第百二十話 地上に降りた女神様(三)
お店に入ると、すぐにモモちゃんがオーダーを取に来ました。
「いらっしゃいませ~!」
「あれっ!オリビアちゃん!」
「あっ!モモちゃん!」
「「おひさ~!」」
パチン!
そっくりな顔をした二人が、嬉しそうにハイタッチしているのを見たルミナテス様は、驚きを隠せません。
「オリビアちゃん!お姉様は下界で働いていますの?」
「まさか、天界を追放されたのですか?」
あまりにそっくりなので、姉妹と勘違いしたルミナテス様が、こっそりと尋ねました。
「あっ、こちらはモモちゃん!」
「うちにそっくりやけど、普通の人で、フレディアの友達やねん!」
「あらっ?まぁ!」
「オリビアちゃん、この美しいお嬢ちゃんはどなた?」
「えっ?」
「えっとぉ~・・・」
さすがに偉い神様とは言えず、何と言えば良いのか悩んでいると、ルミナテス様が自分で答えてくれました。
「わたくしの姉が、いつもお世話になっています」
「妹のルミナテスですわ!」
「まぁ!オリビアちゃんに、こんなにかわいい妹さんがいたなんて!?」
「ルミちゃんって言うのね!」
「今日は家族割で、大サービスしちゃうわよ!」
「わ~~い!やった~~!」
「「イエ~イ!!」」
ルミナテス様は、大喜びでモモちゃんとハイタッチをしています。
「すみませんルミナテス様、なんて答えていいのか分からなくて・・・」
「いいのよ~!」
「下界では姉妹と言う事で通しましょう!」
「それとわたくしのことは、これからはルミちゃんって呼んでね!」
「ふん、ふん、ふ~~~ん・・・」
どうやらルミナテス様は、この呼び方が気に入ったご様子です。
運ばれて来たお料理は、すべてモモちゃんの大サービスで大盛でした。
しかも注文していないスイーツまで、テーブルに並んでいます。
それを嬉しそうに、お口いっぱいに頬張って食べているルミナテス様ですが、やはりその驚くほどの美貌に目を奪われる人が多く、お店に入って来たお客さんは、必ずと言っていいほど、振り返って見ています。
そして常連客の場合は、これも必ずモモちゃんに、オリビアの事を姉妹なのか尋ねていました。
とにかくこの二人は、ここではめちゃくちゃ目立っており、お店のマスターも、この店で働いてもらえないかモモちゃんに打診しています。
(やっぱり9歳に変身して良かったわ!)
(子供の姿でこれやもんな!もし、女神様の姿のままで下界に降りていたら、大変な事になってたわ!)
オリビアがそう思って周りのお客を見ていると、ちょうど隣のテーブルに座った冒険者風の4人が、前線で戦っているロファ軍の様子を話していました。
見るとEランクとDランクのバッチを付けたギルドの冒険者たちで、どうやら同じチームのメンバーようです。
初めに話を切り出したのは、Dランクのバッチを付けた剣士風の男です。
「ハンク王子の率いるロファ軍は、とうとう前線の敵を突破して、王都を守る要塞、『ナンガ・ロギ』まで攻め込んだそうだ」
それに対して、Eランクのバッチを付けた聖職者の服装をした男が答えました。
「ナンガ・ロギの要塞を突破したら、デプロスの城まであと少しだよな?」
「もうすぐ戦争が終わるんじゃないか?」
聖職者の楽観的な意見に、ローブを身にまとったDランクの魔法使い風の男が言います。
「いや、それがどうも苦戦しているようだぜ!」
「さすがに難攻不落と言われている、デプロス王国の要だからな、簡単には行かないようだ」
「そうなると、デプロス王国の革命軍を助けている、精鋭部隊のイレーネファイターズの力が欲しいよな」
鉄の斧を背中に担いだEランクの戦士風の男が言いました。
「あぁ、それな!」
「俺たちのチームにも応援要請が来ねえかな?」
剣士風の男が言うと、魔法使い風の男が笑いながら答えました。
「バ~カ、俺たちみたいな弱小チームに、お声がかかる訳ねえじゃん!」
「それも、そうか!」
「「「「わっ、はっ、はっ、はっ・・・・」」」」
仲間が大笑いしている所に、金色の髪に茶色い瞳の、屈強なおじさんが入って来ました。
「なんだお前たち、まだ知らないのか?」
「テグニスの町のクラッシャーズが、応援に行ったみたいだぜ!」
「あっ!ギルマス!!」
4人の冒険者たちは、慌てて立ち上がって挨拶をしました。
この男は、ミントの町のギルドマスターで、パルコスという元Aランクの剣士です。
