第百二十伍話 ルミナテス様のプレゼント
ヘーベル歴252年3月5日。
ナンガ・ロギの要塞を攻めるため、カレンとイレーネファイターズは3日前に旅立って行きました。
この日フレディアとオリビアは、ルミナテス様にアッシュフォード村の教会まで連れて行ってもらうために、アルガの教会へ来ています。
「さてフレディア、これよりわたくしと一緒にアッシュフォードの教会へ降臨するのですが、それには天使の姿でなければなりません」
「はい!」
「ですが、あなたには能力の制約があって、天使の姿から人間の姿に変身するのに24時間のクールタイムが必要ですね?」
「はい、そうですルミナテス様」
「では、その制約を無くしてさしあげましょう」
「えっ、それはどういう事ですか?」
フレディアは驚いて尋ねました。
「わたくしが、あなたを大天使に昇格させると言う事ですわ」
「え~~~っ!!!」
あまりにも突拍子ない出来事に、フレディアは思わず大きな声を出してしまいました。
「やったな!フレディア!!」
「これで自由に変身できるでぇ~!」
オリビアは、フレディアが自分と同じ大天使になる事を、心から祝福しています。
ですが当の本人は、まだ戸惑いを隠せません。
「あわわ・・・。ルミナテス様!」
「わたしが大天使になるなんて、そんな事許されるのですか?」
「もちろんですわ!」
「わたくしは、ダレス様よりその権限を認められているのです!」
「それにフレディア!」
「あなたが大天使になる資格は、これまでの実績から十分認められているのです!」
そして、ここからルミナテス様は、何かを決心したように、真剣な眼差しでフレディアに話しかけました。
「ですが、神々にも複雑な事情があり、あなたが大天使になる事を快く思わない神もいるのです!」
「えっ!そ、それは、わたしの事を嫌っている神がいると言う事ですか?」
「いえ、それは違います!」
フレディアの質問にルミナテス様は少し間を空け、言葉を慎重に選んでから答えました。
「そうですね・・・」
「あなたを恐れている・・・とだけ、言っておきますわ!」
「わ、わたしをですか?」
ここからルミナテス様は、口には出さずにオリビアの精神に話しかけました。
(ですが、今はそれを説明する事は出来ません)
(その理由は・・・)
(オリビア、あなたが知りたがっているフレディアの秘密に関わる事ですわ!)
(あちゃ~!やっぱりルミナテス様はご存じやったんや・・・)
オリビアはバツが悪そうに、肩をすくめてペロッと舌を出して見せました。
「だけど、今はそんな事は言っておられません」
「この世界はおろか、天界そのものの存続に関わる事態なのですから!」
「さあ、フレディア!」
「大天使となって、あなたの力を存分に発揮するのです!」
ルミナテス様はフレディアの額に手を当て、その権限を行使してフレディアを大天使に任命しました。
ピカ~~~~~ッ!!!
教会の中に、荘厳で神々しい光があふれ出ます。
そしてフレディアの姿に変化が起こりました。
それまで12歳ぐらいのあどけない少女の姿だったフレディアが、幼い少女の輪郭が光にほどけ、そこから現れたのは、あどけなさをわずかに残した17歳ほどの娘でした。
服装は、淡い金色の刺繍の入った柔らかな白いブラウスに、白に近い重ね布のスカートをはき、足には白皮の膝下ブーツといったいでたちで、頭にはそれまであった天使のリングが消え、代わりに髪には金の細かい髪飾りと、耳に小さな星型の耳飾りがキラキラと輝いています。
そして姿だけでなく、フレディアの能力も驚くほど跳ね上がっていました。
「え~~~っ!なにそれ~!!?」
「これって、どういうこと?」
「背丈も伸びて、年齢もうちとあまり変わらへんやんか?」
あまりの変貌にオリビアが仰天していますが、それは仕方がありません。
オリビアにとって、幼い妹のように思っていたフレディアが、急に自分より2歳ほど年下の娘になったのですから。
また、その変化に驚いているのはルミナテス様も同じでした。
(まぁ!何ということでしょう!)
