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第二十三話 大天使ザキュエル

ヘーベル歴248年7月。

今より2年と少し前、身の丈2メートルを超える屈強な天使が、難しい顔で空を睨んでいました。


「ちっ!バズエルのヤツ、またしてもセレノスに捕まるとは、間抜けなヤツめ!」


「しかし今回は二人の天使が関わっていたというが、はて、その様な力のある天使が天界にいただろうか?」


「確かややこしい名前の・・・」

「なんとかカーナとかいう、セレノスの弟子と」

「確かフレディアとかいう名前の天使だったな・・・」


「うん、フレディア?」


「どこかで聞いたことのある名前だな・・・」


「あぁ、そうだ!光の女神の名前が確かメルディアだったな!」


「おっと、この名前を口にしてはいけない・・・」


「チッ!いまさらか!」


「ややこしい名前を付けおって!」


「いや、そんな事より、こうしてはおれんな・・・」


「私が脱獄させた事がバレると、面倒な事になる」


「バズエルがダグダルムの神殿を復活させれば、事が簡単に運ぶと考えていたが」

「仕方がない、次の計画に移すとするか」


そう言うとザキュエルは天星宮へと向かいました。

ここの一室に『天地創造の杖』が保管されていたからです。


天地創造の杖とは、この世界を創った神が持っていた杖で、光と闇を支配する力を持っています。

神はこの世界が出来た時に蔓延していたカオスを、この杖の力でアナザームーンへ飛ばしたと言われており、とても恐ろしい力を秘めた杖なのでした。


そしてその次にこの杖を手にしたのは、天の守護神アトラー様でした。

アトラー様はとても人間を愛した神で、光と闇の神々との戦いの時も、常に人間の事を気にかけて護っていたのですが、ある時悪魔の甘言に乗せられた愚かな人間から天地創造の杖を奪われてしまい、それが原因で命を落としてしまいます。


その時アトラー様のお世話をしていたのが天使のザキュエルでした。

怒ったザキュエルは、愚かな人間どもを皆殺しにし、天地創造の杖を奪い返しました。

ところが天使は人に危害を加えてはならないという、厳しい戒律があったため、ザキュエルは30年間天界の牢獄に監禁されてしまいます。


その後解放されたザキュエルは戒律をよく守り、元々優れた天使だったので、ついには大天使にまで昇りつめました。

しかし牢獄での30年間が彼の性格をゆがめてしまったようです。

人を愛する事を嫌い、神をも軽視するようになったのです。


その後天地創造の杖は、その恐ろしいまでの強さを警戒され、神々は杖から光と闇の力を取り出し、光の力を宿した宝玉ホワイトストーンをロックルーラーに、そしてもう一つの闇の宝玉グラビティストーンを、ダークエルフに渡して守らせたのでした。


天地創造の杖を奪ったザキュエルは、発覚を遅らせるため天星宮に結界を張り、地上へと降りました。


ヘーベル歴249年9月に、ザキュエルはデプロス王の元を訪れます。


「私の名はザキュエル!デプロス王に会いに来た!」


お城の門番たちは驚きましたが、これはきっと悪政で人々を苦しめている国王を、神が(いさ)めるために大天使をお遣わしになったのだと勘違いし、すぐに城内へ案内しました。


デプロス王の名はオッサムと言い、年齢は40台で、灰色の髪に金色の瞳を持った、まるでずる賢い猿のような面持ちに、立派なカイゼル髭を生やした男で、体形はブクブクと太った、まるで豚のようなみっともない姿をしています。


先代の王の第一王子でしたが、日ごろから素行が悪く、先代の王は第二王子を次の王にするつもりでした。

その事を知ったオッサムは、第二王子に毒を盛って殺害し、そして第二王子の息子たちをも、無実の罪で国外へ追放してしまいます。


次の王となったオッサムは、国民の生活などまるで関心がなく、自分の欲のためだけに生きて来ました。


そんなクズな男なので、玉座の間で女をはべらせて酒を飲んでいたデプロスの王は、大天使が訪れた事を告げられると、椅子から転げ落ちる程驚きました。


「あわわ・・・」

「きっとこのワシに罰を与えに来たに違いない!」


「衛兵を集めよ!大天使をここに通さぬよう阻止するのだ!」


オッサムは慌てて命令を出しましたが、その時には既に目の前に立っていました。


「これは、これは、王様」

「ご丁寧なお招きをありがとうございます」


「ひ~~~っ!」


「そ、そなたは一体・・・」


「わたくしの名はザキュエル!」

「大天使ザキュエルでございます」


「あわわ・・・・・」


「この度わたくしが参ったのは、王様のお力になるためでございます」


「へっ?」


「ワ、ワシの力になりに来たと?」

「今、そう申したのか?」


「さようでございます」


「そ、それはどういう意味じゃ?」


「言葉の通りでございます」

「王は、ロファの国を自分の物にしたいとお考えなのですね?」


「わたくしは、そのお手伝いに参ったのです」


「な、なんと!そうなのか?!」

「このワシに協力すると・・・」


「はい」


バカで浅はかな王は、疑う事をせずにザキュエルの言葉を鵜呑みにしました。


「つきましては王よ」

「わたくしに兵をお貸し願えませんか?」


「おぉ、わが国の兵なら、いくらでも使って良いぞ!」


「いえ、いえ!」

「王の兵は使いません、ただ、わたくしが兵を持つことをお許し願いたいのです」


「なんと、我が国の兵士ではなく・・・」

「つまり、それはどういう事じゃ?」


「はい、デプロス国『王家の霊廟』の扉を開いていただきたいのです」


「な、なんじゃと王家の霊廟の扉じゃと?」

「しかし、その扉は我が国王の祖先と神とで封印した、魔物が住む場所ではないか?」


「はい、その魔物を使ってロファの王国を乗っ取るのです」


「そんな事が出来るのか?」


「わたくしは天の守護神アトラー様に仕えた大天使なのですよ」


「安心してお任せを・・・」


「そ、そうじゃな!」

「ワシの兵は失わずに国を乗っ取れるのなら、これほど良い事はないな!」


「わっ、はっ、はっ、はっ・・・・」


(ふっ、愚かな豚め!今のうちにせいぜい良い夢を見ておくことだ!)


こうして王家の霊廟に巣食う魔物を手に入れたザキュエルは、天地創造の杖を完全復活させるため、ホワイトストーンを持つロックルーラーを襲いました。


そして今、もう一つのグラビティストーンを奪うために、マラドガードの竜神を祭る祭壇の前に立っています。


「ふっ、ふっ、ふっ・・・・」


「やはりあなたがグラビティストーンを守っていたのですね?」


「聖獣マラード!」


ザキュエルの前には、巨大な漆黒のドラゴンがいました。

このドラゴンこそが、もう一柱の聖獣である、白いドラゴンのフロイドと対をなすダークドラゴンなのでした。


「あなたの事は知っています」

「たしかアトラー様に仕えていた天使ですね?」

「そのような者がどうして、この場所へ・・・」


「!!!」


「そうですか、あなたは堕落してしまったのですね?!」


「正解です!マラード!」


「バカな神々に愛想をつかせたのですよ」


「あなたもいい加減にうんざりでしょう?」

「こんな場所に何百年も閉じこもって・・・」


「わたくしと共に、解き放たれた自由を謳歌(おうが)しようではありませんか?!」


グルルルル・・・・・


「愚かな堕天使よ!」

「神に逆らった事を地獄で悔いるがよい!!」



グオオオオオ~~~~~!!!!


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