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第三十二話 シルヴィー

シルヴィーは明日フレディアたちと共に、アルガの町へ旅立つ事になり、ロファ城で過ごす最後の夜となったのですが、何故かこれまでの想いがこみあげて来て、なかなか寝付く事が出来ませんでした。


東の空がうっすらと白みかけた頃、夢と現実うつつの狭間の中で、彼女の想いは楽しかった家族で過ごしたあの頃へ、ハチ鳥に姿を変えて飛んでゆきました。


父のクリスティーはとてもやさしく誠実な人で、王様から授かった領土の民からも、とても慕われていました。

母のアメリアは、私たち兄妹にいつも深い愛情を注いでくれて、そして小さい頃からいつも私たち兄妹の味方でいてくれました。


家族で食卓を囲むときはいつも笑顔が絶えない、とても幸せな家庭でした。

私が14歳の誕生日を迎えるまでは・・・。


ヘーベル歴247年2月。


「シルヴィー、お誕生日おめでとう!」

「あなたももう14歳になったのね!月日の経つのは早いわね~」

「おめでとう!早くローソクの火を消して、ケーキを食べようよ!」


私の14歳の誕生日を、父と母、そして兄も喜んで祝福してくれました。


父と母は誕生日のお祝いに、美しいハチ鳥の飾りのついた髪飾りをプレゼントしてくださいました。


「わぁ!なんて綺麗な髪飾りなの?!」


「うふふ・・・」

「そろそろあなたもオシャレをしなくてはね!」


そう言って母が手渡してくれました。


プレゼントしてもらった髪飾りは、見る角度を少し変えると、鳥の羽の色が様々な色彩に変化する、とても美しい物でした。


私は嬉しくて嬉しくて、その日は一日中髪飾りを眺めて過ごしていました。

そんな私の様子を見た父と母も、微笑ましい笑顔で見守ってくれていました。


ですが、そんな私たちの暮らしが一変したのは、私の誕生日から五日後の事でした。


父には3つ年上の兄がいました。

デプロス王国の第一王子オッサムです。父と違い正室の間に生まれた長男なので、誰もが次の王様になると信じていました。


オッサム本人もそれを疑わず、いつも周りの人々をさげすむような目で見ていました。

そして彼はどうせ自分が次の王になるのだからと、国家の財産を私物化し、その金を使って豪遊していたのです。


しかし王様はそんなオッサムの行動を、快く思ってはいませんでした。

そして人を人とも思わぬ言動に、ついに王様は英断を下したのです。

次の王の座は、民からも慕われている私の父、クリスティーに譲る事を・・・。


だけど王が側近に漏らしたその話が、オッサムの耳に入りました。

このままでは自分が失脚すると悟ったオッサムは、国家の金を横領した罪を、私の父に擦り付けたのです。


「あなた、大丈夫なのですか?急に呼び出されるなんて・・・」

「あの方の事は、あまり良い噂は聞きませんよ?」


「なにも心配ないさ、すぐに用事を済ませて五日後には帰ってくるよ」


そう言って出かけた父は、もう二度とこの屋敷に帰って来ることはありませんでした。


父をだまして自宅に呼び付けたオッサムは、毒を盛って父を殺害しました。

そして多額の金を横領した事が発覚したため、父は自害したと国中にふれ回り、私の屋敷にも兵を送り込んで来たのです。


「奥様、こちらに大勢の兵士が向かって来ておりますぞ!」


守役のベルガードが血相を変えて、屋敷に駆け込んで来ました。


「えぇ、予想はしておりました」


「どうせウソの証拠を突き付けて、我が夫を悪人に仕立て上げたいのでしょう」


「メイド長、兼ねてからの申し付け通り、分配した財産を持ってお逃げなさい」


「奥様、奥様はお逃げにならないのですか?」


メイドの一人がアメリアに尋ねました。


「わたしたちには一切の非はありません!なぜ逃げる必要がありましょうや!」


「あなた達、本当によく働いてくれました、心から感謝いたします」


そう言って使用人をすべて解雇して逃がしました。


「では、ベルガードにセルジオス」

「手はず通り、二人の子供をよろしくお願いします」


そう言うと母は、護衛の兵士たちに私達を預けて逃がしました。

やって来たオッサムの手下の兵士は、偽装した借用書を証拠として突き付け、屋敷の財産を没収しようとしましたが、すでに家財はすべてお金に変えて、使用人たちに分け与えていたので、怒った兵士は屋敷に火を放ち、重要参考人として母を連れ去りました。


私たち兄妹は、母の機転と護衛の兵士たちによってその難を逃れましたが、後日、母は護送される途中に自ら命を絶ったと聞かされました。


その後オッサムは、とんでもない暴挙に出ました。

あろうことか王様を城の一室に幽閉し、ついに実権を握ってしまったのです。


それからの私たちは、オッサムの追っ手から逃れるための過酷な逃亡生活が始まりました。

初めは大勢いた護衛の兵たちも、執拗な追っ手に捕まりその数を減らして行きました。


私たちは暮らしていたウッドベルクの街から、山や森の中をあてもなく逃げ続け、そして追い詰められた私たちは、小舟でデプロス大陸の中央を流れる大河、レンベルクリバーの流れに運命を託しました。

