第三話 フレディアの旅立ち
「フレディアよ、忘れ物はないか?」
出発の準備を整えたフレディアへ、恋を取り持つ神様が心配そうに声をかけました。
「大丈夫だよ、神様!」
「路銀もたくさんもらったし、武器もちゃんと持ったから!」
「じゃぁ、行ってきまぁ~~す!」
そう言うとフレディアは、元気よく飛び立って行きました。
その姿を目で追いながら、恋を取り持つ神様は心配そうに呟きます。
「最近デプロス王国では、あまり良い噂を聞かぬからのぉ」
「うむ、あの国は3年ほど前に代替わりしたそうじゃが、国王が代わってからは悪い噂ばかりが耳に入って来るの~」
「じゃが、心配はいらぬよ!」
「フレディアには、新たに開発した特殊な武器も持たせておるからのぉ!」
「うひゃ、ひゃ、ひゃ・・・」
技術と創作の神様は、浮かぬ顔の恋を取り持つ神様を横目で見て笑いました。
「うむ、しかし・・・」
「なぜか、こう不吉な予感が・・・」
恋を取り持つ神様がそう口にした途端、後ろの方で大きな物音が響きました。
ガ~~~ン!!!
「「うわっ!」」
「「何ごとじゃ!!」」
二人の神様は驚いて音のする方向を見ました。
すると、何と!そこには首チョンパされた女神像の頭が転がっているではありませんか。
「どひゃ~~~~っ!!!」
どうやら、ご飯粒では女神像の頭の自重に耐えられなかったようですね。
「ひえ~~~!!」
「わ、わしの愛しいヴィーナスちゃんが~~~!!!」
「何と!わしの不吉な予感はコレじゃったか!?」
技術と創作の神様は、その場で腰を抜かして座り込んでしまいました。
一方恋を取り持つ神様は、自分の予感が的中したことが嬉しいご様子で、腕を組んで頷いています。
フレディアにとっては、まさに危機一髪のタイミングでしたね。
ヘーベル歴250年9月に、フレディアはデプロス王国へと旅立ちました。
さて、旅立ったフレディアが最初に立ち寄ったのは、デプロス王国ではなく、ロファ王国の中央から東に位置するパステルの町でした。
神様からもらった地図を確認し、最初の探索地はロファ王国に最も近いアルガと言う町へ行くことに決めたのですが、その前に旅の準備を整える必要があります。
フレディアが選んだのは、アルガの町に近くて品揃えが豊富なパステルの町でした。
赤い瓦の屋根が立ち並ぶ美しい景観の町で、大河レヌス川の恵みを受けた肥沃な大地が広がり、農業も漁業も盛んな活気にあふれた町です。
そしてパステルの町と言えば、バズエルとの最終決戦で一緒に戦ったカレンの事が思い出されます。
カレンはパステルのギルドマスターでありながら、その職務を放棄してフレディアと行動を共にした、かなりヤバい美女で、この国でたった4人しかいないSランク冒険者の一人でもあります。
「あぁ、懐かしいなぁ~」
2年ぶりに町を訪れたフレディアは、あの頃と変らない風景を眺めながら、ウキウキしています。
「そうだ!」
「色んな情報を知りたいし、買い物をする前にちょっとギルドに寄ってみようかな?」
「カレンは元気にしているのかな~?」
「よ~し!じゃあ、人の姿にヘンシーン!!」
そう言うと、フレディアは人の姿へと変身しました。
それまであった純白の翼は無くなり、天使のリングの代りに赤いカチューシャと、真っ白な羽が一本、金色の髪に飾られています。
服装は純白の衣ではなく、緑のジャケットに代わっていました。
「やった~!自分の力で変身できちゃった!」
「よ~し!ギルドへレッツゴー!!」
懐かしい仲間の顔が目に浮かび、フレディアはギルドに向かって一目散に走り出しました。
そしてギルドの扉を勢いよく開きます。
バ~ン!!
「キャハハ!来たよ~!!」
ギルドのフロアーにいた沢山の冒険者たちが、一斉にフレディアの方を向きました。
「??!」
(・・・・・・・・・)
(はぁ?)
(なんだ、こいつ?)
一瞬フレディアの声に反応して振り向いた冒険者たちですが、特に興味を示すことなく、すぐさま自分たちの仕事に戻っています。
「お~い!こっちの案件は誰がやんだよ?!」
「おい!そっちの依頼はオレが受けるって言っただろうが!!」
「なぁ!早く素材の買い取りをやってくれない?!」
「あれ?」
「な、なんか、みんな忙しそうね・・・」
あまりに期待外れな反応に、フレディアはしょんぼりしてしまいました。
「人間って、2年も経つとわたしの事なんて忘れちゃうんだね・・・」
すっかりしょげてしまったフレディアは、誰か知っている人はいないか周りを見渡しますが、残念ながら顔見知りの人は誰もいませんでした。
「そうだ!ギルドマスターの執務室に行ってみよう!」
「カレンいるかな~?」
フレディアは一階のフロアーから、二階の執務室へ向かう階段を登ろうとしましたが、すぐさま他の冒険者から怒声を浴びせられました。
「おい、こらお前!!」
「そこは部外者以外立ち入り禁止だぞ!!」
「すぐに降りてこい!」
フレディアを呼び止めたのは、体のごついモヒカン刈りの冒険者でした。
胸にはCランクのバッチが誇らしげに輝いています。
(あれ?このひと何かドッヂに似ているわね・・・)
(だいたいこの手の輩は、あまり賢くないのよね?)