(まるであの御方が顕現なさったような・・・)
フレディアを見たルミナテス様は、ある御方に面影を重ね、心臓が大きく跳ねました。
輝きに満ちたその面差しに、敬愛してやまないあの御方の面影を見出したのです。
そしてこの事は、後に天界を揺るがす動乱へと発展するのですが、それはまだ先の話なのでした。
「さ、さあ、行きますわよ!」
ルミナテス様は二人を促すと、アッシュフォードの教会へ降臨しました。
一方ナンガ・ロギの要塞では、ザキュエルの腹心である二匹の魔物が、要塞の中を取り仕切っていました。
一匹は、熊の身体にヤギの顔を付けたような魔物で、自分で隊長と名乗っています。
もう一匹は、人と同じように二足で歩く、ロットフェン湿原に住むバカでかいカエルの魔物で、自分でロットフェン湿原のヌシと名乗っています。
ところが二匹とも名前を持たない魔物のようなので、要塞の兵士たちは呼び方に困っていました。
そこで一人の兵士が、熊の身体にヤギの顔を付けたような自称隊長に、名前を尋ねてみました。
「あの、自称隊長殿、隊長の事は何とお呼びすればよいのですか?」
「オレ様の名前か?」
「オレ様はザキュエル様から、『オイ・オマエ』と呼ばれておる!」
「だからオレ様の事は、オイ・オマエと呼ぶがいい!」
「へっ?それでいいのですか?」
「まぁ、俺たちは呼びやすくていいですけど・・・」
(こんな名前もまともに呼ばれていない奴が、この要塞を仕切って大丈夫なのか?)
この二人の会話を聞いていたバカでかいカエルは、自称隊長に名前があると知って驚いています。
「ゲロ!なんだと!」
「貴様は名持の魔物だったのか?!」
「すごいではないか!」
「ふっ、ふっ、ふっ・・・」
「オレ様は、ザキュエル様から信頼されておるからな!」
「貴様は名前を持たんのか?」
「わしは名前は持たぬが、これでもロットフェン湿原のヌシだからな!」
「そこをザキュエル様に認められ、この要塞に派遣されたのだ!」
「そうか!それはたいしたものだ!」
「だが、軍隊を仕切るのに名前が無いと不便ではあるな!」
「よし!今回の任務で武功を上げれば、オレ様からザキュエル様に名前をいただけるよう進言してやろう!」
「それまでは、『ヌシガエル』と名乗ってはどうだ?」
「ゲロゲロ!わしに異論はない!」
「それではオイ・オマエ!頼んだぞ!」
「うむ、オレ様に任しておくがよい!」
「うわっ、はっ、はっ、はっ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
(あほくさ!)
兵士の男は、取りあえず仲間に二人の名前の事を報告しに戻りました。
それから4日後に、先ほどの兵士が報告にやって来ました。
「オイ・オマエ!敵が攻めて来たぞ!」
「どうすんだ?」
「むっ!貴様、隊長に向かって少し態度が悪くないか?」
自称隊長は、兵士の横柄な態度に、少しイラッとしたようです。
「すんません、どうも隊長の名前を呼ぶと、つい気安く言う癖がついて・・・」
その言葉を聞いていたヌシガエルは、自称隊長に言いました。
「オイ・オマエ!それは良い事だぞ!」
「上官に気安く話せることは、それだけ信頼関係が出来ている証拠だゲロ!」
「むっ!そうであったか!」
「では、俺様の事は気安く呼ぶがよい!」
「へい!で、どうするんすか?」
「敵が攻めて来てますけど?」
「よし!迎え撃つぞ!」
「出撃だ!全軍、オレ様の後に続け!!」
急いで出陣しようとする自称隊長を、兵士が慌てて止めました。
「オイ・オマエ!なにを言っているんだ?!」
「この要塞がなんで難攻不落って言われているのか、知っているのか?」
「むっ!それはどういう意味だ?」
「まぁ、いいから、あんたは黙ってそこで見てなよ」
そう言うと兵士は、大きな声で兵士たちに命令を伝えました。
「全員砲撃の用意!!」
「敵軍を大砲で迎え撃つぞ~!!」
こうしてロファ軍とデプロス軍の攻防戦が、開始されたのでした。




