第十七話 カレンとブルート(一)
セレノス様とカーナがヘルパス地方へと旅立った頃、ギルドの調査隊は目的のマラドガードの村まで、30キロメートルほどの所まで来ていました。
「カレン様、それにしても深い森ですね?」
「もう五日も歩いているのに、まだ先が見えないのですから・・・」
猛獣のヘルハウンドを従えて先頭を歩くカレンに声をかけたのは、チーム「キャノンガールズ」のリーダー、アリスでした。
キャノンガールズはカレンがギルドマスターを務めるパステルの町の冒険者チームで、四人全員が女性のパーティーです。
リーダーのアリスはAランクの戦士で、ピンクの髪に金色の瞳の美しい顔立ちの女性です。
武器はカレンと同じくムチを使いますが、彼女のムチは『ブラックマンバ』と呼ばれ、打たれると麻痺毒で体が動かなくなってしまう、恐ろしいムチを使っています。
カレンに憧れて冒険者になりました。
ポニーはBランクの武闘家で、茶色い髪に茶色い瞳のかわいい感じの女性です。
武器は長さが30センチもある鋼の爪で、これで敵を切り裂きます。
また彼女は、気功による回復術も習得しています。
ティアはポニーと同じくBランクの武闘家で、金髪に茶色い瞳をした美しい女性です。
武器は『チャクラム(円月輪)』で、両手で舞うように踊りながら相手を攻撃します。
その美しい踊りで敵を屠ることから、死の舞姫と呼ばれています。
メアリーはBランクのシーフーで、銀色の髪に青い瞳、褐色の肌の小柄な美女で、よくカレンの妹と間違えられます。
武器は『風斬り丸』という毒が仕込まれたダガーで、スキルは隠密行動・捕縛・投てきと多才です。投てきは主にナイフと火炎玉を使います。
このチームの特色は、防御を無視した攻撃特化のチームです。
クラスはまだBランクですが、武闘派のカレンが期待を寄せているチームなのです。
そして最後に紹介するのは、この調査隊の隊長であるカレンです。
ロファ王国にたった四人しかいないSランク冒険者の一人で、パステルの町のギルドマスターでもあります。
四人のSランク冒険者と言っても、その内の二人は天使のフレディアとカーナですから、いかにすごいランクなのかが分かりますね。
彼女は若干23歳という若さでギルドマスターにまで昇りつめた女性で、身長は180センチメートル。パステル地方特有の褐色の肌に、白く輝く髪を腰のあたりまで伸ばした野性的な美女です。
武器は自由自在に長さを変化出来るムチを使い、また強力な『インドラの雷魔法』の使い手でもあります。
さらに凶暴な魔獣を飼いならす現役の『ティマー』でもありますので、まさにSランク冒険者にふさわしい強い女性と言えるでしょう。
実は今回の調査隊にはもう一組のチームも参加しているのですが、その紹介はまた後ほどに・・・。
さて、アリスから声をかけられたカレンは、歩みを止めると野営の準備を命じました。
「今日は早めにキャンプをするぞ!」
「どうもこの森に入ってから、ブルートの様子がおかしいんだ」
ブルートとは、彼女が使役しているBランクの魔獣、ヘルハウンドの名前です。
「かなり離れてはいるが、魔物の集団に後を付けられているような気がするんだよな」
「暗くなってからの設営は危険だから、早めにやっておこう」
「はい、分かりました!」
「斥候に出ているメアリーには、すぐに戻るように連絡しておきますね」
そう言うとアリスは懐から取り出した小さな笛を鳴らしました。
パチ、パチ、パチ・・・・。
シ~ンと静まり返った森の中、焚火のはぜる音に混じって、時折遠くで魔獣の吠える声が聞こえてきます。
その声に反応して、ブルートは耳を立てたり、伏せたりしています。
ブルートの様子がおかしい理由を、カレンはうすうす気づいていました。
「繁殖期か・・・」
「ブルートお前も、もう立派な大人だもんな・・・」
