第十九話 カレンとブルート(三)
「よぉ!俺の名はダグラス。砂漠の町カルカラッサのダグラスだ!」
(えっ?なにこの人、おっさんじゃん!?)
声をかけられたカレンは、相手が年配なので最初ちょっと戸惑いましたが、彼の胸に輝くAランクの金バッチを見て、これはチャンスだと悟りました。
「あっ、オレの名はカレン。この町の冒険者だ!」
「あんた、オレたちと一緒にマンティコアの討伐を請け負ってくれるのかい?」
「あぁ、そのつもりで来た」
「俺のチームはいま酒場にいるのだが、よければ顔合わせをやらないか?」
「わかった!オレの仲間を連れて行くよ」
「じゃあな、お嬢さん!」
そう言うと、がっしりとした身体を揺さぶりながら、町の外へ出て行きました。
「あのおっさん、ただ者じゃないな・・・」
「えへっ、面白くなってきたぞ!」
カレンはそう言うと、急いで仲間を呼びに行きました。
ダグラスが率いる「デゼルトファイターズ」は、カルカラッサのギルドの精鋭チームです。
リーダーはAランクの剣士ダグラス。
金髪に青い瞳の屈強な男性です。武器は特注の大きなバスターソードです。
トナーはBランクの魔法使いで、赤い髪に、紫の瞳の奇麗な女性です。特技は風の魔法です。
オルガーはBランクの聖職者で、緑の髪に黒い瞳の優男。ヒールとパワーアップの魔法を使います。
「では、もう一度おさらいをするぞ」
全員で立てた作戦を、ダグラスがもう一度確認します。
マンティコアは警戒心が強いので、闘気を悟られないように二手に分かれる。
狭い森の中で戦うのは不利なので、森の岩盤地帯まで魔物を追い込む。
追い込みはデゼルトファイターズが行い、バーニングハートは岩盤地帯で待ち伏せをする。
魔物を追い込んだら、一斉に攻撃を仕掛ける。
「これでいいな?」
「オッケー!」
「これでヤッも終わりだぜ~!!」
カレンが最後を締めくくって、チームは解散しました。
三日後、準備を整えた討伐隊の2チームは船でレヌス川の対岸に渡り、そこから徒歩で5日間かけてナマロの森の集落へ到着しました。
そこで集落の住民から情報を集め、マンティコアのいそうな場所を特定した討伐隊は、現地まで進むと、慎重に痕跡を捜しながら進みます。
「じゃあブルート、頼んだわよ!」
「はいよ!」
カレンが声をかけると、ブルートは従魔のキラーイーグルを空に放ちました。
契約を結んだ従魔とは、思念を通じて意識を共有する事が出来ます。
キラーイーグルの視界に入る景色を、ブルートも見る事が出来るのです。
人間の8倍の視力を持つキラーイーグルの眼を通じて、マンティコアの姿を捜し始めました。
捜し始めて3時間。キラーイーグルの動きに変化がありました。
「カレン、見つけたぞ!」
居場所を特定した討伐隊は、ここから二手に分かれて行動を開始します。
カレンたちバーニングハートは、マンティコアの風下から目的地の岩盤地帯へと進みます。
一方デゼルトファイターズはマンティコアの追い込みを開始しました。
三人は間隔を広く取って、魔物の嫌う臭いを出す白煙筒に火を点けました。
モクモクと立ち込める煙を、魔法使いのトナーが風の魔法を操り、マンティコアを燻すように岩盤地帯へと追い込んで行きました。
「ブルート、まだかな?」
さすがのカレンも、今回ばかりは緊張しているようで、ムチを持つ手に力が入っています。
その様子を見たブルートは、努めていつも通りの口調でカレンに答えました。
「もうすぐだよカレン」
「作戦は順調に進んでいるよ」
「なぁ、カレン」
「この討伐が終わったら、今度僕とデートしてくれよ」
「はぁ?なんでだよ!」
「なんでって・・・」
「そんなの、キミの事が好きだからに決まっているじゃん!」
「バカ!」
「ひどいなぁ~」
ブルートはそう言って肩をすくめました。
「ま、まぁ、だけど、作戦が上手く行ったら、一応考えてみるよ」
カレンはそう言うと、再び作戦に集中しました。
