第百三十七話 セレスフィア様の神殿(二)
ヘーベル歴252年1月12日に、ルナたちはフォルカノス火山の麓にあるバレーロウの町へ向かって、5台の幌馬車で編成されたキャラバン隊で出発しました。
キャラバン隊は隊長のカイエルと、カイエル商会専属の傭兵が3名、幌馬車の御者が5名の計9名。それにルナたち6名とスターバースト4名という大所帯で編成されていました。
出発と同時に、先頭の幌馬車に乗った商会専属の傭兵3名が、今回雇ったギルドの護衛について話をしています。
Cランク冒険者の剣士でリーダー格の、背の高い茶髪の男性トリスタンが、二人に向かって話しかけました。
「今回のギルドからの護衛は、Bランクチームのスターバーストだぜ、すげえよな!」
「あぁ、リーダーのリオンさんがAランクの剣士で、ほかの3名もすべてBランクっていう、豪華な顔ぶれだからな」
Cランク冒険者の槍使いで、赤髪の男性のバレストが答えます。
「そんなチームを雇えるって、うちの商会すごく儲かっているんだな?」
「俺たちの給料も上げてくれないかな?」
黒髪で背の低いCランク冒険者のアーチャー、ダリオスが愚痴をこぼしますが、それに対してリーダーのトリスタンが説明します。
「いや、今回一緒に町まで同行する人たちのために、ギルドの方が護衛を選んだって聞いたぞ」
「へえ~?」
「それで、町まで旅をする6人って、いったい何者なんだ?」
興味津々でバレストが尋ねますが、それはトリスタンにも知らされていないと答えました。
「でも、すごく綺麗な女性が6人って、今度のキャラバンはラッキーだったよな!」
給料を上げろと愚痴っていたダリオスが、今度は嬉しそうに言います。
「あれ?一人は男性だって聞いていたぞ?」
「バカ、俺はこの目でしっかりと見たけど、男なんて一人もいなかったぞ!」
「あっ!一人背の高い人がいたから、その人を男と間違えたんじゃねえのか?」
「黒髪のスラッと背の高い、すごく綺麗な人だったぞ!」
トリスタンの返事に、ダリオスが文句を言いました。
「そ、そうかも知れないな?!」
「とにかく、お前ら浮かれてないで、しっかり仕事をやれよ!」
「お、おう!俺たちのかっこいいとこを見せてやるぜ!」
「そうだな!ひょっとしたら、俺たちに惚れてくれるかもな?!」
トリスタンの言葉に、ダリオスとバレストは俄然気合が入ります。
一方別の幌馬車では、スターバーストのメンバーと、シラ、スージー、ロック、ポンポンが朝食を食べながら話をしていました。
「ねえリオン、あなた達ロックとポンポンとは初対面よね?」
「そうなんだよスージー!俺たちに紹介してくれないか?」
「その二人は、フレディアが選んだ新しいライトブリーズのメンバーなんだろ?」
「「「ええ~~~っ!!」」」
「そんなにすごい人達なの?」
リオンの話を聞いて、クラット、ボトル、カチュアは驚きの声を上げました。
スージーはロックとポンポンに、スターバーストについて彼らの冒険者ランクや、これまで一緒に戦って来た戦歴などを紹介しました。
(ゲッ!やっぱりフレディアの仲間だけあって、すげえ奴らじゃん!!)
(オレなんて、まだCランクの冒険者なんだぜ?!)
スージーの話を聞いて、ロックは顔を青くしています。
ところが隣のポンポンは、そんな事にはまったく物怖じしません。
「ほぅ・・・」
「さすがはフレディアの仲間じゃのぉ!」
「おぬしら、なかなかやるではないか!」
偉そうに胸を張って答えています。
それに対して、カチュアが照れながら返事をしました。
「いやぁ~!お恥ずかしい!」
「あんた達は、あのバルモスの監獄をぶっ壊したんだろ?」
「本当にすごいよな!」
カチュアの言葉に、隣にいたボトルも共感します。
「俺たちもカレン様と一緒に戦いたかったよな!」
「なぁ、カチュア!」
「むっ!?」
「おぬしがカチュアかの?」
「は、はぁ?そうだけど?」
ポンポンが自分の名前を知っている事に、カチュアは少し驚いています。
「カレンからおぬしの噂は聞いておるぞ!」
「えっ!カレン様が俺の事を?」
(ドキ、ドキ・・・いったいどんな事だろ?)
