第三十九話 ポンポンとフレディア(一)
フレディアとポンポンが向かう妖精の里は、アルガの町から北西の方角で、ロファ王国のジーノの村の近くにあります。
距離にして、直線でもアルガの町からパステルの町までの二倍の距離になるので、まずは中間地点のテニールの村へ向かう事にしました。
真冬の飛行は寒さとの戦いです。
ポンポンは最北端のヘルパス地方に住んでいたので、寒さには強いと思っていたのですが、実は驚くほどの寒がりで、飛行中はスッポリと布団にくるまり、目玉だけを隙間から出していました。
「う~~、さむ~~!!」
「目玉が凍ったら何とするのじゃ~!」
「なに、訳の分からない事を言ってるのよ!」
「あっ、それより見て!」
「テニールの村が見えて来たよ!」
フレディアの声で、布団からモソモソとはい出したポンポンは、バスケットから下界を覗き込みました。
眼下には大きな森が広がり、その先には小さな山が所々点在しています。
そして、そこから先は雄大な牧草地帯が延々と広がっており、村はその牧草地帯の中心にポツンとありました。
テニールの村は農業と羊の放牧が中心の、のどかな田舎の村です。
アルガの町を出て4日目に、ようやくテニールの村へ到着しました。
2年以上も前になりますが、ここを訪れた時は冒険者崩れの『デスペラード』と言う、その名の通りのならず者たちに支配されていたのですが、今は元の平和な村に戻っていました。
フレディアとポンポンが村に入ると、冒険者風の男たちが数名こちらへ走ってきました。
「あんた達、大丈夫か?」
「へっ、なにが?」
フレディアがポカ~ンと口を開けて尋ねました。
「いま見張りの者から、この近くにドラゴンが現れたと知らせがあったのだ!」
「あっ、それね!」
「安心せよ、それはわしらが乗って来た乗り物じゃ!」
「はぁ?」
ポンポンの返答に、今度は冒険者風の男がポカ~ンと口を開けています。
そこへ村の者4~5人が急いで走ってきました。
「オ~~~イ!」
「はぁ、はぁ・・・」
「やっぱりそうだ!」
「あなた様は、村を助けてくれた天使様ですよね!」
「キャハハ!」
「そんな事もあったね!」
「「「「え~~~~っ!あのうわさの~?!!」」」」
冒険者風の男たち全員が、ポカ~ンと口を開けて固まってしまいました。
その後フレディア達は村長の家に案内されて、盛大な歓迎を受けました。
村長の話では、ならず者たちと、その者達が操ったゴブリンの大集団を退治した話はこの村の名物となり、旅の冒険者や保養地として訪れる人も増えたのだそうです。
そして過去の教訓から、村の若い者が中心になってギルドの様な自警団を作り、畑や家畜を襲う害獣からも村を守っているのだとか・・・。
さっきの冒険者風の男たちが、そのメンバーなのだそうです。
二日間のんびりとこの村で過ごしたフレディアとポンポンは、三日目の朝再びフロイドに乗って旅立ちました。
村の人達からは、寒がりのポンポンのために、羊の毛で編んだ帽子とマフラー。
そして手袋と靴下までプレゼントしてもらい、ポンポンはバスケットの中で超ご機嫌です。
「フレディアよ、やっぱり人助けはしておくものじゃのう!」
「そ、そうだね!」
(ポンポンは何もしていないけどね!)
そしてさらに4日間空の旅を続け、5日目のお昼前にジーノの村に到着しました。
この村はロファ王国の王子、ハンクの育った所で、昔ミスリルの鉱山として栄えた村です。
今ではミスリルを掘る人もおらず、廃鉱となってしまったのですが、その鉱山の坑道が魔物の棲み家となってしまい、今はそれを狩る冒険者たちで栄えているのです。
それとこの山で採掘できる、螢石を使った魔道具の『ホタルン』が爆発的な人気となって、それを求めてやって来る商人たちで、この村はとても潤っていました。
この村にはギルドも含め、村長さんや顔見知りの村人も多いので、見つかると長居をしてしまうため、お昼を食堂で食べるとすぐに宿屋に泊まって、翌朝早いうちに出発しました。
妖精の里への入り口は、山を越えた村の裏側にあるので、フロイドには申し訳ないほどすぐに着いてしまいました。
この先は結界によって隔離された領域なので、フロイドとはここでお別れです。
「フロイドありがとう!」
「今度はいつになるか分からないけど、またよろしくね!」
「フレディア、気を付けて行くのですよ」
「小さいエルフもね!」
「さらばじゃ!」
フロイドが飛び去るのを見送った二人は、目の前に広がる美しい森の中へ入って行きました。
少し歩くと、小さな庵がポツンと立っています。
これは妖精の森への入り口を守る、『森の番人』の庵です。
フレディアは扉を開けて中に入ると、大きな声で挨拶をしました。
「ビットのおじちゃん!いる~?!」
「ドキッ!!」
「だれじゃい、大きな声で叫ぶのは!!」
部屋の奥から赤いサンタ帽子をかぶった、真っ白い髭のちっちゃなおじさんが出て来ました。
「おぉ!!これは珍しい!!」
