第二十話 マラドガードの戦い(一)
ブルートの最後のお願いをかなえるため、カレンはブルートが育てていたヘルハウンドの子供を引き取りました。
「もしあの時、功をあせらず作戦に従っていたら、きっとブルートは・・・」
「もうあんな失敗は二度としない・・・」
カレンは自分への戒めとして、ヘルハウンドの名前を「ブルート」と名付けたのでした。
「ブルート、今日からオレがお前のママだからな!」
「いい子に育つんだぞ!」
「あれから六年か・・・」
狼系の魔物は強いリーダーの元で、集団で生活をしています。
恐らくブルートの強さを本能で理解したうえで、それを求めた群れが後を付けて来ているのでしょう。
またブルートの方も、その生き方を求めているのに違いありません。
カレンはしばらくの間、パチパチと音を立てて燃える炎を見つめ、ジッと考え込んでいましたが、どうやら決心がついたらしく、ブルートに優しく声をかけました。
「いいよ、ブルート」
「行っておいで!」
カレンが声をかけると、ブルートはすっくと立ちあがりました。
しかし、すぐには動こうとはしません。
「いけ!ブルート!」
駈け出そうと身構えたブルートが、振り返ってカレンを見つめます。
「ゴ~~~!!」
カレンの号令でブルートが駆け出しました。
そして振り返る事もせず、そのまま深い闇の中へと消えて行きました。
パチ、パチ、パチ・・・・。
「あれ?」
「本当に行っちゃうのかよ~~!!」
「お~~~~い!ブルート~~~!!」
「オレを置いていくのかよ~~~!!」
「うわ~~~ん!!」
「ブルートのバカ野郎~~~!!」
「うわ~~~~ん!!」
「うわ~~~~ん!!」
カレンの泣き声が、静まり返った森に響き渡りました。
しばらくすると、まるでカレンの泣き声に答えるように、遠くから狼の遠吠えが聞こえてきました。
「ワオ~~~~ン・・・・・」
それはまるで、今まで育ててくれたカレンに対する、お礼の言葉のように聞こえます。
チ、チ、チ、チ・・・・
チュン、チュン・・・・
「カレン様、おはようござい・・・・」
「ゲッ!」
ガチャン!
コーヒーを持ってカレンを起こしに来たアリスは、彼女の顔を見たとたん、持っていたカップを下に落としてしまいました。
「カ、カレン様・・・そ、その顔・・・」
「うん、あまり眠れなかった・・・」
昨夜大泣きしたカレンの顔は、まぶたが赤くパンパンに腫れ上がり、まるで別人のような顔になっていました。
「え、えっと・・・」
「すぐに朝食の準備をしますね!」
そう言うとアリスは逃げるように出て行きました。
「・・・・・・」
「顔あらお・・・」
朝食を済ませたカレンたちは、すぐにマラドガードを目指して動き出しました。
そして3時間ほど進んだところで、斥候に出ていたメアリーが帰ってきました。
「カレン様、この先あと3キロメートルほどで森を抜けます」
「その先は平原になっていますので、目的地は近いかと」
「分かった、先を急ごう」
再び進もうとした時、前方の巨木の枝がわずかに揺れ、何者かがこちらをうかがっている様子が見て取れました。カレンたちはすかさず身構えます。
ガサ、ガサ、ガサ・・・
「よっと!」
身構えた一行の前に現れたのは、赤い髪をした小柄な女性でした。
「マルティー!脅かすなよ!」
メアリーがダガーを鞘に納めながら、文句をいいます。
「ごめん、ごめん!」
「あたしたちのチームは、この先5キロメートル先ある岩場にいるんだけどね」
「なんだか、その先に異様な気配が漂っているのよ・・・」
「だから、ここから先は合流してから進もうって待機しているの」
「分かった、オレたちも急ごう!」
「あっ、でもカレンさん!そこまでは魔物の気配は無かったから、安心して来てね!」
そう言うとマルティーは、走り去って行きました。
「よし!急いでムーンライトと合流するぞ!」
カレンたちは小走りでマルティーの後を追いました。
カレンが招集した調査隊のメンバーは、パステルの町のキャノンガールズと、ミントの町のムーンライトだけです。
それとジーノの村のロックファイターズから、魔法使いのスージーだけを引き抜きました。
とにかく急いで調査に出向く必要があったので、ロファの街からヘルパス地方へ向かうルートの中から、メンバーを集める必要があったのです。
それではここで、詳しくメンバーを紹介しておきましょう。
「ムーンライト」はミントの町のAランクの冒険者チームで、フレディアがリーダーのSランクチーム「ライトブリーズ」の補佐役として活躍した実績を持っています。
その功績が認められ、ギルドのランクもBからAランクへ昇格しました。
リーダーのマウロはAランクの剣士で、金髪に青い瞳。20代後半のガッチリした体格の男性です。
シラはBランクの魔法使いで、金髪に青い瞳の端整な顔立ちの女性です。年齢は不詳で、聞くとしばかれるそうです。
特技は炎系の魔法で、ファイア(単体魔法)とフレイム(全体魔法)の使い手です。
マルティーはBランクのアーチャーで、赤い髪に赤い瞳の小柄でキュートな女性です。
特技は弓矢ですが、彼女は戦いで矢が尽きた時の事を想定して、弓の両端に刃を仕込んだ特殊な武器を考案し、前衛でも剣士に引けを取らない働きをします。
コローニはBランクの槍使いで、緑の髪に茶色い瞳のハンサムな男性です。
背が高い細マッチョですが、なぜか女性には縁がありません。
マイオスはBランクの聖職者です。銀色の髪に青い瞳の50代の男性で、立派な髭が特徴です。特技はガード・ヒール・キュアー・捕縛と多才です。
最後にスージーですが、彼女はジーノの村の『ロックファイターズ』のメンバーですが、カレンに引き抜かれて調査隊に加わりました。
Aランクの魔法使いで、赤い髪に緑の瞳の背の高い美女です。
特技はストーンバレット・液状化・ロックウオールです。
バズエルとの戦いでは、土の塔での驚異的な戦いぶりが認められ、Aランクに昇格しました。
急ごしらえで編成した調査団ですが、間違いなく精鋭部隊と言えるでしょう。