(ドッヂも頭のネジがぶっ飛んでいたもの・・・)
この時フレディアはかなり失礼な事を考えていましたが、男は自分の銀色のバッチをまじまじと見ているフレディアをみて、少し勘違いをした様子です。
(はは~ん、こいつ冒険者に憧れてギルドに来たド素人だな?)
(しかもオレ様の銀バッチを見て、ときめいているんじゃねえのか?)
「なにっ!!」
(おい、おい!冗談だろ?!)
(よく見たら、すげえかわいい娘じゃん!!)
(こ、これは何としてもオレの女に・・・)
「ところでお前、ギルドに何しに来たんだ?」
「へっ、へっ、へっ・・・」
「もし冒険者になりてえのなら、このオレ様が手取り足取り教えてやるぜ!」
「だからよ、今晩オレと付き合えや!」
「なっ!悪いようにはしねえからよぉ!」
モヒカン男のそんなゲスな考えは、天使のフレディアにはお見通しです。
彼女は人の心を少しだけ読み取る事が出来るので、呆れたフレディアはさっさと用事を済ます事にしました。
「いや、無理!!」
「だって、あなたより、わたしの方がずっと強いもの!」
「はぁ~?何だと、こらぁ!!」
「いいから、カレンを呼んできてくれる?」
「はぁ?カレンって・・・」
「ここのギルドマスターのカレンよ」
「フレディアが遊びに来たって言って呼んで来てよ!」
「はぁ?!」
「お、おまえ、バカじゃねえのか!?」
「カレン様はこの町の英雄なんだぞ!」
「しかもSランクの冒険者様なんだぜ?!」
「お前みたいなド素人が簡単に会える訳がねえだろ!!」
「それに何だ?遊びに来たって!?」
「お前にはちょっと、お仕置きが必要みたいだな!!」
モヒカン男が大声で怒鳴りだしたので、驚いた他の冒険者たちも集まってきました。
「おい、おい、何だ?何だ?!」
「またレプロの野郎がブチ切れていやがるぜ?!」
「おい、だれか上の人をよんで来い!あいつが暴れ出したら大変だぞ!」
いつの間にか沢山の冒険者たちが、フレディアを取り囲んで大騒ぎとなっています。
「あ~~っ、もうめんどくさ~い!」
「カレンには後から謝ればいいよね?」
そう言うとフレディアは天使の弓矢を取り出しました。
今回使う矢は、技術と創作の神様が新しく作ってくれた『真実の矢』です。
真実の矢は、受けると嘘が付けなくなり、本当の事をしゃべらせることが出来る矢です。
そして天使の弓矢は人には見えないので、周りの人はフレディアが弓で矢を射る真似をしている様に映ります。
「それっ!」
パシュッ!
キラリン!
レプロに矢が命中した瞬間、淡い紫色の光が身体から溢れ出ました。
「はうっ!」
「・・・・・・・」
矢が刺さった瞬間、少し固まったようですが、すぐに本心をペラペラとしゃべり始めました。
「く、くそっ!オレ様の誘いを断りやがって!」
「冒険者の極意を教えてやる振りをして、ピ~ッ!や、ピ~ッ!をして、オレ様の女にしてやろうと思っていたのによっ!」
「それにオレ様より強いだと?」
「くそっ!こうなったら力づくで・・・」
ハッ!?
「オ、オレは一体なにを・・・」
思わず心の内を暴露してしまったレプロは、意味が分からずうろたえています。
聞いていたフレディアも、恥ずかしさで顔を真っ赤にしています。
「「「「うっわ~!こいつ最低~!!!」」」」
「こいつのランクを剝奪して、ギルドから追放してしまえ!」
「「「このクズ野郎をここからつまみ出せ!!」」」
「くそっ!」
周りの冒険者たちからの罵声と、冷ややかな視線に耐えられず、やけくそになったレプロはフレディアに殴りかかろうとしたその時です。
「こら~~~っ!!」
「お前ら何を騒いでいるのだ!!」
二階の執務室の扉が開き、大声で怒鳴る声が響き渡りました。
*前作品の登場人物の紹介です
ドッジ・・・ミントの町のダーク一家の手下で、頭の弱いBランクの冒険者。フレディアの事をアネゴと呼んで敬っている。
*天使の矢についての説明です
キューピットの矢・・・相手の感情を高ぶらせ、愛の告白を促します。
戒めの矢・・・・一時的に腹痛を与え、相手の動きを封じる事が出来ます。
懺悔の矢・・・・自分の罪をさらけ出し、悔い改める事が出来ます。
真実の矢・・・・嘘が付けなくなり、本当に思っている事を話させる事が出来ます。
*いずれの矢も効果は一時的です。