「フレディア様ではありませんか!!」
ビットは大喜びでフレディア達を迎え入れてくれました
「で、そちらの小さいお嬢ちゃんは?」
ちっちゃいノームのビットに、チビと言われたポンポンは、慎重にビットと背の高さを比べています。
そしてわずかに自分の方が高いと確信すると、ググっと胸を張って答えました。
「わしは召喚魔法師のポンポンじゃ!」
「小さいじっちゃん、よろしくの!」
「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」
「小さいお嬢ちゃんも、なかなか言うのぉ!」
ビットにお茶と、森で取れた果物をごちそうになったフレディアたちは、裏の門を開けてもらい、妖精の森へと入って行きました。
木々の間の道を進んで行くと、急に緑色の光に包まれ、そして光が収まると、目の前には美しい花々が咲き乱れる、夢の様な場所に変わっていました。
ここからさらに妖精たちの住む里へ行くには、石碑に書かれた謎を解かなければならないのですが、フレディアは一度来ているので迷わず里へたどり着きました。
妖精の里は、まさに桃源郷という言葉がふさわしい、とても美しい所でした。
外界では冬の冷たい風がピュ~ピュ~吹いているのですが、ここは常に春の様な暖かくやさしい風が吹いているのです。
そのやさしい風に美しい花々が揺らぎ、小鳥はきれいな声でさえずり、いろんな色をした蝶がひらひらと花の周りを舞っています。よく見ると、小さな花の精や木の精も風に乗ってゆらゆらと舞い踊っています。
「おぉ~っ!なんと!これは綺麗じゃのぉ~!」
はじめて来たポンポンは、その美しさに見とれています。
「ポンポン、こっち、こっち!」
景色に見とれているポンポンの手を取ると、妖精の女王様の住む宮殿へ連れて行きました。
純白に光り輝く宮殿に付くと、妖精の女王様に仕えるノームたちに連れられ、玉座の間へと案内されました。
そこには美しい緑色の髪に、深緑の宝石の様な瞳を持つ、美しい女王サーラ様が座っていました。
「キャハハ!」
「妖精の女王様、お久しぶりです!」
「まぁ、フレディアではありませんか!」
「本当に、懐かしいですわ~!」
「よく訪ねてくださいましたね!」
女王様は、こぼれんばかりの笑顔でフレディアの来訪を喜んでくれました。
そして緊張してカチカチになっているポンポンにも、優しく声をかけました。
「そちらのお嬢様は、エルフの方ですね?」
「わしの名はポンポンと言うますですじゃ!」
「よろしくお願いするますですじゃ!」
「ポンポン、しゃべり方がおかしいよ?!」
フレディアが注意しますが、ポンポンは緊張で顔を真っ赤にして上の空です。
「うふふ・・・よろしくね!」
「あの女王様・・・」
「実はこの子に力を貸してくれる精霊を捜しているんですけど・・・」
「だれか心当たりはありませんか?」
「まぁ、精霊の力を借りたいと・・・」
「はい!この子は召喚魔法士なのですが・・・」
フレディアはいま外界が大変な事になっている事を、女王様に説明しました。
「まぁ、大天使ともあろう者が、そのような事を!?」
サーラ様はしばらく考え込んでいましたが、やがてポンポンを手招きして呼びました。
「あなたにこれを差し上げましょう!」
そう言うとポンポンの指に、美しい紫色の宝石の付いた指輪をはめてくれました。
少し大きかった指輪は、魔法の力ですぐにポンポンの指にピッタリのサイズになります。
「指輪の宝石は、あなたの美しい瞳とおなじ色の宝石ですわ!」
「とても良く似合いますよ」
「あ、ありがとうござますなのじゃ!」
ポンポンは指にはまった美しい指輪を見て、とても嬉しそうにしています。
「さぁ、これであなたは、妖精とお話が出来るようになりましたよ」
「えっ、妖精と話が出来るのでござますじゃ?!」
ポンポンは緊張と興奮で、ますます話し方がおかしくなっています。
「もちろん隠れている精霊ともお話ができます」
「ですから、ご自分の手で精霊の力を手に入れなさいね」
「わ、分かったのじゃ!であります!」
ポンポンは妖精の女王様に深々と頭を下げて、お礼を言いました。
サーラ様は、今度はフレディアに向き直って忠告をしてくれました。
「フレディア、あなたが最果ての沼の神殿に棲む魔獣、『ヨルムンガンド』を討伐してくれたおかげで、いまあの沼は浄化されつつあります」
「そして沼を管理する『水の妖精セーラム』の元に、昔の仲間が集い始めたと聞きましたよ」
「もうお分かりですね、精霊は気まぐれでわがままです」
「セーラムの力をお借りする事は、決して恥ずかしい事ではありませんからね」
サーラ様は精霊の力を借りるのは、決して一筋縄ではいかない事をフレディアに教えてくれました。
「ラジャー!」
「わたしもセーラムには、会いたいと思っていたのよね!」
「妖精の女王様!ありがとう!」
フレディアはお礼を言うと、ポンポンと最果ての沼へ向かいました。




