海底の城『マドロ』に目を付けました。
マドロの城には、神々によって封印されたアンデッドの王、『モルグデウス』が閉じこめられており、この強大な力を味方に付ければ、世界征服も夢ではありません。
しかしそこは海の中、そう簡単には行きません。
ただ幸いなのは湾の中なので、大掛かりな工事で海との境を埋めて海水の侵入を塞いでしまえば、ただの大きな湖となります。
それなら、天地創造の杖の力で何とでもなると考えました。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・」
「さて、あのバカな王をどうやって焚きつけて、工事をやらせるかだが・・・」
そう考えていた時、オッサム王から呼び出しがありました。
「王よ、お呼びですかな?」
オッサム王は、相変わらず玉座の間に女をはべらせ、酒をくらっておりました。
「ザキュエルよ!アルガの町の住人が反乱を起こしたそうだぞ!」
「町を支配していたお前の部下は全滅したと聞いておるが、どうなっておるのだ?!」
明らかに不機嫌な顔で、ザキュエルに詰問しました。
「あぁ、あの町は確か・・・」
「ハイオークとオークに任せていましたな・・・」
「やはり下等なザコの魔物では無理がありましたか?!」
「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」
「むっ!ザキュエルよ、笑い事ではないぞ!」
「ロファ王国を乗っ取るどころか、足元が崩れて来ておるではないか!」
(ふん!知るか無能なブタめ!)
腹の底ではあざけるザキュエルですが、無能だからこそ役に立つのだと割り切り、笑顔で答えます。
「王よ、もっと力のある者(魔物)を登用したいと思うのですが」
「なに、力のある者だと?」
「はい」
ザキュエルは、デプロス王国の西の海に沈む、海底の城『マドロ』の話をオッサムに話しました。
「この者を配下に加えれば、ロファ王国などいとも簡単に手に入れる事が出来ましょう」
ザキュエルは自信をもって答えました。
しかし、オッサムは渋い顔をして許可を与えませんでした。
「そのような大掛かりな工事をするとなると、いったいどれほどの人と金がいると思っておるのだ?!」
「ロファ王国の町や村の一つでも手に入れたなら考えぬこともないが、足元が崩れて来ておるのに無理な話じゃ」
「そうですか・・・」
「残念ですが、あきらめるしかありませんなぁ・・・」
「いや、実に残念です!」
「あの地に眠る『エルドウィンの秘薬』を王に捧げたかったのですが・・・」
そう言って立ち去ろうとするザキュエルを、オッサムは止めました。
「まて、そのエル何とかと言う秘薬とは、何じゃ!」
(ふっ、強欲なブタめ!やはり食いついたか・・・)
「あぁ、ご存じありませんでしたか?」
「天界では知らぬ者がおりませんでしたので、失礼いたしました」
「エルドウィンの秘薬・・・」
「それは不老不死の秘薬でございます」
「なに!?不老不死じゃと?!」
「永遠の若さと命を与えると言われる薬なのか?!」
「なぜそれを先に言わぬのじゃ!」
「申し訳ありません」
「わたくしども天界の者は、その様な物は必要ありませんので、つい・・・」
「分かった!その工事、早急に掛かるように手配しよう!」
「なぁに、人など町や村からかき集め、こき使えば良いのじゃ!」
「では、そのお礼と言っては何ですが・・・」
「わたくしもロファの町を一つ献上いたしましょう」
「なに?ロファの町じゃと?」
「はい、幸いパステルの町が手薄になっておりますので、そこを奪おうと思います」
「うむ、上手く行くのか?」
「あそこのギルドはロファ王国の中でも、最強だと聞いておるが?」
「ちょうどあのギルドの精鋭どもは、調査のために出払っておるそうです」
「それにあの町は大河レヌス川と接しております」
「船団を使って川から攻め入れば、奇襲攻撃を掛けられます」
「どうか、わたくしにお任せを・・・」
「うむ!わかった!!」
「頼りにしておるぞ!」
こうしてパステルの町が標的にされる事となったのです。
ザキュエルは、『ロットフェンの湿原』に棲む魔物を束ねている、フェンリザードに命令を出し、パステルの町を襲撃するように命じました。
フェンリザードは、甲冑を身にまとった二足歩行のトカゲの様な魔物で、陸でも水中でも迅速に動ける厄介な魔物です。
そのフェンリザードが、沼に生息する泥沼オオガエルや、巨大な蛇の魔物マッドサーペントなどを集めて船団を作り、デプロス王国を流れるセレノア川を下って攻めて来たのです。
ヘーベル歴251年7月。
セレノア川からレヌス川の本流に入ったデプロス王国の船団は、その数200隻。
パステルの町まで2日の距離まで迫っていました。
一方アルガの町では、オリビアからパステルのピンチを聞いたフレディア達が、大慌てで出発の準備を始めました。
フレディア、ルナ、ポンポン、シルヴィーの4人は、食料や戦いに必要な物資の買い出しに出掛け、町に不慣れなオリビアは、ロックと一緒に彼の家まで同行しました。
「母ちゃん!大急ぎで6人分のお弁当を作ってよ!」
「今から大至急出かけないといけないんだ!」
ロックは家に着くなり、母親のカミラに無茶振りします。
「はぁ? 6人分だって?!」
「いつもより一人多いのね・・・」
そう言って奥の部屋から出て来ると、ロックの隣にいるオリビアを見て、驚きの声を上げました。
「まぁ!」
「まぁ、まぁ、まぁ、まぁ~~~っ!!」
「どうしましょう!?」
「こんな美しいお嬢様を連れて来るなんて~!」
「いや、そんな事より、早く弁当を作って・・・」
バチン!
