第二話 大神ダレスからの頼み事
技術と創作の神様が大神ダレス様から聞いた話では、1年半ほど前からロファ王国に隣接するデプロス王国との国境付近で、異常な高密度のエネルギーが集束しているのを度々発見されたそうです。
それ以降、今まで見た事の無い奇妙な化け物が現れたとか、森の木がペシャンコに押しつぶされていたという話や、町や村を徘徊する不審な者が頻繁に現れるようになったという暗い噂が後を絶たず、怯えた人々が教会の神官に助けを求めたため、大神ダレス様も調査に乗り出す事になったのでした。
そして大神ダレス様は、調査のために天使たちを地上に派遣したのですが、まぁ、それが全くと言ってよいほど役に立たない者ばかりで、人の姿に扮した彼らは神の威厳を笠に着て威張散らすものですから、町の冒険者たちからは総スカンを食らい、一つも情報を聞き出す事が出来ませんでした。
またプライドが高い大天使は、人の姿に化ける事を嫌い、そのままの姿で教会に降り立ったため、司祭たちはこれからとんでもない事が起こる前触れだと恐れおののき、かえって人心の不安を煽る結果となってしまったのです。
ほとほと困り果てた大神ダレス様は、原因を究明するため、堕天使バズエルを捕獲した風の神セレノス様と、その弟子である天使のカーナ、そして二度も厄災から地上を救った技術と創作の神の弟子であるフレディアに白羽の矢を立て、この現象の調査を依頼する事にしたのでした。
「と言う訳でフレディアよ!」
「話の内容は分ったかの?」
「キャハハ!」
「やった~!!」
「またカナちゃんと一緒に旅が出来るのね!?」
フレディアは、まるで遠足に行くようなノリで喜んでいます。
(こ、こやつ、遊びに行くのではないのだぞ?)
(事の重大さが分かっておるのか?)
浮かれるフレディアを見た技術と創作の神様は、少しだけ不安になりました。
「いや、いや、そうではない」
「このヘーベル大陸はとてつもなく広いからの~」
「このたびは二手に分かれて調査をしてもらう事になったのじゃ」
「セレノス殿たちはロファ王国を、そしてフレディア、お前にはデプロス王国へ行ってもらいたいのじゃ」
「え~~~~~っ!」
喜んでクルクル回っていたフレディアは、急にガックリとうなだれてしまっています。
(やっぱり、遊びのつもりでおるようじゃな・・・)
(よし、ではアメを与えて気合を入れさせてやるかのぉ)
「まぁ、そうしょげるでない!」
「実はのう、調査をするために必要な力を、お前に授けようと思っておるのじゃが・・・」
「エッ!?」
「何かくれるのですか?」
「うむ!何と!!」
「お前に人の姿に変身できる力を授けてやろうではないか!」
「ええっ!!」
「そ、それって、神様に助けてもらわなくても、自分の力で変身出来るってことですか?」
「そうじゃぞ!お前が人の姿になりたい時に、いつでも変身が出来るようになるのじゃ!」
「やった~~~!!!」
フレディアは大喜びでピョンピョンと飛び跳ねています。
なぜなら普通天使たちは下界で行動する場合は、一部の例外を除いて天使の姿のままで行動する事が義務付けられていました。
そのため神様の力をお借りしないと、自分の姿を勝手に変える事が出来ないのです。
この度の地上の調査では、神様が一般の天使たちを人間の姿に変えて送り出したのです。
ただ大天使の位になると、自分の力で人の姿に変身できますし、そのままの大天使の姿でも人間の前に姿を現す事が出来るのです。
つまり今のフレディアのままでは、地上に降りても人間には姿を見る事も、フレディアの声を聞く事も出来ませんから、フレディアが町で欲しい物を見かけても、それを買う事が出来なかったという訳です。
だけどこれからはもう、ヤモリのようにショーウインドーにへばりついているだけのフレディアではありません。
ちゃんとお金を払えば好きな物を好きなだけ買えるようになったのですから、フレディアが大喜びするのは当然ですよね。
フレディアの飛び跳ねる姿を、技術と創作の神様は満足そうに見ています。
(よし、よし、やっとやる気になったようじゃな!)
