第四十一話 みんな大変!
ポンポンの地獄の様な日々が始まりました。
まず一番大切な事は、エルデリーナ様と交わした約束を守る事です。
それは聖光樹の苗をちゃんと育てる事なのですが・・・。
エルデリーナ様から出された条件は、手渡された小さな柄杓で一日3回聖光樹の苗に水を与える事ですが、タダの水ではなく、苗のある場所から5キロメートルも離れた場所にある、神樹の護泉と呼ばれる泉の水でなければならないのです。
しかも最初は小さかった柄杓も、木の成長に合わせて大きくなって行くのですから、大変です。
これはポンポンを諦めさせるために、わざと嫌がらせをしているのではないかと疑うほど、大変な作業でした。
ポンポンとフレディアは、エルデリーナ様から教わった場所へ行き、聖光樹の苗を捜しました。
教えてもらった場所へ行くと、淡い光を放つ背丈が90センチほどの痩せこけた苗が、風にユラユラと揺らいでいました。
「なんか、今にも倒れそうじゃのぅ・・・」
それに数枚しかない葉は、すでに虫に食われて穴だらけになっています。
ポンポンはすぐに葉っぱに付いていた虫を取り除き、あちこちから拾い集めた木の棒や、草の弦を使って、風よけを作りました。
「よし、じゃあ水を取りに行くかの・・・」
そう言って出かけたのですが、泉までの往路は1時間半で行けたのですが、復路は柄杓の水をこぼさないように歩くので、2時間もかかりました。
往復3時間半の工程を朝、昼、夕と3回繰り返さなければなりません。
さらに、その水くみ作業の合間に、フレディアの厳しい訓練が待ち受けていました。
「じゃあ、攻撃するから防いでね!」
「うわっ!ちょっと待つのじゃ!」
「防ぐって、何を防ぐのじゃ!?」
「わたしの攻撃を、ポンポンが魔法の防壁を作って防ぐのよ」
「いや、わからん、わからん!」
「言っておる意味がわからんわ!」
「だって、ポンポンがいくら早くても、召喚魔法って詠唱に時間がかかるでしょ?」
「そ、それはそうじゃが・・・」
「その間に攻撃されたらどうするの?」
「うっ、それは・・・」
「下手をしたら死んじゃうよ?」
「ひっ!そ、それは困るのじゃ!」
「だから、そうならないように訓練するの!」
「いい?魔力で盾を作るイメージで防ぐのよ!」
「ひぇ~~~っ!」
キン!
パチン!
「あいた!」
こんな感じでポンポンの訓練が始まったのですが、聖光樹の苗を育てるのには相当な時間が掛かると思われます。
そこでフレディアは妖精の女王様と相談し、『時の妖精』の力で、この結界で覆われた里での時間を操作する事にしました。
外界の一日に相当する時間を、里の中では1時間に圧縮したのです。
1日が1時間に出来るということは、本来24時間かかる1日を、1時間で済ませられるということになります。
つまり『24倍のスピード』で日数が進むイメージになるので、ここでの1か月が、外界では2年に相当する時間となります。
これは妖精の里の中だからこそ出来る、いわば裏技と言ったところですね。
そうとも知らないポンポンは、必死にこの試練に耐えるのでした。
「ひぇ~~~っ!」
「もう、だめじゃ・・・」
パタッ!
「ま、まさかフレディアが、これほど厳しいとは思わなんだわ・・・」
泣き言をいうポンポンに、フレディアが言いました。
「なに言ってんのよ、ポンポン」
「ルナはわたしなんかより、よっぽど厳しいんだからね!」
「そ、そうなのか?」
「うん!今頃ロック達は、きっとヒ~ヒ~言っているわよ」
そう言ってフレディアは笑いました。
そのころアルガの町で訓練を始めたロックとシルヴィーは・・・。
「ひぃ~~~~っ!!」
「ルナ様、もう、むりです~!!」
バタッ!
こちらでも二人が泣き言を言っていました。
ロックとシルヴィーの一日は、まずは巨木の洞窟での魔物狩りから始まります。
朝早く起きると、カミラからお弁当を受け取ってダンジョンへ向かいます。
「ルナ様、今日もよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ、お母様、いつもお弁当ありがとうございます」
「ロック!しっかりやるんだよ!」
そう言った後、必ず小声でロックに言います・・・。
「シルヴィーちゃんと仲良くするんだよ!チャンスなんだからね!」
パシッ!
「シルヴィーちゃんも、怪我しないようにね!」
「はい、カミラさん、いつもありがとうございます!」
こんな感じで午前中はダンジョンの中で過ごし、お昼のお弁当を食べると町へ戻ります。
そして狩った獲物をギルドで換金した後、鍛冶屋のバルトの仕事が終わるまでの間、ルナが訓練を行うのですが・・・。
この訓練は以前、ロファのギルドの精鋭たちを集めて行った特訓で、その時はルナの作った拳の大きさぐらいの水球を、カーナの魔法で氷の塊に変換して行っていました。
複数の氷の球を一斉に放って攻撃を仕掛け、それを回避する訓練なのですが、さすがに初心者の二人にそれをすると大けがをするので、いまは水球のままで攻撃しています。
とは言え、かなりのスピードで放たれるので、当たると二人とも悲鳴を上げています。
「うふふっ・・・」
「じゃぁ、最初は20球いくわよ~」
ルナは頭上に20個の水の球を作り出しました。
それを30メートル離れた場所にいるロックとシルヴィーに向けて放ちます。
ビユ~~~ン!