作戦では、追い込んで来たデゼルトファイターズと合流次第、一斉に攻撃を仕掛けます。
魔法使いのトナーが風の魔法で砂を舞い上げてマンティコアの視界を奪い、怯んだところを魔法使いのヒールズが、目つぶしの爆発魔法をマンティコアの顔面に放ち、すかさずカレンがムチで足を攻撃して動きを止める。
そして戦士のラライとダグラスが仕留める算段になっていました。
「来るぜ!」
「サマサ!みんなに防御魔法を頼む!」
ラライが号令をかけました。
「イエッサー!」
岩盤地帯の入り口に、薄い煙が流れて来たと同時に、大きな魔獣の姿が浮かびました。
巨大なライオンの姿をしたマンティコアです。
辺りを警戒しながら、岩陰に隠れたカレンたちに近づいて来ました。
醜悪な人の顔を持ち、血のように赤い目で辺りを見渡しながら、ゆっくりゆっくり近づいて来ます。
「おっさんはまだ来ないのか?」
「これ以上近づいたらオレ達の事がバレるぜ!」
「このチャンスを逃したら、もう後はないんだからな・・・」
カレンが小声でブルートに尋ねます。
「いや、それが煙でよく見えないんだよ」
ブルートが答えた直後、マンティコアが急に立ち止まり、タテガミを逆立てました。
「バレた!!」
そう叫ぶとカレンは岩陰から飛び出し、マンティコアにムチを放ちました。
ピシ~~ッ!!!
ムチはマンティコアの右前足に炸裂し、身体を大きく傾けました。
「今だヒールズ!」
カレンの号令で、練り上げていた爆発魔法をマンティコアの顔面めがけて放ちました。
ドカ~~ン!!
炎が吹きあがり、魔物の動きが完全に止まったように見えました。
「チャンス!!」
カレンはそう叫ぶと、マンティコアに近づき左前足を狙ってムチを振り上げました。
「よせ!カレン!!」
「君の動きは読まれているぞ!」
ブルートが叫びますが、カレンの耳には入りませんでした。
「逃がさないよ!」
ところがムチを振り下ろすカレンよりも早く、マンティコアのサソリのシッポがカレンを襲いました。
ドスッ!!!
鈍い音と同時に、カレンの身体はブルートによって押し倒されていました。
「えっ!?」
見るとマンティコアの毒のシッポが、ブルートのわき腹に突き刺さっています。
「「ウオ~~~ッ」」
駆けつけたダグラスとラライの一撃が魔物の頭に炸裂しました。
「グオ~~~~ッ・・・」
マンティコアは最後の咆哮を上げ、ついにその場で息絶えました。
「ブルートしっかりして!」
サマサとオルガーの二人が、ブルートに解毒の魔法を施しますが、ブルートの顔色はどんどん悪くなって行きます。
その様子を見たダグラスは、顔を横に振って告げました。
「マンティコアの尻尾の毒は、大サソリの二倍以上と言われている」
「ブルートよ、言い残す事があれば今のうちだぞ?」
「そんな!」
「なぜそんな事を言うんだ!」
「ブルートはきっと助かるに決まっているだろ!」
「だって、ブルートはオレのせいで・・・」
ブルートを抱きかかえるカレンの眼から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちました。
「カレン、泣くな・・・」
「僕は・・・幸せ者だよ・・・」
「だって、好きな人の腕の中で眠れるんだからね・・・」
「いやだブルート!」
「目を閉じないで!!」
「は~~っ・・・」
「は~~っ・・・」
「カ、カレン・・・一つ頼みごとをしてもいいかい?」
「いいよ!なに?」
「魔物に親を殺された、ヘルハウンドの子供を・・・」
「はぁ、はぁ・・・」
「子供がどうしたの?」
「僕の代わりに・・・育てて・・・」
そう言うとブルートは、片目をつむりカレンにウインクをすると、そのまま息を引き取りました。
「・・・・・・・・」
「ブルート!」
「返事をしてブルート!!」
「うわ~~~~ん!!」
「オレとデートするんじゃなかったのかよ~!!」
「うわ~~~~ん!!」
「ブルートが死んじゃった~~~!!」
「うわ~~~~ん!!」




