第二十伍話 マラドガードの決戦の行方(二)
「おい、おい、これは一体何の騒ぎだ?」
ザキュエルは目の前で起こっている惨状を見て驚いています。
魔物の群れが人間の冒険者と見られる者たちによって、蹴散らされているではありませんか。それに見た事も無い巨大な魔物と竜巻によって、蹂躙されているのです。
「あの竜巻は妙だ、強力な魔力を感じる!」
「風の魔法か!?」
「それにあの巨大な魔物・・・」
「そうかセレノスか!?」
「力の杖で変身しておるのだな!」
「ご主人様、いかがいたしましょう?」
熊の身体にヤギの顔を付けたような魔物が、ザキュエルに尋ねました。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・」
「ちょうどよい!この完成した天地創造の杖の威力を試してやろう」
そう言うとザキュエルは、戦場の中心へ向かって歩き始めました。
そして高々と杖を差し上げ、暴れているヒュドラに向かって『クラッシュ』と命じました。
ガクン!!!
その場の空気が変わり、ヒュドラは動きを止めました。
「あひゃ?なんじゃこれは?」
「体が重たくて動けんぞい!」
体がどんどんと地面にめり込んで行きます。
「どひゃ~!!これはたまらん!!」
空中からセレノス様の異変を感じたカーナは、杖を振りかぶった大天使の姿を見てビックリしています。
「どうして大天使がここに?」
「あれっ、あの大天使なんかへん!翼の色が黒く変色しているわ!」
理由は分かりませんが、周りの状況を見ると、味方でないのは明白です。
カーナは竜巻の向きを変えて、ザキュエルを襲いました。
ギュルルルルル・・・・!!!!
「ほ、ほう・・・これは面白い!」
「この私に魔法の竜巻をぶつけてくるとは!」
ザキュエルは竜巻に向かって杖を振るい、ブラックホールを発動しました。
上空に突如真っ黒な渦巻きが発生し、巨大な竜巻を見る見るうちに飲み込んで行きます。
「あっ!あたしの竜巻が?!」
そしてここからが本当の脅威でした。
ザキュエルは竜巻が完全に飲み込まれたのを確認すると、今度はヒュドラに向けてホワイトホールを発動します。
するとヒュドラの頭上に光の渦が現れ、その中心にポッカリと開いた穴から巨大な竜巻が出現したのです。
ゴォ~~~~~~ッツ!!!
「え~~~っ!」
「あたしの作った竜巻が、セレノス様を攻撃しているの?」
カーナは急いで竜巻の位置を変えようとしますが、動かす事が出来ません。
形勢逆転です。門から飛び出して暴れていたカレン達も、体を動かす事が出来ず、その場にしゃがみ込んでしまいました。
「えっ!どうして?」
「うわっ!体が押しつぶされる!!」
「くそっ、体が重くて動けない!」
「な、なんだあの男は?!」
「ヤツの仕業か!くそっ!」
カレンは杖を掲げている男に向かって、インドラの魔法『雷撃』を放ちました。
バリ!バリ!バリ~~~ッ!!!
ガガガ~~~ン!!!
雷鳴と共に猛烈な稲妻がザキュエルの頭上に発生しました。
しかし稲妻はザキュエルには落ちず、離れた場所に着雷してしまいます。
「ええっ!外れた?!」
カレンは驚いていますが、これは重力レンズ現象により、強力な重力によって時空がゆがめられた結果です。
それまで逃げまくっていた魔物たちも、カレン達の動きが止まり、苦しんでいる様子を見たとたん、こんどは一斉に攻撃に転じました。
「グハハハ!」
「見ろ、動きが止まって苦しんでいるぞ!」
「チャンスだ!ぶっ殺してやるぜ!」
「うお~~~!やってしまえ~!!」
魔物共は猛烈な勢いで攻めて行きました。
「あっ!こら!行くな!!」
その様子を見たザキュエルは慌てて制止しますが、魔物の耳には入りません。
そのまま突撃をして行きます。
そしてその結果・・・。
「ウオッ!か、体が~!!」
「ぐわっ!体がつぶれる~!!」
「ギャ~!!動けねえ~~!!」
そして次々とその場に倒れて行きます。
その様子を見たザキュエルは、怒りで顔を真っ赤にしています。
「アホか!あいつらは!!」
「これだから頭の弱い魔物は使えんのだ!!」
「やはりもっと高等な魔物を使役せねば・・・」
「そうだ!デプロス王国の東の海に、神によって封印された城があったな!」
「海底の城マドロに眠るアンデッドの王、モルグデウスか・・・」
「ふっ、ふっ、ふっ、奴を仲間に引き入れるか・・・」
ザキュエルはそう呟くと、天地創造の杖の魔力を解きました。
ヴ~~~~~ン・・・・
「引き上げるぞ!」
「えっ?勝てそうなのになんで?」
頭がヤギの熊が驚いて、ザキュエルに尋ねました。
(バカめ!私は先ほどマラードと死闘を繰り広げたのだぞ!)
(さすがの私もギリギリ勝てたのだ!体がガタガタになっているのが分からんのか?!)
「目的は達成した!引き上げるぞ!!」
もう一度そう言うと、颯爽と立ち去って行きました
有利な戦いを放棄したことに、側近の魔物たちは不思議に思いましたが、ザキュエルがいなければ自分たちに勝ち目はありません。
魔物共は慌てて逃げて行きました。
魔物が続々と引き上げる中、カーナは急いでセレノス様の元へ駆けつけました。
セレノス様はいつものネコの姿になって、目を回して倒れています。
「セレノス様だいじょうぶ?!」
「ふにゃ~、モモちゃんオムライスおかわり・・・」
「はぁ?」
ペシ!ペシ!
「あいた~!」
ほっぺたを叩かれたセレノス様は、慌てて飛び起きました。
「おっ、カーナか?」
「魔物はどこへ行ったのじゃ?」
周りをキョロキョロと見回して、カーナに尋ねました。
「もう引き上げて行きましたよ」
「おっ!そうか!!」
「わしの恐ろしさに尻尾をまいて逃げ出したのじゃな?!」
「うひゃ、ひゃ、ひゃ・・・」
「違うでしょ!!」
「面目ない・・・」
カーナにピシッと言われたセレノス様は、少し落ち込んでいるようです。
その時、誰かがこちらに向かって走って来る姿が目に入りました。
「お~~い!カーナ!」
カレンがカーナを見つけて、こちらに走ってきたのです。
「あ!カレン!!」
「何じゃと?カレンとな?」
「お~~~っ!あ、あの絶世の美人ちゃんではないか~!!」
カレンに一目ぼれしているセレノス様は、もうトキメキが止まりません。
どさくさに紛れて抱き付こうと身構えました。
「カーナ!会いたかったぜ~!!」
「いまじゃ!」
「フギャ!!」
カレンは飛びついたセレノス様を蹴り飛ばし、カーナに抱き付きました。
そして他のみんなと合流して、村の中へ引き揚げて行きました。