(では、もうひとつ喜ばせてやるかの・・・)
「フレディアよ、それだけではないぞ!」
「ダレス様より、天使の姿で顕現する事も許されたのじゃ!」
「ええ~~~~っ!!」
フレディアは驚いて一瞬で固まってしまいました。
それは、天使の姿で顕現する事を許されるのは、大天使の特権だったからです。
つまりフレディアにその大天使の特権が与えられたのですから、本人もビックリしたのでしょう。
「わ、わ、わ、わたしが大天使に?!」
「いや、いや、違うぞフレディア!」
「わしはまだそこまでは言っておらんがな!」
慌ててフレディアの勘違いを直そうとした技術と創作の神様の後ろから、大声で叫ぶ声がありました。
「な、な、な、何じゃと!!」
「フレディアが大天使じゃと~~~!!」
いきなり大声で叫んだのは、いつの間にか家に上がり込んでいた恋を取り持つ神様でした。
恋を取り持つ神様は、技術と創作の神様のお友達で、見た目の年齢も姿もよく似ているので、まるで双子の兄弟のように見えます。
「いや、ちょっと、待て、待て・・・」
大声に驚いた技術と創作の神様は、腰を押さえてしゃがみ込んでいます。
どうやら驚いた拍子に、持病のぎっくり腰が悪化してしまったようです。
フレディアが慌てて回復魔法のリカバーで神様の治療を始めました。
「何と、ダレス様の依頼で異常現象の調査とな?」
「しかもフレディア一人とは、だいじょうぶなのかのぉ?」
技術と創作の神様から話を聞いた恋を取り持つ神様は、心配そうな目でフレディアを見ています。
「わしも心配じゃが、な~に今回は原因の調査をするだけじゃからのぉ」
「それに危ないと思ったら、すたこら逃げ出せば良いのじゃ」
「うひゃ、ひゃ!何しろ今回はいつでも天使の姿に戻れるのじゃから!」
「と言う訳でフレディアよ、今回お前に授ける力は情報収集に役立てるためのものじゃからな!」
「決して自分の力に慢心して危ない行動をしてはならんぞ!」
技術と創作の神様は、フレディアの大天使にも勝るとも劣らない戦闘能力を十分に理解しているので、実はそれほど心配はしていませんでした。
その実力ゆえ、ダレス様から選ばれたことも十分に理解しています。
それよりもどちらかと言うと、いつものように調子に乗って失敗しないか、そっちの方が心配なのでした。
「それと大事な事を言っておくが、変身能力には制限があるのじゃ」
「えっ!制限があるのですか?」
「うむ、今のお前の力では自由に変身出来る訳ではないのじゃ」
そう言うと技術と創作の神様は、フレディアに変身能力の説明をしてくれました。
まず、人の姿にはいつでも変身する事ができます。ただし人の姿に変身すると、元の天使の姿に戻るに24時間のクールタイムが必要となるのです。
逆に天使の姿に戻った後は、24時間経たないと人間の姿に変身する事は出来ません。
敵との戦闘において、天使の姿のフレディアは100%の力を発揮する事が出来ますが、人間の姿だと40%程度にまで落ちてしまうので、うまく使い分ける必要があるのです。
次に天使の姿のままで顕現する事は、いつでも可能になります。
ただし、その姿のままでいられるのは1時間だけという制限がかかります。
そして1時間経てば変身前の姿に戻りますが、次の姿への変身にはやはり24時間のクールタイムが必要となるのです。
「どうじゃフレディア、分かったかの?」
「調子に乗って変身すると、後で自分が困る事になるからの」
「よく考えてから行動するようにのぉ!」
「キャハハ!」
「ラジャー!!」
制限が付くと言っても、やはり自由に変身できるのは嬉しくてたまらないようです。
フレディアは元気よく返事をしました。
「よし!ではその能力を授けようぞ!」
そう言うと技術と創作の神様は、フレディアに能力を与えました。
眩い光がフレディアの全身を覆います。
そして光は徐々にフレディアの体内に吸収され、ついには完全に消えてしまいました。
「こ、これで変身できるのね?!」
「じゃあ、さっそく人の姿に・・・」
「うわっ!ちょっと待った!!」
変身しようとするフレディアを、技術と創作の神様は慌てて止めました。
「はえ?」
「いま言ったばかりじゃろが!」
「人の姿に変身したら、24時間天使の姿に戻れんのじゃぞ?!」
「お前ここからどうやってデプロス王国へ行くつもりじゃ!?」
「わしが転移させる事のできる場所は限られておるのじゃぞ?」
「あっ、そっか!」
「わしはやっぱり心配じゃ~」
恋を取り持つ神様は、そんなフレディアの姿を見て不安そうに呟きました。
ヘーベル大陸とは、ロファ王国とデプロス王国を含めた大陸の名前です。
フレディアが地上を救った厄災とは、1つ目はフレディア戦記「-幻の宮殿-」で、地上に出現した幻の宮殿エルサラームの脅威から人々を救った件。
2つ目はフレディア戦記「-セレノスの杖-」で、堕天使バズエルによるダグダルム神殿の復活を阻止した件です。




