第百三十伍話 動き出したアンデッドの王(四)
昨年の夏に天界で練られた、モルグデウスへの対策を淡々と口にするルミナテス様を見て、ハンクが隣のカレンに尋ねました。
「なぁカレン、あのルミちゃんって一番幼く見えるのだが、何かすごい威厳を感じるよな?」
「フレディアから、あの子の事を何か聞いてないのか?」
「ハンクも気づいたのか?」
「実はオレも気になったから、フレディアに尋ねてみたんだよ」
「おっ!で、なんて?」
「それがフレディアったら、ニコニコ笑うだけで・・・」
「ただ、あの子は特別な子だから・・・って言うだけでさ~」
「結局、何も教えてくれないんだよ!」
「そっか、特別な子ねぇ・・・」
「だけどあの子は本当にすごいよ!」
「オレへのお礼の代わりに、フレディアにあるモノをプレゼントするって言ったんだ」
「フレディアへのプレゼント?」
「そうさ!」
「そして次にフレディアと会ったらさ、見違えるほど美しい姿に変身していたんだぜ!」
「おっ!やっぱりそうなのか?!」
「俺も驚いたよ!幼女からいきなり少女になっていただろ?!」
「そう!だから、フレディアの言うように、あの子は特別なんだよ!」
「きっとすごい子なんだって、オレも一目置いているのさ!」
「そうだよな、きっと俺たちが詮索してよい御方じゃないんだろうな」
ハンクとカレンが納得してルミナテス様を見ると、彼女は神様の加護についてフレディアに尋ねていました。
「後はフレディアちゃん!」
「あなたの仲間へ、ちゃんと神の加護を授けておりますわね?」
「はい!」
「ライトブリーズのシルヴィーには、風の神セレノス様の加護を」
「ロックファイターズのスージーには、土の女神テレシア様の加護を」
「ムーンライトのシラには、炎の神イグナート様の加護を」
「そして悲劇のハープを預かったルナには、水の女神セレイヤ様の加護をいただいております」
「よろしいですわ!」
「それならもう、モルグデウスを恐れる必要はありません」
「あとは町や村の人々への注意喚起ですわね!」
「それは、どのような事でしょう?」
ハンクがセレイヤ様に尋ねました。
「そうですね、まずは日が暮れてからの行動は避けるように言って下さい」
「墓から蘇ったゾンビたちは、日が暮れると徘徊します」
「防壁の門をしっかり閉じて、夜の間は警備を怠ってはなりません」
「それで、町や村の警備は整っていますか?」
ルミナテス様の質問には、ロックルーラーを代表してギリガンが答えました。
「それならば大丈夫ですぞ!」
「これまで解放した町や村には、ワシらロックルーラーが鉄壁の防壁を造っております」
「このアッシュフォードの村の防壁も、ほぼ完成しておりますぞ!」
ギリガンに続いて、ハンクが答えました。
「ロファ王国の町や村にも、デプロス軍の襲撃に備えて万全の防備を進めています」
「各ギルドにもその旨を伝えていますので、心配ありません」
「そうですか、それは素晴らしいですわ!」
「心配なのは、それ以外の町や村ですわね・・・」
「モルグデウスの闇の力によって、支配されてしまった町や村を救うのには・・・」
ルミナテス様が、闇の支配から解き放つ方法を考えていた時、急にある事を思い出しました。
「あらっ?」
「もう一つ大切な事を忘れておりましたわ!」
「フレディアちゃん!」
「聖なる泉に宿る、涙と水の女神セレスフィア様の力を借りるお話は、どうなりましたか?」
「あっ!」
「そ、それが・・・」
「12月の中頃に、ルナをリーダーとして旅立ったのですが、まだ帰って来ていません」
「まあ!5カ月も前に捜しに行っているのですね?」
「セレスフィア様の住まう神殿の場所は、フォルカノス火山の近くにある、封印されし古代の遺跡『オルフェオン王墓群』にあるという話でしたが・・・」
「その場所は、とても危険な所だと聞いておりますわ」
「大丈夫なのでしょうね?」
ルミナテス様の心配する声に答えたのは、自分は怖くて行かなかったオリビアでした。
「うちも幽霊とか亡霊とかが出てくる、めちゃくちゃヤバイ所やと聞いていますけど、あのメンバーならきっと大丈夫やわ!」
「なにしろシルヴィー以外の、神様の加護を授かった三人が行っていますから!」
自信満々に答えるオリビアに、ルミナテス様は驚いて尋ねました。
「ちょっと、オリビアちゃん!」
「加護を授かった四人のうちの、三人までが旅立っているのですか?」
「それに、カーナちゃんの姿も見かけませんけど?」
「まさか、彼女も一緒に旅立ったのですか?」
ルミナテス様はキョロキョロと辺りを見回して、今頃になってカーナのいない事に気付きました。
「えっと、そうですが?」
「な、なにか・・・」
(ありゃ?うち、なんか不味い事をしでかした?)