4人組の男たちの席にドッカと座ると、ビールを注文しました。
「うちのチームのムーンライトも、イレーネファイターズの一員として、グリーンホロウの町からベルナックの町へ移動しているようだ」
「何でもカレンとルナ様が大暴れして、バルモスの監獄をぶっ壊したらしいからな!」
「わっ、はっ、はっ、はっ!」
「「「「す、すげえ!!」」」」
「早ければ来月中には、アルガの町へ到着するかも知れないぞ?」
「そうなれば、いよいよデプロスの城へ、総攻撃をかけるかもしれん!」
「お前たちもムーンライトの留守の間、この町の守りをしっかり頼むぞ!」
「「「「イエッサー!!」」」」
「ふ~ん、いよいよ戦争も大詰めかぁ~」
「それまでモルグデウスが出てこなければいいけど・・・」
「ねえ、ルミ・・・・」
「え~~~~っ!!?」
「ルミナテス様、寝ちゃってるやん!!」
見るとお腹がいっぱいになったルミナテス様は、口の周りをクリームだらけにして、ぐっすりと眠っていました。
「いや、いや、いや!天界12神筆頭の女神様が、こんなんでええの?」
「あ~っ、けどメチャクチャかわいい寝顔やなぁ・・・」
「起こすのもかわいそうやし、このまま宿屋へ行くか・・・」
オリビアはモモちゃんに手伝ってもらい、ルミナテス様をおんぶすると、そのまま宿屋へ直行しました。
ミントの町の冒険者たちの話にもあったように、国境付近の全線で戦っていたハンク達ロファ軍は、前線を突破してデプロス王国の要である『ナンガ・ロギの要塞』まで進軍していました。
この要塞を突破すれば、デプロス王の住む城まで、大きな障害はありません。
ロファ軍としては、ここを一気に突破したいところですが、さすがにデプロス王国最強と言われている要塞です。一筋縄ではいきません。
その最強たるゆえんは、当時はまだ普及されていなかった大砲の実装でした。
デプロス王国の首都へ続く道は、峡谷を利用して作られた巨大な壁に阻まれ、その壁の中心にある4階建ての塔の形をした要塞には、30門もの大砲が備え付けてあり、その射程距離は500~700メートルもあります。
ナンガ・ロギの要塞の前方1キロメートルの範囲には、身を隠す物が何もない平地のため、迂闊に近づけば、大砲の格好の餌食となってしまうのです。
また、要塞には魔法の防壁が施され、攻撃手段は物理攻撃しかありません。
しかも当時の主流だった、城攻めの投石機やカタパルトで攻撃出来る距離は、せいぜい200メートルほどで、ロファ王国の誇る大型の投石器でも、300メートルが限界でした。
そんな訳で、ロファ軍の破竹の進撃もここで足止めされているのでした。
攻めあぐねていたハンクの元に、騎士団の隊長であるブレメンが報告にやって来ました。
ブレメンは堕天使バズエルとの戦いの時に、ロファ王国軍の中心となった人物で、黒い髪に赤い瞳の42歳になる豪傑で、今はハンクの側近としてこの戦いに従事しています。
「ハンク様、革命軍はグリーンホロウの町を開放し、ただいまベルナックの町で軍備を調えている模様です」
「えらくペースが早いな?」
「はい!フレディア殿のチームがバルモスの監獄を壊滅し、ベルナックの町がデプロス軍から解放されたお陰です」
「今ベルナックの町は、フレディア殿の仲間の手によって、防衛力を強化しています」
「すごいな、フレディアのチームは!」
「いえ、それがバルモスの監獄をぶっ壊したのは、カレン殿と・・・」
「その・・・ハンク様の奥方様だと聞いております」
「なに~い?!」
「ルナとカレンがやったのか?!」
「はっ!そのように聞いております!」
「カレンのヤツ、またチームをほったらかして、単独行動をやっているな!」
「ルナの方は、お城住まいでストレスが溜まっていたのかなぁ?」
「もう、二人とも好き勝手やりすぎだろ~」
ハンクは頭をかきながら、小さなため息をもらしました。
「では、革命軍がアルガの町へ向かう日も近いな!」
「はっ!来月中には合流すると思われます」
「そうか!フレディアのいるアルガの町に革命軍が合流したら、いよいよ最終決戦となるな!」
「う~~む・・・」
「それまでに、何とかここを撃破したいのだが・・・」
ハンクはナンガ・ロギの要塞を睨みつけて、くやしそうに奥歯を嚙みしめました。