「おぬし、イレーネ様に頭からパクッと食われたそうじゃのぅ?!」
「それなのに未だ健在とは、いやはや、大した豪傑よな!」
「えっ!そんな事をカレン様が言っていたの?」
「な、なんか、照れるな・・・」
「アハハハ・・・・」
「いししし・・・・」
(いやポンポン、それ以上余計な事は言わないで!)
(それにお前、バルモスの監獄では足手まといになっていただけじゃん!)
(オレも、ぜんぜん役に立っていないし!)
(なんで、そんな平然としていられるんだよ?)
ロックはますます小さくなって、隅っこでお茶をすすっています。
そんなロックに、リオンが話しかけてきました。
「ロックさんは、ゴーレムを作って敵と戦うんですよね?」
「「「え~~~っ!!」」」
「それって、ゴーレムマスターってやつ?」
「すげえな!」
「どんな戦いをするのか、見てみてえ~!」
ズッコケ三人組が、目を輝かせて話に食いついて来ました。
「あっ、いやオレの事は、ロックと呼び捨てでいいよ!」
(オレたち、まだCランクの冒険者だし!)
「うむ、そうじゃぞ!」
「わしらはそう決めておるのじゃ!」
(いや、それはポンポンが勝手に決めているだけだろ!)
ロックは心の中で思いましたが、ここは黙ってポンポンの意見に従います。
「わかった!じゃあ俺たちの事も呼び捨てで!」
「それでさぁ、どんな戦いをするのか、今度俺たちに見せてくれないか?」
リオンの頼みに、シラも便乗してきました。
「そうよね!私もまだ見た事が無いから、ぜひ見てみたいわ!」
「あらっ?シラも見た事が無いの?」
スージーが驚いて尋ねました。
「えっ?スージーは見た事が・・・」
「いや、ない!ない!」
「だからお願いロック!今度私にも見せてよ!」
「ねっ!ねっ!」
スージーもまだ見た事が無いので、ロックにグイグイと圧をかけてきます。
(あわわ・・・なんか怖いんだけど~!)
「は、はぁ、そりゃ、まあ~」
「オレはゴーレムでしか戦えないから、別にいいんだけど・・・」
「あまり期待しないでくれよな!」
バルモス監獄の戦いで、スージーのすごい土魔法を見たロックは、少し自信を無くしているようです。
そもそもフレディアの仲間の冒険者たちは、みんな規格外のすごい人ばかりだし、伝説のライトブリーズというチームの一員と言われること自体が、今の彼にとってはすごく重荷に感じているので、少し卑屈になっているようですね。
これから驚くような活躍をする自分のビジョンは、まだ描けていないようです。
別の幌馬車では、ルナとカーナがカイエルから場所の説明を受けていました。
地図を見ながら、ルナがカイエルに尋ねました。
「カイエル殿、目的のバレーロウの町までは、どのくらいかかるのかしら?」
「リヴァーヘイムの町から南へ真っすぐ進み、それからフォルカノス火山の淵を回り込みながら森の中を進みますので、時間はかかります」
「ここからだと距離にして460キロメートル、場所が場所なので、およそ20日間の旅になります」
「食料や、その他の物資もしっかり整えておりますので、どうかご安心ください」
「ただ厄介なのは、この先に出没する魔物の数が多いのが難点でございます」
「えぇ、それなら心配いりませんわ!」
「それと、バレーロウの町について教えていただけませんか?」
「はい!」
そう言うと、カイエルは自分の知っている情報を、ルナに話してくれました。
元々オルフェオン王墓群のある場所には、セレストラ王国とボリアス王国という二つの小国があり、お互い領地を巡って争っていたそうです。
そのセレストラ王国の財源の一つに、火山帯で取れる金や銀などの鉱物の発掘があったのですが、王国の近郊ではそれらの鉱物を掘り尽くしたため、新しく鉱山の開発をする事になったそうです。
そこで階級の低い貧しい者達を集め、新たな鉱山を発掘するために調査が開始されました。そして王国から遠く離れた場所で鉱山を掘り当て、そこに町を作ったのが、バレーロウの町の始まりとなったそうです。
「町には国の役人が駐在していたため、その頃の記録を保管していたそうですよ」
「今でも大切に保管されているそうですから、それを見れば町の歴史が分かると思います」
「まぁ、それは興味深いですわ!」
「ねえカーナ!」
「歴史が分かれば、オルフェオン王墓群に何故、セレスフィア様が神殿を建てたのか、きっとその謎が解けますわ」
「そうだね!」
「神様は火山の噴火で、たくさんの人が亡くなったからって言っていたけど・・・」
「きっと他にも理由がありそうな気がするわ」
こうしてセレスフィア様の神殿を探す、長い旅が始まりました。