カレンはブルートの頭をやさしくなでながら、ブルートとの出会った頃の事を思い出していました。
彼女がブルートと出会ったのは今から6年前。
ギルドの依頼で、ナロマの森に棲むAランクの魔獣、マンティコアの討伐に向かった時でした。
当時はまだBランクだった彼女は、19歳という若さも手伝って、早くAランクに昇りたいと焦っていました。
カレンはパステルのギルドに入って、まだ四年目の中堅冒険者でしたが、その頃から彼女の強さは半端ではありませんでした。
その実力はギルドの誰もが認めていましたし、本人も自分の強さを自負しており、自信に満ち溢れていたのです。
彼女の所属するチームは、「バーニングハート」という名のBランクのチームで、メンバーは五名で、全員がBランクの冒険者でした。
リーダーのラライは戦士で、金髪に茶色の瞳を持つ大柄な男です。
特技は怪力を活かした破壊攻撃で、60キロのウオーハンマ―を振り回して戦います。
ヒールズは魔法使いで、青い髪に青い瞳の優男。特技は炎系の魔法で、使用回数の制限はありますが、爆発系の魔法も使えます。
サマサは聖職者で、栗色の髪に同じ色の瞳を持つ清楚な女性です。
特技は防御魔法のガードと回復魔法のヒールを使います。
そしてもう一人の名はブルートで、黒い髪に茶色の瞳を持つ優しい顔の男性です。
彼の特技は魔物を使役するティマーで、Bランクの大鷲キラーイーグルを従えています。
そしてカレンを加えたこのチームは、ギルドの中で最も期待されている精鋭のチームなのでした。
「なぁ!やってやろうじゃないか!」
「オレたちなら、上手くやれるって!」
Sランクの依頼書を持ったカレンが、リーダーのラライに詰め寄っています。
「おい、おい、無茶を言うなよカレン!相手はAランクの魔獣なんだぞ!」
「俺たちにはまだ早いんだよ!」
リーダーのラライは、そっけなくカレンの提案を断りました。
無理もありません、依頼書に描かれていた魔獣は、Aランクの中でも最上位とまで言われたマンティコアなのです。
Aランクの冒険者でさえ敬遠している超難題の依頼なのですから。
「ちえっ、情けないなぁ~」
「バーニングハートの名が泣くぜ!」
「心の炎は消えちまったのかよ!」
そう言うとカレンは、肉をどっさりと乗せたお皿を持って、片隅でビールを飲んでいたヒールズの前にドカッと座わりました。
「なぁ、ヒールズ!お前の爆発魔法で一瞬でも動きを止めればさ、後はオレがムチで足を動けなくするから、そしたらラライがハンマーで魔物の頭を砕いて終わりじゃん!」
「なっ!お前からもラライに言ってくれよ!」
「ば~か!マンティコアは、魔法耐性を持っているんだぜ!」
「俺の魔法がそう簡単に通用する相手じゃないんだよ!」
「はぁ~~っ?!」
「通じないって、何だよ?!」
「魔法って、すごいんだろ?」
当時魔法を使えないカレンには、魔法は何でもできる便利な物だと思っていました。
「カレン、すべての魔物に攻撃が通じる訳ではないのよ」
「特にAランクの魔物が相手なら、よほど慎重に作戦を練らないとね!」
ヒールズの横に腰かけた博識のサマサが、笑いながらカレンを諭します。
「ちぇっ!」
「じゃぁ、ブルート・・・」
「いや、ブルートはいいや!」
「おい、おい、何だよ?」
「僕じゃ話にならないって言うのかい?」
カレンの横に腰かけたブルートが、口を尖らせて文句を言いました。
「いや、そうじゃないけど・・・」
「じゃぁ、ブルートはオレに賛成してくれるのか?」
「もちろんさ!僕はカレンの事が大好きだからね!」
そう言うとブルートはパチッと片目をつむってウインクをしました。
「バカ!やっぱりオレをバカにしているじゃん!」
ポカッ!!
カレンはブルートの頭を小突くと、パクパクとお肉を食べ始めました。
ブルートは楽しそうにその様子を眺めています。