この時には私たち兄妹の他には、守役のベルガードと、護衛隊長のセルジオスの二人だけになっていたのです。


ヘーベル歴248年6月。

やっとの思いでたどり着いたのは、デプロス大陸南西部にある、砂漠の町アルサンドラでした。

ロファ王国との国境に近い辺境の町で、さすがにオッサムの兵もここまでは追って来ませんでした。


この時、逃亡から既に1年4カ月の歳月が流れており、私は15歳に、兄のライズは17歳になっていました。


ようやく苦難の逃亡生活に終止符を打った私たちは、ここで新たな生活を始めました。


護衛隊長のセルジオスは、この町のギルドに入って、私たちの生活を支えてくれました。

17歳になった兄も、セルジオスと共にギルドに入り、どんどん力を付けて行ったのです。


兄のライズは常日頃から、必ず父と母の敵を討つと、毎日血反吐を吐くまで剣の訓練を続けていました。


ヘーベル歴249年11月。


それから1年と2カ月の時が流れました

兄はめきめきと腕を上げ、ギルドのランクもBランクとなり、周りの冒険者からも信頼されるようになったのです。


そしてその頃、守役のベルガードは、商人の下働きをしながら国の情報を集めていたのですが、とんでもない話を耳にする事になりました。


この年の9月に、ザキュエルという大天使と手を結んだオッサムが、禁断の地とされていた王家の霊廟を解放したと言うのです。


これまで悪政に苦しめられていた国の民に、さらに恐怖を上乗せし、失意のどん底に突き落としたのでした。


「ライズ様、いま国民はオッサムの悪政によって苦しめられています」

「このままでは、いずれ国は崩壊してしまうでしょう」


「あなた様が父上に代わってこの国の民を守る日も、そう遠い話ではないかも知れません」


護衛隊長のセルジオスは、ライズに心の準備をするように促しました。

そしてその予感はみごとに的中しました。


ヘーベル歴250年2月。

アルサンドラの町に近い最南端の町クロッサムの町で、暴動が起きたのです。

ザキュエルの使役した魔物の軍が、町を占拠しようとしたことに、町のギルドの冒険者たちが反発したのでした。


そしてすぐにその情報は、アルサンドラのギルドへもたらされました。


「大変だ!クロッサムの町のギルドが、ついに王国の軍と衝突したらしい!」


「では、この町にも応援の要請があるかも知れんな!」


「どうするんだ?!国を敵に回すのか?」


「じゃぁ、仲間のギルドを見殺しにするのかよ?」



ギルド内に緊迫した空気が流れました。


「みんな、慌てるな!」


この時すでにAランクになっていたセルジオスが、声を上げました。


「ライズがみんなに言いたいことがあるそうだ」

「まず彼の意見を聞いてみようじゃないか?!」


ギルドの仲間たちは、一斉にライズに注目しました。

そしてライズは、声をあげて訴えます。


「俺たちは国の民を守るために、命を懸けて魔物と戦って来た冒険者だ!」

「なのに国は魔物を使って、俺たちの自由を奪おうとしている!」

「このままでは、この国は間違いなく魔物に支配され、滅びてしまうだろう!」


「いま戦いを放棄し、クロッサムの町が制圧されたらどうなるか」

「次は間違いなくこの町の番だ!」


「「「「そうだ~~~!!!」」」」


「戦おう!!」

「そしてこの国の自由を我らに!!」


「「「「おぉ~~~!!!」」」」


兄のライズはセルジオスと共に、アルサンドラの冒険者たちを引き連れて参戦しました。


ヘーベル歴250年4月。

戦いに勝利したギルドの冒険者たちは、兄が第二王子クリスティーの息子である事を知り、打倒オッサムを旗印に、自由への夜明けを目指す『暁の解放軍』という名の革命軍を立ち上げたのでした。


ですが王国軍と魔物の軍の力は強大で、徐々に革命軍の力も削がれ始め、今では町を防衛するのがやっとの状況となったのです。


ヘーベル歴250年6月。


17歳になった私はこの状況を打破するため、ロファ王国へ助けを求める事を提案しました。そしてその役を志願したのです。


その理由は、ロファ王国は自由と平和を愛する素晴らしい国であると、亡き父から教わっていたからです。


それにこの国には、とても強くて優れた人物が多い事でも有名でした。

堕天使バズエルの野望を打ち砕いた話は、デプロス王国でも知らない人がいない程有名な話なのです。


父はデプロス王国も、ロファ王国のような国にしたいと、口癖のように言っていました。


初めは私の身を案じて反対していた兄も、私の決死の覚悟を悟り、ギルドの仲間と共に行く事を認めてくれました。


そして幾度もの死線を潜り抜け、ヘーベル歴250年9月。

やっとの思いで、前線のハンク様に会う事が出来たのです。



チ、チ、チ、チ・・・・


チュン、チュン・・・・



空が薄っすらと白んで来ました。


「もうすぐ夜が明ける・・・」


「私はこの暁の空に誓おう!」

「私の命を、祖国の自由のために捧げる事を・・・」


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