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第二十一話 マラドガードの戦い(二)

カレンたちとムーンライトが合流した頃、マラドガードの村はおびただしい魔物の群れに襲われ、陥落(かんらく)寸前にまで追い詰められていました。


「ダメだ!もう門が破られるのも時間の問題だ!」


「女と子供を逃がす手立てはないのか!?」


防壁の上に立って必死に応戦している部隊の者達も、すでに疲れ切っていました。


この村はある目的のために、普通では考えられない程丈夫な防衛策を取っていたのですが、想定外の数の魔物の襲撃で、もはや支えきれない状況になっていました。


「くそっ!王国からの救援はまだか?!」

「本当に来るんだろうな?」


「こんな事なら、最初から赤い狼煙を上げておけば良かったんだ!」


村の者たちが諦めの言葉を口にし始めた時、一人の少女が演台の上に立って叫びました。



「なに気弱な事を言うておるのじゃ!!」

「わしらは神からマラード様の保護をまかされし、ダークエルフの末裔(まつえい)じゃぞ!」


「見ておれ!わしがいまから巨竜を召喚し、あの魔物どもを蹴散らしてくれるわ!」


そう叫ぶと、少女は持っていた杖を振りかざしました。


彼女の名前はポンポンと言い、この村の長老の孫です。

年齢は12歳ですが、背が135センチと低いので、それよりも幼く10歳ぐらいに見えます。

肌の色はダークエルフの末裔だからでしょうか、褐色の艶のある肌で、髪は銀色のショートボブ。瞳の色は水晶の様に透き通った紫色の、かわいらしい女の子です。




「あ~っ!あいつ長老の杖を持っているぞ!」


「バカ!やめろポンポン!!」


「おい、誰かあいつを止めろ!」


演台の下にいた村人が少女を止めようとしましたが時すでに遅し、杖を振りかざした後でした。


それを見た数人の村人が、慌てて長老を呼びに走りました。


少女が詠唱を始めると黒い霧の渦が発生し、それがどんどん大きくなり、そしてパチパチと青白いプラズマも発生し始めました。


「我が祈りに答え、いでよドラゴン!」


ド~~~ン!!!


「キャ~~~ッ!!」


物凄い轟音(ごうおん)と衝撃が走り、渦の中から召喚した魔物が飛び出すのと同時に、少女は演台の下に吹き飛ばされました。


シャーッ!


シャーッ!


全身が赤く輝くウロコに覆われ、手には黒い大きなカギ爪を生やしています。

興奮しているのか、金色に輝く鋭い目で村人を睨んで威嚇しています。


まさにドラゴン・・・のようにも見えなくはありませんが・・・。

サイズが少し小さいようで、村人に蹴り飛ばされてどこかへ行ってしまいました。


「何がドラゴンだ!」

「ただの赤トカゲじゃないか」


「あれ~っ?」


ひっくり返ったまま、少女は不思議そうに杖を見つめていますが、すぐに村人に担がれて、どこかへ連れて行かれてしまいました。



カレンたちと合流した11名がマラドガードにたどり着いたのは、太陽が真上から少し西に傾きかけた頃でした。


小高い丘から下界を見下ろすと、高い防壁に囲まれた村に、驚くほどの魔物が群がっていました。


「あっ!あれ、ちょっとヤバイんじゃない!?」


マルティーが村を指さして、カレンに言いました。


「あの程度なら何とかなるさ」

「心配なのは防壁の中だね」

「魔物が入り込んで無ければいいけど・・・」


そう言うとカレンが高々と声を上げました。


「さぁ、行くよ!!」


「キャノンガールズは前衛!」

「マウロとコローニ、マルティーは後衛!」

「シラとスージー、マイオスを護衛しながら突っ込むよ!」


全員が一丸となって丘を駆け下りて行きます。



魔物の姿が間近に迫った時、先頭を走るカレンが魔法を唱えました。


バリ!バリ!バリ~!!


ガガガ~~~ン!!!