バチッ!バチッ!バチッ!バチッ!・・・
「イテッ!イテッ!イテテッ!」
「キャッ!イタイ!キャッ!」
「あらぁ~、ちゃんと剣で受けないとダメじゃな~い」
「もう一度ね!」
「ちょっと、待ってよ~!」
「ルナ様、もう少しゆるい球でお願いします~!」
でもロックとシルヴィーの意見は、まったく聞き入れてもらえません。
「いくわよ~!」
「「ひぃ~~っ!!」」
バチッ!バチッ!バチッ!バチッ!・・・
この訓練が1時間ほど続いたあと、店からバルトが出てきました。
「おまたせ~・・・って、二人とものびてるね?」
「こんなので剣の訓練が出来るのかい?」
はぁ、はぁ言って座り込んでいる二人を見て、バルトがルナに尋ねました。
「えぇ、もちろんですわ!」
「少々お待ちを・・・」
そう言うと二人にヒールの魔法をかけて、体力を回復させました。
「いや、それでもガタガタじゃね?」
「大丈夫ですわ!」
「いや、そんなに急いで鍛え上げなくても・・・」
バルトの優しい言葉に、ロックとシルヴィーは、ちぎれんばかりに首を縦に振っていますが・・・。
「それがダメなのですわ!」
「えっ?なにか特別急ぐ理由でもおありで?」
キッパリと言い切ったルナに、バルトは理由を聞きました。
「だって、わたくし・・・」
「二人を驚くほど強くして、フレディアに自慢したいんですもの~」
「「「ガ~~~~ン!」」」
ルナのあまりにも理不尽な理由に、三人ともドン引きしてしまいました。
こんな感じで、ロック達の方でも厳しい訓練が続きました。
そして時は流れ、妖精の里での訓練が12年続いたある朝の事・・・。
「あっ!フレディア見て!!」
ポンポンが大きな声でフレディアを呼びました。
急いでやってきたフレディアも、目をパチクリさせています。
見るとポンポンが大切に育てた聖光樹が、眩しいほどの光を放って輝き始めたのです。
この時90センチだった聖光樹の苗は、すでに3メートルを超える立派な木に成長していました。
サワサワと美しく茂った白い葉が揺れ、そこから直径80センチほどの光の玉が現れました。
「あっ、これはなんじゃろぅ?」
目を凝らして見ていると、光の中にかわいい妖精の姿が見えてきました。
そして光の消滅と共に現れたのは、聖光樹の精霊エルデリーナ様にそっくりな、身長30センチほどの小さな妖精でした。
長い金色の髪には白い花が飾られ、深い緑の瞳に、背中には透き通った二対の羽が生えています。
薄いピンクのワンピースが良く似合う、とても美しい女性の妖精でした。
「か、かわいいのじゃ!」
「おぬしは、エルデリーナ様なのか?」
ポンポンが小さな妖精に尋ねると、妖精は首を横に振って答えました。
「リーファ!」
「わたしの名前はリーファよ、ポンポン」
「さぁ、わたしをエルデリーナ様の元へ連れて行って!」
そう言うとフワッと飛んで、ポンポンの頭の上に乗っかりました。
白霊の丘の聖光樹の前に立ったポンポンは、とても緊張していました。
エルデリーナ様がポンポンに言った言葉を、思い起こしていたのです。
『もし、その苗を無事に育てる事が出来れば、少しは考えてあげてもいい・・・』
「どう考えてくれるのじゃろうか?」
「まさか、よく頑張りました、じゃあね!」
「とかでは、あるまいな?」
ポンポンは、心配してフレディアに尋ねますが、さすがのフレディアでも分かりません。
「う~ん、どうかな?」
「ポンポンは、よく頑張ったと思うよ!」
「そ、そうじゃの!」
ドキドキしながら待っていると、大樹の葉がザワザワと音を立てて揺れて、眩い光に包まれた金色に輝く半透明の、とても美しい女性の精霊がポンポンの前に姿を見せました
するとそれまでポンポンの頭の上に乗っていたリーファが、エルデリーナ様の元へ飛んで行きました。
「ポンポンよ、よく頑張りましたね!」
ゴクリ!
ポンポンは緊張してエルデリーナ様の次の言葉を待ちます。
「リーファよ、あなたはどうしたいのですか?」
「はい、エルデリーナ様」
「わたしは、ポンポンと一緒にいると楽しそうなので、彼女の呼び出しに応じても良いと思っています」
「聞きましたかポンポン?」
「は、はいなのじゃ!」
「リーファの宿った聖光樹の木は、後は里の妖精たちが面倒をみます」
「あなたはもう里を出て、自分のやるべき事をなさい」
「あ、ありがとうございます、なのじゃ!」
こうして里での12年間の試練を乗り越え、元の世界へと戻る事になりました。
水の妖精セーラムと、妖精の里の女王様にお礼を言うと、森を抜けて帰路につきました。
「のぉ、フレディア・・・」
「なに?」
「ここへ来てから、もう12年も経つのじゃぞ!」
「ロックやシルヴィーは、もう、わしらの事を忘れておるのではないのか?」
「大丈夫だよ!あっちの世界では、まだ半年しか経っていないからね!」
「なんじゃと?」
「意味がわからんわ!!」
「キャハハ!」
「早く帰ろ!」
フレディアは銀のラッパを取り出すと、2回吹き鳴らしました。




