第二十二話 マラドガードの戦い(三)
その頃セレノス様とカーナは、目的地まで半分ほどの距離まで来ていました。
険しい山の連なるジャンガル山脈の麓で、食事を摂っています。
「セレノス様、マラドガードの村はまだ遠いのですか?」
「うむ、まだ半分ほど来たぐらいかのぉ」
「この山々の標高は3000メートル級だからのぉ、今夜はこの先の平地で過ごし、明日の朝出発するとしよう」
「遅くても明日の夕方にはマラドガードの村へ着くはずじゃ」
「そうですか」
「あの、セレノス様・・・」
「セレノス様はよく、あまり人の世界に干渉してはならないと言っていましたが・・・」
「そうじゃの、神が人にちょっかいをだすと、ろくな事が起きぬのでな」
「ふ~~~ん」
「じゃあ、どうして今回は引き受けたのですか?」
「おぉ、そのことか!」
「狼煙を上げたのがマラドガードの村じゃったからだよ」
「実はマラドガードの村人と神とは、ある契約をしておってな・・・」
「契約?」
「うむ、古の時代にあった光の神と闇の神との戦いの話じゃ」
そう言うとセレノス様は、カーナにその頃の話をしてくれました。
光の神と闇の神の戦いの時代、人間と地上に住むほとんどの種族は光の神を信仰していました。しかしダークエルフだけは闇の神に加担したのです。
しかし初めは闇の神々に従っていたダークエルフも、次第に非情で残忍な闇の神々に嫌気がさし、戦いの終盤では光の神の方へ寝返ったのでした。
そして激戦の末、闇の神々を異界に封じ込めて戦いは終わったのですが、光の神々はダークエルフの処遇に悩みました。
「途中で裏切る様な者は、いつまた寝返って裏切るか分からない」という意見が強かったのです。
そう言った非情派と、「いや、いや、最後は一緒に戦って手柄を立てたではないか」という温情派が激論を交わし、散々もめた結果、光の女神の提案で『あるモノ』を護る事を条件に、地上に住まう事が許されたのでした。
ダークエルフはその後、最北端の地ヘルパスの大地に移り住み、神との約束を守り続けているのです。
「カーナよ」
「マラドガードの村は、ダークエルフの里なのじゃよ」
「そうなんですか!?」
「それで、その護るモノと言うのはなんなのですか?」
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ」
「すぐに分かる!」
「では、急ぐぞ!」
「あい!」
その頃天界では、ダレス様の所へ星詠みの女神が訪れ、重大な報告がなされていました。
星詠みの女神様の名はルミナテスといい、髪は紫色のロングボブで、髪と同じ紫色の水晶のようは瞳を持つ美しい女神様です。
彼女は星の動きを読み、これから起こりうる事を予知する力があります。
「何と!では今回の事象は、『天の守護神アトラーの予言』の始まりだというのか?!」
大神ダレス様は、青ざめた顔で尋ねました。
周りにいた神々も、あまりの衝撃に言葉を失っています。
アトラーの予言とは、天の守護神アトラーが未来に起こる災いを予言したものですが、あまりにも永い時が過ぎたので、いまでは神話の時代の逸話とされてきました。
神々もすっかり忘れてしまった話を、星詠みの女神が口にしたので、驚くのも無理はありません。
「七人の子たちが黄昏に染まる西の彼方に集う時、天も地もカオスの闇に飲み込まれ、すべてのモノが最後の時を迎えるであろう」
これはアトラー様の予言の一節です。
「うむ、それはここにおる神々もよく知っておるぞ」
「わたくしは、今回ヘーベル大陸で起きている奇妙な事象が気になり、星の様子をうかがっておりました」
「そして星の導きにより、アトラー様の残した予言の続きの一節を見つけたのです」
「何と!そのようなモノが見つかったのだと?」
「はい、アトラー様の御霊を納めた霊廟に隠されておりました」
「それで、その一節には何と?」
「邪悪な影がデプロスの地に落ち、再び光と闇を取り戻しとき、封印されし魔城の扉は開かれ、破滅の時が動き出すであろう」
「何と不吉な予言ではある」
「しかし、光と闇を取り戻すとは、どういう意味なのだ?」
ダレス様は星詠みの女神に尋ねました。
「申し訳ありませんが、今はまだその意味が分かりません」
「ですが、その答えは天星宮にあると思われます」
「天星宮に?」
「天星宮は天の守護神アトラーが作り、代々星詠みの女神が管理していたものだな」
「早急に調べみてくれぬか?」
「それが・・・」
「何者かによって結界が張られ、中に入れないのです」
「なに?結界だと?」
「はい、かなり強力な結界で、解除するのにもう少し時間がかかります」
「はぁ~~~?!」
「一体何者の仕業じゃ!?」
「急ぎ調べよ!!」
天界の警備をしている天使たちは、慌てて調査を開始しました。
そしてしばらくしてから、調査をした天使が駆け込んで来ました。
「ダレス様!大天使ザキュエル様の姿が、2年前から不明だそうです!」
「何だと?大天使ザキュエルだと?!」
「ダレス様、ザキュエルは昔、天の守護神アトラー様に仕えていた天使です」
「この度の異変は、アトラー様の予言に従った行動のような気がしてなりません」
「それは誠かルミナテス!」
「ダレス様!それにザキュエル様は以前よく、天界の監獄へも出入りしていたとの噂もありましたぞ!」
監獄の警備長の天使がやって来てダレス様に進言しました。
「なに!天界の監獄じゃと?」
「はっ!もしかして、2年前にバズエルを脱獄させたのもザキュエル様ではないかと・・・」
「あり得る話ですわ!」
「バズエルがセレノス様に捕らえられた事で、自分が関与した事が発覚するのを恐れて逃亡したのかもしれません」
「何と!一体ヤツの目的は何なのだ?!」
「・・・・・・・・」
ここに居た全員が沈痛な面持ちでいると、星詠みの女神様おつきの天使が駆け込んで来ました。
「ルミナテス様、ただいま天星宮の結界が解けました!」
「分かりました!すぐに参ります!」
ダレス様をはじめ、この場にいた者達すべての神々も天星宮へ急ぎました。
「な、何じゃこれは!!?」
驚くのも無理はありません、天星宮の中はメチャクチャに破壊されていたのです。
そして最も恐れていた事が現実となりました。
「ない!」
「ここに保管されていた『天地創造の杖』が見当たりません!」
ルミナテス様はそう叫ぶと、ペタンと地べたに座り込んでしまいました。
「「「なにぃ~~~~!!!」」」
「再び光と闇が戻りし時とは、まさか・・・」
「「「ホワイトストーンとグラビティストーンの事か?!!」」」
天界全体に衝撃が走りました。
天地創造の杖とは、そのあまりに強大で恐ろしい威力がため、二重三重に封印していた杖なのです。
それが邪悪な意思を持った者に奪われたとなると、アトラーの予言は現実のものとなってしまうかも知れません。
この世の春を横臥していた、天界始まって以来の危機が訪れました。