ルミナテス様の驚いた様子に、オリビアがオドオドと答えました。
「だってアンデッドに強い炎の使い手と、カーナちゃんという強力な味方がいないのよ?」
「それに一番困るのは、モルグデウスに操られた人の心を浄化出来る、悲劇のハープの使い手がいない事ですわ!」
「これでは、人間を肉の盾にしたモルグデウスの襲撃に、対処出来ませんわよ!」
「神々がモルグデウスの封印に動いたのも、これが一番の原因でしたもの!」
「「「「あわわわ・・・・」」」」
まさか人を盾代わりにして襲って来るなどという、非道な戦い方など考えもつかなかったフレディア達は、ルミナテス様の話を聞いて、青ざめてしまいました。
さすがのカレンも、人を盾にされては成す術がありません。
慌ててハンクに尋ねました。
「こ、これはヤバイなハンク!」
「何か良い策はないのか?」
「う~~~ん・・・」
「とにかく、ルナたちが戻って来るまでは、敵と戦わずに済む方法を考えなくてはいけないな!」
「それと、ここでの会議の内容は、出来るだけ早く国中の町や村に伝達したいのだが・・・」
「特に夜間の外出禁止と、防衛については急いで知らせなくてはマズいな!」
このハンクの要望に答えたのは、それまで小さくなってカレンの肩にとまっていたコルヴァスでした。
コルヴァスはようやく自分の出番が回って来た事を察すると、いきなり大きな姿に変身しました。
ボン!
シュルルル・・・
「カア~~~~~ッ!!」
「オレ様の名はコルヴァス!」
「カラスの王様だぞ!カァ~~~ッ!!」
「「「「うわっ!なんだ?!」」」」
「カラスがいきなりデッカイ化けガラスに変身したぞ!!」
「しかも言葉をしゃべっているぞ!!」
「ひぃ~~~っ!!」
突然大きくなって叫んだコルヴァスに、周りのみんなは驚いています。
とくに、カレンの使役する魔物に恐怖を抱いているジェンナは、ナタリーに抱き付いてガタガタと震えています。
その様子を見たカレンは、怒ってコルヴァスの頭を叩きました。
ポカッ!
「アイタ!」
「何やってんだコル助!!」
「みんな驚いているじゃないか!!」
「カア~~~~~ッ!!」
「だってアネゴ!アッシも目立ちたいでやんす~!」
「いや、目だってどうするんだよ?」
カレンがムスッとした顔でコルヴァスに文句を言っていると、横からハンクが驚いて尋ねました。
「おい、カレン!この化けガラスもお前が使役しているのか?」
「うん、こいつコルヴァスって言う、カラスの王様なんだよ」
「オレの子分になりたいって言うから、仲間にしたんだ」
「そ、そうか・・・」
(もう何でもありだな、カレンは・・・)
「で、そのしゃべるカラス王が、いきなり大きくなってどうしたんだ?」
「カア~~~~~ッ!!」
「情報の伝達は、アッシが最も得意としているでやんすよ!」
「アッシに任せてくれれば、国中のカラスがすぐに情報を広めるでやんす!」
「本当か?それは助かるな!」
「カレン、カラス王にこの件を頼んでもいいか?」
ハンクの提案に、ギリガンも賛成しました。
「それは良い考えですな!」
「ワシが連絡用に飼っている伝書鳥、スカイレットの代わりをカラス王が引き受けてくれるなら、すぐに情報を拡散する事が出来ますぞ!」
「あっ、そうか!コル助は子分たちに命令して、手紙を届ける事が出来るんだったな!」
「よし!じゃあコル助、子分に命じて全国の町や村に手紙を渡してくれ!」
「カア~~~~~ッ!!」
「ガッテン承知の助~!」
「それで、アネゴ~!」
「うん?なに?」
「アッシにもご褒美でギュ~ッて・・・」
「あぁ~、それかぁ・・・」
「そうだな、ちゃんと連絡が届いたなら、してあげるよ!」
「カア~~~~~ッ!!」
「やったでやんす~!!」
「ハンク王子殿!早く手紙を用意するでやんす!」
「早く、早く~!!」
「お、おう、わかった!」
コルヴァスに急かされて、ハンクは急いで手紙の準備を進めました。
「なぁ、フレディア!」
「ほんまにルナちゃんたち、大丈夫なんかな?」
「ちゃんとセレスフィア様に会えたんかな?」
オリビアが心配して、フレディアに声を掛けました。
「うん、大丈夫だよ!」
「ルナとカナちゃんがいれば、絶対に上手く行くわ!」
「そうやな!あの二人なら、心配ないな!」
「うん、たぶんセレスフィア様の住まう神殿を見つけるのに、時間が掛かっているんだと思う」
「そうやな、ダレス様も場所が分からへんって、言うとったもんな・・・」
「とにかくルナちゃん!早く帰って来て~!!」
オリビアの切なる願いは、はたして彼女の胸に届くのでしょか?