「イテツ!」
「あんたもやるね~!」
「しっかり頑張るんだよ!!」
カミラはロックの背中を叩いてガッツポーズをすると、急いで奥の厨房へ走って行きました。
(もう、やめてくれよ・・・)
ロックは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしていますが、オリビアはお腹を抱えて笑っています。
その頃パステルの町では、レヌス川で漁をしていた船から緊急の連絡が入り、大騒ぎになっていました。
「なに!敵国の船団がこちらに向かっているだと!?」
「急いで赤色の狼煙を上げろ!」
「そして、町中に緊急事態発生の報告をするのだ!」
「急いで港の封鎖を始めるぞ!」
副ギルドマスターのサントスの指示で、ギルドの冒険者達は大慌てて任務の遂行に当たります。
「くそっ!主力がいない事を、敵に知られたようだな!」
サントスは苦々しい顔で、次々と冒険者たちに指示を出していきます。
そして港ではギルドの指示の元、町中総出で港に防壁を作る作業を急ピッチで進めています。
唯一の救いは、町の周辺には川に棲む魔物の襲撃を防ぐために、港以外の沿岸には堅固な防壁が備わっていた事です。
「副ギルドマスター!大変な事になりやしたねぇ!」
モヒカン刈りのレプロが、心配そうにサントスに声をかけました。
「まぁに、そう心配する事は無い!」
「少し時間を稼げば、すぐに仲間が駆けつけてくる!」
「それまでの辛抱だよ!」
「お前も、遠慮せずに思いっきり暴れていいぞ!」
「へい!了解です!」
そう言うと、防壁作りの手伝いに走って行きました。
パステルの町で大変な騒ぎになっていた時、フレディア達はフロイドのバスケットに乗ってお弁当を食べていました。
「やっぱり、ロックのお母さんの作ったお弁当はおいしいね!」
久しぶりにお弁当を食べたフレディアは、口いっぱいに頬張ってニコニコしています。
「うちも、こんなにおいしいお弁当を食べたんは初めてやわ!」
「それに、このクラーケンの形をした赤いウインナーが、めっちゃええやん!」
オリビアも嬉しそうにお弁当をパクパク食べています。
「この玉子焼きは本当に絶品ですわ!」
「わたくしもロックのお母様に作り方を教わって、ハンクに食べさせてあげたいですわ!」
「キャハハ!」
「わたしルナののろけばなし、初めて聞いたわ!」
「うむ、ルナよ、もっとのろけてもよいぞ!」
「まぁ、本当によろしいのですの?」
「パステルの町につくまで、ずっと聞かされ続けますわよ?」
「むっ、そ、それはちょっと困るのぉ・・・」
「キャハハ!」
「「「あっ、はっ、はっ、はっ・・・」」」
(いや、いまから戦場にいくんだよな?)
(何でそんなに楽しそうにしてられんだよ?!)
(緊張しているオレがバカみたいじゃん!)
(はぁ・・・)
(ギルドの入会試験のはずが、いきなり実戦だなんて・・・)
(ううっ・・・なんか、こわ~い・・・)
どうやらロックとシルヴィーの二人は、普通に緊張しているようですね。




