第十四話 セレノス様はどこ?
ヘーベル歴250年10月。
話は少しさかのぼり、フレディアが天界からデプロス王国へ向かって旅立ってから、半月後の話になります。
場所は変わって、こちらはロファ王国の北部にあるミントの町。
冬の訪れの早いこの町では、秋の風が吹き出すと、町は実りの収穫のために活気づきます。
沢山の野菜を積んだ荷車や、果物の入った大きなカゴを抱えて行き交う人々の顔は、どれも優しい顔をしています。
どうやら今年も豊作のようですね。
それとは反対に、ギルドの冒険者たちにとってこの時期は、作物を食い荒らす害獣の討伐依頼が殺到し、みんな武器を片手に慌ただしく町を駆け抜けて行きます。
この町も魔物に襲われてから早2年が経ち、壊れた防壁や家屋の修理もようやく終わり、以前の美しい景観が戻っていました。
赤いレンガの家が軒を連ねる町並みを、二人の天使がキョロキョロしながら歩いています。
一人は美しい金色がかったピンクの髪と、緑の瞳のかわいい女の子です。
歳はフレディアより一つか二つ下の10歳ぐらいでしょうか?
まだ幼く見えますが、頭には金色に輝くリングと、美しく立派な純白の翼を持つ天使です。
彼女は風の神セレノス様に仕える天使で、名前はクライガーマシュエル・フレッド・カーナと言いますが、長いので誰も正式な名称では呼んでくれません。
みんな彼女の事はカーナと呼び、フレディアはカナちゃんと呼んでいます。
彼女は名門レヴェニウス家の長女で、幼い容姿ながらも槍の名手なのです。
そして魔法はセレノス様直伝の、風の魔法を得意とします。
そしてもう一人の天使は、星を散りばめたようなキラキラと輝く赤く長い髪に、透き通った白い肌。
そして少し緑のかかったマリンブルーの瞳を持つとても美しい女性です。
背も高く、少し大人びた感じがするお姉さんのような天使で、年齢は人間の世界で言うと、18歳から20歳といったところでしょうか?
彼女の名前はオリビア。
恋を取り持つ神様に仕える天使で、愛のキューピットのエキスパートです。
この度は恋を取り持つ神様から、大神ダレス様の書状をセレノス様に届ける仕事を頼まれてこの町へやって来たのですが、一向にセレノス様を見つける事が出来ず、カーナと出会う事が出来たのは、フレディアが旅立ってから半月も後の事でした。
「もう!セレノス様は一体どこへいったのかしら?!」
カーナが口を尖らせて文句を言っています。
カーナとオリビアは、かれこれ2時間もセレノス様の行方を捜していますが、まったく見つける事が出来ません。
「あの、オリビアさん・・・」
「あたしがちゃんと書状を渡しておくから、もう帰ってもいいですよ?」
カーナはオリビアに気遣ってそう言いますが、オリビアは初めて訪れた町が珍しく、ニコニコと黙ってカーナに付き従っています。
「あぁ、別にうちの事やったら気にせんでええよ?」
「この町は初めてやから、うちもけっこう楽しんでるねん!」
「カナちゃんはセレノス様と一緒にこの町にいてるんやろ?」
「天界ではぜんぜん会わへんもんな?」
「はい、天界へはたまに報告のために戻るぐらいです」
「ふ~ん、そうなんや・・・」
「カナちゃんの事はフレディアからよく聞いてるで!」
「すごい魔法を使うんやってな!」
「え~っ、そんな大した事ないですよ!」
「だってフレディアの魔法と比べたら、あたしなんてまだまだですから」
「カナちゃん、謙遜せんでもええよ!」
「なにしろフレディアの魔法は、天使の中でも別格やからなぁ~」
「あんなデタラメな魔法と一緒にしたらアカンわ」
「それも、そうですね!」
「ところで、オリビアさんの魔法もすごいんでしょ?」
「フレディアがオリビアさんの魔法は無敵だって言ってましたよ」
「あはは・・・」
「そうやなぁ、うちもまだ一度も負けた事はあらへんなぁ・・・」
「けど、うちの魔法はあんたらみたいな攻撃の魔法と違うんねんで!」
「えっ?」
「うちの魔法は、反撃の魔法やねん」
「つまり、うちからは魔法の攻撃なんて一切でけへんのよ!」
「せやけど、うちに攻撃した力をそのまま相手に返す事ができるねん」
「物理的攻撃でも、魔法攻撃でも跳ね返すで~」
「その気になったら、3倍にして返す事もできるんよ」
「おもしろいやろ?」
「そ、そうなんですね?!」
(いや、いや、それって、攻撃すれば自滅してしまうってことですよね?)
(ちょうヤバイ魔法じゃないですか!)
「後フレディアが言うてたけど、セレノス様って面白いんやってなぁ」
「うちはまだセレノス様に会ったことがないから、一度見てみたいんよ!」
「フレディアからセレノス様の話をたまに聞いているけど・・・」
「うぷぷ!」
ギクッ!
(フレディアから聞いたセレノス様の話っていったい・・・)
(って言うか、セレノス様の話って、きっとろくな話じゃないよね?)
とにかく色んな事をやらかしているセレノス様だけに、カーナはオリビアの最後の含み笑いが気になって仕方ありません。
「あ、あの、オリビア?」
「フレディアから聞いたセレノス様の話って・・・」
「えっ?」
「うふふ、色々と聞くけどな、とにかく・・・」
!!!
「ハァ!?」
「えっ?なにアレ?!」
オリビアは話の途中で何か気になる物を見つけて、その場で固まってしまいました。
「あっ!!」
オリビアの視線の先を見たカーナは、顔を真っ赤にしてプルプルと震えています。
見ると灰色に黒のトラ模様が入ったネコが、お店の窓にヤモリのように貼り付いて、腰をクネクネと動かしていました。
オリビアは、そのあまりに異様な姿に驚いてしまったようです。
「か、かわいい・・・」
「モモちゃんは、いつ見てもかわいいのぉ~」
「あぁ、わしもモモちゃんのペットになりたい・・・」
「なのに、あの店のマスターのヤツめ!いつもわしを目の敵にして追っ払いおって!」
「いまにわしの魔法でどこか遠くへ吹き飛ばして・・・」
「セレノス様!!!」
ビクッ!!
ドテッ!!
いきなり声をかけられたネコは、驚いて窓から落っこちてしまいました。
普通のネコならくるりと身をひるがえして着地するのですが、このネコはもろに腰から地面に落ちています。
「あたたた・・・・」
「な、なんじゃカーナか?」
「脅かすでないわ!」
腰を撫でながら、ネコに変身していたセレノス様が振り向くと、カーナの隣でお腹を抱えて笑っている天使がもう一人いました。
「なに~~!!!」
「モ、モモちゃんじゃと?!!」
オリビアを見て驚いたセレノス様は、慌てて窓からお店の中を見直しました。
そこには見慣れたモモちゃんが、忙しそうに働いています。
「こ、これは一体!!?」
セレノス様は何度もモモちゃんとオリビアを見比べて、驚いています。
モモちゃんはこの町のレストランで働く看板娘で、フレディアが初めて見た時もオリビアと見間違えたほどのそっくりさんなのでした。
違っている所と言えば、モモちゃんの髪はピンクに近い赤色で、瞳の色は透き通ったブルーという事だけでしょうか?
「あっははは・・・」
「フレディアの言ったとおりやわ!」
「セレノス様って、メチャクチャおもろいわ!!」
ツボにはまって笑い転げるオリビアを見て、カーナの顔は、これ以上ないほど真っ赤になっていました。