雷鳴とともに、防壁の扉を壊そうとしていた3匹のトロールの頭上に特大の雷が落ち、3匹とも吹き飛ばされてしまいました。


この攻撃でカレンたちに気付いた魔物が、次々に襲い掛かってきますが、カレンたちの勢いを止める事は出来ません。


行く手を阻む魔物たちは、シラの放つフレイムの炎で焼かれ、消し炭になって行きます。

両側から襲い掛かろうとする魔物は、スージーの液状化の魔法で、底なし沼の底へと沈んで行きました。


魔法を避けた魔物どもも、前衛と後衛の攻撃でアッと言う間に倒されて行きます。


この様子に気付いたマラドガードの村人は、この圧倒的な強さを誇る鬼人の如き集団が、味方なのか敵なのか分からず、恐れおののいたほどでした。


しかし近づくにつれ、自分たちを助けに来てくれた王国の調査隊だと分かると、一斉に歓喜の声を上げました。


だがしかし、ここで大きな問題が発生したことに気づきます。

調査隊を村に受け入れるには、門を開かなければなりません。

しかしそれをすれば一気に魔物どもがなだれ込み、村が蹂躙(じゅうりん)される恐れがあるのです。


とは言え、扉を開けなければ、いかに強い者達でも圧倒的な数の前では耐えきれないでしょう。


「どうする?!」

「おい!どうするんだ?!」

「長老は何と言っているんだ?!」


調査隊はもう目の前まで迫って来ています。

防壁を守る村人は自分たちでは判断できず、防壁の上で右往左往(うおうさおう)していました。


その様子を見たカレンはニヤッと笑い、スージーに命令しました。


「スージー!あの防壁に橋を架けてくれ!」

「了解ですカレンさん!」


スージーはそう言うと、ロックウオールの魔法を唱えました。

すると自分たちの足元の土がどんどんせり上がり、高さ10メートルはあると思われる防壁まで、あっと言う間に道を作ってしまいました。


そして全員が防壁の上に到着すると、今度は作った道を崩し、門の周辺50メートル四方を液状化してしまいました。

門の周りに出来た底なし沼にはまった魔物は、二度と浮かんできません。


「やっぱりすごいな、スージーは!」


「うふっ、ありがとうマウロ!」


マウロは土の塔での戦いで、スージーの魔法の威力を良く知っていたのです。


「だから誘ったんだよ!」

「で、スージー、この魔法の効果はどれぐらい持つ?」


「そうですね・・・」

「5時間は頑張れると思います」


「そうか、なら頼むよ!」


「了解ですカレンさん!」


「キャノンガールズは、村の中に侵入している魔物がいたら片付けてくれ!」


「了解しましたカレン様!」


「マイオスは村人の手当てを頼む!」


「お任せを!」


調査隊への指示が終わると同時に、村の長老が防壁にたどり付きました。


「あんたたち、メチャクチャだな!」


防壁の上から下に出来た沼の防衛をみて、目を丸くしています。


「遅くなってすまないな、オレたちは国王から依頼されて来た調査隊だ」

「オレはこの隊を率いているカレンだ!よろしくな!」


「おぉ!あなた様がSランク冒険者の!?」

「お噂はよく耳にしておりますぞ!」


「申し遅れました、ワシはこの村の長をしておるバタンダと申します」


「早速だが、こうなった経緯を話してもらえないか?」


「うむ、実はですな・・・」


カレンにこれまでの状況を説明している長老の後ろから、お尻をなでながら一人の少女がやってきました。先ほど赤トカゲを召喚して演台から落っこちた少女です。


「おぬし、なかなかやるではないか!」

「わしの魔法に匹敵するほどの者はなかなかおらぬが、いや、大したものじゃ」


「はぁ、それはどうも・・・」


少女に話かけられたスージーは、ポカ~ンとした顔で答えています。


「あっ!」


「こりゃポンポン!勝手に術者に話かけるんじゃない!」

「また尻を叩かれたいのか?」


「うわっ、お尻はもうコリゴリじゃ~」


ポンポンと呼ばれた少女は、防壁の下へ逃げて行きました。

その様子を見たカレンは、笑いながら長老に尋ねました。


「あの子は長老の孫なのか?」


「いや、ワシのひぃ、ひぃ、ひ孫ですわ」


「はぁ~~~っ?!」

「あんた、一体何歳なの?」


カレンは驚いて歳を尋ねました。


長老は銀色の髪をオールバックにし、立派な口ひげを蓄えた50代後半の紳士にしか見えないからです。


「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」

「歳などもう、忘れてしまったわい!」


「ワシはダークエルフの血をひいておるので、長命なのですよ」


「そ、そうなのか?」


「じゃあ、さっきの女の子も実はオレよりも年上だったりするのか?」


「いや、いや、あの子はまだ12歳です」

「おばあちゃんっ子だったので、あんなしゃべり方ですがな」


「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」


「な~~んだ、そうか!」


「あっ、はっ、はっ、はっ・・・・」



「いや、こんな状況でよく笑えるよな?」


爆笑している二人を見たコローニが、ボソッとマウロに言いました。


「ま、まぁ、カレンさんの機嫌がいいから、いいんじゃないの?」


コローニとマウロは、下を見ながらため息をついています。

防壁の下では、相変わらず数えきれないほどの魔物がひしめいていました。


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