第十八話 カレンとブルート(二)
カレンが言いだしたマンティコア討伐の話は、その後しばらくの間話題に上がらなかったのですが、ある事件がきっかけで再燃する事になりました。
ナロマの森の麓にある集落がマンティコアに襲われ、幼い子供の命が奪われたのです。
ギルドもこれを深刻な事態と受け止め、緊急クエストとして格上げし、報酬も倍に跳ね上がりました。
そして他の町のギルドにも連絡を取り、応援を依頼したのでした。
この話を聞いたカレンは、猛烈な勢いでラライに詰め寄りました。
自分たちの管轄するギルドで起きた事件です、何がなんでも自分たちの手で解決したいと、必死になって訴えました。
「ま、まて、まて!」
「分かったから、そう興奮するなカレン!」
「俺たちはチームだ、みんなの意見を聞こうじゃないか」
「その上でこの依頼を受けるかどうかを決めようぜ」
「なっ?!」
カレンの勢いに押されたラライは、仲間に助けを求めたようです。
最初に口を開いたのは魔法使いのヒールズでした。
「俺は反対だ!」
「あれから調べてみたが、あの魔獣は炎に対する耐性が半端じゃないそうだ」
「たとえカレンが言うように、瞬間的に動きを止めたとしても、ダメージを与えられないのなら、俺たちの勝ち目は薄いと思う」
「むぐぐ・・・」
カレンは悔しそうに唇を噛みました。
次に意見を述べたのは、聖職者のサマサです。
「私は聖職者ですから、仲間の命を守るのが使命です」
(うん、うん、仲間を危険にさらすのは良くないよな・・・)
よし、よしと、ラライは頷いています。
「それと同じく他の人の命も大切に思っていますので、その命を簡単に奪う魔物は野放しには出来ません!」
(えっ?)
ラライは驚いてサラサの顔を見ました。
「ですが私には敵を葬る力はありません」
「ですからチームが戦うと言うのであれば、わたしはそれに従います」
(あちゃ~~~)
ラライは頭を抱えて下を向きました。
「ありがとうサマサ!」
カレンは大喜びでサマサに抱き付きました。
「あっ!なに?」
「ラライとサマサが中立で、ヒールズが反対?」
「という事は、僕の意見で決まるって事なの?」
ブルートが青い顔をして固まっています。
「そうよブルート!」
「さぁ!あなたの意見を聞かせなさい!!」
カレンはすごい迫力でブルートに迫りました。
「ちょ、ちょっと、顔が近いよカレン・・・」
「いや、それは嬉しいんだけど・・・」
ブルートの顔が青から赤色に変わっています。
そんなブルートを、他のメンバーも必死の形相で注目しました。
チームの生死がかかった大事な意見ですので、みんな固唾を飲んで彼の意見を待ちます。
「ゴクリ!」
「えっと・・・」
「カレンがキスしてくれたら、オッケーかも・・・」
「「「はぁ~~っ!!?」」」
「「「アホか~~~!!!」」」
ブルートは一瞬で全員からボコボコにされてしまいました。
「おまえなぁ!冗談はいい加減にしろよ!!」
ゴチン!
カレンが追加でブルートの頭を小突きます。
(いや、冗談じゃないんだけど・・・)
ブルートは心の中でそうつぶやきましたが、今それを言っても無駄なので、率直に意見を述べる事にしました。
「分かった!謝るよ!」
「じゃぁ、僕の率直な意見を言うね!」
ブルートはチラッとカレンを見て、そして「ふう~っ」と息をつきました。
「僕はこの依頼には反対だ!」
「ぐっ・・・」
カレンは唇を噛んで、下を向きました。
リーダーのラライは、嬉しそうにガッツポーズを取っています。
「だけど・・・」
「条件付きで受けたいと思っている!」
「「「えっ!!?」」」
カレンの顔にパ~ッと光が差し込みました。
ラライはガクッと前のめりに倒れています。
「条件ってなんだブルート?!」
「もう、キスの話は無しだぞ!」
「あぁ、分かったよカレン」
全員再びブルートの言葉に注目しています。
「合同作戦だよ!」
「えっ?」
「もう一つのチームと組んでやるのなら、僕は賛成するよカレン」
「もう一つのチームって、一体どこのチームよ?」
「それはカレン、君が決めるんだよ」
「他の人が決めても、キミは納得しないだろ?」
そう言ってブルートは片目をつむってカレンにウインクをしました。
最初カレンは、ブルートの提案を軽く考えていました。
自分たちだけで依頼を受けるつもりだったので、仲間にするチームなんて名前だけで良いと考えていたからです。
カレンはギルドに立ち寄った冒険者たち全員に、片っ端から声をかけました。
「なぁ、オレたちのチームと組んであの依頼を受けないか?」
「ヤルのはオレたちのチームがやるからさぁ、一緒にいるだけでいいんだよ!」
「いや、あれはちょっと・・・」
そう言って、どこのチームも仲間になってくれません。
二日過ぎ、三日過ぎ・・・。
そして一週間が経った時に、ついに二人目の犠牲者が出ました。
今度は若い女性が襲われたのです。
「くっそ~!!」
「弱い者ばかりを狙いやがって~!!」
「お前ら、何で戦おうとしないんだ?!!」
「二人も襲われたんだぞ?!!」
「くっそ~~っ!腰抜けばかり揃いやがって~~~!!」
ギルドのフロアーで、カレンが大声で叫んだ時でした。
「あんたかい?」
「あの依頼を受ける仲間を捜しているってヤツは?」
振り向くと、見たことのない年配の冒険者が立っていました。
「よぉ!俺の名はダグラス。砂漠の町カルカラッサのダグラスだ!」
この男、スコーピオンキラーの二つ名を持ち、後にカルカラッサのギルドマスターとなる男です。




